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異世界召喚編
第1章第12話
異世界召喚2日目【逃亡】:その4

 
 東から上る朝日の光に、亮真は眼を細めた。
 彼は剣を背負い、戦輪チャクラムを入れた革袋を左右の腰にぶらさげ、街道を東へ進む。

「しかし危ないところだったぜ……」

 昨日、武器を買った後の話だ。
 亮真は魔法道具屋アイテムショップ魔法薬ポーション解毒剤アンチドーテを5個ずつ、 簡易テント、西方大陸の地図とそれらを入れるためのリュックを買った。
 防具をどうしようかと考えはしたが、試着した既製品ではサイズが合いにくくどうにも動き図らい。
 今の亮真には時間が無いので後日、時間があるときに買う事とした。
 とりあえず装備が整い、海鳴り亭で晩飯を食べている時、亮真は其の事に気がついた。


「あ!」

 酒場と化した海鳴り亭に亮真の声が響く。
 酒場にいた客の視線が一斉に亮真へと向けられた。

「お。女将さん……」

「なんだい? どうしたんだい?」

 亮真の声に驚き、女将はそばにやって来た。
 彼女は内心、食事の中に虫でも入っていたかと心配して駆け寄ってきたのだが、亮真の様子を見た限り、そういうことで声を上げたわけではないらしい。
 女将が恐る恐る訪ねると、亮真はか細い声で繰り返し呟いた。

「手紙。手紙を……」

依頼クエストの手紙を無くしたのかい!?」

 亮真の呟きを聞き、女将の顔色が変わった。
 これが事実ならとんでもない失敗だ。間違いなく違約金を支払う事になる。
 いや、金はまだいい。多少でも実績があれば別だが、全く実績のない新人が一番初めの依頼クエストでミスを犯したとなれば、次の依頼クエストを請け負うことが難しくなる。
 だが、亮真の答えを聞き、女将の顔に笑みが浮かんだ

「い。いや……手紙を受け取ってない……」

「はは〜〜ん。あんた、さては受け渡しカウンターに行ってないね?」

「受け渡しカウンター?」

 聞き耳を立てていた店の客も状況が理解できたのだろう。彼らもニヤニヤと笑みを浮かべて亮真を見ている。

「おい。新人だぜ。」

「あ〜。俺も初めての時はあんなふうだったな〜〜」

「ギルドもお役所仕事だからな〜〜」

 あちらこちらから聞こえてくるささやき声が亮真の耳にも届いた。

「あはははは」

 女将が我慢できずに大きな声で笑う。すると周りの傭兵達も一緒に笑い出した。
 
「?」

 亮真は自分が何故笑われているか理解できなかった。

「いや〜悪い悪い。そうだね〜初心者の半分ぐらいはあんたみたいな目に合うんだよね」

 憮然とした表情で黙り込んでいる亮真に気がつき、女将はエプロンで口元を隠しながら誤った。しかし、その顔にはまだ笑みが浮かんでいる。

「どういうことなんです?」

 亮真の問いに周りから言葉が飛ぶ。

「新人の試練にかんぱ〜〜い!」

「お役所仕事の犠牲者に栄光あれ!」

「新人! へこたれずにがんばれよ〜〜」

 どうにも状況が判らない。亮真は女将へ疑問の視線を向けた。

「?」

 女将は首を振りながら、肩を竦めて答える。

「あんた。ギルドで登録した後、何か貰わなかったかい?」

「ギルドでですか? 登録カードと後は……あっ!」

 女将の言葉を聞いて、亮真の脳裏に有る物が浮かぶ。

(そうだ! 登録完了して帰ろうとした時に冊子を貰ったんだった!)
 登録をした後に受付の女性から受け渡されたものだ。
 亮真はそれを受け取ったまま背負い袋の中へ放り込んで、今まで忘れていたのだ。、

「それの3ページ目を読んでみたかい?」

 女将に言われ、亮真は慌てて冊子を開く。
-------------------------------------------------------------------------------
 各依頼クエストの達成手順;
依頼クエスト:配達系に関して】
 配達系の依頼クエストを請け負った場合、配達対象物は、ギルド内にある受け渡しカウンターにて受け取る事。
 依頼クエスト終了条件は、対象の町のギルド受け渡しカウンターへ依頼物を届けるまでとする。

依頼クエスト:討伐系に関して】
 討伐系の《クエスト》を請け負った場合、対象を討伐する度にライセンスカードに自動で記録される。
 なお、終了はギルド受け渡しカウンターへカードを提出した時点とする。
 特に指定が無い場合、どの町のギルドで報告してもかまわない事とする。

 注意;
 討伐対象の生息範囲を指定されている場合、かならずギルド随行員を伴い、生息範囲内での討伐である事を証明する必要がある。
この場合はカードに寄る自動記録は使用出来ないので注意する事。

依頼クエスト:調達系に関して】
 調達系の《クエスト》を請け負った場合、対象調達物を、ギルド受け渡しカウンターへ届けた時点で終了とする。
 特に指定が無い場合、どの町のギルドで報告してもかまわない事とする。
-----------------------------------------------------------------------------------

「こいつは……」

 亮真が冊子のタイトルを見ると【ギルド初心者案内】と書かれている。
 初めて依頼クエストを受けた人間が必要とする、基本的な情報が載っている資料だ。

「ギルドの受付カウンターで依頼クエストを受けただろう?」

 女将の問いかけに亮真は素直に頷く。

「受付カウンターは本当に受付だけをするのさ。だから配達系とかの依頼クエストを受けると、依頼クエストを受けた後に受け渡しカウンターへ行って依頼対象の物を受け取らないといけないって訳さ」

 言われてみれば納得だが、亮真はやや釈然としなかった。
 別に言い訳をするつもりはないが、依頼クエスト時に窓口でそのまま依頼対象を受け渡すほうが効率的に思える。
 まぁ、手引き書を貰っておきながら、読まずに放置していた亮真の言葉では説得力に欠けてしまうのだが……
 尤も、そういう人間はかなり多いようだ。
 女将も今まで多くの新人が同じように読まないで困った事になったのを、その目で見てきたのだろう。

「不満みたいだねぇ? まぁ、システム的にややこしいのでギルドとしても冊子を渡してるんだけど、大抵の新人はそこまで見ないのさ。何しろ初登録&初仕事だ。緊張しちまって冊子のことなんか忘れちまう。新人の最初の試練ってやつかねぇ?」

 女将は亮真の不満を理解しているのだろう。笑みを浮かべながら、丁寧に説明してくれた。

「ギルドってまだ開いてますかね?」

 時間は夜の20時30を過ぎた辺りだ。
 酒場等の極限られた店を除いて、殆どは既に店じまいをしている時間帯と言える。

「ふふふ。ギルドは365日24時間開いてるよ。ちなみにその辺の事も冊子に書いてあるから後で読んでおきなよ?」

 それを聞き、亮真はディナーの焼き肉を急いで口に詰め込こんだ。そして、カウンターに夕食ディナー代を置き、店の入り口で女将さんへ頭を下げる。
 向かうのは当然、ギルド受付カウンターだ。


「はい! こちらが依頼品になります。よろしくお願いしますね。御子柴さん」

 メガネを掛けた女性が油紙に包まれた手紙を亮真に渡す。

「蝋で封印がされてます。これが剥がれてしまうと、中を見る見ないに関わらず違約金が発生しますから注意してくださいね」

 ギルド入り口に掲げられた案内板を見て、地下1階の受け渡しカウンターへ向かった亮真がカードを提出すると、受付の女性はあっさりと依頼品を渡してきた。
 初めから手引き書を見ればこれ程簡単に事は済んだのだ。

 其の後は大通りに面した宿屋ホテルへ泊まり、明け方に帝都オルトメアを出発したと言う訳だ。


「ふぁ〜〜〜〜」

亮真の口からあくびが出る。
早朝の所為かメルフェレンへ続く街道には亮真の他は誰も居ない。

昨日ギルドで依頼品を受け取り、大通りにある宿屋ホテルに泊まった亮真は、女将さんに言われたとおり【ギルド初心者案内】にざっと目を通し、いろいろと購入した経費を考えていたら寝るのが遅くなったのだ。
----------------------------------------------------------------------------------
シャツ・ズボン・マント・革ベルト=1000バーツ(銀貨10枚)
海鳴り亭の昼飯ランチ=25バーツ(銅貨25枚)
海鳴り亭の夜飯ディナー=40バーツ(銅貨40枚)
剣=500バーツ(銀貨5枚)
戦輪チャクラム×20個=2000バーツ(銀貨20枚)
魔法薬ポーション×5個=1000バーツ(銀貨10枚)
解毒剤アンチドーテ×5個=1000バーツ(銀貨10枚)
簡易テント=500バーツ(銀貨5枚)
西方大陸の地図=100バーツ(銀貨1枚)
リュック=100バーツ(銀貨1枚)
宿屋ホテル代 ※朝食付き=100バーツ(銀貨1枚)
----------------------------------------------------------------------------------以上が、召喚されて1日目に使った金額だ。
銀貨63枚と銅貨65枚でしめて6365バーツとなる。
これを見て判るのは、食事代が安い事だ。
逆に、消耗品である魔法薬ポーション解毒剤アンチドーテはかなり高い。
瓶に書かれた説明を見ると、怪我に関してはかなり効果が高いみたいだけど。
早々簡単に使える物ではないらしい。
(ゲームだと一番安いアイテムの一つなのになぁ……)
尤もゲームと違いこの世界で死んだらコンテニューは無い。
それを思えば、この薬を無理にケチる事など出来るはずも無かった。
装備への投資分を抜いて考えると大体1日200バーツ(銀貨2枚)を稼げれば、食事をして宿屋ホテルにも泊まれるようだ。

(しかし、街道を少し外れるだけでそんなに出るのかね?怪物モンスターが……)
昨日読んだ【ギルド初心者案内】には、依頼クエストの受け方、報告の仕方だけではなく、初期の冒険者が受けるであろう野犬ワイルドドック討伐や野蜂ワイルドビー討伐と言った討伐系の対象怪物モンスターの生息地に関しての記載もあった。
それによると、基本的には街道を外れれば外れるほど怪物モンスターは強くなるらしい。
今回受けた野犬ワイルドドックなどは、街道から5分も外れれば集団で居るとのことだ。
亮真は街道を外れ森の方へ進んでいった。

亮真が寄り道をしたのには理由がある。
下手に急ぐと怪しまれると考えたのだ。
もちろん、世の中には多くの人が居て、其の中には急いで街道を歩く人も居る。
急ぐ=帝国に見つかる。では無いにしろ、通常の冒険者の様に討伐系の仕事を行いながら町の移動を行うほうが、安全と考えたわけだ。

街道から5分ほどのところに森がある。
森に入りさほど進まぬうちに、ブーンという羽音が聞こえてきた。
視線のやると、10メートルほど先の木の周りに5匹ほどの虫が飛んでいる。
虫と言っても、犬並みの大きさだが。

(あれか?)

体型は普通の蜂のようだ。
だがサイズが確実に普通の蜂の100倍はあろうかと言う大きさだ。
どうやらあれが野蜂ワイルドビーらしい。
【ギルド初心者案内】によれば、体が大きいため、さほど素早くは無いらしい。
ただ、猛毒を持っており、一度に5回以上刺されると死亡するという事だ。

(やってみるか……)

亮真は腰の袋から戦輪チャクラムを取り出し居合いの様に腰を低くし、右足を前に出した格好で、左側へ腰を捻る。
弓の様に引き絞られ力を貯めた体から戦輪チャクラムが投げ出された。
フォン
戦輪が空気を切り裂いて野蜂ワイルドビーに向かって飛ぶ。
ザシュ
そして
カッ
2つの音が続けざまに響く。
だが亮真はそれを無視し、2枚目、3枚目、4枚目、5枚目と続けざまに戦輪チャクラムを投げた。
飛んでいた野蜂ワイルドビーは全て地面に落ちている。
胴体の部分がちぎれた物、頭部が砕けている物、羽に穴が開き飛べないもの。
当たった箇所はそれぞれ違うが、とりあえず5枚とも当たったようだ。
亮真は剣を抜いて、野蜂ワイルドビーへ近づく。
どれも瀕死のようである。
一番元気な羽の破れた野蜂ワイルドビーから順番に頭部へ剣を突き刺し止めを刺す。
(ええっとそれで…っと)
【ギルド初心者案内】を取り出し、ページを折っておいた部分を読み直す。

----------------------------------------------------------------------------------【材料の調達に関して】
怪物モンスターの討伐を行った後は、倒した怪物モンスターを解体し、材料の確保を行うようにしてください。
怪物モンスターの体は、部分によって薬、食料、法術の触媒など様々な使い道が存在します。
これらのアイテムは【依頼クエスト:調達系】を受けるか、魔法道具屋マジックアイテムショップへ売ることで換金する事が出来ます。

本書では、初期の怪物モンスターを対象にどのような部分が売れるかを説明します。

----------------------------------------------------------------------------------(え〜〜〜と?羽の部分と毒針が売れるのか……)

とりあえず、野蜂ワイルドビーの尻の部分を切り裂いて毒針を取り出した。

(うへ……5cmはあるな……)

次に羽をむしろうとして、亮真は3匹の羽に穴が開いていたり切れているのに気がついた。

(ヤバイ。確か……)

【ギルド初心者案内】を慌てて確認するとそこには。

----------------------------------------------------------------------------------
注意事項:
売り物であるので、各部位で損傷の激しい場合はお引取りできない場合が有ります。
ご注意ください。
----------------------------------------------------------------------------------

売ることを考えれば、当然と言える条件だ。
だが命の掛かった実践の中で損傷の度合いまではなかなか気が回らない。
下手に欲を出して死に掛けたのでは目も当てられないのだ。
(ゲームなら売れるアイテムを拾うだけなんだがな……)
亮真は損傷の酷い羽を諦めて、比較的傷の無い羽をむしった。
(頭を使わないと、せっかく倒しても損をするということか……まぁ本当にヤバイ時には金をあきらめるしか無いか……)
狩りの難しさを実感した亮真だった。

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