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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第三章

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第五十二話 突撃

「問題はどうやって取り戻すかだ」

 冒険者ギルド本部の会長室に戻ってきた『首謀者一味』。最初に話を切り出したのは、冒険者ギルド会長のテリー・サウストンだった。ここにいるのは彼と市長のアラード・ジェファーソン。そして主犯のジュリア・フライアである。高齢の剣聖ファルカと巫女姫ステラは別室で休むことになったので、やや羽を伸ばしながら会話することができる。
 サウストンはさっそく南国産の葉巻をテーブルから取り出し、それに火をつけた。
 まずは落ち着かねば思考もままならない。

「中央の貴族たちの手にあるとしたら厄介だな……」

 ソファーの対面に座ったアラード・ジェファーソンは、大陸の地図を広げ、その中央に鎮座する『アウグスティア皇国』の広大な領土をにらみつける。
 ボルス・アトリフの遺言を聞いたのが、ジェノア子爵領だというが、ここに聖剣があるとは限らない。
 第七天子が自ら骨子を切り取り、自らの意志で封印した聖剣『三日月』は鞘に収まっているうちは、ただの鉄拵えの棒と変わらない。担い手以外が持っていても意味が無いものだ。だが、担い手に握られれば、聖剣は最高クラスの戦術兵器となりうる。
 それを意図的に強奪したとあれば、そうやすやすと返してくれるはずもない。

「ともかく、まずはボルスの跡を追わねば。肝心のミッションの指揮は誰に執らせる?」
「……現役の上級冒険者を可能な限り招集する。その中から選出しよう。
 だが、A級、B級のうち、果たしてどれくらいが協力してくれるかはわからん。人選は難しい。軍人のように『なんとしてでもやれ』と命令されて従う奴はおらんよ」

 そもそも、ギルドは冒険者の上に立って命令を下す組織ではない。あくまでも各冒険者に仕事を斡旋するだけだ。
 冒険者は良くも悪くも自由人の集まりである。一度、引き受ければみなプロとして最善は尽くすが、自分の手に負えない責任まで取ろうという者はただの間抜けだろう。
 判断力の高い人間ほど自由人だ。金のために冒険をやっている者も少なくはない。あくまでビジネスなのだ。

「いっそ中級冒険者で勢いのある連中に下駄を履かせ、上にあげてみるか?」
「出世欲や名誉欲の強いやつなら焚きつければよいかもしれんが、煽てられてすぐ木に登るような者に重要なミッションをまかせるわけにはいかんぞ? 大事なことはギルドに従うかどうかより、ミッションを成功するかどうかだろが」
「……そうだな。はぁ………ボルスがいればなぁ」
「いないものは仕方がなかろう?」

 責任感が強く、同僚たちからも信頼が厚かったボルスがいればギルドも政庁も間違いなく彼に任せただろう。むろん彼の捜索も行う。もし生きているのであれば働いてほしいところだ。
 だが、巫女姫の啓示に間違いはない。しかも当代の巫女姫ステラ・ブランシェはかなり優秀らしく、その星読みは外れたことがない。軍警も絶大な信頼を置いている。

「A級冒険者といえば……」

 視線の先には、破廉恥な格好をした美貌のエルフがいた。賊に扮したのをいいことに酒蔵(セラー)から来客用のボトルを腕いっぱいに持ちだしている。そして、その手には複数のコルク抜き。この状況下で利き酒に興じようというのだ。
 ただ、彼女の耳は二人の会話もちゃんと捉えていたらしい。

「都市の全面的なサポートがなければ、私もお断りいたしますわ。現役冒険者として第一人者だったボルス・アトリフが失敗したのであれば、私に依頼したところで成功するはずもないでしょう? 同じ条件ではね……」

 さもありなん。この姿をみて彼女に任せようとは誰も思わない。
 優等生だったボルスとは違い、彼女にとって冒険とは遊興の類である。

「やはり、まずは公表をすべきだろう」
「それがいいですわ…」
「だが公表してどうする?」 
「おそらく、このミッションを完遂するには多くの方の協力が必要不可欠です。関係各庁に情報は公開しなければ、協力要請もできまないでしょう? それに…」

 いたずらっぽくかつらをかぶり直し、軍帽で片目を隠すフライア。

「奪われたのは『貴族たち』にではありませんわ。私達、『地獄の軍団』にです」
「なるほど…」
「それにこのまま公表をためらっていては、今後、聖剣が表に出てきたとしても、同盟は盗品として返還を求めることもできませんわ」

 つまり、「『聖剣』が10年前に奪われていた」という真実は、都市の重役のみに共有する。そして、一般市民には「本日、ギルドを武装占拠した『悪の秘密結社』によって聖剣が奪われた」という既成事実を公表するのだ。
 このまま隠蔽工作を続けていれば、いずれギルドや市長のみが糾弾され、代表者が権力の座から追い落とされるだけで終わってしまうだろう。しかし、情報を共有していおけば、関係各者も協力をせざるをえない。
 みな自由同盟という船に乗っているのだ。陵守から『啓示』を賜ることができるし、『聖剣捜索』の名目で末端の冒険者たちやシンパの諸侯を動かすこともできるだろう。

「なるほど、それでこの暴挙か……あなたはそこまで考えて!」
「もちろんです。すべて私の計画通りですわ! オーッホッホッホッホ!!!」

 もちろん、半分は悪ノリである。
 この女は計算高く、スキルも持ち合わせているが、こいつにだけは絶対依頼してはならないだろう…とジェファーソンは思った。
 自分の神経をすり減らすことを懸念した市長は、話を振る。

「……公表する場合、お前は辞任せざるを得なくなるだろうな。サウストン?」
「仕方あるまい。まぁ辞任するとしても、私など自分のせいではなく前任者の尻拭いで降りるのだからな。一気に肩の荷がおろせて逆に嬉しいところだ」

 などと皮肉ってみせるサウストン。
 調子づいた彼はフライアが開けたワインを自分にも注がせて、共に杯を掲げた。

「後任者は私より少しだけ無能な者がいい。前会長はマシだったなどと噂され、自分の株がささやかに上がっていくのを庭いじりでもしながら眺めておくさ」
「…………相変わらず小さい男だな」
「無能な働き者よりマシだ」

 フライアがグラスに二杯目を注いだ時、ジェファーソンも咎めた。

「おい。程々にしておけよ。お前は『人質』なのだぞ?」
「こんな前代未聞のミッションを飲まずに計画できるか!! テロリストに無理やり飲まされたことにしておけばよかろう? なぁ?」
「ええ、た~っぷり飲んでくださいませ。閣下❤ ささ」
「ハッハッハッ!」
(どこのイメクラだ)

 ジェファーソンはそんな冒険者ギルドの長を睨みつけるのを諦めて、目を伏せた。
 イライラしても仕方がない。テリー・サウストンは自分にはないセンスを持っている人間だ。もともと謙虚なジェファーソンはそう考えてやることにした。
 剣聖の威圧を受けてなお酒をのんで笑い飛ばせる。それほどこの男の肝は太いのだ…と、あくまで好意的な視点でサウストンの美徳を称賛しようと試みた。

「まぁ、辞任するのは責任者を決めてからだ」
「そうなるだろうな。これは都市の一大ミッションだ。捜索については、軍や陵守にも改めてご協力いただくことになるだろう。問題は報酬だが……」
「ミッションに報酬や経費が必要ならば、政庁から予算もつける。今回の件に協力してくれそうな職員を担当に据えておく。私にできることはそれぐらいしかないが……」
「助かる」
「ああ、そうそう。報酬に関しましては、剣聖様より一つ妙案を頂いております」
「妙案だと?」

 だが、フライアの口にした『妙案』という言葉に二人がやや前かがみになった瞬間である。今までにない規模の爆発音が冒険街に木霊した。
 家具が揺れ、窓ガラスにひびが入る。

「い、一体なんだ?」

 表で何かあったのは明白であった。


  *   *   *


 ともかく俺と『奴』は相性が良くないらしい。
 コー○ー三国志的相関図の対極にいる武将は友好度が上がりにくいとか、そうゆうレベルではなく、きっと何かの化学反応だ。同じグループに配置するとカタストロフ的な何かを発生させてしまうのだろう。

 冒険者ギルド正面入り口前。
 戦闘員たちが待合室の机や椅子を運び出し、汗水たらして拵えた労働力の結晶『バリケード』は、その女の火炎魔法で灰燼に帰した。火炎瓶に引火し、それを掴んでいた戦闘員が無惨にも火だるまになる。

 幸い、あのショッ○ーの戦闘服は不燃性だったらしく、火だるまになった戦闘員は仲間たちの懸命な消火により一命をとりとめたようだ。
 『奴』はそんな健気な戦闘員さんたちに後ろから蹴りを入れ、さらに身動きを奪う。

「き、貴様! ひ、ひひ…人質が…どど、どどうなってもいいのか!?」 
「ああ!? やってみなさいよ!?」

 仰向けに倒れる戦闘員一人の首を足で抑え、呼吸すら不自由にした上で高圧的な態度をとるリナ・スタンレー。彼女は衆人環視の中、言ってはいけないことを怒気を込めた大声で暴露した。

「人質を殺す気なんてッ!! 最初っからないくせに!!」
「「「なっ…なんだってー!!?」」」

 コイツは、人の話を聞いていたのか?
 いや、聞いてて理解したからやったんだろうな。
 そしてコイツなりに策を考えた結果、この行動を起こしたのである。
 だとしたら教えた俺が馬鹿だった。

 正面入り口前では子供や女性の人質が続々と解放されていたわけであるが、当然、彼らもさっきの爆発の余波を受けた。
 通常、人質解放交渉で警察側が約束を反故にした場合、犯人グループは報復のために人質を殺す。それが当たり前だ。

 だが、彼らはそうではなかった。降りかかろうとした火の粉に身を挺し、女子供を庇おうとする戦闘員。怪我をして泣きわめく幼子を見かねて、とうとうそれを抱きかかえ医療班の天幕へと走り出す者までいる。

「これのどこが『悪の秘密結社』だ!?」

 人質に対する『地獄の軍団』の対応でリナの発言が嘘でないことを証明してしまったのである。

 ある人によるとホンモノの交渉ってやつは、「如何に自分が冷静でイカレてるかを相手に理解させること」だそうだが、これではどちらがテロリストかわからない。 
 リナは倒れる戦闘員Aをまるでサッカーボールのように脚一本で器用にリフトし、軍警兵士が密集する方へ蹴り飛ばした。
 錐揉み状態になって頭から墜落していく戦闘員A。
 兵士たちはその着地点から逃げるように退避したため、隊形にドーナツ状の穴が……って! 
 え!? ちょ…おい…避けんなよ、ポリ公!!

 俺は咄嗟に猛ダッシュして兵士たちの頭上を飛び越え、空中で戦闘員Aを捕まえる。そのまま彼の頭と首を抱え込み、背中から硬い地面にもろダイブした。

「うぐ、がああ…あ、!!」

 肺の奥底から、うめき声が漏れる。
 背中から叩きつけられると呼吸が止まる。まして、まして自分の二倍以上大きな大人一人を抱えて、石畳に叩きつけられたわけだ。胸めがけてハンマー振りおろされたようなもんだ。背骨とか肋骨とかイッたかもしれない。悶絶しないわけがないだろう。

「す、すまん、ありがとう………だ、大丈夫か? 君!」

 尋常じゃなく咳き込む俺を介抱しようとするショッ○ーの戦闘員A。
 だが、彼の気遣い応える余裕はその時の俺にはなく、ようやく呼吸が整って最初に出た第一声は怨嗟の声だった。

「……あ、の、ガ、キ、ャ、あああ!!」

 しかし、そんな俺を「まぁこいつなら大丈夫だろ」とばかりに一瞥してリナは踵を返す。そして彼女は鷲のマークの装甲車が開けた大穴に向かって、わき目もふらずに吶喊していった。

「今だ! お前ら!! 俺たちも突っ込むぞ!!!」
「「「おおーー!!!」」」

 リナに追従するように冒険者たちも雄たけびを上げた。
 魔獣の鎧に身を包んだ脳筋ゴリラの大号令。貯まりに貯まりまくった士気ゲージを一斉消費するかのごとく、アレックを中核とする冒険者約40名がギルド本館に突入する。
 この『馬鹿その2』のせいで決戦の火ぶたは切って落とされてしまった。

「我に続けぇーーー!! 遅れをとるなぁー!!」
「ゆくぞ!! 者ども!!」
「トツゲキ! トツゲキ!!」 
「いてもうたれ!!」
「「「おおおおお!!」」」

 金剛流、虎人族、蜥蜴族、ヤンキーその他もろもろ。
 血の気の多い皆さんが続々と鬨の声を上げる。彼等は、まるで福男選びぐらいの勢いで突入を強行した。

「ばか者! 誰が動けといった! 止めろ! やめさせろ!!」

 声を張り上げる少佐殿。
 俺の味方はもうアンタだけだよ少佐殿!
 がんばれ少佐殿!!
 しかし、百人余りの人の群れである。軍警の包囲網が突き崩されれば、一般兵の制止など、もはや蟷螂の斧。少佐殿の命令に従ってブロックに行った隊員たちは、まるで濁流にのまれるかのように踏み倒され、蹂躙されていく。
 かくてデビル少佐が入念に構築した包囲網は、『外側から味方に突き崩される』という異常事態によって決壊した。現場は死屍累々(たぶん死人はでてないと願いたいけど)、阿鼻叫喚の地獄絵図である。

 その様を目の当たりにした少佐殿は、力なく拡声器を地面に落とし、その場に立ちつくす他なかった。ああ、小早川秀秋の裏切りで西軍の戦線が崩壊したときの石田三成はこんな感じだったのだろうな。

 ………てか、おい。
 誰が責任取るんだよ。これ。

 外に取り残された『地獄の軍団』の戦闘員たちは、そんな少佐殿を不憫に思ったのかもしれない。
 彼らは、自らその手に手錠をかけて、軍警の前に整列していた。

 それは夕焼けの中、実に哀愁の漂う一枚絵となって、ゼフィランサスの歴史に名を遺したという。
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