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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第一章

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第六話 冒険者のプライド

 冒険者という連中は暇人が多い。
 個人事業主だからな。
 週に1度だけ、死に物狂いで働いて、6日は余暇を楽しむ。
 そういう生き方だってできるのだ。
 実力さえあれば……。


 冒険者の仕事は、キャラバンの護衛や、剣術指南、モンスター討伐や素材採集など、いろんなものがあるが、最も経済規模の大きく需要が多い仕事は、おそらく『魔石』の採集であろう。
 この世界には『ダンジョン』が存在する。屋内・野外を問わず、一般的に魔素が濃く、『魔物』が湧き出す場所を『ダンジョン』と呼ぶ。必ずしも迷宮ではない。魔素が濃い土地では『魔物』が自然発生する。たとえば、なんの変哲もない無機物が変異して、スライムやロックゴーレムなどの怪異が自然発生する。また、それらを捕食する『魔獣』も集まってくる。
 魔物なんて人に害しかもたらさないようだが、利点もある。魔物は『魔石』を生産するのだ。魔石とは魔物の体内で結晶化した魔素であり、質の高い魔石は高値で取引される。魔道具の製造には欠かせないマテリアルだ。
 魔石採集は冒険者にとって、ハイリスク・ハイリターンの大仕事である。一般的に、魔素の濃いダンジョンほど、強力な魔物が棲みつき、強力な魔物ほど質の高い魔石を生成する。
 つまり、ダンジョンはこの世界の油田のようなものなのだ。
 中級冒険者になれば、難易度の高いダンジョンへの立ち入りも許可される。倒した魔物から取れる魔石や骨や毛皮、角などの素材を売れば、かなりの実入りになるだろう。
 後日でミリィから聞いたが、このアレック・ボーンという酔っぱらいは、そんな大仕事を成し遂げ、今朝がた帰還したCランクの冒険者だったそうだ。


   *   *   *


 茶髪を短く刈り込みんだ30代中盤。背はおそらく190近い。筋骨隆々として背中に担いだ両手剣も大相な肉厚だ。顔には歴戦を物語る向こう傷があり、戦場で会ったらビビるかもしれない。
 ただ、今は深酒をかっ喰らい既に千鳥足である。腕っ節に相当自信があるんだろうが、朝っぱらからそんなことやってると、小◯庄助さんみたいに身上潰すぞ。アンタ。

「嬢ちゃんは冒険者になりたいんだって?ヒック…」
「そうよ。で、アンタ推薦してくれんの?」
「いいよ…と言いたところだが……俺ぁ、Cランクでな。あいにく……ヒック…Bランクからしか推薦はできねぇんだろ?」
「あっそ、じゃあ、お呼びじゃあないわ」

 うん。お呼びじゃないな。酔っぱらいなんて。

「まぁ、聞け……俺ぁな。Bランクの冒険者を知ってる。マブダチだ! だからオメェが一端のぉ冒険者になるだけの力がぁ…あるのなら…ヒック、紹介してやってもいい」
「え? ホント!?」

 金髪少女の顔が輝く。
 今までに見たこともないような天使スマイルだ。
 この娘は人を睨みつけるより、そういう顔をしたほうが絶対に良い。
 だが、これは別の意味で問題がある。
 俺は呆れて金髪少女に忠告した。

「ちょっと、お姉さん。『知らないおじさん』についていったらいけないって教わらなかったんですか?」
「教わらなかったわよ?」

 馬鹿かコイツは。
 頭の中まで天使ちゃんかよ。
 もういいや、コイツと話しても無駄だ。

「そこのおじさん。冒険者ギルドに通報しますよ?
 酒場で飲んだくれて10歳そこらの女の子を誑かしてるって…
 ライセンス取り上げられてもいいんですか?」
「ああっ!? んだとこのガキァ!!! 通報できるもんならやってみろっ! コラ!」

 忠告したら逆ギレされた。コイツもチンピラである。
 そしてこの言葉尻をとられて金髪少女にも逆ギレされた。

「誰が10歳よ! 私はもう12!!」

 かわらんがな……どっちも小学生じゃないか。
 なんかもう相手にしても仕方ないな、こいつら。
 俺は大声を上げた。

「すみませーん。マスター!! このおじさん変なんですー!! 誘拐未遂で通報してくださーい!」

 昨夜、お猪口いっぱいのビールをおごってくれた髭のバーテンダーがカウンターから乗り出してきて、困った顔でとりなした。

「まぁ、待て小僧。コイツは俺の知り合いでな。今は酔ってるだけだ。
 おい、アレック! お前も落ち着け。その子の言うことの方が100倍は正論だぞ?」
「ばっかやろう!! さっきからそこの二人がやってた会話、俺も聞いててムカムカしてたんだ!」

 なん……だと……?
 どういうことだ?なんか失礼なこと言ったのか、俺は?
 言ってみやがれ。 

「なぁにが、強くなるのを諦めただ !図書館でのお勉強が大冒険だとぉ? あげく親の七光りでテストを受けますだぁ? 馬鹿にすんじゃねぇ!!
 ………冒険者ってのはなっ!! ダンジョンを冒険して、剣で魔物を倒し、一攫千金のお宝を手に入れて、浴びるほど酒を飲んで、いい女ぁ抱くんだよ! それがビッグな男ってもんだ!! 子供の遊びじゃねぇんだ!!」

 聞いて損した。
 チンピラの上に厨二病、酔っぱらいの上に支離滅裂である。
 冷静に考えて、「ビッグな男に憧れて冒険者になりました」的な奴の方がよっぽど子供っぽいんじゃないかと思う。俺は子供の遊びじゃなく生計をたてるために、現実的判断でライセンスが必要なわけだ。何を恥じ入ることがあろう?
 まぁ、無視しても良かったが、大人として無責任な態度にちょっと腹がたったので挑発してやった。

「へぇ、勇敢なんですね。臆病な僕は勇敢なあなたを尊敬します。そして、勇敢なあなたは臆病な僕のことを軽蔑しても構いません。ただ、ご自身の価値観を後身に押し付けないでいただけますか?
 あなたの価値観に感化された子供たちが、あぶない真似をして万が一の事があっても、あなたに責任は取れないと思いますよ?」 
「なんだとぉ…こらぁ!! おおお!!」
「おい止せ、やめろ!! 相手は子供だぞ!!」

 髭のマスターや周囲の客が、必死になって止める。
 まぁ、チンピラの方が体格が大きいから大変そうだな。
 こんな時に限って、アマルダさんはいない。
 食事処は騒然となった。

「嬢ちゃん!! やれ!! 俺が許す!! コイツと決闘しろ!! コイツをぶちのめしたら俺が推薦してやる!!」
「え?いいの!?」
「男だろぉ!! 逃げんなよ小僧!!!」

 だから、お前には何の権限もないと言うたろうがっ!!
 さっき自分で言ったことをもう忘れてんのかこのアホどもはっ!!
 ああ、アレだ。馬鹿が二人集まると歯止めが効かなくなるってやつだ。
 はっ…もうコンビ組んでツッコミなしのお笑い芸人でもやってろ。お前ら。
 俺が唖然としていると、レオナルドが耳打ちしてきた。

「どうするんだい? タクミくん」
「あなたまで子供のケンカを煽るような真似するんですか?レオナルドさん」
「そういうわけじゃないんだがね……」

 前髪の付け根をポリポリと掻いて彼はつぶやいた。

「君なら負けないと思うよ?」
「…っ!! なんですって?」

 金髪少女はそのツイートに反応し、大炎上した。
 なかなかの地獄耳でいらしゃる。
 どうやらレオナルドの一言が火に油をそそぐ結果になったらしい。

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