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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第一章

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第七話 子供の決闘

 この世界の騎士や冒険者という連中は、『腕試し』と称して公衆の面前で決闘を行う。
 江戸時代の『仇討ち』とか『果たし合い』みたいに殺伐としてはいない。
 あくまで『腕試し』だ。真剣や攻撃魔術を駆使してガチでやりあうのも珍しくはない。
 この世界は治癒術も発達しているから、大抵の怪我は治ってしまう。
 闇討ちはさすがにご法度だが、決闘なら恨みっこなしという不文律があるのだ。

 一言で言うと、アレだ。
「おい、デュエルしろよ」
 というカードゲーム的なノリである。
 火事とケンカが江戸の華なら、爆裂魔法と決闘騒ぎがゼフィランサスの華なんだろうさ。やれやれだ。

 石畳の広場には人が集まっていた。
 大道芸人ですら、何が始まるのかと手を止めていた。
 この人垣が戦いのリングである。

「一人は少年剣士、もう一人は美少女武道家!!ふたりとも15歳になる前に冒険者になろうっていう本格派だ!!さぁ、さぁ賭けた賭けた!!!」
「うぉおお、可愛い娘じゃねぇか!!」
「坊やー、がんばってー!!!」

 子供同士のケンカということで、皆お気楽なもんだ。
 あっという間に暇人たちの余興にされてしまった。
 迷惑な話である。

 俺は12歳の金髪美少女と決闘することになった。俺には決闘する理由など、鼻くそほどもなかったのだがアレックとかいう脳筋が話をややこしくしやがったのだ。
 まぁ、一応、魔道も使えるし鍛えてるから同世代の子には負けないと思うんだが、万一俺が負けた場合、今年の冒険者受験は見送らないといけない。
 …………いや、そんなことはないな。
 最初は「推薦枠を寄越せ」という話だったが、よく考えたら、俺はそんなことは承諾していない。約束をしたのはあの男だ。
 俺はアレックとかいう酔っぱらいに視線を向ける。
 いつの間にか、敵側のセコンドについていた。
 お前、立会人じゃなかったのかよ。
 ま、酔っぱらいに何言っても無駄だろうが…。

「油断すんなよ?ボコボコにしちまえぇ!!」
「ええ、そのつもり。それより、約束を忘れるんじゃないわよ!」
「わあってるよい!!ヒック…」

 やれやれ、好戦的なこって………。
 俺のセコンドは吟遊詩人レオナルドだ。

「なんで煽ったんです?あなたまで…」
「いやね………彼女…あのまま冒険者になっても大怪我をするんじゃないかと思って…」

 レオナルドは、今度は聞こえないように耳打ちしてきた。

「君がちょっとお灸を据えてやればいいじゃないか? お互いのためだよ……」
「僕が負ける可能性は考えなかったんですか?」
「うん」

 言い切りやがった。

「僕は決闘したこと無い歴、イコール年齢なんですが?」
「大丈夫じゃないのかい? 負けたって君に失うものはないだろう」

 まぁ、そりゃたしかにな。
 俺には負けても失うものなど何もない。勝って得るものもないが。
 負けてもあのアレックとかいう奴の溜飲が下がるだけ、という不毛な決闘である。

 ……というか、あのオッサンは心底アホだな。
 彼女が勝った場合、苦労するのはアレックだろう。簡単に口約束してたが、彼はものすごい労力を支払うことになるはずである。
 まず、奴はCランク冒険者だから、自分であの金髪を推薦することはできない。Bランクであるという『お友達』に事情を説明し、おそらく頭を下げて見ず知らずの少女を推薦する公式文書を書いてもらわねばならないだろう。
 パソコンのある現代日本ですら、お役所に提出する公式文書というものは非常にめんどくさいものだ。そのBランクのお友達がまともな人なら、すっごく怒ると思う。
 むしろ、拒否する可能性の方が高い。推薦人には、それなりの責任が発生するのだ。実力や判断能力が伴ってないやつを推薦すれば、冒険者としても信用問題になる。日頃面倒を見て人となりを知ってる弟子や後輩でもないかぎり、推薦状なんて書けるわけがないのだ。
 ま、考えてないんだろうけどな……。

 そんな泥船に乗りこんだ金髪少女はやる気まんまんらしい。深緑色のボロボロの外套を脱ぎ捨てると、少林拳の道着ノースリーブのような動きやすい格好になった。
 屈伸、伸脚、体捻転のストレッチを結構入念に行っている。体育会系だな。
 そういや、この子名前なんてんだ?

「あ…あの、お姉さん。お名前は?」
「……………ぬ?」

 ぬ、じゃねえーだろ。

「…名前なんて言うんですか?」
「………リナリ…………リナよ」
「リナリナ?」

 波紋法の女先生みたいな名前だな。

「だから、『リナ』って言ってるでしょ。アンタは?」
「タクミです」

 俺も家名を名乗るとややこしいことになりそうなので、ファーストネームだけにした。向こうもフルネームを名乗らないなら、俺が名乗る必要はないよな?
 とはいえ、確認しておかねばならんことはある。

「あの、ルール確認しますけど、武器使用は?」
「私は使わない。アンタは使っていいわよ…これ、ハンデね」

 金髪少女こと、リナは徒手空拳で戦うつもりらしい。
 軽く始めたシャドーが、なかなかサマになっている。
 ボクシングに似ているが、時折、蹴りが入る。
 コンビネーションの中に、惚れ惚れするような上段回し蹴り(ハイキック)を交えると、ギャラリーから感嘆の声が漏れた。 
 若干12歳で冒険者になろうというだけあって、かなり訓練はしているらしい。

「じゃ、魔道は?」
「私はバンバン使うわ。アンタも使えば?」

 アホかっ!
 会話になってない。ハンデになってない。
 既に言葉のドッジボールと化しているが、彼女はそれを理解していないらしい。
 それがさも当然のような顔をしている。

 この世界には『魔法』と『魔術』が存在する。
 『魔法』とは自らの魔力を使って、超常現象を起こす方法。だから『魔法』。『魔力』という才能がなければ使えない一種の超能力。主に青き血を引く貴族の生業である。
 一方、『魔術』は自分の外にあるエネルギーを利用するため、魔力のない平民にも使用可能だ。ただし、道具が必要だったり、術式に対する正しい知識や経験も必要となる。火薬を使うようなもんだな。よって魔術も徒弟制度の元、門外不出となっていることが多く、独学で身につくような代物ではない。
 つまり、どちらも縁の無いやつは一生使えないということだ。
 身体強化に、飛び道具、動体視力の向上、などなど。生身の平民が魔道使いの騎士や冒険者に容易にして勝てないのも道理というものだろう。魔道が使えるやつは、いくら弱くても三國無双の初期パラメータ位あると考えていい。
 ぶっちゃけ、さっきの会話は「君は剣を使っていいわ。ハンデよ。あ、私は剣は使わないけど、銃を使うわね」…という喜劇的なやり取りに近いのだ。
 魔法も魔術も、使える者と使えぬ者の差は、ハンデというレベルじゃなく『理不尽』である。
 自分が使えるからみんな使えるだろ、とか思ってんじゃねぇか? コイツ。

「よし! いいわよ!」

 俺の方を向き直ってリナは覚悟完了したようだ。
 俺も女相手に表道具(カタナ)は使うまい。
 まぁいい。一応、俺も魔術使えるし。
 こいつ使うそうだが、それはどの程度だろう……
 まぁいいや、なんとかなるだろ。 
 俺も向き直り、徒手空拳のまま歩み寄った。

 …………ん?
 ちょっと待て、コイツ確か、いまなんつった?

(バンバン使う?)

 なん…………だと…………?

「それじゃあ!!はじめぇぇ!!」

 アレックの大声が木霊した。
 だから、なんでお前が仕切るんだ?
 俺がちょっとイラっとした瞬間だった。

 リナは開始の合図と同時に、一足飛びにこちらの懐に踏み込んできた。
 彼女の方は俺と違って、不満も逡巡もないらしい。
 俺は半身になりながら、牽制のため左拳を突き出す。
 女の子の顔なんて殴りたくないから、ギリギリ届かない距離に、……と思ったのだが、コイツは俺の左などまったく意に介さずに突っ込んでくる。
 牽制とか考えてないらしい。
 左ジャブをかいくぐり、ガードを下げた状態から、アッパー気味の左右のフックを放ってくる。
 いかん、コイツ。早い。
 俺はスウェーで左をいなし、返す刀の右をふり払った。
 振り払うと同時にカウンターの狙う。照準は彼女の顎、女の子を殴るのは気が引けるが、青あざを作るようなことはしたくない。この右の掌底を叩き込めばノックアウトだ。
 しかし、彼女もそれは想定内だったらしい。
 恐らく首を魔力で強化したのだろう。捉えたはずの顎はびくともしなかった。
 その瞬間、リナの左足に、決して強くはないがとてつもない早さで魔力が集約する。

(魔法!! しかも、足で!!)

 属性は『炎』。炎を纏った左の蹴り!
 蹴上げ、いや、膝のスナップが効いてるから横蹴りか。
 こいつ、魔力の速射能力が半端ない。しかも、足で魔法!?
 ありえん! サルかこいつは。
 しかも殺すつもりの技だろこれ。
 『炎』なんて子供のケンカで8歳児相手に使うような魔法ではない。
 顔にくらえば一生モノの火傷、目にくらえば失明の恐れすらあるというのに、とことんキチ◯イかっ!!

 魔法は発動してしまうと予期しない動きをする。
 接近戦では要注意だ。発動を潰すしかない。
 俺は咄嗟に踏み込み、蹴り足が加速する前に彼女の膝に足を乗せ、体重をかけた。

 普通の蹴りならここで止まる。
 大の大人であっても、30キロの荷物を蹴り上げられる奴なんていない。
 だが、彼女は普通じゃなかったらしい。
 潰されたはずの左横蹴りを蹴上げに切り替え、俺を乗せたまま…

「ふん!!」 

 と振りぬきやがった。俺は空中3メートルほどにまで放り出される。

(ちょ、おま…)

 足一本で俺をリフトしやがった。
 こいつは足技に『火炎』だけじゃなく、『強化』まで上乗せしてやがったのだ。 
 たぶん、クリーンヒットしてたら首から上がなくなっていただろう。
 なんてあぶねえ野郎だ。格ゲーのノリで暴力振るってやがる。

 縦回転しながら宙を舞い、無防備になった俺に、リナは追撃を仕掛けてきた。そりゃあ『強化』を使えば、3メートルの跳躍はぐらいはできる。 
 できる、理屈ではな。
 だが、ありえん。コイツのはありえんほどタメが短ぇ!! 
 つか、無ぇ!!

()った!」
()った、じゃねーよ!!」

 殺すな、ボケ!!
 斜め下から突き上げる弧を描くようなアッパー。
 というか昇〇拳(赤い胴着の方)。今度は拳に炎を纏わせている。
 何者だこの女!?
 『炎』と『強化』の二重魔法なんざ高等技能だぞ!

 いかん。
 決闘前は負けてもいいかと思ったが、コイツは殺す気マンマンだ。
 勝つしかない。

 俺は突き上げられた右腕を払うと同時に、横から掴んだ。
 その瞬間、俺も『強化』の魔法を発動させる。
 俺はリナの手首の手根骨に指を立て捻り上げた。
 人体の構造上、手首の手根骨を極められると肘関節は動かなくなる。肘関節を封じられれば、肩は動かなくなる。そして、肩が動かなければ、重心は移動できなくなる。
 こうなった相手は意のままに崩せる。

 右腕を封じられたリナは左から俺のボディーを狙う。
 脇腹や顔面をめがけて、左拳や膝を叩き込んできた。
 俺は右肘と右膝でがっちりとブロック。
 いくら強化を使っているとはいえ、重心移動や軸回転ができなきゃ、キックもパンチも怖くはない。
 俺は、おもいっきり掴んだ右手に魔力を込めた。
 強化の魔力で指先に万力のような力を込める。

「くっ!!」

 この打ち合いで、彼女も俺のレベルを知ったのだろう。
 そして、右手首を極められている今の体勢が拙いことを理解したらしい。
 苦し紛れに左拳に魔力を込め、『炎』を発動させた。
 なるほど、この『ベル◯ンの赤い雨』みたいな技がコイツの必殺技か。
 さすがにこれはガードできん。
 てか、必殺技って『必ず殺す技』だからな。格ゲー感覚で使われると困る。キン◯マンごっこはいい歳したプロレスラーだって嗜むが、リアルでやられると人が死ぬわっ!!

 『ベル赤』が俺の体に届く前に、俺は空中で死に体となったリナの鳩尾に、右拳を打ち込んだ。
 さらにインパクトの瞬間から彼女の全身に行き渡るように『魔力波』を放つ。
 属性は『水』一択。対属性の魔力は互いに反発する。
 つまり、これは触れた相手の魔力の流れを妨害、魔術をジャミングする力技だ。
 体幹に叩きこまなければならないので、アウトレンジから撃ちあう魔道士にはあまり意味ないけどな。

 右拳に込められた『ベル赤』は熱波とともに霧散した。

「か……はっ!」

 彼女の呼吸が止まると同時に、俺は『質量増加』の魔法を発動させた。
 数倍の体重を獲得した俺は、空中でも体格に勝る彼女を振り回すことができる。
 俺は右手首を捻り上げ、自分の体幹を軸に、懐に潜り込む。『一本背負い』の体勢だ。

 そのまま、巻き込んで地面に叩きつけたら、さすがに殺すな……
 体を戻し着地する。彼女はかなりけたたましい炸裂音とともに背中からたたきつけられたが、俺が引き手を引き上げていたため、後頭部は打ってない。

 ……受け身がとれず、足がボキリと折れる音がしたが。


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