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異世界召喚編
第1章第14話
異世界召喚2日目【追跡者達】:

「みなの者、昨夜はご苦労だった!只今より新たな方針を伝える!」

 ロルフの怒声が正午の強い日差しの中、城門前の広場に響いた。

「シャルディナ様、セリア殿、オルランド殿、そしてこのワシを部隊長とし、それぞれ3〜40名ずつを付け各南と東の国境へ向けて探索を開始する! 編成は事前に通知したとおりである。なお、皆も知ってのとおり犯人と思われる異世界人はガイエス様を殺害している。各自、十分に注意するように。では、各自速やかに移動を開始しろ!」

 兵達が編成されていくのと見ながらロルフは昨夜の事を思い出していた。


 亮真と城門ですれ違った帝国の追手達。
 セリア、ロルフ、オルランド、シャルディナの4人は、午後から夜半までを探索と追跡に当てた。
 だが、城門を出た近衛兵は忽然と其の姿を消し、其の行方は様として掴めなかった。

「一体どうなっているの?!」

 セリアの怒鳴り声が帝都オルトメアの城門に響き渡る。
 四方に放った近衛兵達は、何の収穫も無いまま集合場所である城門前に戻ってきたのだ。
 何も掴め無かった彼らは一様にうなだれている。
 結局判って居るのは、近衛兵の鎧を着た者が午後2時頃に出たという事だけ。
 セリア達が兵を編成して城門にやってくるわずか20分ほど前の話だ。
 それから夜半まで10時間にも及ぶ探索はまったくの無駄となった。

「落ち着きなさい。セリア殿」

「シャルディナ様……」

セリアの声のトーンが落ちる。

「今日はとりあえず此処までにしましょう……みんな疲れているし」

シャルディナの目が周囲を見回す。
露骨に疲れをアピールしている兵士は居ないが、疲労が蓄積しているのが見て散れる。

「しかし……このままでは……」

セリアは抗弁したがシャルディナは引かない。

「いくら帝都の周りとはいえ夜は危険だわ。一度対策を練り直して明日仕切り直しましょう」

「うむ。シャルディナ様の言うとおりだな。此処は一度仕切りなおした方が良かろう。いかがかな?セリア殿」

ロルフの言葉にセリアとしても言うべき言葉が無い。
ただ感情の部分で、肉親を殺した犯人を野放しにしていると言う現実を受け止められないのだ。

「オルランド殿、セリア殿を館へお送りしてくれ。ガイエス様がお亡くなりになりセリア様も大変な一日だったからな」

「いいえ。一人で帰れます!」

ロルフの気遣いをセリアは拒んだ。
だが周りの眼には其れが虚勢であることが手に取るように判った。

「無理をしない方がいいわ?セリア殿。オルランド殿、セリア殿をお願い」

「は!さぁセリア殿」

シャルディナの言葉にオルランドは素早く反応しセリアを抱きかかえようとする。

「オルランド!離しなさい。私は一人で帰れます」

だが、オルランドの手を撥ね付けた拍子にセリアはバランスを崩して倒れこんだ。
無理も無い。
10時間以上休憩も無く必死で探索を行ったのだから。
結局セリアはオルランドに抱えられて館へと帰った。

「シャルディナ様。いかがいたしますか?」

「どうするも何も、もう無理でしょうね……」

ロルフの問いかけにシャルディナは肩をすくめるとあっさり言い放った。

「やはり無理ですか……」

「勝負は例の近衛兵が城門を出てからの10分だったのよ」

「しかし……これでも編成にはかなりの無理を」

シャルディナの言葉を聞き、兵を集める指揮を執ったロルフの顔に苦渋の色が浮かんだ。
彼は最善を尽くしたと自負している、だが結果として捕縛出来なかったのであればその努力は意味が無いのだ。

「判っているわ。別にあなたを責めたんじゃないの。ロルフ殿」

シャルディナは視線を森へと移す。

「もともと帝都周辺で彼を捕縛する可能性は低かったのよ。何しろ相手の顔も年齢も不明なのよ?。それでも近衛兵の格好のままでうろついてくれていれば確保の可能性も有ったけども……」

「もう近衛兵の格好はしていないと?」

「おそらくは……ね」

ロルフの言葉にシャルディナは頷いた。
(私ならサッサと服を着替えるわ……追手が掛かっているんだもの……)

「では……どうされますか?これから」

「国境は封鎖させたけどね、後は……」

シャルディナは首を振った。

「明日から国境へ向けて探索をしながら進むしかないわね。」

「しかし。どの国境へ向かったのか……」

ロルフの懸念は尤もだ。
確かにオルトメア帝国は西方大陸でも5本の指に入る大国だ。
ただし、内陸部の侵略国家なため、四方を敵対国家に塞がれている。
今回、追跡隊の人数がいくら急いで編成したとはいえ150名ほどと言うのは、周辺諸国への防備で国境付近へ兵を貼り付けているからであり、帝都の近衛騎士団、親衛騎士団を大動員出来ないのは戦端が開かれた時の備えの為だ。
対象者の顔も年齢もわからず、人海戦術も選択できない今、武人であるロルフに対策など建てられるはずも無い。

「とりあえず2択までは絞れるわね」

シャルディナの言葉にロルフは意外そうな視線を向ける。

「2択ですか?ならシャルディナ様は南か東だと?」

ロルフの脳裏に帝都から国境までの距離がおぼろげに浮かぶ。
2択と言う以上帝都から尤も近い南方と次に近い東方を思い浮かべるのは当然のことだ。

「ええ。でもおそらく東ね……」

「理由をお聞きして宜しいですか?」

シャルディナは微笑みを浮かべて応えた。

「正直に言えば勘ね。ただしまず外れないと思うわ」

シャルディナはロルフに向き直って言った。

「この城を脱出し、我々の追跡を振り切るほどの奴だもの。無闇に逃げたりしないわ」

「ならシャルディナ様は異世界人が地理を知っていると……?」

ロルフの表情はそんなことは有り得ないと語っていた。

「おそらくね……」

「ですが、それなら最短の南を選択するのでは?私なら東は選びませんが?」

少なくともロルフが逃走するなら最短ルートを選択する。
一刻も早く国外脱出を果たさなければ命が危ない状況なのだ。
態々遠い道を選ぶ必要など無い。
ロルフはそう考えていた。

「そう。逃げるだけなら南ね。ただし私達にもそれは予測される」

「予測される事を前提にして東を選択すると?まさか……幾らなんでもそれは」

シャルディナの顔に憂いが浮かぶ。

「ロルフ。私も杞憂であって欲しい。でもね此処まで裏を掛かれたのよ?相手を見くびれば最悪国外に逃亡されかねない」

ロルフは考えこみながら言った。

「確かに……しかし南の可能性も捨て切れません……」

彼は現実的な判断をした。
其れが彼の優れたところであると同時に欠点とも言える。

「貴方の言いたいことは判っているわ。東に向かったと言うのはあくまでも私の勘よ……だから南はセリア殿、ロルフ殿、オルランド殿の3人に任せ私は東へ向かおうと思うの」

「確かにそれは悪くないと思います……しかしそれならば2名2名で分かれるべきでわ?」

彼の提案は尤もなことだ。
普通なら間違いなく隊を半分にするところだろう。
しかしロルフの提案にシャルディナは首を振った。

「いいえ、東はあくまでも私の勘よ。それにセリアを抑えるのにオルランドだけでは怖いのよ……まぁ私には優秀な副団長も居るし。大丈夫だから」

ロルフは普段”吹雪の女王”とまで呼ばれる程に冷静で冷酷なセリアが逆上し、怒鳴るのと思い出した。
(確かに……殿下のご指摘どおり今の不安定なセリア殿を抑えるのにオルランド殿だけでは危ないか……まぁアヤツが居れば殿下に危険は有るまい)
シャルディナの言葉を聞いてロルフは瞬時に計算した。
彼の脳裏には、シャルディナの言う優秀な副団長の姿がハッキリと浮かんでいた。

「判りました。それではそのように部隊を編成します」

「頼むわね。ロルフ殿」

ロルフは頭を下げると、疲れた体に鞭打ち徹夜で部隊の再編成に携わった。
たった一人の異世界人を捕らえる為に。


「ロルフ様!兵の移動終了致しました!直ちに出発できま。」

副官の一人が報告に来た。

「シャルディナ様。行きますか?」

ロルフの言葉にシャルディナは剣を城門の彼方へ向けることで返事をした。

「進軍!」

ロルフの怒声と共に150名の騎馬隊は走り出す。
影さえ見えない異世界人を追って。


先頭を走るシャルディナに副団長の斉藤が並走してきた。

「皇女殿下。ご命令通りにアデルフォの関所を閉鎖致しました」

「そう。御苦労さま。早かったわね」

昨日の午後に出した命令だ。
馬を乗り継いで行ったにしてもかなりの速さだ。
シャルディナは斉藤の報告に満足げな表情を浮かべた。

「アデルフォの町で捕らえるおつもりなのですか?」

斉藤は年のころ30半ば位か。
髪を七三分けにしたエリートサラリーマンのような風体だ。
眼鏡を掛けビジネススーツを着せてオフィス街を歩かせれば直ぐに溶け込める。
理知的な空気を纏うこの男の問いにシャルディナはいたずらっ子のような笑みを浮かべて問い返した。

「あら?私そんなこと言ったかしら?」

「いいえ。ですからお尋ねしているのです。皇女殿下」

彼女の期待に沿った回答ではなかったのか、シャルディナは幾分不機嫌な顔つきで問い返した。

「ならお聞きしますわ。私の優秀な参謀さん。アデルフォの町で異世界人を捕らえられると思う?」

「いいえ。まず無理でしょう」

斉藤はあっさりと言い放った。
今度の答えはシャルディナのお気に召したらしい。
幾分笑いを含みながら問い返した。

「あら?どうしてかしら?」

「顔が判らない人間をどのように探すのです?それとも何か其の男を特定出来る情報があるのですか?」

これが今回の任務の一番の問題点だった。
判っているのは異世界人の男で背が高く体格が良いという頭が良く容赦のない性格。
そんなところだ。
はっきり言えばそんな人間は帝都に腐るほど居る。
いや帝都だけでなく西方大陸中に。
昨夜の追跡では相手が近衛兵の鎧を着ているということを前提に探し回ったのだが、城門を出た後の足取りはまったく掴めなかった。

「そうね……フフフ。顔もわからない相手じゃ探しようが無いものね」

シャルディナの笑みに斉藤の目が細まる。

「ならどうするのですか?」

「大丈夫よ。私達が相手の顔を知らないのだもの。相手に教えてもらうしかないでしょ?犯人だって」

シャルディナの言葉を聞き斉藤の目に鋭い光が宿る。
彼の脳に主君の考えていることが伝わった証拠だ。

「成る程。アデルフォの関所を閉鎖させたのはその為ですか……」

「そう。尤も使える人数が限られているからあまり期待は出来ないけれどもね……」

「アデルフォの守備隊を動かすというのはいかがですか?」

斉藤の提案にシャルディナは首を振った。

「其れは無理よ。国境の守備隊を動かせばザルーダに攻め込まれるだけだもの。貴族連中に応援を頼むわけにもいかないしね」

「そうですなぁ……貴族共にばれればこれ幸いと謀反を起こしかねませんな」

シャルディナは帝国貴族や近隣諸国に今回の事件が漏れた場合を想像し苦笑いを浮かべた。

「いずれ公表するにしても今は不味いわ。だから手段を選ばなくちゃいけないの……不利だけれどもね」

シャルディナの言葉に斉藤は無言で頷いた。
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