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異世界召喚編
第1章第15話
異世界召喚2日目【覚悟】:

夜の闇に包まれた街メルフェレン。
亮真は狩りを終えようやく最初の目的地メルフェレンへとたどり着いた。
既に時間は夜の7時を過ぎた頃。
通常なら帝都〜メルフェレン間は徒歩で3時間ほど。
距離にしておよそ11Kmと言った所だ。
だが途中で亮真は狩りを行っていたため、到着が此の時刻になった。

「ふぅ。やっと着いたぜ」

やはり知人が居ないのは寂しいものだ。
ついつい独り言を言ってしまう。
わずか一日とはいえ、自分が生まれ育った世界からまったく別の世界に連れてこられれば如何に亮真とはいえ寂しさを感じる。
此処から国境まではおよそ100Km程だろうか。
騎馬ならば4時間程で駆け抜けられるが、徒歩で平均時速3〜4kmなら1日10時間歩くとして3〜4日、遅ければ7〜8日程掛かる距離だ。

亮真のリュックには、狩りで得た材料が詰まっていた。

(とりあえずギルドで報告だな)

亮真は空腹に耐えつつ、重くなったリュックを背にギルドへの道を歩むのだった。


「これをおねがいします」

「かしこまりました。確認するので少々お待ちください。……大丈夫ですね。封印は剥がれてないです」

亮真が差し出したカードと依頼品の手紙を受け取った受付嬢は、手紙の裏表と蝋の封印を確認した。

「はい。問題有りません。では達成値クリアポイント5を追加しますね。討伐系の依頼クエストの方はどうされますか?一旦清算されますか?」

「ええ。お願いします」

亮真は頷いた。

「かしこまりました。ええっと……野犬ワイルドドック討伐数54、野蜂ワイルドビー討伐数91、野兎ワイルドラビット討伐数22。……お疲れ様でした。結構な数を狩られたんですね」

「ええ。おかげで昨日買った武器の切れ味が血脂で鈍ってしまって……研ぎに出したいんですよね。」

亮真の何気ない言葉を聞き受付嬢の顔に驚きが広がる。

(此の人。剣で此の数を狩ったの?それも一日で?てっきり殲滅系を使う法術士だと思ったのに……シングルIアイランクの冒険者なんてLVじゃないわ……)

カードに記載されている依頼[クエストの依頼請負日は全て昨日の日付だ。

亮真は彼女の視線に気づかず続けた。

「此の町で研ぎを頼める鍛冶屋なんてありませんかね?」

「ええっと……ギルドを出て大通りを左にまっすぐ向かうとありますよ」

「そうですか。後で行ってみます。ところで、清算おわりました?」

亮真の問いに彼女は自分の仕事を思い出した。

「あ!ごめんなさい。野犬ワイルドドックの討伐数54×3で162バーツ。野蜂ワイルドビーの討伐数91×3で273バーツ。野兎ワイルドラビットの討伐数22×3で66バーツ。合計で501バーツ。達成値はそれぞれ討伐数とイコールなので達成値クリアポイントは167ポイントです。おめでとうございます。御子柴さん。ダブルIアイランクへ昇格ですね」

(昨日登録して、もう次のランクに上がるのか……)

亮真は正直あまり嬉しくなかった。
別段苦労もしていないのだから当然の感想と言えた。

「あまり嬉しくなさそうですね?」

感情が表情に出ていたのだろう。
受付嬢の質問に亮真は正直に答えた。

「そんな事も無いんですが、あまり苦労しなかったので。正直……」

「そうですねぇ。その辺は2パターンに別れますね。登録前にある程度の訓練をされた方とだと、Gランクぐらいまでは1週間ほどで上がっちゃいますからね」

「そうなんですか?」

「ええ。逆にまったくの素人の方がなる場合はダブルIアイランクに上がれるかどうかが一つの山場ですよね」

「ふ〜ん。そうなんですか……」

亮真は気づかなかったが、初心者が一番引っかかるのは1対集団の場合だ。
森に居る怪物モンスターの多くは集団で生活している。
狩りをする場合、当然集団を相手にしなければならなくなる。
そこでギルドではパーティーの結成を推奨するのだが、必ずしも全ての人間がパーティーを組めるとは限らない。
実力が離れすぎていたり、考えが合わなかったり、目的に沿わなかったりと様々な理由で一人で依頼クエストに出るものも多いのだ。
そして、パーティーに入りにくい一番の人間が初心者と言う事になる。
特に何も訓練を受けていない初心者は嫌われる。
命のやり取りをする中で、弱者が居ると言う事は経験者の命まで危険に晒すからだ。
そんな訳でギルドに登録した直後の初心者の多くは、同じ初心者同士でパーティーを組めると言う幸運に恵まれた者以外は、一人で依頼クエストを行わなくてはならなくなる。
ここで問題となるのが先ほど言った”森に居る怪物モンスターの多くは集団で生活している”ということだ。
1対1の場合なら素人でも問題なく倒せる怪物モンスターも集団となれば話は別だ。
前後左右あらゆる方向を警戒しながら戦わなくてはならない。
そのため殆どの初心者は、ハグレと呼ばれる一匹で行動する怪物モンスターを探して戦う事になる。
但しこのハグレに遭遇する確立は非常に低い。
丸一日森を這いずり回って2~3回遭遇すれば幸運と言えた。
結果、受付嬢の言った2パターンに分かれるわけだ。
1対1でしか戦う実力の無い者は必死で森を探索し、1対多で戦えるものは亮真のように1〜2日でランクアップを果たす事になる。
ちなみに配達系の仕事のみでランクアップする事も出来るが、これは推奨されない。
なぜなら実戦における力を身に付けること無くランクアップすれば、待っているのは死のみだからだ。

「ところで御子柴さん?こんなに討伐されたってことは相当に皮とか牙とか貯まったんじゃないですか?」

「ええ。解体するのに手間取りましたけどね。これから魔法道具屋マジックアイテムショップへ持ち込むつもりなんですけど」

「なら調達系の依頼クエストを先にやってしまいませんか?」

「調達系ですか……?」

彼女の意外な言葉に亮真は首をかしげた。

「はい。魔法道具屋マジックアイテムショップへ持ち込むより金額は減りますけど、先にランクアップを果たしたほうが後々得なんですよ?」

「ほう!そうなんですか?」

彼女の言葉に亮真は興味を持つ。
自分の利益には敏感な男だ。

「はい。依頼クエストは自分のランクと同じかそれ以下を受けられる事はご存知ですよね?」

ギルドへ登録したときに聞いた話だ。

「ええ?それが?」

「実は、自分のランクより下の依頼を受ける場合は、達成値クリアポイントが0になる代わりに報酬が2倍になるんですよ」

これは新情報だ。【ギルド初心者案内】にも記載は無かった。

「え!?」

「なので実力のある方はどんどんランクアップして、自分のランクより下の討伐系依頼クエストを数多くこなす方がお金になるんですよ」

「なるほど!」

(ならランクアップも悪くない。せっかくだし上げてしまうか。)

「判りました。受付カウンターは1階でしたよね?」

「ええ。階段上がって正面です」

亮真は軽く頭を下げ、足早に階段を上っていった。


「はい。調達系依頼クエストを受けられるのですね?」

「ええ。野犬ワイルドドック野蜂ワイルドビー野兎ワイルドラビットの討伐で取得できる材料を納める依頼を全部お願いします」

受付のカウンターに居た青年は、慣れた手つきで次々と依頼クエストの説明をする。

「ええっと。それぞれ収めていただく材料1個当たり、野犬ワイルドドックの牙が2バーツ、皮が5バーツ、野蜂ワイルドビーの毒針が2バーツ、羽が5バーツ、野兎ワイルドラビットの耳が1バーツ、皮が5バーツですね。達成値クリアポイントは納品1つに対して1ポイント。期限は特にありません。引渡しカウンターで品物を渡してくだされば終了です」

「それでお願いします」

「かしこまりました。よろしくお願いします」


受付カウンターを後にした亮真は再び地下の受け渡しカウンターへと向かった。

「依頼受けられました?」

「ええ。とりあえず全部受けてきました」

亮真がそういうと受付嬢は困った顔をした。

「え?全部受けてきたんですか?」

「え?不味かったですか?」

「いえ。でも御子柴さんがお持ちの材料を全部納品するとシングルHエイチへランクアップされても達成値クリアポイントが余りますよ?」

そこで亮真は気がついた。
シングルHエイチへランクアップしてしまえば達成値クリアポイントは0になってしまう。
達成値クリアポイントが得られないのならギルドに納品するより魔法道具屋マジックアイテムショップへ売った方がお金になるのだ。

(まぁいいか……腹は減るし時間も時間だしな……鍛冶屋に剣を研ぎに出してからメシ食べて宿屋を探せば22時近くになる)
ギルドの壁に掛かった時計は夜の20時を過ぎた辺りを指していた。

「今回は良いです。全部こちらで納品します」

依頼クエストの破棄も可能だが、破棄すると達成値クリアポイントが下がるのでややこしい事になる。
うまく数を調整して納品すれば無駄なく達成値クリアポイントを稼げたが空腹には勝てなかった。

「判りました。ではこちらに納品物を置いてください。」

亮真は背負ってきたリュックの中身をカウンターの上に広げたのであった。


「ふざけるな!」

ギルド1階の受付カウンターに男の怒声が響く。

「こっちは命がけで依頼クエストを果たしたんだ!それなのに金が払えないってのはどういうことだ!」

亮真は調達系依頼クエストを終わらせランクをシングルHエイチに上げた。
食事へ行こうと亮真が1階へ上がって来たところに其の男は居た。
髪を肩より下で束ね、鉄の鎧を纏った大男が怒鳴り散らしている。
相手をしているのは、先ほど亮真の依頼処理を行った青年と、中年の男性だ。

「ですから!先ほどから申し上げているとおり、討伐対象が違う以上報酬はお支払いできませんし、依頼期間を過ぎているので違約金のお支払いをお願いします!」

ひ弱に見えた青年が毅然とした態度で大男に言い放つ。

「何をぬかしやがる!こちとら必死で探索してようやく見つけたんだぞ!?」

「ゴラエスさん、だから私は言ったじゃないですか!きちんと確認しないと不味いですよって!」

中年の男が言い出した。

「なにおぅ!テメエは監視員だろうが!」

青年は首を振りつつ言った。

「ゴラエスさん。あなたは傭兵としては非常に高い評価を得ておられます。しかし冒険者としての力量はいまいちのようですね。今回あなたは依頼クエスト【紅月団】の討伐を受けられました。しかし探索に手間取り十分な調査をしないまま、たまたま見かけた盗賊を討伐された」

青年は中年の男に目をやった。

「ギルツさんも注意された様に、きちんと調査をするべきでしたね。今回ゴラエスさんが違う盗賊を討伐されたのは間違いありません。つい先ほど【紅月団】により近隣の村が襲われ若い娘さんが数人攫われたとの情報が入ってきています」

青年の視線がゴラエスを貫く。

「もちろん此の被害の原因がゴラエスさん!全てあなたの所為だとは言いません。でもきちんとあなたが対応していればひょっとしたら今回の被害は防げたかもしてません!その辺を考慮の上でまだギルドの対応にご不満ですか?」

まさしく寸鉄すんてつ人を刺すだ。
あれほど息巻いていたゴラエスがだんだんと肩を落としていく。
さほど頭が悪いわけではないらしい。
少なくとも、自分の非を悟る知性と度量はあるようだ。

「う…すまねぇ……判った……違約金も払う」

ここで青年の顔も弛んだ。

「すみません。ゴラエスさん。少し言葉が過ぎました。あやまります」

青年はゴラエスに頭を下げる。

「悪いのはこっちだ。すまねぇ……ランクが低めだったんで受けたが、やっぱり傭兵に冒険者の真似は無理か……違約金は口座から引き落としてくれ」

ゴラエスはそういい残すと、肩を落としてギルドを去っていく。

依頼クエストってのは他人の人生が掛かるのか……)

たまたま目の前で起こったこの事件は亮真の心に強い衝撃を与えた。
亮真は自分の甘さを痛感した。
どこかで依頼クエストを現実離れしたゲームの中の出来事だと思っては居なかったか?
だからさっきのように依頼クエストを破棄すれば良いなどと軽く思ったのではないだろうか?
亮真の視線に気がついたのか、青年はこちらに近寄ってきた。

「御子柴さん。どうされました?」

「あぁ、いえ、調達系の依頼クエストを終えたので今日は宿で休んで、明日改めて依頼クエストを探しに来るつもりでした」

さっきまでの厳しい表情とは打って変わってにこやかに話しかけてくる青年にやや気押されながら亮真は言葉を返した。

「なるほど。それでさっきの場面に出くわしたと。びっくりされましたか?」

「ええ……そのとおりです」

「意外と多いんですよ。ああいうこと。」

青年の顔が曇る。

依頼クエストの未達成ですか?」

「ええ。本人の特性や経験を自分で把握できないと今回のゴラエスさんのようになりますね。あの人も優秀な傭兵なのですよ。だから戦闘技術に関しては何の問題も無いのです。しかし調査や探索に対しての意識が無かった。それこそ他の冒険者とパーティーを組むという選択も有ったんですけどね」

「なるほど。自分で出来ないなら出来る人間を仲間にしろということですか?」

亮真の返事を聞いて青年の表情が緩む。

「フフフ。あなたは素直だし賢い。今後も頑張ってくださいよ?」

「はい。ありがとうございます」

青年は亮真へ微笑みかけるとその場を離れようとしたが、何かを思い出したかのように足を止めて振り返った。

「ああっ!そうだ。先ほど話しに出た【紅月団】ですがメルフェレンからアルー間の街道や村々を縄張りにしています。もしそちらの方面に行くなら注意してくださいね」

去っていく青年の背を見ながら亮真は考え込んでしまった。
(アルー方面に盗賊が出るだと……)
アルー方面。それは帝都から東部方面国境までの街道沿いの町の一つであり、亮真が次の目的地としている町の名だった。

「ダメだなこりゃぁ!買いなおしたほうが安いぜ?アンチャンよ」

教えられた鍛冶屋で研ぎを依頼しようと剣を渡した亮真に、鍛冶屋の親父は言い放った。

「ぜんぜんダメですか?」

「ああ。あんた一体どういう使い方をしたんだい?刃は完全に丸まっちまって、これじゃタダの棒だぞ?」

(まいったな……まさか1日で使い潰すなんて……)

亮真は確かに普通の人間よりは刃物の扱いには慣れている。
だが日常ではそう何度も刃物で肉を切る経験など持つわけも無い。

「ええっと……狩りで使ったんですが……」

「こんなに血脂で曇ってしかも刃がこんなに丸まって。あんた一体何日手入れをしてないんだよ?」

「今日一日なんです。昨日買った新品なんです……それ。」

亮真の言葉に鍛冶屋の親父は目をむく。

「バカいえ。こんな状態になるなんて。10や20斬っただけじゃこんなにはならんぞ?それこそ100は超えなきゃ……」

だが鍛冶屋の親父は亮真の顔を見て悟った。

「冗談じゃ……ないようだな。」

「ええ。」

「悪いがウチじゃぁ此の剣より良い物なんてないぜ?ウチは鋳造ちゅうぞう専門でな」

それは亮真が店に入ったときに既に判っていた事だ。

「まぁ剣は良いです。手頃なの1本ください。それよりこれは研いでもらえますか?」

そういうと亮真は脂で曇った戦輪チャクラム10枚を差し出した。

「??何だコリャ?これも刃物かよ?」

「縁が刃になっています。」

初めて見たのだろう。親方は興味深そうに戦輪チャクラムを手に取る。

「まぁこれはそれほど酷く無いな……何時までに仕上げればいいんだい?」

「出来れば明日の朝頃までに」

「そうだなぁ、1つ1時間掛かるとして明日の10時で良ければ引き受けてやるよ。」

(10時か。まぁ少し宿屋でゆっくりして、ここに寄った後ギルドに行くか……)

「判りました。それでお願いします。お幾らですか?」

「そうだなぁ……剣も買ってくれるっていうし、400バーツでどうだ?」

今日一日で2000バーツ近くを調達系の依頼クエストと討伐系の依頼クエストの達成で稼いだ亮真にとってさほど問題になる金額でも無い。

(帝都の鍛冶屋で買った剣より安いのは鋳造式の剣だからか……)

「判りました。明日10時にお伺いします」

そういうと、半金を支払い亮真は鍛冶屋を後にした。

(とりあえずはメシだな……)
空腹を抱えて亮真はメルフェレンの町へ消えて行った。

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