異世界召喚2日目【逃亡】その5:
野蜂の解体を終え、亮真はさらに森の奥へと進む。
宿屋で昼食用に弁当を作って貰っている為、探索に掛ける時間は十分ある。
(とにかく、戦闘に慣れないとな)
今、自分が持っている武器が使い慣れた愛刀なら。
ついそう思ってしまう。
戦輪は手裏剣術の応用で何とでもなる。
だが剣は残念ながら使い難くて仕方が無い。
引き斬る=刀に対して力で押し切る=剣は根本的な使い方が異なるため使い難いのだ。
だがとにかく此の装備で国境を越えなくてはどうしようもないのだ。
おそらく帝国の追手は亮真を追い越して遥か彼方を探しているに違いない。
馬の機動力を考えれば当然と言えた。
問題は亮真が選んだ東部方面に追手を差し向けたかと言う事だが、亮真は向けていると予想していた。
(俺なら、顔がわからない人間を見つけ出すのに、探索の人数をケチる事は無い。そして俺なら先ず国境の警備を厚くして、不審者を一切国外に出ないようにする。後は国境から帝都へ向かって網を絞り込んでいけば良い。)
森を進みながら亮真の思案は続く。
(ただ今回は、帝都内で俺を拘束できなかった段階でほぼ俺の勝ちは動かない。顔が判らないっていうのはそれだけ有利だ。後は国境をどう越えるかだな……)
急に亮真の目の前が開けた。
森の木々が切れ、其の部分だけぽっかりと広場になっている。
グルルルルウ……
突然亮真に警告の吼え声が響く。
そこには体長1mほどの犬が居た。
その数13。
おそらく家族だろう。
其の中には明らかに子供も居る。
(コイツが野犬か……)
まだ向こうは警戒しているものの攻撃まではしてこない。
おそらく子供が居るため、むやみに襲い掛かってくるのを躊躇っているのだろう。
(チャンスだな。)
亮真はすばやく戦輪を取り出すと、子供を庇う親に狙いをつけた。
フォン
戦輪が空気を切り裂く。
野犬が避ければ野犬の子供に当たる。
避けなければ野犬に当たる。
次々と亮真は戦輪を投げた。
ザシュ
肉を切り裂く音。
キュイ〜〜〜ン
苦痛の叫び。
亮真はすばやく剣を抜き野犬へ走り寄る。
亮真へ突っ込んできた野犬は全部で8体。
5体は体を戦輪で切り裂かれ蹲っている。
先頭を切って走ってきた1匹が亮真から2m程のところから飛び掛ってきた。
(所詮畜生か……)
亮真は大きく開かれた口に剣を突っ込む。
飛び掛ると言うのは決してよい戦法ではない。
なぜなら翼が無い為、空中では身動きが取れなくなるからだ。
奇襲なら話は変わってくるが、今回のように正面からの戦闘では飛び掛るのは下策だ。
もっとも野犬達にそんな知性は無い。
本能のままに亮真へと飛び掛ってくる。
7体目、8体目、9体目。
次々と飛び掛ってくる野犬を脇にすり避けて、すれ違いざまに胴を薙ぐ。
機械的に処理して行くうちに亮真に油断が生まれた。
1匹が飛び掛らず、そのまま駆け寄ると右足へ牙を剥いた。
ドグン
咄嗟に亮真の右足が大きく蹴り出され野犬の喉元に突き刺さる。
喉を蹴り潰され蹲る野犬の頭に剣を突き刺し止めを刺した。
(ふ〜。危ねぇ。つい油断したぜ……)
残り3体。
野犬の子供だ。
さすがに怪物に分類されるだけあって、子供といえども獰猛だ。
亮真に対して威嚇のうなり声を上げる。
ざっと距離にして5m程か。
亮真は剣を体の左側に構える。左下から右上への斬り上げを狙った脇構えだ。
両者が睨み合い、次第に間の空気が重くなる。
亮真対3匹殺気が爆発しそうになった瞬間。
亮真は纏っていた殺気を一気に消した。
今にも襲い掛からんとした3匹は殺気をいなされ躊躇した。
そこで亮真が一気に間合いを詰める。
左下からの右上への斬り上げ、1匹目の首を斬り飛ばす。
頭上に掲げられた剣は再び同じ軌道を描いて2匹目の胴を切断した。
3匹目はついに後ろを向いて逃げ出す。
亮真は剣を地面に突き刺すと、戦輪を取り出し投げた。
(ふ〜13匹か……)
戦闘そのものは3〜4分といったところか。
全て1太刀でケリが付いた為さほど時間も掛からなかったのだ。
(戦輪悪くないな……ただ回収しにくいな……)
柄が無く輪の外円が全て刃の為、威力は大きいのだが戦輪全体が肉の中に埋まってしまうのだ。
投げた6枚の戦輪は全て血をぬぐって回収した。
(ええっと……)
【ギルド初心者案内】によると野犬で価値があるのは上顎に生えた2本の犬歯と毛皮らしい。
亮真はなれない手つきながらも剣を使って毛皮の剥ぎ取りに取り掛かった。
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