異世界召喚3日目昼
亮真は南側の森の中に居た。
少女達と男達の姿が全て視界に入る位置だ。
距離にして十メートル程だろうか。
木の枝と葉に遮られ街道の男達からは亮真の姿が見えない。
(あいつら……こんな街道のど真ん中で犯すつもりかよ)
亮真は始めどこか場所を移すのではないかと考えていた。
だが、連中は街道の真ん中でヤル気らしい。
馬車を襲ってからかなり時間が経っているのも関わらずまるで気にしていない。
いくら人気の無い森の中の街道とはいえ異常と言って良いほどの自信だ。
(獣共が……)
亮真は彼らに嫌悪感を持つのと同時に、ある種の違和感を覚えていた。
だが、それらを全て振りほどき、亮真はタダ静かに待つ。
猛る怒りと殺意を抑えながら。
その時を……
「よぉし。決まりだ! この事はここだけの秘密だ。頭領にバレればここに居る全員が殺されるんだからな!」
ゲイツの言葉に男達は一斉に頷いた。
「よし。ならこの金髪から犯そうぜ!」
金髪の少女を抱え込んだ男が言った。
「俺はこっちの銀髪だ!」
男達は好き勝手な事を言い出した。
「おい? ゲイツどうするよ?」
「あぁん? 好きにすればいいじゃねえか? まぁ俺はこの銀髪の初物をいただければそれでいい」
「あ! ゲイツ。何テメエ勝手なことを言ってやがる! そいつの初物は俺のモノだぞ!」
よほど餓えているのか、醜い言い争いを行いながらもようやく順番を決めたらしい。
「おい!最後のヤツ。オメエらは見張りだ。まぁギルドの討伐部隊は編成中らしいし、まだ帝国軍も動いてねえから心配は無いが、またカモが来ないとも限らねえ。しっかり見張るんだぜ! 二番手はしっかり女共の手を押さえつけてろ!」
ゲイツの指示に男達が従った。
(アイツが集団のボスか)
いよいよだ。
戦輪を掴んだ腕に力が入る。
「よし!」
男達は一物を取り出すためにつけていた直垂とズボンを膝まで下ろす。
(いまだ! 死ね!)
押さえ込まれた少女達に男達の体が覆いかぶさった瞬間、亮真の手から戦輪が風を切り裂いてゲイツと呼ばれる男を目掛けて飛んでいく。
「ぐはっ……」
亮真の手から放たれた戦輪がゲイツの無防備な後頭部へと吸い込まれ、ゲイツが少女の体に倒れこむ。
それを視界に納めながら亮真は2枚目3枚目を次々に放ち、森の中から飛び出した。
狙いは少女達を押さえつけている男達だ。
「ぐぇぇぇl」
「ぎゃぁぁぁ!」
二枚目の戦輪は男の喉へ、三枚目の戦輪は男の眉間へと吸い込まれていく。
しかし四枚目の戦輪は狙った男が咄嗟に伏せた所為で、その頭上を飛び越えていってしまった。
(あと四人)
亮真が少女達が犯されそうになるまで動かなかったのには理由がある。
それは武装の解除だ。
男が女性を犯そうとしたとき、ズボンを下ろす。
今回のように直垂をつけていればそれと一緒に、腰の剣も外さなくてはならない。
今回どうしても勝たなければならない亮真は、少女達の心の傷を考えなくは無かったが、結局犯される寸 前まで待ったのだ。
しかし其の成果は十分に出た。
初撃で集団の頭であるゲイツを倒された男達は連携を失った。
少女達を犯そうとした2名は直垂を外しズボンを膝まで下ろしていた。
咄嗟に戦闘体制を整えるなど不可能だ。
見張りとの距離がかなりある以上、亮真が最初に戦うべきは少女達を抑える役をしている男達一人だ。
「なんだ? どうしたんだ?」
街道を見張っていた男達が異変に気が付き駆け戻ってくる。
「てめぇら何処を見張ってやがる! 襲撃だぁ!」
欲と恐怖で濁った目をした盗賊の一人が叫ぶ。
「何だテメエは!」
「ふざけやがって。【紅月団】をなめてるのか!」
怒声を上げながら駆け寄ってくる男達を無視して、亮真は少女達の方へと駆け寄った。
「テメエ! 死にやがれ!」
戦輪を避けた男が、少女を押さえつけるのを止めて剣を抜く。
大きく上段へ振りかぶると渾身の力を込めて振り下ろした。
脇に構えられた亮真の剣が振り下ろされた剣の軌道に重なる。
ギギィン
鉄のこすれる音が響き火花が散った。
振り下ろされた剣。
振り上げられた剣。
勝ったのは振り上げられた剣だ。
男が狙ったのは亮真の頭だが、亮真が狙ったのは男の剣その物だ。
剣が手から弾き飛ばされる事こそ防いだが、男の右手は大きく後方へ弾かれた。
グシュ。
水気を含んだスイカを叩ききるような鈍い音が響く。
亮真の剣は男の頭を叩き割った。
(後三人!)
だが、さすがに奇襲の効果も薄れてきた。
見張りに行っていた3人はしっかりと武装し、こちらの隙を伺っている。
(突っ込んでこねえか……糞!)
戦況はこう着状態に陥った。
三人の盗賊たちは武力だけなら亮真の敵ではない。
だが、巧みな連携を見せて亮真に隙を見せない。
亮真もまた剣を鞘に納め、腰貯めに相手の動きを待つ。
両者の間でにらみ合いが続く。
(このままじゃ不味いな……しょうがねえ勝負だ!)
突然、亮真は構えを解くと、殺意を消した。
右手は剣を握ったままごく自然に脱力していく。
そして、亮真はゆっくりと盗賊たちのほうへ歩み始めた。
怒気と殺気が痛いほどに迸って居た今までとは裏腹に、その顔には何の感情も浮かんではいなかった。
まるで造り物の人形のように生気が感じられない。
「と……止まれ!」
「何のつもりだ?!」
これは盗賊たちの虚を突いた。
体から力がぬけ、どう見ても隙だらけだ。
タダの一撃で殺す事が出来る。
そう思わせるほど亮真は無防備に見える。
一歩二歩……
少しずつ自分達へ近づく亮真の姿に盗賊の一人が耐え切れなくなった。
「ふ……! ふざけやがって! 死にやがれ!」
大きく振りかぶった剣を亮真の頭上に落とす。
フッ
亮真の体が右側へ流れる。
ザシュ。
鮮血が盗賊の首から飛び散った。
「テ……テメエなにをやりやがった?!」
人一人を切り殺し鮮血が顔に飛び散りながらも、まったく表情の変わらない亮真に盗賊たちは恐怖を感じ始めた。
三人で連携していれば手を出す事は難しい。
だが、焦りと恐怖に縛られた盗賊に生き残る術はもはや無かった。
大きく振りかぶられた剣。
ザシュ
グシャ
盗賊のがら空きの胴を薙ぎ切った亮真は返す刀で最後の盗賊を袈裟掛けに切リ捨てる。
最後の1人を斬り亮真は血振りを行って剣を鞘に戻した。
「ふぅぅぅぅ」
辺りを見回す亮真の口から深いため息が漏れた。
(とりあえず何とかなったな……)
盗賊たちの死体の数を確認しながら亮真は思った。
「あ……あの?」
背後から声が掛かる。
亮真が振り返ると銀髪の少女達が駆け寄ってきた。
「あ! お顔に血が」
銀髪の少女が自分が着ている服の袖で、亮真の顔の返り血を拭ってくれる。
「申し遅れました。私は姉のローラと申します」
「私は妹のサーラと申します」
銀髪の少女に続き金髪の少女が名前を告げた。
「あぁ、大丈夫だったかい?」
「はい。お助けいただきありがとうございました」
そう言うと彼女達は深々と頭を下げた。
「いや。俺のほうこそ怖い目にあわせて悪かったね。もっと早く助けてあげられれば良かったのだけれども……」
「いえ、此の身を汚される事が無いだけ良かったです」
「妹の言うとおりです。どれだけ感謝しても足りません……本当にありがとうございます」
サーラの答えにローラが頷くと再び姉妹は深々と頭を下げた。
「そう言って貰えると俺も助かるよ……!」
亮真は改めて少女達を見て其のあまりの美しさに心を奪われた。
小麦色の肌に彫りの深い顔。
見事に引き締まった肢体に、女性を意識させる大きな胸。
アラブの踊り子を思わせる服を身にまとっているが、やけに首輪と手枷足枷が目立つ。
(こりゃあ。確かに盗賊共が血迷うのは無理もないか……)
だが、亮真は彼女達に違和感を感じていた。
(どう言うことだ? この子達盗賊より強いぞ?)
彼女達の筋肉のつき方、身のこなし、目配り。
どれをとっても武芸の心得があるようにしか見えない。
少なくとも、あんな盗賊達に犯されるような少女達には見えないのだ。
「あのう……? なにか?」
亮真の視線を感じたのか、ローラが尋ねてきた。
「あぁ、いやごめん。ちょっと考え事を。ところで姓はなんていうのかな?」
「……奴隷に姓などございません……」
ローラの返事に亮真の顔が歪む。
首輪などをしているのでひょっとしたらとは思っていたが、この世界では奴隷が存在しているようだ。
「あぁ。ごめん……」
「いえ。お気になさらないでください」
そう言いながらも彼女達の顔には陰が浮かぶ。
三人の間に微妙な空気が流れた。
(まいったな……余計な事を聞いちまった……)
頭では判っている。
何か言わなくてはいけないことを。
だが、実際にこんな場面に遭遇する事など早々無い。
いくら考えても帰ってドツボにはまるような言葉しか浮かんでこなかった。
結局この空気を変えたのはサーラの一言だった。
「あのぉ。失礼ですがお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
いろいろ考え事をしてつい名乗りが遅れた。
「あぁ、俺の名前は御子柴。御子柴亮真って言うんだ」
「御子柴様……御子柴様。改めて御礼を言わせてください。この度は本当にありがとうございました」
そう言うと、二人は改めて深々と頭を下げた。
「いや。それはいいんだけどこれからどうする?良ければアルーの町まで送るけど?」
だが、二人の返答は亮真を驚かせるものだった。
「いえ……申し訳ございません。私達はだんな様のご命令が無ければここを動けないのです」
あまりにも予想外な発言を聞き亮真の思考が停止する。
二人を見るがとても冗談を言っているようには見えない。
亮真は恐る恐る二人に尋ねてみた。
「……それ本気か?」
「はい!」
2人はそろって首を縦に振る。
「その旦那様っていうのは何処さ?」
襲撃を受けて死んだ中に居るのかと思いあたりを見回したが、死体の衣服から判断するとどうも居るようには思えない。
「襲撃の際に、護衛達と共にお逃げになりました」
サーラの言葉に亮真は愕然とした。
まさか逃げた主の命令を待つ気でいるとは思いもよらなかったのだ。
「もう一度聞くよ? 旦那様ってのは君達を置いて逃げたんだよね?」
「はい」
「君達はそれでも此処に残るの?」
「はい。旦那様のご命令が無ければ動けません」
(おいおい……本気で言ってるのかよ)
正直に言ってかなりめんどくさい展開と言えた。
亮真にしてみれば早いところ町に送っておさらばしたい。
帝国の追っ手の件もある。
だが、彼女達が動かないと言う以上、町まで連れて行くのは不可能だ。
(まぁ、仕方がないか。とりあえず夜営の準備と食料だけ置いていくしかないな……)
二人の意思が変わらない事を知った亮真は、少女達へ指示を出すと夜営の準備を始めた。
もちろんこんな森の中に二人を置いていくのは心苦しいが、何時までも彼女達にかまっているわけにも行かない。
(まぁ出来る範囲で助けてやろう)
ローラ達には夜営の準備を指示し、亮真は盗賊と護衛と思しき死体を運ぶ事にした。
だが、これが思わぬ事態を起こす。
2体目の死体を街道から数十メートル程入った森の中に横たえていた亮真の耳に、かん高い少女の叫び声が響く。
(サーラの声だ!)
必死で夜営地へと駆け戻ると、木々の隙間から鎧を血に染めた盗賊の一人が、サーラを小脇に抱え馬上で叫ぶのが見えた。
「てめえら、タダで済むと思うなよ! 面は覚えてるんだ。何処までも追いかけて必ず殺してやるぞ!」
(クソッ! 確かに殺したはずなのに!)
だが、いくら亮真が考えても現実は変わらない。
腹を切り裂いて殺したはずの盗賊がサーラを抱えて馬で逃げようとしているのは間違いない。
亮真は腰の袋から戦輪を掴みだすと、盗賊へ向かって走り出した。
(まだだ。まだ遠い)
あせる気持ちとは裏腹に、木の枝に邪魔をされ思うように走れない。
戦輪は威力の高い武器だが一つ欠点がが有る。
弓ほどの飛距離は出ないのだ。
弓は有効射程百二十メートルを超えるのに対し、戦輪は有効射程はせいぜい十メートルが良い所だろう。
コンパクトで連射が効く戦輪だが飛距離は決して良くない。
亮真が街道に出たときには、盗賊は馬を駆り既に数十メートル以上離れてしまっていた。
「くそ!」
辺りを見回すが、馬はあの一頭だけだ。
もっとも、仮に有ったにしても亮真は馬に乗れないのだから意味はないのだが。
「御子柴様!」
サーラを庇おうとして殴られたのか、ローラの口が切れて血が滲んでいる。
「大丈夫だ。俺が必ず何とかしてやる!」
安心させようとした亮真の言葉にローラが首を振る。
「いえ。お願いがあります!」
「お願い?」
「はい。申し訳ないのですが御子柴様の左手の薬指に傷をつけて頂けませんか?」
状況を理解しているとはとても思えないローラの言葉に亮真は疑問を覚えた。
「何を?」
だが、彼女の表情は真剣そのものだった。
「お願いします。時間が無いんです」
あまりの迫力に亮真は言われるまま剣で左の薬指を少し切った。
「これでいいの?」
「はい!」
ローラは亮真の剣を借りると同じように左手の薬指を少し切ると、亮真の前に膝を付いた。
「偉大なる契約の神ハーヴァよ。我が宣誓を聞きたまえ」
(こいつは……祈り?)
「わが身、我が心、我が魂の全てを我が主に奉げん」
亮真の戸惑いをよそに言葉は続く。
「全ては我が主の御心のままに!」
「御子柴様。左手をお出しください。」
ローラの言葉に導かれるように亮真は左手を差し出した。
「我れらが血の交わりを持って盟約となす。」
ローラの宣言と共に2人の指は重なり合い血が交じり合う。
その瞬間、鋭い光がローラの首から迸った。
突然彼女の首輪が音も無く砕け散り、手足の枷が外れる。
「よし、いける。早く!」
ローラは全身の筋肉に力を入れた。
ふくよかな女性らしい肉体に下で絞り込まれた鋼の如き筋肉が盛り上がるのが感じられる。
「ご主人様。力を使う事をお許しください」
そうローラは言い放った。
訳の判らない無い亮真は其の迫力に押され頷いてしまう。
それを見たローラは呪文を唱え始めた。
「風の精霊シルフよ。我が求めに応じよ。汝が如き風の速さを我らに! 風速加護!」
ローラの叫びと共に緑の光が2人の体を包み込む。
「さぁ、ご主人様。サーラを取り戻しましょう!」
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