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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第四章

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第六十一話 メイドの学校は

 ゼフィランサス七つの花弁のうち、南西の花弁は、『大学(アカデミー)』を中心とする学問の町だ。昨今どんな学問が流行ってるかは知らないが、各分野の研究は俺が作った頃よりも間違いなく進んでいることだろう。

 学校だけではなく、多くの職業訓練施設も立ち並び、外部からの留学生も多い。貴族たちの居住区であるオハラ区とも隣接しており、市街地の雰囲気はまさしく『ユニバーシティ』である。
 居住区の街並みは、公共施設らしき建物の他には、やや小さな民家や、賃貸住宅がひしめき合って立ち並んでいる。人口は一番多いかもしれない。各地から集まる学生や指導者を受け入れるため、不動産業も盛んなのだ。
 壁の中は地価が高いため、一戸建てを購入するのであれば、城郭外に、というのもありかもしれない。南西の門の先に作られた新市街は、いわゆる外稜堡になっており、門は深夜も閉じられることはない。

 街の象徴は、シオン・アトライアという六勇者の紅一点。この街では、最早『女神様』として扱われている。

 説明会が終わった後、俺は、そんな学問街の一角にのとある屋敷の裏手にいた。
 貴族が住んでいてもおかしくない四階建てのカントリー・ハウスだ。サンタクロースへの嫌がらせかというほど屋根の上に煙突が並んでおり、それだけたくさんの部屋があるということだろう。
 守衛さんに挨拶して、裏口から本館の中に入ると……

「「「お帰りなさいませ、ご主人様!」」」

 エントランスに、二十人余りのメイドさんが整然と並び、恭しく頭を垂れていた。
 もちろん、俺に対してではない。『ご主人様』なら堂々と表側から入るだろう。
 俺は、裏口から入った。
 彼等のお辞儀の方角には誰もいない。エアーご主人様である。

「目の輝き不十分!! まごころ不十分!!
 めんどくさいなぁなどと思っていませんか? なりません!
 どうでもいいだろうなどと思っていませんか? なりません!
 お屋敷で働くことを至福であると思わなければ、メイドになる価値はありません!
 はい、もう一度!」
「「「お帰りなさいませ、ご主人様!」」」

 中年のベテランメイドが、教鞭を片手に、新兵を叱咤する鬼軍曹のごとく、若いメイドたちの前を通りながらきびきびと説教を続けていた。
 このカントリーハウスは民家ではない。大商人や貴族に仕える一流のメイドや執事、庭師、料理人などを養成するための学校なのである。

 『ゼフィーラ家政科学校』

 理事長が爺さんの知り合いで、ファルカ家の仮住まいとして一室を借りているわけだ。

「いいですか? あなたがたはメイドなのです!! メイドはたとえ日々の労働がつらかったとしても、『ご主人様』に対してそれを顔に出してはなりません。メイドたるもの、労働に対する喜びを常にその笑顔で表現していなければならないのです!
 はい。もう一度!!」
「「お帰りなさいませ、ご主人様!」」
「メイドとは、主人の手足となって家中を守る神聖なお仕事なのです!
 ご主人様の命令にNOはありません!
 この世界の貴族は戦人、有事においてはメイドは看護兵としての役割も担うのです!!
 自分が兵士であるという自覚をお持ちなさい!
 第七天子様がなんのためにあなた方に学ぶ機会をお与えくださったのか、それをよく考えなさい!!」

 ……えーと、先生?
 第七天子はそんな目的でこの学校を作ってはおりませんが?
 動機はもっと邪なものです。ハイ。

 この学校では、接客やハウスキーピングの本格的な実践訓練のため、あえて貴族のお屋敷に近い校舎になっているらしい。近隣の若者たちの職業訓練施設というだけではなく、同盟外の貴族たちから領民を預かって訓練してもいるという。
 この都市の若者たちは技術の習得には貪欲だ。
 メイドになる以上、助産師やホームヘルパーという職能をも身に着けようとするらしい。申し訳ないくらいの万能職業なんだな、メイドって。
 たしかに、頼りがいがあるっちゃあるけどな。

 教官は、涙目になってる女の子にも、仁王立ちになって厳しく教導する。

「もう一度! 辛いと思うなら、メイドなんてやめておしまいなさい!!」
「お……お帰りなさいませ、ご主人様! ぐす…」

 まさに、団体行動。士気が低ければ連帯責任。呪いたくなるほどの反復訓練。それでも上官の命令にNOはない。個性なんぞ主張しても得るものはなく、ただ集団の一人に徹するための洗礼である。

 ………邪魔しちゃ悪い。
 そう思って、俺はそそくさ脇を通りすぎようとしたのだが、中年の教官メイドは俺に気づくと、朗らかな笑みで迎えてくれた。
 ……ええい。気づかれたか。

「まぁ、お帰りなさいませ。若様」
「先生。若様はやめてください。そんな上流階級でもないですし、僕が皆さんを雇ってるわけでもないので……」
「剣聖様の御養子でしたら、『若様』でございます」

 さ、さいですか……

「まぁ、ここにいる者達の訓練だとおもってお付き合いください。さぁ、みなさん」
「「「お帰りなさいませ、若様!」」」

 萌え萌えきゅん❤
 ……なんて、悪ふざけは一切介入しない本格(ガチ)メイド軍団による一斉お辞儀である。
 俺のポリシーに従えば、メイドとは愛でるものだ。兵隊ではない。
 だが、こんな連中に囲まれて過ごしていたら、貴族としての貫禄も身につくかもしれない。
 多少後ろ足に重心を置く俺を見て、「おいおい、この程度でびびるようなら、人の上に立つ資格はないぜ?」と鼻で笑うようなドヤ顔を浮かべる教官メイドに、俺は尋ねた。

「………それで、あの、養父はどちらに?」
「お庭でございます」
「どうも」

 「ご案内を」と提案される前に俺は足早にその場を立ち去った。角を曲がって、視界から消えたら猛ダッシュした。
 そして、言われた通りにお庭にでると……いました。お爺ちゃん。
 庭師が拵えたのだろう日差し避けの付いた一角。
 揺り椅子に腰かけて、無職転生(50代)のプー太郎とともに花咲く庭を眺めていた。

 まず、プー太郎が気づく。しばらく遅れて爺さんが気づいた。

「じーさーん、ただいま~」
「お……お……おかえりなしゃ……」

 そして、よろよろと立ち上がり、感極まったように抱き付てきた。

「おお……おかえり……なしゃ…お…お…えり……なしゃい…い…ぐす……おお……」

 仕舞いには泣き出してしまった。
 あきらかに情緒不安定だ。
 バーサーカー化の後遺症か、はたまた俺がおもっくそ殴ってしまったせいか、あれ以来爺さんの頭のネジは、確実に一本外れてしまったようだ。

 ぺたぺたと体をまさぐってくる爺さん。
 俺を誰と勘違いしてるのか。

 やめてお爺ちゃん。いくではございませぬ。 
 なんてこった。
 こりゃ、ボケたな。完全にボケた。
 いつか来るんじゃと思っていたが、このタイミングでか……。

 どうやら若干八歳にして、介護生活が始まるようだ。
 まぁいい。
 血や泥にまみれるより、ジジイのうんこの世話でもしてた方がましかもしれない。

「なぁ、爺さん。とりあえず座ろう……」


   *   *   *


 俺は、爺さんを再び揺り椅子に座らせ、説明会のあらましを話す。
 爺さんはただうんうん頷いているだけだった。

 爺さんこと、剣聖シュナイデル・ファルカはいま、このゼフィーラ家政科学校に特別ゲストとして居候している。『アマルダ旅籠』が営業停止になったこともあって、滞在先をここに移したのだ。
 爺さんが高齢ではないのなら、どこかの一戸建てを賃貸すればよいのだが、病み上がりなので一人にさせるのはまずい。経過観察が必要だ。
 ……てか、元日本人の俺からすれば、普通に治療院に入院させた方が良くないかと思ったのだが。

「あんなことがありましたからね。怪我人の経過観察もしなければいけませんし。我々、治療院も忙しいんですよ。どうか、ご理解ご協力をお願いします」

 …と、診療の先生にやんわりお断りされた。
 要するに「痴呆老人の世話くらい、人を雇うか、自分でやれ」ということらしい。

 まぁ、もっともかもしれない。
 都市の病院(治療院)はけが人や病気を直すための施設であって、老人を介護するところではない。年寄がぼけるのは自然の摂理。医者が見るようなことではない。
 そもそもこの世界では核家族化が進んでいないし、親の面倒を見るのは子の役目。それができなきゃ姥捨て山。……というのが社会通念だったりする。

 となると、ミリィ姉さんたちに迷惑を掛けるのもよくない。
 雑務の殆どをトライス先生にぶん投げたとはいえ、ミッションのことで女将さんも忙しいしな。

「わ……若様!!」

 ふと、背後から震えた声をかけられる。
 ふりかえると、先ほど鬼軍曹に「両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない」などといびられ、涙目になっていた十代前半のメイドさんがそこにいた。
 まだ泣きはらした顔が治ってない。
 ここで「若様はやめてください」などと強行に反論するのは不憫だな。俺までいじめているみたいだ。

「お、お客様です!」
「あ、はい。分かりました」

 俺は素直に、彼女の案内の後を着いていった。

 *  *  *

「参加する冒険者は現時点では5489名。
 その指揮を執る委員会のメンバーは12名。
 まずはミッション・リーダーである『委員長』。これか行う第一回、ミッションリーダー選挙で選出する。そのリーダーが5名を推薦し、委員として任命する。
 さらに、冒険者たちがリーダー以外の委員を5名選挙で選ぶ。
 もう一名は、依頼者の『代理人』であるタクミ・ファルカ。
 平委員を解任するには、ミッション参加者の3分の1。
 リーダーを解任するには、委員の過半数の同意か、ミッション参加者の過半数の署名を必要とする。
 なお、リーダー解任の際は、再選挙まで指揮官を代理人が指名する……ですか、なるほど」

 ゼフィーラ家政科学校には、和風庭園もあり、お座敷もある。
 俺は、枯山水の庭に臨むお座敷で、客を出迎えていた。
  今はその客が持ってきた書類に目を通しているところだ。

「うん、いいんじゃないですかねー」

 俺も含めて偶数というのがいい。
 もしミッションの最中、委員の意見が5:5で割れた時は、リーダーに決定権がある。基本はこの11人の採決で話が進んでいくということだ。
 ちなみに、『代理人』は、委員の半数の同意があれば解任できる。
 つまり、自分の手下である推薦組の票も集めれば、リーダーの一存で解任できるということである。
 実にいい。
 まぁ、俺は「良きに計らえ」表示を変更する気はないのだが。

「あと、各地にいる冒険者やすでに動き出してるクランもあると思いますので、選挙の際は不在者投票もできるようにしとくと、不平不満も抑えられる思います」

 書類を斜め読みし、相手の顔を覗き込む。
 対面に座るのは若い女性だった。
 薄い唇に濃ゆい眉毛がキリッと凛々しく、すっぴんでもべっぴんである。袴姿二本差し、しかも、ポニーテール。体育会系の美人さんだ。

 サクラ・ブランシェッド

 これで金剛流支部道場の師範代っていうんだから、すごい人材もいたもんだ。きわどいコースを攻めるかのような陵守の巫女頭とは違い、こちらは純和風の正統派女武道だな。

「それから、サクラ先生」

 一見普通の女の子なのだが、師範代だし。一応『先生』と呼んでおこうか。
 また門弟のみなさんに睨まれたくないしな。

「はい」
「リーダーや委員はともかく、作戦に直接関わらない『代理人』、つまり、僕には任期を設けていただきたいのですが……」
「任期……ですか?」
「とりあえず僕の任期は最長で3ヶ月というのは、どうでしょうか?
 後任者が見つかるのなら、もっと短くてもいいんですが……」

 是非そうしてもらいたい。
 ロゼッタは、税金や市民からの寄付金を投入すると行ってたからな。数ヶ月以内にターゲットを見つけないと、どうせまたオジサン達の利権になるだけだろう。
 まぁ、そういうバラマキ政策でも経済が潤ったりするので一概に悪ともいえないのだが、俺自身は係ろうとは思わん。
 しかし、サクラ師範代は憮然とした顔で問うた。

「………もしかして、やる気、ないんですか?」

 ここで「ねーよ」と、本音を口にしてしまうほど、俺は愚かではない。

「やる気が無いなら、テロ事件からわずか3日でここまで働いたりはしません。
 というか、8歳の僕がここまでやってるのに、大人たちは何をしているのかと逆にお尋ねしたいのですが?」

 彼女は心なしか非難の視線を向けてくる。

「僭越ながら、そういうことは思っていても言わないほうがいいと思いますが?」

 逆だな、思ってないから口にしているんだよ。
 まぁ、サクラ師範代に不愉快に思われるのもしかたないか。
 武道家の世界っていうのは、上下関係がしんどいらしい。若輩者が生意気な口を叩くことは、絶対に許されないんだろうな、きっと。

「うーん。やはり、顰蹙を買いますかねー。
 まぁ、サクラ先生が今のセリフを吹聴して回るような人だったら、僕に人を見る目が無かったということですねー。
 そのときは、僕も世の人の反感を甘んじて受けるべきでしょうか?」

 きりっとした濃い眉毛が、一瞬、ぴくりと吊り上がり、

「………………まるで、他人ごとだな」

 不満を露わにするかのごとく、突然ぶっきらぼうな口調になった。
 これが本来の口調なのかもしれない。まぁ、ぶっちゃけトークを始めたのは俺からなのだが。
 俺は構わず持論を述べる。

「今大事なことは、『聖剣奪還』という本来の目標にちゃんと向かってるかどうかです。
 そりゃあ、僕一人が頑張って、聖剣が戻ってくるのなら頑張りますがね?
 結局、聖剣を取り戻すためには大勢の協力が必要なんです。
 なら、焦っていたって仕方がない。僕の仕事は、この作戦に参加する冒険者が動きやすくする環境を一つ一つ整えていくことです。焦ってオタオタすることではありません。
 それに作戦がうまくいかないときは、どれだけ頑張っても、どーせ不平不満は出てきます。そんな批判にいちいちビクビクしてもしかたないでしょう?」
「む?」
「周囲の人達が、僕にやる気を感じるかどうかは問題ではありません。
 そもそもいい年した大人が、僕みたいなガキ一人に、モチベーションを左右されないで欲しいんですけどね~。
 僕が頑張ってみせなきゃ、他の人は頑張らないんですか?」

 そういうとサクラは、声には出さなかったが「むむむ」と唸るような表情をした。
 相手の発言に一理を認めた時の表情だ。

「……たしかに、君の言うとおりだ。
 目標を成し遂げることこそがなにより重要だと思います」

 目を伏せるように礼を取る。
 俺は口八丁だったのだが、意外と素直な人なんだな。

「理由は、『面倒くさいから』じゃないんですよ。
 もしこの計画が5年、10年とかかるようなら、依頼人が養父から『都市』に変わります。そうなれば僕は代理人としてはふさわしくありません。僕は子供ですから数年で生活環境はガラリと変わってしまうでしょうし、あまりこの仕事に居座り続けるというのもね」
「なるほど………こちらの考えが及びませんでした。持ち帰って師に伝えます」
「よろしくお願いします」

 サクラはペコリと頭をさげ、書類を片付けた。

「ところで、サクラ先生もやっぱり、目指してらっしゃるのですか? 『二代目』を……」
「なぜそんなことを尋ねるんです?」
「いえ、今回トライス道場の皆さんには並々ならぬ決意みたいなものを感じましたので…」

 金剛流の大先生が、杖ついてやってくるからな。
 サクラ・ブランシェッド師範代は、目を伏せたのち、徐ろに口を開いた。

「………ええ、剣聖になることは、私の目標です。
 もちろん、私などまだ未熟者で、一門には私より強い剣士は大勢います。今の私の実力は剣聖の域にとても届きませんが、今はとにかく、一つ一つ目標を越えて行くのみです。
 剣士であるからには、至強を目指すのは当然。それが金剛流の本来の教えでもありますので」

 なるほど、立派だ。サクラは同門の中でも結構強い方なのだろう。
 外見はミリィより2、3歳年上のような気がする。
 この若さで師範代ならば、伸びしろはまだまだある。

「訓練を続け行けば、二代剣聖は無理でも三代目にはなれるかもしれません。あるいは、後世になって『誰それがいなければ、剣聖だった』と表される剣士になれるかも。そう思って精進しています。
 ……それとも、私ごときの腕前で、「剣聖を目指している」などとは、おかしいでしょうか?」
「いえ。可笑しくありません。目標を持ってる人はとてもカッコイイと思います。目の輝きが違うというか、オーラが違うというか」

 俺がそう褒めると、少し、歳相応の女の子の顔で照れ笑いをしていた。

「先生にとって、今の目の前にある目標っていうのは何なんです?」
「私の師であり、スカサハ殿から一本取ることです」
「お強いんですか?」
「ええ、金剛流四天王の筆頭、次代の剣聖候補の一人だと思います。
 トライス師範は、達人ですし、素晴らしい人格者ではありますが、御年ですので剣の方は一線から退いております」

 四天王とかいるのか。
 果し合いの前にわざわざ回復してくるナマ足魅惑ジェントルメンだったりするのかもしれない。
 そうと思うと、胸が熱くなるな。

「なるほど…
 今回は聖剣の奪還作戦に、トライス道場がこれほどご尽力くださっているのは、門下に二代剣聖になれる見込みのある人がいるからなんですね」
「別の目的もありますよ」
「その別の目的とは?」

 俺が尋ねると、サクラはすこし沈黙した後、真剣な眼差しで、宣言した。

「今回の賊の一人、『翁の仮面の男』を討つことです!」
「――ブふぅッ!!」

 思わず、お茶吹いた。

「どうしたんです?」
「い、いえ……、予想外に殺伐とした目標でしたので。
 失礼、……続けてください」
「此度の襲撃事件では、たったひとりの賊に、本部道場の高弟5人と師範のトライス自身が倒されました。
 幸いみな一命はとりとめましたが、これを放置しておけば金剛流の名声は失墜します」

 なるほど、至極もっともな理由だ。
 師範や師範代クラスの手練が全滅したとか、名声ガタ落ちである。冒険者やその志望者に剣術を教えることで生計を立ててる剣術道場にとっては、死活問題かもしれない。
 だから、あのトライス先生も老体に鞭打って、ミッションに参加してたわけだ。

 なんか、すいません。

「『翁』はその後、軍警の包囲網を突破し、どこかに逃げおおせたと……」

 それ、たぶんアマルダたちの偽装工作な。
 実際は軍警も最初からグルだったわけだから、包囲網なんて有って無き物だったと思う。

「太刀を受けた師範、自らが申しておりました。
 まるで一瞬、太刀と腕が増えたかのようにも見えた。
 あれほどの剣士はこの大陸に三人といないだろう……、と」

 実際、腕増えてるんですけどね。
 『八臂明王剣』とかいう厨二技の効果で。

「聖剣の探索に、我々がこれほどの覚悟を抱くのは、『二代剣聖』という称号が門弟たちの彼岸だから、という理由もありますが、そればかりではありません。
 『翁』は聖剣を奪った賊の一味。聖剣を追っていけば、その『翁』と、いずれ相まみえるということです。
 その男を斬らない限り、我ら金剛流は……」 

 この状況で思い当たるエピソードを俺はひとつ知っている。

「つ、つまり、一乗寺下り松!?」
「……は?」

 あ、やべ。うっかり口走ってしまった。
 聞き憶えのないキーワードに、サクラがぽかんと口を開ける。
 俺は慌てて、言葉を紡いだ。

「あ、いえ……、遠い国の昔話です。実在の人物が元になっているそうですが、作家が脚色した部分が有名になりすぎたので、史実ではないかもしれませんが……」
「そのイチジョージ……とやらは、どういうお話なのですか?」

 サクラがどうしても話を聞きたそうなので、掻い摘んで教えてやることにした。

「えーと……
 とある剣豪に名門道場の師範が斬られたので、門弟たちが道場の名誉回復のため、徒党を組んで弔い合戦をしかける話です」
「………ええ、まさに、そのとおりです」

 それを聞くと彼女は、瞼を閉じたまま、神妙な面持ちで二回頷く。
 でも、吉岡一門って、武蔵一人に無双されちゃうんだよな。

「このままでは我が金剛流の名声は地に落ちたままなのです。
 その翁の仮面をかぶった男を、なんとしても探し出し、そして……」

 サクラは思いつめたような表情でワナワナと肩を震わせながら、脇に置いた刀の柄を握りしめ、そして、鯉口を鳴らすと共に、凄まじい殺気を込めた声を絞り出した。

「斬る!!」

 こ れ は あ か ん。

「せ、先生……落ち着いてください!」
「……ハッ! …も、申し訳ありません。つい」

 それから、サクラは畳表に両手をつき、深々と頭を下げる。

「ともかく、私は師より代理人タクミ・ファルカ殿の補佐役を仰せつかりました。これより粉骨砕身の覚悟で役目に励みます。
 何卒よろしくお願いいたします」 
「は、はい……よろしく……」

 まずい。
 今回のミッション、トライス道場が主導権握って、軍警から内部情報開示受けたら………どうなんの?
 
+注意+
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