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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第四章

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第五十九話 導かれし者たち

「はい。次の方……」
「おう!!」

 剛毅そうなおやじが一歩前に出て、俺に一枚の書類を提出する。

「えーと。冒険者クラン『スピードドラゴン』のリーダー。ガストン・ケイズさん………で、よろしいですか?」

 俺がその書類を読み上げると、

「おう! そうだぜ」

 と、やたら元気な濁声で肯定した。
 スピード(なにがし)ゴンと聞くと「クールに去ったりはしないんですか?」など質問してみたくなる俺なのだが、この場でそんな勇気は発揮できなかった。
 このおやじは結構な強面なのだ。おまけに背後にはパンクな格好をした子分が四人、屈強そうな腕を組んで立っている。遠目には世紀末な山賊にしか見えない。まぁ、幸い身なりはみんな小奇麗で、髪も髭も丁寧に手入れしている少なくとも不潔ではないが……。

 俺の手元には、ゼフィランサスに拠点を置くクランとその代表者名、そして、登録されているクランの印章の一覧がある。
 俺は、名簿の中にガストンさんの名前があることを確認し、赤鉛筆で『17』と明記する。そして、同じく17番のナンバーカードを箱から取り出して彼に手渡した。
 書類によると、代表者ガストンさんはD級。備考欄には装備・装飾を得意とする職人系のクランである、と記載されている。
 なるほど、ベルトやジャケットには髑髏のデコレーション。クランの花押判(スタンプ)もかなり凝ったデザインだ。このやたら躍動感のあるドラゴンの紋章は、おそらく彼らの自前なのだろう。
 ならば、少しは誉めてやらねば。

「うわー、かっこいい花押ですね。まさに職人技です!」
「そうだろう? へっへっへ!」

 上機嫌である。ドヤ顔である。
 腕組みしながら手続きを待つ姿は、まさしく、アメ車なんかをワイルドにカスタムして、ワイルドに取引して、ワイルドに稼ぐ、プロ趣味人の経営者とったところか。
 ………そうと思えば強面でも嫌悪感はわかないな。可愛らしいおっさんだ。

「それでは、代表者の方のみ、階段を登って三階のホールにお進みください」 
「おい、代表者だけなのか? こいつらのは?」

 背後のスキンヘッドが憮然とした顔をしていた。だが、俺はさらに彼等の後ろに続く長い長い行列を下手で指し示し、そして、頭を下げた。

「申し訳ございません。とりあえず本日の説明会への参加は、クランの代表者に限らせて頂いております。
 今回のミッションはこの通り、非常に多くの冒険者の注目されていまして、すべての方に席をとはまいりませんでした。
 大きな会場ではありませんのでいささか窮屈かとは存じますが、どうか平にご容赦の上、ご理解、ご協力をお願い致します」

 俺が陳謝をすると、ガストンさんは「そうか、しかたねぇな」と軽く笑いながら、その堂々たる体躯を揺らし、矢印に沿って歩いて行った。
 子分四人も渋々退散する。まぁ、彼等は職人であって、武闘派ではないのだろう。
 強そうな奴らなら列にいくらでも並んでいる。ここでトラブルを起こそうというバカではないのだ。
 ………というか、見かけによらずいい人たちだ。

「では、次の方、どうぞ……」

『聖剣探索ミッション説明会』とでかでかと書かれた立て札の横で、俺は事務手続きに従事していた。

 ここは、ゼフィランサス北部、商人街の中心。商工ギルド本部だ。商人たちの隣で、屈強な冒険者の皆さんが列をなしている光景は、ちょっと奇妙かもしれない。
 本来なら、冒険者ギルドで開催するところだが、あそこはテロ事件の犯行現場なのでまだ使えない。爺さんの知り合いに手を回してもらい、商工ギルド会館にある多目的ホールを押さえてもらったのだ。

 聖剣を探せ!!

 ふぅん。………ここだけ聞けば、心が騒ぐミッションだ。
 だが、俺は真相を知っている。

 あの後、アマルダに話を聞いたのだが、冒険者ギルドの金庫にあった『聖剣』は10年前に行方不明になっていたらしい。それが陵守の巫女姫のおかげで発覚したんだと。
 しかし、失くしたことを隠蔽していた事実を追及されると、所持者である爺さんを始め、偉い人が責任取らなきゃいけなくなるから、一昨日、盗まれたことにした。
 実に無責任きわまりない話である。この都市には、聖剣の担い手を目指して、修行に明け暮れてる剣士がいっぱいいるらしい。そんな連中に、「聖剣を取り返さないと、継承はできませんよね? だからみんなお願い」と仕事を投げちゃうのだからな。
 彼等にとっては、鳶に油揚げを攫われたような気分なのだろうか。
 俺はというと、正直、聖剣の行方なんて、どうでもいい。
 とうぶん故郷に帰れなくなったってことがいよいよ深刻だ。

 あのあと間もなく、俺には屈強な戦士たちから問い合わせが殺到した。

「聖剣はどこにあるんだ!?」「誰が持ってるんだ!? 言え!」「俺は二代剣聖を目指して血の滲むような努力を続けてきたんだ! どうしてくれる!」

 と、血相を変えてやってきたのだ。脳筋はこれだから困る。まぁ、本当はもっと丁寧な言い方してたんだが、大抵がこんなかんじだった。こちとら、「知るか! 知ってたら依頼なんてするかボケ!」といい返してやりたいところだ。

 ……というか、爺さん。まだ継承者決めてなかったんかい。

 まぁ、二代目の担い手を目指してなくても、『聖剣』は冒険者の象徴であり、ここは冒険者のメッカだ。
 それが盗まれたとあれば、たとえ『担い手』を目指していなくても誰だって行方が気になるだろう。冒険者にかぎらず市民全員が、である。
 いわば、市民の冒険者に対する尊敬心は、南米諸国のサッカー熱みたいなものなのだ。どれほど厄介かわかるだろう。
 まぁ、盗まれたのは俺にはなんの関係もないんだが、とりあえず、ファルカの身内としてはなんらかのアクションを起こさねばならない。
 よって、事件から2日後の今日、爺さんの名代として、説明会を開くことにしたのである。 

 行列は、ギルド会館の外まで続いている。
 この街にいる冒険者は約5000人で、軍隊よりも多いらしい。ライセンスを持っていない、『アマチュア』『予備軍』『自称冒険者』も含めれば冒険者人口は5000どころではない。
 ゼフィランサスの人口は定住11万、流入人口も合わせると15万、その生産年齢人口全員が門前の小僧といってもいいかもしれない。
 さすがにこいつら全員に説明会は開けないので、今回は制限をもうけた。

 『クランの代表者、あるいはその代理人のみ』。

 冒険者は『クラン』という互助組織を作っている。プロ冒険者が中核となって結成する会社のようなものだ。俺のように所属クランのない奴もいるが、全体から言えば、フリーで動いている奴の方が珍しい。
 大抵の冒険者は、まずクランに所属し、武芸の基礎、冒険術のノウハウなどを修得する。普通はそういった下積みの修行を経て、プロテストを受けるわけだ。
 ミッションを請け負う際も、個人ではなくクランが受注し、構成員の中から経験やスキルを考慮して、プロ、アマ混成のメンバーを派遣することも多い。

 ちなみにクランを作り、それを冒険者ギルドに登録できるのは中級以上の冒険者である。初級ランクの冒険者はクランを作れない。つまり、俺は今回、参加対象を中級以上の冒険者に限ったのだ。
 しかし……

「次の方……。えーと」
「『週刊冒険者』の編集長、トーマス・バラッケです!」

 ちなみに、この『週刊冒険者』というのも、歴とした冒険者クランである。
 クラン名が、雑誌名であり、商標であるらしい。
 こういった情報ビジネスも冒険者ネットワークが複雑化していくにつれ登場した副次産業である。

「タクミ・ファルカ君! さっそくですが、いまのお気持ちは?」
「…………受付でインタビューはやめてください。それよりも書類を……」
「若干8歳ミッションリーダーとなったわけですが、やはり大変な責任を感じていますか!?」

 会話が通じない。あくまでも執拗なN・D・K(ねぇどんなきもち)攻勢である。
 ………こういうい輩が、一番、苛々するわ。
 さらに連れの獣人が、驚異的身体能力でシュートコースをふさぎまくる初心者バスケットマンのような動きで、蛇腹式のカメラをかざし、ストロボを焚き散らかす。
 張り倒してやりたいところだが、ブン屋を攻撃すると不特定多数の市民を敵に回すので、さすがの俺も神妙に抗議するしかない。

「写真撮影禁止って書いてあるでしょう? 他の方にご迷惑ですから、次やったら退場していただきますからね」

 俺は、代表者のバラッケ氏にナンバーカードを渡し、女将さんが助手につけてくれた『顔ぱんぱんの金髪雑用係』をアゴで使って、残りのメンバーを外につまみ出した。

 列はまだ消化しきれない。

「はい。次の方……えーと、ベアトリス・ユーディッドさん」

 今度は、向こう気が強そうな二十歳ぐらいの女性冒険者だ。
 細い腰に差しているのはサーベルと、マスケット銃である。
 冒険者で銃使いとは珍しい。
 髪は艶のあるブラウンのミディアム。顔も悪くないが何より、スタイルがいい。ちょっとしたモデルさんみたいだ。ただし……。

「フリーの方ですか?」
「ああ? そうだよ」

 口調は穏やかではない、ちょっと刺々しい感じがする。
 強気の女というのは俺の周囲には多いが、この手のタイプはまだいないな。
 アマルダのような、落ち着きのある大人の女の迫力じゃない。
 悪く言えば、チンピラである。
 品定めする俺の視線に、「なんか文句あっか! めんどくせーな、さっさとやれよクソガキ」と、彼女が視線を返す。
 めんどくせーのはこっちなんだがな。
 書類を見ると、E級冒険者。所属クランなしとある。

「ミッションへのご参加、心より感謝いたします。ただ、今回はクランリーダー向けの説明会でございまして……」
「あたいは参加できないってのかい?」
「今日の説明会に限ってですがそうです。申し訳ございません。
 今回はクランリーダーか、その委任状を持参した方のみとさせて頂いております。フリーの方への説明会は後日開催いたしますので、今日のところはお引き取りください」
「納得行かないねぇ!!」

 そういって、バン! と机をたたいた。
 ほらきたよ。異を唱えたら即座に敵意を向けるクレイマー。
 だが、喧嘩しても仕方ないので、俺はぺこりと頭を下げた。

「申し訳ございません。本日の説明会は、主に情報の共有だけを目的としております。皆様の疑問を取りまとめ、横のつながりで情報を拡散していただける方に限らせて頂いておりますので」

 主催する側の身にもなってほしい。
 悪いが、全員に質疑応答している暇はないんだ。相手の態度に不快感を感じたが、俺はなるべく相手を不快にさせないように、丁寧に対応した。

「なんでなんだい!? アタシは一刻も早く、その『情報』がほしいんだ!」

 それこそ、あんたの都合だと思うが、なんでなんだい?
 参加希望者が多過ぎるからだと書いてあろうが。そもそも、こっちはお客様(クライアント)で、アンタは仕事もらう人なわけだが?

「あの……本日の説明会では現状の確認とみなさんへの質疑応答だけですし、説明会の内容はすぐに開示されます。今日の出席者に情報を共有してもらえば、わざわざ参加する必要はないかと思いますが?」
「説明会に出なけりゃ、不利になるんじゃないのかい?」
「は? 不利……といいますと………?」
「『三日月』を取り戻した奴が二代剣聖になれるんだろう? どうなんだい?」

 え? そうなるのかい? どうなんだい?
 睨めっこを挑んでくる女冒険者に俺は淡々と回答した。

「本日の説明会はミッション参加者の皆様に、まず最低限の情報を開示し、共有してもらうためのものです。
 今回の参加者だけを優遇したりしませんし、一部のクランと談合しようという意図もありません。よって、参加しなくても出遅れたりはしません。今回は予定があわず来れなかった有力クランのリーダーもいらっしゃいますので、後日同じ説明会を開催する予定です」
「じゃあ、参加しなくたってスタートダッシュで出遅れるってことはないんだね?」

 ベアトリスは威圧的に言質を取りに来る。
 どうも、誤解されているようだ。これはレースではない。共同ミッションだ。
 でも、こういう人には「競争じゃないです」なんて繰り返しても信用されないかもなー。

「はい。不利になったりはしません。今回の説明会は、競争ではありません。
 騒ぎが大きくなりますと、流言飛語や欺瞞情報があふれるでしょう? そうなる前に冒険者の皆様になるべく正しい情報を提示することが、今回の目的です。
 むしろ、今回参加するクラン代表の皆様には、『同業者への情報伝播』という面倒をおかけするだけかと……」
「ふーん、そうかい」

 女冒険者ベアトリス・ユーディッドは生意気な子供をみるような視線を俺に向ける。やがて興ざめになった様子で、踵を返し、フロアから出て行った。

 ふー。
 KY女には俺もたいがい免疫が付いたな。

「はい。次の方…………………」

 のしっ、とデカブツが俺に影を落とす。
 俺は、菊の御紋が目に入った海外の入国管理官のようにそいつの顔を一瞥すると、ナンバーカードを押し付け、会場の方向を指さして告げた。

「はい。次の方……」
「おい! 待てこら。クソガキ」
「何か、ご質問でも?」
「俺の名前を言ってみろ!!」

 やだよ。兄より優れた弟なんていねぇ、とか言い出すんだろ?
 兄弟いるのか知らんが…‥

「あ、RECぼ~ん!」
「イントネーションがおかしいわ!!」
「いい齢して人の仕事の邪魔しないでください! はい、次、次……」

 アレックは後ろに控えていたウィル・ストライフ他、仲間たちに両脇を抱えられ、連行されていった。
 こっちは「代理でもいい」と言ってるんだから、ピーマンのお前より、人語を理解するお仲間を寄越せよ。

 代表者しか受け付けないこともあり、列は次第に消化されていく。
 そして、次に現れたのは……

「金剛流道場! バラハ・トライスである!」

 で、あるか。
 白髪交じりの壮年の剣客。
 3日前、爺さんに斬られた道場主の先生である。
 この人の刀のせいでえらい目にあった。
 まぁ、この人が悪いわけじゃないんだが……

「えーと、金剛流道場のバラハ・トライス……」

 と、書類に書かれた名前だけを読んだら、背後に控える門弟の皆さんにすごい目で睨まれたので、慌てて敬称を追加する。

「…………先生」
「さよう」

 同盟都市ゼフィランサスに本拠を構えるクランは全部で392もあるらしい。その中から、バラハ・トライスという代表者の名前を探す。

 …………あった。
 『金剛流道場』っていうのは、剣術道場でもあるが、一応、冒険者クランとしても登録されている。代表者のランクはC。アレックと同じだ。
 構成人数は非常に多い。プロ冒険者289人は今までで最多。一席しか用意できないのが、申し訳ないくらいだ。なにげに、人望あるんだなこの人。
 ただ、懸念事項が一つ。

「え~、トライス先生」
「何か?」

 この人は病み上がりのはずなのだ。斬りつけたのが身内だということもあり、一応、心配なので尋ねてみる。

「……お怪我をなさったとお聞きしたのですが、お身体の方はもうよろしいのですか?」

 しかし、おれが質問すると、背後のお弟子さんたちが顔面が蒼白になっていた。
 当のトライス先生は、たちまち表情筋が電極を当てたカエルのように痙攣し、だらだらと脂汗を流し、やがて、過呼吸状態となっていく。

「せ、先生!!」
「お、お気を確かに!!」

 足元がふらつくトライス先生に、門弟たちが心配して駆け寄った。
 あのスイーツ(笑)はちゃんと治療したのか?  
 ……いや、違うか。
 さっするに、この人は爺さんの剣気に中てられて、PTSDを患っているのだ。さすがの癒し姫でも心の傷までは治せない。
 まぁ、あの能面姿はちょっとしたトラウマになるよな。
 夢に出てきそうだ。

「だ、大丈夫ですか?」

 俺が問いかけると、しばらくの間、トライス氏はすーはーと深呼吸し、回答した。

「……も、問題ない!」

 嘘つけ。問題大ありだろうが。

「あの……先生。ご無理はなさらないでくださいね。もし体調が優れなければ、代理の方でもいいので……」 
「よ、余計なお世話だ! 師は問題ないと申されている!!」

 心配して言ったのに、門弟の一人から怒鳴られた。
 まぁ、そこまで大丈夫というならいいか。今日は所詮、説明会だからな。
 …………念のため、医者を手配しておくか。
 俺はナンバーカードを手渡す。

「では階段を登って三階のホールにお進みください」 

 トライス氏は、刀を杖によろよろと立ち上がる。

「……で、では、行ってくる」
「「「ははっ」」」 

 そして、彼は、10人ほどの門弟に見送られ、おぼつかない足取りながらも、吉良邸に討ち入りでもしそうな気合と共に階上へ赴いたのである。

 ……………なんつーか、前途多難だな、このミッション。
+注意+
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