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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第四章

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第六十話 説明会

本日、二回目の投稿です。
 テロ事件(笑)から二日後。

 政庁の重役が、なかなか顔が揃わず会議もはじめられない中、俺は早速行動を起こしていた。無能な偉い人たちの勤労意欲が湧いてしまう前に、やるべきことがあったのだ。
 ああいうやつらは、得てして『俺の仕事』を増やすからな。とにかく、俺は身に降りかかってくる業務を回避するために、全力を尽くす。

 商工ギルドの三階の会場には、座椅子が並べられ88クランの代表が一堂に会していた。座席数100人程度の手狭な講堂なので、学習塾の一斉模試なみの人口密度である。
 空調は効いているはずだが、やはり暑っ苦しい。

 壇上の袖には、俺の後見人として、B級冒険者アマルダ・ロックウェル。
 軍の代表として、ホワイトヘアー・デビル少佐(本名は失念した)。政庁の代表として、ロゼッタ・エヴァンス書記官。この講堂を手配してくれたドワーフ族の頭領。たしか名前はハンス・ガランドだっけ?
 そして、壇上には俺。本日の司会進行役である。本来なら爺さんが立つべきなのだが、あいにく体調を崩しているのでその代理だ。客席には、すし詰め状態の冒険者たち。なかには上級冒険者もいる。
 壇上にて一礼し、定刻となったので、俺は魔術仕掛けの拡声器を片手に話はじめた。

「みなさん。本日はお集まり頂きありがとうございます。
 急遽用意したため、会場が手狭になってしまいましたが、養父にかわり、心より御礼を申し上げます」

 皆の注目があつまる。
 俺が狭苦しい会場を用意したことで、やや非難の視線となっているが、もしそれを口に出したら、「なら来なけりゃいいじゃん!」と反論する準備が俺にはできている。
 まぁ、あまり引き伸ばしても申し訳ないので、手っ取り早く終わらせるとしよう。

「皆さんお聞き及びのことと存じますが、一昨日、『地獄の軍団』を名乗るテロリストによって冒険者ギルド本部が占拠されました。テロリストは逮捕され、人質は無事救助されましたが、ギルドの金庫に保管されていた自由同盟の宝物、聖剣『三日月』がなくなっていたそうです」

 実際は十年前に消えていたのだが、それは今暴露するようなことではない。

「よって、聖剣の現・担い手であるシュナイデル・ファルカは、この都市の冒険者の皆様に聖剣『三日月』の奪還を依頼いたします」

 既知の情報なので、ここまでは特にリアクションはない。大事なのはここからである。

「養父が提示する報酬は、聖剣『三日月』の所有権です」

 俺がそう告げると、会場にどよめきが起こる。

「参加資格はライセンスを有する冒険者であること、あるいは冒険者クランの構成員であることです。そして、ミッションの期限は、養父シュナイデル・ファルカが亡くなるまで……
 以上が、冒険者の皆様に依頼するミッションの概要です」

 至ってシンプルだ。誤解する奴もいないだろうが、一応、質疑は受け付けることにする。

「………ここまでで、なにかご質問は?」

 と尋ねると、早速、手が挙がった。
 メガネを掛けた中年の魔導師風のクランリーダーだ。

「冒険者クラン『ノーム・マイスター』のルーヴェンスです。お尋ねしますが………いささか、奇妙な依頼ではないですかな?」
「奇妙と、いいますと?」
「この手の捜索・回収系の依頼は、アイテムを探し、それを依頼人に渡す見返りに、金銭などの報酬を得るのが普通ですよね?」
「たしかにそのようですね」
「なのに今回はゲットしたアイテムをそのまま自分の物にしていいとおっしゃる」
「そうです」

 せっかく取り返した聖剣を持ってっていいというのだ。 
 まぁ、当然の疑問か。
 再び、会場がどよめく。

「それははたして冒険者の仕事といえるのでしょうか?」
「養父としては、盗賊の手元に『三日月』があるの許せないんだと思います。なので、一旦、自分の手元に戻ってきて、鑑定した上で、それを信用できる人に手渡せればそれでいいんじゃないかと……」

 ここで、壇上袖から挙手があった。

「補足いたします。発言をよろしいですか?」
「はい、どうぞ。エヴァンス書記官」
「当ミッションの発起人はファルカ氏ですが、これはファルカ師個人の問題ではなく、我々、自由同盟の威信に関わる問題です。
 よって、ミッションの成功報酬、および捜索の経費につきましては、政庁の方でも予算を検討しております。金額については、これから議会で慎重に議論を重ねることになりますが、難易度の高いミッションですし、S級ミッションの相場より安いものにはならないでしょう。
 また、市民にも義援金を呼びかけ、経費として充当することを考えております」

 安いものにはならない、経費も出しますというロゼッタの発言に、おおッという歓声が上がった。上級冒険者が請け負うS級の報酬というのは、ちょっと桁が違う。宝くじの賞金ぐらいだと想像してもらえばいいだろう。
 ……つか、いいのか? そんなことを言ってしまって。

「ですので……
 こういうことを口にだすのは少々憚られるのですが、『たとえファルカ師が亡くなられた』としても、政庁が依頼者となって、ミッションを継続することになります」

 理路整然とした受け答え。さすが、上級職員といったところか。
 まぁ、できるなら存命中にお願いしたい。鑑定がめんどくさいことになりそうだからな。

「………以上のようなお答えでよろしいでしょうか?」
「はい。報酬についてはそれで結構です。ただ、いまの質疑で、もう一つ疑問が浮上したので、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「経費についてです。先ほど都市の予算や義援金から充当すると言われましたが、その配分はどうやってきめるのですか? 
 冒険者全員に参加資格があるとおっしゃっていましたが、あなたがお決めになるので?」

 冒険者が請け負うミッションには主に2種類ある。『報酬型』と、『契約型』だ。
 報酬型は、成功報酬がメインとなる。たとえば、「薬草を取ってきてほしい」というミッションの場合、冒険者は、報酬を成果物と交換という形で受け取るのだ。主に初級冒険者が遂行するミッション………俺たちが行ったフラグルの森で行った山菜狩りがこれに当たる。メリットは、不特定多数の冒険者に、大々的に募集できることだ。
 一方、契約型は、予算やスケジュールを見積もり、それをクライアントに交渉し、合意した上で仕事を請負う。上級冒険者の仕事はほとんどがこの契約型である。プロジェクトが大規模になればなるほど、依頼人との折衝が必要になる。報酬型の場合、依頼する側も専門的な知識を持っていることが多い。
 たとえば依頼を受けた上級冒険者が、その目的を遂行するために、下請け冒険者クランに依頼する、などの例があげられる。その場合、仕事が円滑に進むように必要な資金や情報、ノウハウを供与したりする。いわゆるBtoBなお仕事になるわけだ。
 今回は、プロジェクトの規模から『契約型』になるわけだが、参加希望者全員と交渉している余裕はない。

「今回のミッションリーダーは、私、タクミ・ファルカとなっていますが、これはあくまで暫定です。
 このミッションは非常に大規模なものになると予想されます。しかし、見ての通り、私にはみなさんを采配する経験や実力などとてもございません。
 なので、信用と実力を兼ね備えたふさわしい方にお任せしようと思っています。予算や人員配備、計画立案などのマネージメントも。
 私はあくまで、そこで決まったことを依頼人である養父への連絡する役を果たせればと……」

 そう、俺のやるべきことは無能な怠け者に徹することなのだ。
 偉い人があれこれ役目を押し付けてくる前に、権限を委譲してしまいたい。

「ならば、予算や人員についてはリーダーを引き継いだ方が決めるということですね?」
「はい。そうです。
 個人的には、『一クランで全部』をということは、たぶんできないと思いますので、希望者を募って委員会を結成するべきではないかと思いっています」
「しかし、合議制にしてしまうと、指揮系統が煩雑になるのではないでしょうか?」
「そうかもしれません。
 いま言ったのは私の思いつきなので、そのあたりは経験ある人のお知恵を拝借できれば幸いです。
 現時点では何も決まっていません。暫定ミッションリーダーとしての私の仕事は、しかるべきリーダーを決めるまでだと考えています。お任せしたら、リーダーの方針に口出しする気はありません。
 成功報酬の配分もその人に決めてもらいます」
「リーダー、あるいは、その委員会とやらはどのように決定なさるのですか?」
「それも皆さんのご意見を伺い、なるべく多くの方の合意の上できめるのが良いと思っています。この都市の市長や議員と同じように、立候補した方の中から選挙できめる、というアイデアしか今のところありませんが、もっと良い案がある方は、あとで議論の時間を設けますので提案して欲しいです。
 もちろん、今回の説明会ですべてを決めようとは思ってはいません。あくまで説明会ですからね。私みたいな子供が主催して勝手にやり方を決めてしまうより、みなさんで相談して決めてもらった方がいいと思ってのことです」

 つまり、ミッション遂行を目指すなら、志のあるやつらで決めろということだ。
 聖剣が見つからなくても俺は一向に構わないんでな。
 志とか持ち合わせてないから。

「まずは候補者を募り、なるべく早いうちに大規模な選考会を開催します。
 そこで選出された方をリーダーとして捜索・奪還作戦を進めていただきます。
 リーダーは決して独裁者ではなく、仕事の進め方がまずければ、参加者の過半数の同意で解任できるようにするなど、解任のやり方も決めておきたいです」
「なるほど、リコールも可能だということですね?」
「はい………以上のような、お答えでよろしかったでしょうか?」
「ありがとうございました」

 魔術師は、やや含み笑いをしながら着席する。
 所詮子供の浅知恵だと思ったのだろうか。まぁいい理知的な人だった。
 実に議論が深まったな。

 しかし、彼のような理知的な参加者ばかりでもなかったらしい。
レザーアーマーを着込んだ茶髪の男が手をあげた。齢は二十代半ばである。
 威風があるとは、お世辞にも言えないが…。
 名前も名乗らず、尊大な態度で質疑を始めた。

「聖剣の所有権を譲るといったな? そりゃどういう意味だ?」

 なんとなく威勢と態度の悪さで相手をビビらせようという意図が見え隠れする。
 まぁ、この人も有名な冒険者かもしれないので、「名乗れ」とは言わないでおこう。

「言葉通りの意味です。所有権はただ持ってるだけ。『担い手』と『持ち主』は違いますよね?」
「どう違う?」
「どう、と言われましても………」

 頭が悪いのか、こいつは? 
 それとも俺を試しているのか?
 いずれにせよ、愉快ではないが、俺は回答した。

「聖剣を持ってたって『使えるかどうか』は別です。
 『担い手』でなければ、聖剣は鞘から抜けません。
 鞘から抜けないなら、鈍器か飾りにしかかなりません。
 それでも『聖剣』だし、持ち主になったら名誉でしょうねー、自慢できますねー、でも、盗まれたままなのは、不名誉だからとりかえしましょうねー、ってことです」

 持ち主を決めるのは『法律』だが、担い手を選ぶのは聖剣に設定された継承儀典である。儀典を決める権利は『初代担い手』の爺さんにあるのだが、どういうルールとしたのかは俺は聞かされていない。
 まぁ、『担い手』なんか無理に決めなくてもいいのではないかと俺は思うがな。儀礼用のマジックアイテムの持ち主として名誉に与ればよいのではないだろうか?
 英雄がちやほやされるのは国難の時だ。日陰者のままのほうが市民はきっと幸せである。
 だが……

「それじゃ、意味ないだろうが!?」

 茶髪は声を荒げて抗議する。

「なぜです?」
「報酬になっていないだろうが!」
「政庁から報酬は出すと、ロゼッタ女史が申し上げているではないですか。大変ありがたいことだと思っておりますが……」
「聖剣が報酬なのだろう?」
「そうですよ?」
「使えなければ意味がないではないか!」
「そうだ! そうだ!!」

 発言を許していない男たちも声を上げた。
 総会屋か、こいつらは……
 俺は軽くため息を付いて答えた。

「このミッションは、いろんな人と協力して進めていくしかありません。しかし、『聖剣』はたった一振りだけですよ? 山分けにすることはできません。
 『担い手になれなきゃ意味が無い』と思うのなら、このミッションに参加する意味の自体がないでしょう。もしそうなら、お引き取り下さい」
「なんだと? この小僧!?」 
「引き受けるか、受けないか。選ぶのはあなたの自由だ。
 みんなの大切な宝で、冒険者のシンボルだから、同盟の下に取り返してほしい、そのためなら聖剣を譲ると養父は申し上げている。
 これはそういう依頼です。政庁も予算を工面してくれるそうですし、ここにいる皆さんも、その考えに同意して、わざわざ足をお運びくださってるのでは?」

 回りくどいが、そういうことだよな?
 俺がそう言うと、客席にいる多くのメンバーがうんうんと頷いてくれる。
 騒いでいるのはわずか数人だ。見かねて「ちょっといいかい?」と赤毛の女が手を挙げた。

「アマルダ・ロックウェルだ。一応、剣聖シュナイデル・ファルカの弟子を自称している」

 アマルダが前に進み出たので、俺は演台を譲った。

「知ってのことと思うが、聖骸武装は六つ存在する。どれも、正当な『担い手』じゃないと使えない」
「百も承知だ! 継承には、担い手になるには『儀典』が必要なんだろ?」

 要するにユーザー認証だな。聖骸武装はそれがなければ、使えない。

「その通りだ。軍で管理している『龍槍』、『光杖』などは、必要条件を満たした者に『継承の儀』が行われ、継承される。ただし、その儀典は軍でも極秘事項扱いになっている。聖骸武装の継承儀典はそれぞれの担い手しか知らない」
「それを確約してくれなきゃ、意味が無いであろうが!!」
「そうだそうだ!!」

 一体、どこのクランだ?
 軍事機密レベルの儀典を教えろという身の程知らずは…… 
 俺なら怖くて教えてもらおうとは思わないぞ?

「なら、いま、私が教えてやろう。単純だ………」
「なに?」

 継承の儀典を教えるというアマルダの言葉に、会場が再びどよめく。
 とくに剣士風の冒険者はみな目を見開いていた。

「こういう噂を聞いたことがあるだろう? 
 この地上において、聖剣『三日月』の担い手になれば、最強の剣士になれる、ってな。
 この与太話は間違っちゃいないが、厳密には逆だ」

 喧々囂々のなかでアマルダは話を続けた。

「聖剣の継承には儀式なんて必要ない。聖剣の継承の儀典はただひとつ。『当代における最高の剣の使い手であること』だ。
 『担い手』だから最強になれるんじゃない。最強の剣士が、聖剣の『担い手』になれるんだ。
 この50年間、師以上の剣客は現れなかった。だから聖剣だけが継承者が見つけられなかった。それだけの話だよ」

 な、なんだってー!!
 初耳だぞ。おい。
 マジなのか? またなんつー仕様にしたんだ。あの爺は。
 強い奴に斬られるなら本望とか、思ってたのか?

「まぁ、継承者については聖剣を取り返した後で決めればいいさ。ただ……」

 言葉を区切って、アマルダは金属製のタンブラーを取り出す。
 ドワーフ族職人組合が作り出した工芸品だ。おそらくはアルミ製だろうが、かなりの肉厚である。
 彼女は指に力を籠め、それを表情を変えぬまま……

「少なくともここにいる全員を」

 めきめきと握りつぶす。
 そして、彼女の指の痕跡のついた金属くずを、下手で茶髪の冒険者に放り投げ、静かに威圧した。

「倒す自信がないのなら、あきらめるんだねぇ?」

 KOEEEEEEEEEEEッ!!
 そして、アマルダ⊿!

 風格が違う。
 相手をビビらせるっていうのはこういうことだな。
 たちまち、その雄姿をたたえるように会場から指笛が鳴る。
 茶髪冒険者は、意気消沈する
 どうなさいました? 
 がっかりするには及びません。
 まだまだあなたが剣聖になる可能性は残されている。
 第六魔術を訓練していけば、二十代中盤でも伸びしろはございます。
 存分に夢を追い続けてください。我々はその姿を……心から応援するものです。

 茶髪がばつの悪そうにその場に着席したところで、……さて、次だ。

「では他にいらっしゃいませんか?」

 と、俺が尋ねると、鉛筆とノートを携えて男が手を上げる。

「週刊冒険者のトーマス・バラッケです!」

 こいつかよ。
 まぁ、記者なんだし当然か。質疑応答こそ連中のレーゾンデートルだからな。
 しかし、俺が指名する前に、しゃべり始めた。

「今回の犯人について、67名の犯人が逮捕されたとのことですが、彼らから何か情報が聞き出せましたでしょうか?」

 一応、知ってるが。どうしよう?
 俺がスタッフの方に視線を向けると。

「それについては、小官がお答えする」

 と、デビル少佐がむっくりと立ち上がった。
 実に頼もしい。
 貫録たっぷりに顎の贅肉をたぷんたぷん揺らしながら、壇上へ赴く。

「67名のテロ実行犯は、現在、軍警で拘留しているが、彼らの素性などの情報は、捜査の都合上、機密事項とさせていただきたい。ただし、ミッションの中枢に携わる者にのみ開示する用意がある」
「ちょっと待ってください! それでは隠蔽するおつもりですか!?」
「隠蔽する気はない」
「隠蔽! 事実の隠蔽ですね!!」

 糾弾しながらも、バラッケ氏は陰湿な笑みを浮かべていた。
 少佐はそれを冷ややかに見ながら、あくまでふてぶてしい態度でこれに対応する。

「我々軍警(ポリス)は、このミッションに全面協力するつもりだ。
 捜査に必要な情報ならば、なんでも開示する。
 だが、都市には当然、外部勢力のスパイが入り込んでいる。そんな中で、重要な情報を公表できるわけがないだろう? 我々は聖剣捜索の足を引っ張る気はないのだ。
 情報を公開すべきか否かという判断は、ミッションリーダーが決めること。
 以上の事を踏まえて、なお記事にするため情報が必要だと思うであれば、君がリーダーに立候補したまえ」
「いえ、私は、そんなことを聞いているわけでは………」
「自分が正しいと思うなら、この場で皆の支持をうけてリーダーになればよい。そして情報を公表することが解決につながると思うなら、そうしたまえ。それで解決だ」
「待ってください。少佐! 質問に答えてください! これは隠蔽工作じゃないんですか?」

 堂々巡りだ。
 何を勘違いしているのか知らんが、ここは記者クラブではない。
 軍の偉い人への無礼には、相応の報いを受けてもらおう。
 俺は仕方なく、会場後ろに立っている雑用係にサインをだす。
 コンテニュー画面のストリートファイターみたいな顔の金髪雑用係は、瞬間移動のようなスピードでバラッケ氏の背後に立つと、その延髄に手刀を入れ、気絶させた。
 そして、男一人を軽々と担ぎ上げると、よどみない足取りで退室する。

 歴戦の冒険者が呆気にとられるほど、鮮やかな手わざだった。

 さて、会場が静まり返ったところで本題に入ろうか。

「……では、今回は会場も手狭なことですし、質疑はおいおい答えていくとして、候補者を募りましょう。
 今回のミッションのリーダーになってもいいという人~!!」

 俺の問いに、数人の男たちが立ち上がった。


   *   *   *


 さて、冒険者クランのリーダーたちは一人、また一人と帰り支度を始めていた。リーダーはさっさと決まった。
 アレックと同じCランクの冒険者で、彼より上の冒険者は沢山いる。
 積極的に立候補したのが彼だったというだけだ。

「俺が!」「俺が!」「いや、ここは何としても私が!」
「「「どうぞどうぞ!」」」

 いつ打ち合わせをしたのだろう?リハーサルなしにやるダ○ョウ倶楽部とか初めて見た。
 どうやら他のクランリーダーは、今日のところは様子見だったようである。
 それは実に賢い判断だ。
 トップバッターは辛いからな。

「では、トライス先生よろしいですね? 次は先生のクランの主催で、委員の選考会を開いていただくことになります。なるべく早いうちがいいでしょう」 
「しょ、承知した」

 とりあえず、メリットはあるな。
 とにかく金剛流には雑用に使える兵隊が沢山いる。
 二日前連れてきた手下とともに、爺さん相手に全滅していたが、冒険者としての腕前は必ずしも剣術じゃないからな。
 本人も結構、年寄だし、門弟にはもっと強い奴もいるんだろう。

「まずは参加メンバーの名簿の編纂になると思います。きっと、他にも参画したいという人もいると思うので、うまく打ち合わせしてください」
「承知した」
「ロゼッタ・エヴァンス女史が政庁側での担当になったそうですので、予算については彼女にお願いします」
「承知した」
「先ほどの合議がありましたとおり、参加メンバーの過半数でリコールとなりますので」
「承知……」

 すでに顔が青い。
 表情が固まったまま、両目が細かくサッケード運動を繰り返しっぱなしだ。
 話聞いてるんだろうか? トライス先生。
 助手席から話しかけちゃいけない初心者ドライバーみたいになっちゃってるのだが。

「陵守や軍との折衝も………」
「………」

 とうとう返事もなくなった。
 いっぱいいっぱいでテンパってる。
 後悔しているんだろうか?

 ………まぁ、大丈夫だろう。
 何しろ、金剛流には300名ちかいの冒険者がいる。資格を持っていない門弟なら数千名はいるはずだ。道場を経営しているくらいだし、事務仕事に頼りになる宛もあるだろう。
 大丈夫。きっと大丈夫だ。

「とりあえず、僭越ながら、僕が作った計画書です。道場の皆さんとご検討ください」

 昨日、俺が部屋に籠って作った用紙10枚ほどの書類を受け取ると、トライス師は左右の手足を同時に動かしながら、会場を後にした。

 まぁいい。
 おかげで肩の荷がどさっと下りた。
+注意+
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