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異世界召喚編
第1章第10話
 異世界召喚1日目【逃亡】:その2

「はいよ!」

 海鳴り亭の女将が亮真のテーブルに大ジョッキを2つ置いた。
 並々と注がれた泡立つ琥珀色の液体が、テーブルの上に染みを作る。

「?……頼んでないけど?」

 亮真はジョッキと女将を交互に見た。

「店の奢りだよ! 飲んでおくれ!」

 そういうと女将はテーブルの椅子に腰掛ける。

「あんた見かけない顔だけど、旅の人かい?」

 人懐っこい丸顔で亮真へ気さくに話しかけてきた。

「暇なんですか?」

 亮真はどっかりと腰を落ち着けた女将に聞いた。

「まわり見てみな? 客はあんただけさ」

 女将の言葉に従って回りを見れば、いつの間にか客は亮真だけだった。
 亮真が店に入った時には、まだ数人の客が居たのだが、どうやら帰ったらしい。

「時間も時間さ。ちなみにうちは3時でランチを終えるんだけどね。あんたが2時58分に来たから店を閉められないのさ」

 そう言うと女将は、自分の前においたジョッキを勢い良くあおる。

「厨房の連中は先に休憩に入らせたけど、後片付けが残ってるからね。とはいえ、あんたが食べ終わるまであたしも一人で突っ立っててもしょうがないからね。ま〜おばちゃんの話相手をしておくれ。こいつは其の手間賃だ」

 そう言って、女将はジョッキを亮真の前に押し出した。

「そうですか。すみません。お手間を取らせて」

「気にしない気にしない。それで?あんた旅の人かい?」

 女将の口調は気さくで人当たりが良い。話好きなのが見て取れる。
(せっかくだ。いろいろ教えてもらうとするか)
 亮真は考えてあった身の上話をする事にした。彼に必要なのは情報だったから。

「ええ。そうなんですよ。ここは初めてで……」

「へ〜帝都オルトメアは初めてなのかい。一人かい?」

「いえ。父と一緒だったんですが……先日、父が病で亡くなりまして……」

 そう言うと亮真は顔を伏せた。
 女将は不味い事を聞いたと思ったのだろう。慌てて言った。

「あ〜。そりゃ悪い事聞いたね……」

 亮真は伏せていた顔を上げて微笑んだ。

「いえ。病気じゃ仕方が無いですよ」

「そうかい……病気だったのかい……ならあんた、今後どうするんだい?故郷に帰るのかい?」

「帝都で暮らそうかと思っています。ずっと父と一緒に旅から旅の暮らしをしてきましたから、この辺で腰を落ち着けたいと思っているんです」

(さ〜ここからが本題だ。不審に思われないよう注意しながら話さないとな)
 亮真は自らの求める情報を聞き出す切っ掛けをジッと待った。ここであせれば、女将に不審がられると理解していたから。

 女将はすっかり亮真の話を信じた。もともと人が良く、他人を疑わない上に、亮真の話は如何いかにもありえそうな話だったからだ。

「そうかい。それであんた今後は何して暮らして行く気だい?」

(きた!)
 亮真は待ちに待った話題が来た事に喜んだ。
 何しろ、生活していくには働かなくてはならない。だが異世界人の亮真にとって、この世界で就ける職業が判らなかったのだ。
 しかも一般常識に近い情報な為、下手な聞き方をすれば不審がられる。
 相手に顔を晒しているので、下手をすると帝国に亮真の顔がバレる恐れがあったのだ。

「それが……正直に言って、今まで父の仕事を手伝った事がある程度で特に何が出来るって訳でも……せいぜい剣を人並みに使えるって程度で……」

「そうかい。ま〜あんたの歳じゃ〜職人や商人になるのは難しいだろうね〜」

 亮真の顔を見ながら女将が一人頷く。

「商人も駄目ですか?」

「駄目じゃないけど厳しいと思うよ?どっちも子供の頃から仕込む必要がある仕事だからね〜」

「そうですか……まいったなぁ」

 亮真は残念がる振りをする。

「あんた。剣が使えるって言ったよね? なら無難に傭兵か冒険者かね〜〜」

「やっぱりそうですか……ただ、あれってどうやれば成れるんですかね?」

「なんだい? 知らないのかい??」

「ええ。あんまり詳しくは……もしご存知だったら教えていただけますか?」

 亮真の丁寧な口調は相手の警戒心をほぐし、助けてやろう教えてやろうという気持ちにさせる。
 もっとも礼儀さえ守れば、誰が聞いても女将は丁寧に教えてくれただろうけど。

「詳しいって程でもないけどね。うちには冒険者や傭兵も酒を飲みに来るんでそれなりにはわかるよ?」

「是非お願いします」

 そう言うと亮真は頭を下げた。

「と!言っても大した事じゃ無いのさ。ギルドに行って固体情報を登録すれば終わりだよ」

「あれ? 身元調査とか何とかが必要だって聴いた気がしたんですけど……?」

 亮真が気になっていたのは此処だ。
 異世界人である亮真にはこの世界の戸籍も身元保証人もいない。もしこの辺が必要なら正直打つ手は無い。
 強盗街道一直線だ。
 だが、女将さんの返事はあっさりした物だった。

「冒険者になるのに身元保証人は必要ないよ。必要になるのは職人や商人、あとは軍人になる時か
ねぇ。身一つでギルドに行けば向こうで登録手続きをしてくれるはずだよ」

 亮真に満面の笑みが浮かぶ。
 とりあえずは就職出来そうだ。

「本当ですか! いや〜女将さんに聞いて良かったな。俺が前に聞いた時には身元保証が必要だとかって聞いた覚えがあって! 勘違いだったんですね」

 亮真はそういって大ジョッキのエール酒を勢い良く呷った。

「きっと商人か何かに成る時の話と勘違いしたんだねぇ。ちなみにギルドは店を出て左の路地を大通りに向かって行けば直ぐに見つかるよ」

「ありがとうございます! 女将さん。これから早速行ってみます」

「そうかい? なら報告がてら晩御飯を食べにおいで」

「はい! それじゃ〜お会計を」

「あいよ! Aランチ1人前25バーツだよ」

 そこで亮真は固まってしまった。別に金がない訳じゃない。問題なのは別のこと……
(しまった。貨幣価値が判らん……)
 さっき服を買った時には、袋ごと預けるという機転でなんとか切り抜けたが、話の流れ上、此処で其の技は使えない。
 仕方が無いので、亮真は一番価値が高いと思われる金貨を1枚取り出してテーブルに置いた。

「ちょ……ちょいとあんた。こんな店で1万バーツなんて出されてもおつりが無いよ……」

 テーブルに置かれた金貨を見て、女将が呆れ顔に言った。

「100バーツ銀貨でならおつりが出せるけど無いかい?」

(やった。貨幣価値がわかったぞ)
 金貨1枚=1万バーツ
 銀貨1枚=100バーツ
(てことは銅貨1枚=1バーツか?)

「あっと……ごめんなさい。ちょっと待ってくださいね」

 慌てる振りをして、別の袋を懐から取り出した。

「こっちにあったかなぁ……お! ありそうだ。銅貨25枚ですよね?」

「そうだよ。25バーツだよ」

「あ! あったあった……すみません。細かい貨幣はこっちに分けてたんでした」

 そう言いつくろいながら、テーブルの上に銅貨25枚を置く。

「はい丁度だね! 毎度あり」

 前掛けのポケットに銅貨を突っ込むと、女将さんは亮真に聞いた。

「あんた、カードは持っていないのかい? うちでも使えるから次回はカードを使いなよ」

(カード? クレジットカードのことか?)
 知らないとは言えず、亮真は女将の話に合わせた。

「いや〜実はなくしちゃって困ってるんですよね……現金でいくらか持ってるんで当座は困らないんですけど……」

「おや。そうなのかい。ま〜登録者にしか使用できないから預金は安心だけど不便だねぇ。再発行してもらったらどうだい? ギルドの並びに銀行があるよ?」

(やっぱり銀行か。つうか銀行があるのか? この世界に……)
 亮真はせっかくなので女将に聞いてみた。

「再発行って身元証明要らないんでしたっけ?」

「要らないよ。作る時と同じで銀行で申請して、個体情報の照会さえすれば直ぐにくれるよ」

「わぁ。そうだったんですか! 其れはしらなかったな〜。ありがとうございます!」

 そう言って亮真は女将さんへ頭を下げた。

「気にしない気にしない! また食べにおいで」

 女将に見送られ、亮真は店を出ると大通りへ向かって歩き出した。
(まずは銀行だ!)


 海鳴り亭の女将さんに聞いたとおり路地を曲がり大通りに出ると、左手に貨幣の積み重なった看板と、甲冑を着た兵士の絵が描かれた看板が目に入った。
(判りやすい看板だな……絵とは)
 そう思いながら、亮真は銀行の中へは入っていった。
 7つも貨幣の詰まった袋を持ち歩くのは、正直なところ結構重い。
 特に追手が居る状況では、少しでも身軽になりたい。
 そんな訳で、亮真は冒険者ギルドに向かう前に銀行へと向かったのだった。

「いらっしゃいませ。本日はどの様なご用件でしょうか?」

 銀行の入り口をくぐり、ロビーへと入った亮真に中年の男が声を掛けてきた。
 まるで日本の銀行のような応対だ。
 上下黒のスーツにレースの付いたブラウス。首には赤いループタイを結んでいる。
(スーツ? なんでスーツなんか着てるんだ?)
 亮真にはどうもこの世界が良く判らなかった。
 中世ヨーロッパ風なのかと思えば、やけに現代風なところもある。スーツやカードなどはまさにそうだ。
(まったく違うところと、ヤケに似てるところと……えらい対象的だな……)

「あの?……お客様?」

 男は亮真の視線を感じて、ややうろたえながら聞いてきた。

「あぁすみません。こういうところ初めてで……口座の開設をお願いしたいんですけど」

 男は大きく頷き、亮真を先導した。

「こちらの受付になります。お客様」

「ありがとうございます」

「口座開設のお客様です。後は、お願いしますね」

 そう受付の女性へ言い残し、て男はその場を離れた。

「いらっしゃいませ。口座開設でございますね?」

 赤いリボンに紺のジャケット。制服に身を包んだ女性がカウンターのに座って居た。
 極普通の受付嬢だ。
 本来ならば驚きに値しない……此処が異世界でさえ無ければ。 

「はい。初めてなので良くわかりませんが、よろしくお願いします」

 亮真の良いところは判らない事を素直に聞けるところだ。
 下手に知ったかぶりをするより、ずっと安全なのだ。

「かしこまりました。恐れ入りますがお名前のご記入をお願いいたします」

 そう言うと彼女は、羊皮紙とペンを差し出した。
(なんで羊皮紙なんだ? )
 亮真は湧き上がる疑問を押し殺して、ペンと羊皮紙を受け取る。

 お名前=御子柴 亮真
 ご年齢=16

 記入欄は名前と年齢だけ、後は住所欄も何も無い。
 特に意識せず自分の名前と年齢を記入し、受付の女性に戻した後、亮真はあることに気が付いた。
(あれ? 文字って……日本語だったよな? 文字は共通なのか?)
 だが、受付の女性はまったく気にせず作業を行う。
 少なくとも、日本語は通じるらしい。

「お名前は御子柴亮真様。年齢は1……6歳。記入に間違いはございませんか?」

 受付嬢の視線が亮真の顔に刺さる。彼女には亮真が16歳には見えなかったのだろう。
 彼女は不審そうに亮真の顔を見えげた。

「ええ。見えませんか?」

 大抵、自分の年齢を相手に言えば驚かれることが判っているので腹も立たない。
(どうせ俺は老け顔さ……)

「それとも16歳だと口座が作れなかったりします?」

 亮真の問いに彼女が首を振る。

「いいえ。年齢は何も問題ございません。その……お客様があまりにも落ち着きの有る方なので、年齢を見てビックリしてしまって。大変失礼いたしました。」

「ああ。良いんですよ。慣れてますから。なら口座の開設をお願いします」

「かしこまりました。カードを作成いたしますので少々お待ちください」

 そう言うと彼女は、名刺程の大きさの紙になにやら記入を始めた。
 その後、その紙を透明な板では挟む。
(ラミネート加工か??)
 どうにも文化水準が高いんだか低いんだか判らない世界だ。

「おまたせいたしました。ではこちらの球に手を置いてください」

 カードをガラス球の台座に開いた投入口に入れ、亮真の方へ押しやった。

「こうですか?」

 亮真がガラス球に手を置くと球が瞬き出す。

「はい。結構です。これでこのカードには御子柴様の固体情報が登録されました。今後カードを紛失された際には最寄の銀行に御出でくだされば再度お作りいたします」

 そういうと、彼女はカードを亮真に差し出した。

「もう。終わりですか?」

「はい。口座の開設は以上になります。他に何か御用はございますか?」

「じゃぁ。この口座に預金をしたいのですが」

「ご入金ですね。ありがとうございます。ではこちらにお預けになる貨幣と口座カードを入れてください」

 そういうと、彼女はカウンターの上につり銭皿を置いた。
 亮真は貨幣の入った袋から金貨10枚銀貨20枚銅貨50枚を抜き出し、残りを全て皿に置く。

「はい、ただいま金額を確認いたします。少々お待ちください」

 そういうと彼女は袋から全ての貨幣を出し、10枚ずつ重ねだす。
(金額の確認は手作用なのかよ……)
 カードが存在するくせに、自動で金額を確認するような機械は存在しないらしい。
 亮真の嘆きを余所に彼女は貨幣の山を作り続けた。

 ざっと20分は待たされただろう。
 3回の金額確認の後に彼女は言った。

「大変お待たせいたしました。金貨23枚銀貨58枚銅貨731枚ですので合計で236531バーツのお預けになります。金額に間違いはございませんでしょうか?」

(海鳴り亭で食べたランチが25バーツだろ? とりあえず結構な額だな)
 しばらくは食事代にも宿代にも困らなくて済みそうだ。

「ええ。お願いします」

「かしこまりました。それでは236531バーツ。確かにお預かりいたします」

 そういって彼女はカードをつり銭皿の上に置き、亮真に頭を下げたのだった。


 当座の生活費は有るが、働かなくては生きていけない事に変わりは無い。
 亮真は銀行を出て隣のギルドへと入っていった。
 扉の向こうにはいくつかのカウンターがあり、受付嬢が座っている。
 亮真は空いているカウンターの一つに腰掛けた。

「いらっしゃいませ。本日のご用件は?」

 受付嬢が対応する。

「冒険者の登録と、仕事の紹介をお願いしたいのですが」

「かしこまりました。恐れ入りますが、銀行に口座はお持ちでしょうか?」

「これで良いですか?」

 亮真はさっき作ったばかりのカードを出す。

「はい。結構です。最近では報酬の支払いをカードで行う事になりまして、新規で登録される方には事前に口座の作成をしていただく事になってるんです」

「へ〜。そうなんですか。特に何用意しなくて良いって聞いてたから危なかったな」

「ええ。結構お持ちにならない方もいらっしゃいますね。其の時は作成した後に来て頂いております」

 そう言いながら彼女はカードをガラス球の台に開いた投入口に入れた。

「はい。では登録は終了です。御子柴さん」

「え?」

「銀行のカード情報とギルドの登録情報は共有する事が出来るんですよ。そのため銀行のカードをお持ちになってくれれば、それにギルド用の情報を読み込ませるだけで済むんです」

 そう言いながら彼女は、なにやらが紙の束を取り出して調べ始めた。

「ええっと、一緒に依頼も受けられるんですよね?」

「はい」

 亮真は頷く。

「ギルドのシステムってご存知ですか?」

 亮真は首を振った。

「じゃ〜ご説明しますね。判らない所があったら質問してください」

 そう言うと彼女は一枚の紙を亮真の前に出した。

「ギルドに登録いただいて直ぐの初期状態はLV1です。ギルドランクはシングルI、最下級になります。ランクはカードの表面に記載されます。冒険者としての身分証も兼ねるので大切にしてくださいね」

 彼女は紙の一番下に書かれたシングルIアイの欄を指差した。

「簡単に言うとLVは戦闘経験を、ギルドランクはギルドで依頼クエストを受けてどれだけ成功させたかを判りやすくしたものです。ちなみに戦闘経験というのは、どれだけ他の生物の力を取り込んだかによります。力の吸収に関してはご存知ですか?」

「ええ。他の生物を殺したときに其の力の一部が自分の物になるってことですよね?」

「そのとおりです。単純計算でLV1ですと人間の持つ平均的な力を持っており、LV10なら其の10倍の力を持っていることに成ります。冒険をする上ではあまり関係が無いのですが、傭兵を主な仕事にする場合は、この値で基本報酬が上下します。」

「なるほど〜。LV10なら10人分の給料がもらえるって事かな?」

「ま〜基本的にはそういうことです。次にギルドランクですが、これは依頼クエストを受けて成功させる毎に依頼ごとに決められた達成値クリアポイントを貯めることでランクアップしていきます。よりランクが高ければそれだけ報酬の良い依頼クエストに就けます。請け負える仕事は自分のランクと同じかそれ以下です」

 亮真は紙に書かれた注意事項に目を引かれた。

「この注意事項というのは?」

「はい。依頼クエストは一度に何個請け負ってもかまわないのですが、依頼クエストには期日があります。この期日を超えた場合は賠償金が発生し、達成値クリアポイントが下がる事になります」

「ランクが下がる事もあるってことかな?」

「そのとおりです。ランクは達成値クリアポイントを100溜める毎に上がります。御子柴さんの場合ですとダブルIアイ→トリプルIアイ→シングルHエイチという順番で上がります。もし達成値クリアポイントを100貯めてダブルに成った後で依頼クエストを失敗し100を切る場合はシングルIに落ちるという事です。ただし……」

 彼女の指が今度は免責事項欄を指差す。

依頼クエストの達成条件や内容に差異や不備がある場合、請け負った者が例え其の依頼クエストを達成できなくても賠償金は発生しません。物によっては依頼者へ賠償請求をする事も出来ます。そういった場合はギルドにご連絡いただければ対処しますので」

(派遣の仕事みたいだな……)

「とりあえず以上で簡単な説明は終了です。何か疑問な点は有りますか?」

「いえ」

 亮真は首を振った。

「では、御子柴さんの初仕事をお選びしますね〜」

 彼女は再び引き出しから書類の束を取り出し、亮真の前に出した。
 紙の一番上にはシングルIアイランクと記載されていて、その下には無数の仕事が登録されていた。

「えと。御子柴さんはどういう依頼クエストをやって行きたいですか? 冒険者? 傭兵?」

「正直どっちでも……」

(ほんとに面接かなんかを受けるみたいだな……)
 亮真は高校受験の時に受けた推薦の面接を思い出した。
 自分の将来設計を訪ねられるという点では同じ事なのかもしれない。

「う〜ん。戦闘技術に自信があるなら傭兵系の仕事がいいかなぁ」

 そう言うと彼女は、幾つかの欄に赤丸をつけた。

「いま丸を付けたのが戦闘がメインな仕事ですね〜。野犬ワイルドドック討伐とか野蜂ワイルドビー討伐ですね。期間は特に無くて、終了報告時までに討伐した数×銅貨3枚ですね。達成値クリアポイントは討伐数×1になってます」

 亮真は考えていた事を聞いた。
 別の町へ行く様な仕事だ。たとえば誰かを目的地まで護衛するとか、物を運ぶとかの。

「他の町に行くような仕事って有りますか?」

「配達系ですかね〜。護衛系はIアイランクだと無いんですよ〜〜」

 彼女は残念そうに首を横に振る。

「護衛系は依頼人の命に直接係るので、一定水準の能力を持つと認定された人間しか受けられないんですよ。ランクでいえばcランク以上ですね」

「じゃ〜其の配達系って奴で、出来れば国外に出るのなんて有りますか?」

「う〜ん……Iアイランクで長距離の配達は無理ですねぇ。せいぜい隣町への配達ぐらいしか受けれません」

 ゲームと違って、さまざまな制限が有るようだ。
 亮真の目に彼女の後ろの壁に貼り付けられた地図が見えた。

「ちなみに、其の隣町で探せば其の先へ行く依頼とかありますかね?」

「タブン、あると思いますよ? 配達系なら」

「あの、申し訳ないんですけど地図ってお借りできますか?」

 受付嬢は怪訝な顔をしたが、引き出しから折り畳んだ地図を出し、カウンターの上に広げてくれた。

「え〜〜と。オルトメアってどの辺りでしょ?」

「此処が帝都オルトメアですね」

 彼女の指が地図に中央部と南部の境界辺りにある大きな点を指し示す。太く黒い文字で帝都オルトメアと記載されている。
 しかもよく見れば、太く赤い線が中央部と西部の一部を囲っている。
 おそらくこの赤い太線がオルトメア帝国の領土をあらわしているのだろう。かなり広い。
(ガルイーク。メルフェレン。ギルダス。オイート……向かうとしたらこの四つの中から……だな)
 亮真の眼が、4つの町へと吸いつけられた。どれも、帝都の近郊に存在する町だ。

「メルフェレンへ行く配達の仕事ってありますか?」

 亮真の問いに、受付嬢が書類の束に目を走らせた。

「ちょっと待ってくださいね……え〜と。これはランクが足りないし……こっちは請負人が決まってるのか……う~ん……あ! ありますね! 手紙の配達です。報酬は銅貨30枚。達成値クリアポイントは5になります」
 
 新人で有る亮真が請け負える仕事は余りないのだろう。まして、届け先の町を指定したのだ。そう都合よく仕事が舞い込んでいるとは限らないし、既に、請け負う人間が決まっている場合も考えられた。
 だが、亮真は運が良かったのだろう。
 書類の束を隅々まで探した受付嬢は、渾身の笑みを浮かべて亮真へ視線を向けた。

「それをお願いします」

 亮真は直ぐにその依頼クエストを受ける。
 こういった場合、ものをいうのは決断力。迷っている暇などなかった。

「はい。ではこれを受けると」

 彼女はガラス球の置かれた台につながれたガラス板になにやら書き込む。するとガラス球が瞬いた。

「はい。終了です。達成期限は3日以内です。メルフェレンのギルドに手紙を届けていただいた段階で終了となります。他に何か依頼クエストを受けますか?」

「じゃぁ、さっきの討伐系の依頼で受けられるのをを全てお願いします」

「はい。では野犬ワイルドドック討伐と野蜂ワイルドビー討伐、それに野兎ワイルドラビットの討伐ですね。こちらは期限がありませんので、ある程度のところでギルドに報告してください」

「判りました」

「あ〜そうだ。言い遅れましたが依頼クエストの報告は特定の指定が無い場合、どこのギルドで行っていただいても結構です。では、がんばってくださいね」

 受付嬢は満面の笑みを浮かべて亮真を励ますと、頭を下げた。

「はい。ありがとうございました」

 軽く頭を下げて亮真はギルドを後にする。


 亮真が依頼クエストを受けたのには理由がある。
 彼は帝国から追われる身だ。少しでも早く国外へ出たい。
 だが問題がある。
 追っ手が掛かっている事を考えると、町の移動にも危険が付きまとう。だからこそ何か理由が欲しかったのだ。
 街道を歩く理由が。
 其の点、手紙の配達という仕事は絶好の隠れ蓑だ。
 そして東に位置するメルフェレンへ向かう依頼クエストを選んだのにも理由がある。
 ギルドで見た地図によれば、帝都は領土の南東に寄った部分にあった。つまり北と西は帝都から国境までかなりの日数が掛かる事になる。
 帝都から一番近いのは南の国境だが、追っ手の指揮官がキレ者だった場合、予測される危険性がある。
 色々考え合わせ、東の国境を目指すのが一番安全だと判断したわけだ。
 もちろんこの判断が正しいかどうかは、行って見なければ判らないのだが……
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