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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第三章

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第四十八話 お前、何やってんだよ?

「……で、なんであなたはここにいるのかしら? しかもそんな恰好で…」

 俺は別に下半身を露出させてると興奮するわけではない。
 そんなアマチュアレベルのストリーキングは前世のル―キーイヤーで卒業した。
 召喚されて一週間ぐらい全裸で草原を彷徨ったからな。

「うーん、なんででしょうねー?」

 ミリィ姉さんに正座させられてのお説教。いつぞやの光景である。
 あの時と違うのはここが爺さんの部屋だということと、俺が下半身にバスタオルを巻いてることと、俺の隣にクローゼットの中にいた少女ステラが同じく正座でちょこんと座っているってことだ。
 一応、今回なんで俺はこうなったのか冷静に考えてみよう。

 昨日までの予定では俺は今頃、この都市から円満にエクソダスしてたはずなのだ。
 しかし、知人の家を出た途端、邪教徒に拉致・監禁され、挙句、そこの教主の失態隠しのために狂信者どもからポアされそうになり、不本意ながらバトルするはめになった。
 剣林弾雨をかいくぐり、闇を欺き、刹那を躱し、刃貫き奴らの間隙を突いて、水に飛び込んで逃げようと思ったら、今度は水中で河馬の軍団に襲撃された。
 そこもなんとか血路を開いて逃げ帰った。ただ、都市権力側を敵に回したのは明らかっぽいので、ほとぼりが冷めるまで爺さんの部屋で息をひそめることにした。
 ずぶ濡れになったので、旅籠が寝巻き用に用意している浴衣に着替えるべくクローゼットを空けた。
 でも、そこにあるはずだった浴衣は、そこにいないはずの女の子が着てたんだよ。
 仕方なく俺はベッドの中に入り、クローゼットの中に入っていた女の子から事情聴取。
 そこで俺は失念していたことに気付く。聖殿に侵入し、武装巫女相手に手加減しながら立ち回り、なおかつ連中が護衛する巫女姫を朝飯前に攫ってこれそうな実力者はもう一人いたのだ。巫女姫ステラを聖殿から連れだした下手人は、間違いなく『奴』だ。イカレっぷりもあの性悪エルフといい勝負である。
 彼女の話と、聖殿で聞いた話をあわせることで大体事件の全貌が見えてきた。
 しかし、なんということでしょう。その事情聴取の現場をミリィ姉さんに目撃されてしまったのです!
 客観的に見れば、「全裸でベッドに入って寝間着姿の女の子とおしゃべりをしている」という、不純異性交遊と見間違えても仕方がないシチュエーションです。そのせいでちょっと趣向を変えた『修羅場』が発生しました。

 以上のようなことをかいつまんでミリィに説明した。だが、ミリィ姉さんから返ってきたのは『つめたくかがやく』視線である。

「何を言ってるのかわからないわ……」

 ですよねー。
 自分でも意味不明な供述だよ。
 もうカオス過ぎて生えまくりだよ。ウィード。

「要するに、年端もいかない女の子を連れ込んで、いやらしいことをしようとしてた、と?」

 わ~お❤
 姉さん、お話全然聞いてないです。聞く気ないですね。俺、信用ゼロです。
 つか、冷静に考えてください。
 できるわけないでしょ。純真無垢なる8歳ですよ、俺は。

「アンタは年の割にマセてるから、ありえないとは言い切れないのよ……」
「いえ、断固違います」

 そこで、ステラが真顔で俺を弁護してくれた。

「そんな酷いことはされてません! このヘンタイさんは紳士なのですから!」
「エエエッ!」

 ステラ……、恐ろしい子ッ!
 善意で言ってるんだろうが、見事にフォローになってない。
 いや、条件反射で誤解を招くネタを口にしてしまった俺も悪いのだが、そのせいで彼女は俺の名前が『ヘンタイ』だと誤解したらしい。異種族のお名前にはそのまま読むと空耳で下品な表現になってしまうものだってよくあることを彼女は知っていたんだろう。もしかしてだけど。
 いい子だな。天然ものというか、陵守の聖殿で純正培養だ。空気読まないどころか空気を必要としないレベルの生き物だ。究極生命体アルティメット・シィングの上位種がこんなところにいるとは、おじさんびっくりだよ。

 そういう世間ズレした『痛い子な気配』を感じ取ったのか、ミリィは深くため息を付いた。

「ともかく、ギルドに通報するしか無いわね。軍警(ポリス)にも……」
「姉さん。誤解です! 僕は何も……」
「アンタは黙ってなさい!」

 またまた。早とちりさん。
 人の説明ぐらいちゃんと最後まで聞いてくださいよ。そんなことで通報されたら僕はもう家かトイレでしかパンツ脱げなくなるじゃないですか! 
 ……って、不謹慎なク〇吉くんネタは置いといて。

「ポリスはまずいです。姉さん」
「あら、どうして?」
「いま通報されたら、僕が誘拐してきた情況証拠が全部揃ってしまうんで、完全に下手人認定されちゃあがががががががあッ!!!」

 『シャイニングフィンガー』とはこう使うものなのか?
 凄まじい握力のアイアンクローで俺を宙づりにしながら、ミリィはステラの尋問を始めた。

「……で、ステラちゃん? あなた家、どこなの?」
「……家は」
 
 ステラは俯き、悲壮な表情でぽつりと告げた。

「家はありません。 …………私は親に売られた身ですから」

 いやああああああああ!!!! やめてー!! ホントかウソか知らないけど、そういう後ろ暗い身の上話をこの場でカミング・アウトさせないでーッ!!!
 弁明しようと俺が口を開く前に、ミリィの怒りの拳が脳天に振り下ろされた。


   *   *   *


 自由都市ゼフィランサスでは、市民全員が消費する穀物を数年分備蓄している。この都市はかなり古くから穀物安全保障に着手してきた。都市郊外にあるこの倉庫街は、パラディナ湖の水運から荷揚げされる穀物を貯蔵するために儲けられた施設である。都市が大きくなればなるほど、穀物の備蓄拠点はより便利で、安全で、許容量の大きな場所に移動し、その都度、古い施設は半ばお役御免となっていった。よって、この一帯にはいまのところ緊急時にしか使われていない倉庫が立ち並んでいるのである。
 そんな閑散とした倉庫街の一軒の屋内に、一個小隊40名ほどの男たちが集結していた。『黄金の鷲』の傭兵隊長ヘルムート・フリーデンは自らの感情を殺し、その最前列で全員に号令をかけた。

「気をつけぃ!」

 直立不動の姿勢で整列する兵士たちの正面に立ち、満足そうに睥睨するのは、美貌のA級冒険者ジュリア・フライアである。

「司令官殿! ご命令通り、人員を集めましたッ!」
「はい。大変結構!」

 集められた男たちは傭兵団『黄金の鷲』『三首竜』の末端構成員である。それぞれが所属する傭兵団の軍装で並んでいた。
 上級冒険者ともあれば、依頼される仕事の規模は大きい。もちろん上級だからといって、そんな大仕事を一人で消化するわけではく、しばしば他の冒険者や商会、傭兵団に協力を要請する。そして、それぞれに仕事を委託し、分担させ、ミッションを完遂するのである。よって、上級冒険者は実力もさることながら、相応の財力や人脈、そしてそれらを管理するマネジメント能力がなければやっていけない。
 つまり、ジュリア・フライアは両兵団と下請け契約を交わしたということである。財政難であった両兵団の幹部に断る理由はない。提示された契約金と条件に「渡りに舟」と二つ返事で承諾した。ちなみに、彼女は業界では知る人ぞ知るプロフェッショナルらしい。高難度ミッションにおける達成率98%という驚異的な数値を誇る。彼女に仕事を依頼するということは、いわば、この世界では『新聞広告に13年式G型トラクターの購入依頼の新聞広告を出す』ぐらいの確実性があり、兵団幹部も大船に乗ったつもりで兵員の派遣に応じたのである。

 こうなってしまった以上、ヘルムートに異を唱える余地はない。
 そして、不愉快な上役から申し付けられた、不本意な命令であれ「もうどうにでもなれ。俺、考えるのや~めた」と捨て鉢になればなるほど、若い頃より骨の髄まで叩きこまれた『上官は神様、命令は絶対遵守』という職業病が顔を出すのが兵士という人種である。
 軍という組織において『無能な働き者』などは必要とされないが、上の命令を疑うことなく実行する『無能な怠け者』には一応居場所が与えられのだから。
 かっこいい言い方をすれば「わが身はすでに覚悟完了」。そう腹を据え、傭兵下士官ヘルムート・フリーデン以下、40名の傭兵たちは起立していたのである。

 ジュリア・フライアは、そんな彼らの上に君臨する貴族の姫君のように、凛とした声で申し述べた。

「では、今回皆さんに手伝っていただく作戦についてご説明します。よろしいですか?」
「「「イエス、マム!」」」
「昨夜未明、この自由都市ゼフィランサスの要人が、テロリストによって略取されました。我々の任務はその要人の救出・保護です」

 単刀直入な告白に、40名の傭兵たちは内心では動揺していたが、それを表に出さない程度には皆訓練されていた。

「我々は、これより敵の拠点を襲撃し、その要人を奪還します。本作戦の現場指揮は私がとります。皆さんには私の手足となり、敵の包囲、および捕縛に協力していただきます。ただし、皆さんには一兵士の能力を超える働きは期待しません。各自、与えられた役目を忠実に実行してください」

 スペシャリストが必要とされる仕事であれば、相応の冒険者(フリーランス)を雇っているはずである。作戦上、単純に頭数が必要であったため傭兵団に声をかけたことぐらいは想像に難くない。

「なお今回の作戦は『高度に政治的な都合』により、公にされることはありません。極秘任務となります。よって、任務の経緯についてはこれ以上お話しすることはできません。その要人の姓名もです。よろしいですね?」
「「「イエス、マム!」」」
「一切の責任は私がとります。作戦の失敗、もしくは作戦上過失によってみなさんが器物損壊、あるいは無関係な市民を傷つけてしまったとしても、責任はすべてこのジュリア・フライアにあるということです。
 本作戦は極秘作戦です。作戦に当たり、現在開発中の最新鋭の装備を用意いたしました。装備者の身体能力を向上させる魔道具です。この装備についても口外を禁じます。
 万一作戦中、軍警備隊などに誰何を求められた場合は、可能かぎり逃走をこころみてください。ただし、それが無理ならば武器を捨て投降することを許可します。その場合、自分の官姓名、そして「傭兵として冒険者ジュリア・フライアの指揮の元、極秘作戦に従っただけ」とだけ供述してください。罪に問われないよう計らいます。いいですね?」
「「「イエス、マム!」」」
「では質問を許可します」
「「「…………」」」

 質問は特にない。上と話がついており判断をしたのならば訊く必要もない。彼らにとっては、『よくある話』である。そもそも、必要以上の情報なんて兵卒が知り得たら、敵の俘虜となったとき拷問の対象となりかねない。

「ないようでしたら、各自、目の前にある装備に速やかに着替え、表の輸送車に乗ってください。準備ができ次第、戦場に出発します」
「準備開始―ッ!!!」
「「「イエス、サー!」」」

 ヘルムートの号令が下るやいなや、男たちは、迅速に着替えを済ませて表に泊めてあった窓のない車に乗り込んだ。用意されたユニフォームの意匠に多少の疑問を感じながらも……。
 全員が乗り込むと、車を曳く巨大な一角水牛が走り出す。
 移動中、ジュリア・フライアはこんなことを言った。

「あ、いい忘れてましたけど、その『イエスマム』や『イエスサー』という返事は傭兵っぽいので変えましょう。敬礼の仕方も()()に統一です」


   *   *   *


 爺さんが帰ってくるまで部屋で正座を命じられる俺。
 一応、今は旅籠の浴衣を来ている。
 ステラは下でお食事中だ。いーなー。俺もおなかへったなー。

 なぜ、俺はミリィの懲罰に大人しく懲罰に従ってるのかって?
 事情が斜め上すぎて説明するのがもう面倒くさいからだよ。おたくの旅籠で雇ってる『貴族の娘』が都市の要人誘拐してきて、『救国の英雄』がそれを匿ってました。なんてさ。

 そもそも話を聞く耳すら持たないミリィ姉さんに一々許しを請う必要なぞありますかい。
 陵守が血眼になって探してるステラが見つかった。俺も晴れて自由の身だ。それでいいじゃないか。
 今回の誘拐事件、陵守も隠蔽する気まんまんだし、アマルダあたりに任しときゃ、うまく話をつけるだろ。正直、俺はもう関わりあいになりたくない。

 とにかく、人の気配がもう少し遠のいたら足は崩そう。
 ……などと思っていたら、そこへちょうど『奴』が帰ってきた。俺と同様に窓から。
 諸悪の根源、リナ・スタンレー。

「ただいま~、ってあれ?」

 ステラに食わせるつもりだったのか、食い物が山ほど入った買い物袋を抱えている。
 そして、部屋で正座してた俺を見つけた。
 ちなみに、リナの第一声は「アンタ、逮捕されたんじゃなかったの?」である。

「……うるせーよ」 

 ということは、こいつは俺が捕まったことも知ってたってことか。
 言いたいことは山ほどある。俺は立ち上がりリナに詰め寄った。
 今回ばかりは敬語は抜きだ。

「さ・れ・て・ね・ぇ・よ! つーか、お・ま・え・の・せ・い・だ・よ!!」
「なんでよ。捕まったのはアンタがドジだからでしょ?」

 もう張っ倒してやりてぇ。
 捕まらなきゃいいと思ってんのかコイツ。

「おい。昨夜、陵守の聖殿に侵入して巫女姫拉致ってきたのお前だろ?」
「なんの話よ」

 しらばっくれるつもりか。

「とぼけんなよっ! ステラはもう白状したぞ」
「え?」

 一転して動揺するリナ。目がスイミングしている。

「………そ、そうなの?」
「ああ、どっかのバカが巫女姫拉致ったせいで、冤罪で逮捕された奴はもう複数いるんだぞ」 
「え? なんでよ!?」

 嘘は言ってない。ちゃんと複数形で正しい。まぁ、あの糞エルフは一度マフィアに捕まって拷問でもかけられた方が世のためだと思うがな。

「聖殿で起きた犯罪については機密保持のため陵守に捜査権があるそうだ。けど、犯罪捜査に関しちゃ陵守はド素人だ。容疑者を片っ端から逮捕してる。だから俺も逮捕されたんだ。『できた可能性がある』ってだけの理由で! そいつらも全部ドジで済ますのか、お前は?」

 捲し立てた俺に呆気にとられたようにして、リナが口にしたコメントは以下のとおりである。

「………なんというか……陵守って、ぶっとんでるわね」

 お前が言うな。

「そのうちお前にも容疑がかかるぞ? そしてここに物的証拠(ステラ)がいる以上、女将さんや爺さんだって共犯にされかねん」
「うーん。そりゃまずいわね……」

 腕組みをして考え込むリナ。
 そもそも、これだけやらかしといて、『まずい』程度で済むのか。コイツの中では。

「ともかく、ステラを聖殿に返せ」
「でも、今回はステラが勝手についてきたのよ?」

 おい。今回『は』って何だよ。またやるつもりかよ。
 まぁ、コイツの常軌を逸した思考パターンに一々突っ込んでてもキリがないが。

「勝手に、だと?」
「途中で暴れるようだったら、いくら私でも攫ってくるなんて無理よ」
「どうして巫女姫が自分から不審者に着いてくんだよ!?」
「知らないわよ。誰かに伝言をあるから、なんとしても外に出たいって言ってたわ」
「伝言?」
「天子様から啓示があったからとかね……同盟の命運を左右する大事な啓示なんだって。聖骸には未来予知ができるんでしょ?」
「はっ……バカか。聖骸にそんな機能はねぇよ」

 なにしろ、俺の聖骸なんだからな。
 星天陵に納められた聖骸は、天子の能力の一部をシステム化して、利用できるようにしたものだ。天気予報や地震予測ならともかく、来年どこそこで革命がおこるとか、国家戦略レベルの未来予測なんてできるわけがない。なにしろ、前世の『俺』がトライしなかったのだからな。
 だいたい仮にもそんなことができたら、市民による選挙も為政者による行政判断も必要なくなる。天子様の金科玉条で政治のすべてが決まる気色悪い宗教国家ができるだけだ。

「アンタのお爺ちゃんは信じたわよ。私、お爺ちゃんのお使いで政庁に行ってきたんだから…」

 おいおい。爺さん。
 聖骸がどういうものか、俺はちゃんと教えたはずだがな。

 聖骸に俺の意志なんて無いし、未来予知なんて奇跡を起こすこともできない。
 星天陵の『聖骸』は単なる多次元事象観測システムだ。各地の人口の推移や気温、気圧、風位風速、魔素の濃度の変遷などを観測し、巫女姫が打ち込んだ計算式に基づいてデータを機械的に予測値を算出し、記録する『高性能計算機』に過ぎない。
 予知といっても「ラエル海の海水温度が上昇したので、今年の夏は冷夏になります。食糧を備蓄しましょう」程度の予報しかできない。
 もちろんその計算機にはディスプレイもキーボード、プリンターもない。ユーザーインターフェースとなるのは管理者(アドミニストレータ)たる『巫女姫』本人だ。出力結果は彼女の記憶の中にしか存在しない。
 巫女姫は岩戸から、それを『天子様の意志』として、娑婆に持ち帰り、陵守が政庁に報告する。そもそも、陵守っていうのはそのための機関なのだ。

 ………って、よくよく考えれば聖骸のコンセプトやスペックは当然、御公儀の秘密だ。俺も妻の実家(ウィーゼル家)には伝えてなかった。この世界に計算機の概念を理解できる奴なんていないだろうし、実際にそれを扱う巫女姫には理解っても、その他の人間には単なるイタコマシーンだと思われても仕方ないかもしれない。
 もしかして巫女姫はこの時代まで陵守を信用していないのだろうか?

「その爺さんのお使いというのは?」
「市長閣下に手紙を届けてきただけよ。なんて書いてあったのかは知らないけど、一応、ちゃんと返事は聞いてきたわ。『承知した』って」

 市長か……。
 そうか。うーん。
 たしかに、何らかのカタストロフでも観測したとしたら、陵守を介さずに外部に連絡を取る必要もあるかもしれない。陵守って腐敗してるしな。
 それなら、ステラや爺さんが韜晦するのは当たり前かも。

 ステラが伝言を届けたい相手は市長なのか? あるいは、他の第三者にメッセージを届けるために爺さんが協力を要請したのか。
 まぁ、それはどちらでもいい。俺には興味ない。
 剣聖ファルカと市長。ステラの目的がなんであれ、この二人の協力者を得られたのであれば彼女の計画は成就したも同然だ。政庁のトップと繋ぎもとれたことだし、あとはステラを聖殿に帰れるよう説得するだけでいい。それで終わり。
 きっとあのキチ〇イ巫女頭なら、この誘拐騒ぎ自体をよしなに隠ぺいしてくれるだろう。これにて一件落着だ。

 陵守の腐敗? 知るか。
 んなことはどーでもいい。もう勝手に腐ってろ。
 俺自身のエクソダスの方がはるかに一大事だ。

「ともかく、ステラは陵守に引き渡す」
「ちょ、ちょっと待ってよ! それじゃ私働き損じゃない!」
「何の話だよ?」
「ステラを帰したら、私は『禁書』の在り処を誰から聞けばいいのよ!?」
「アホかーーーーーッ!!」

 何のために聖殿に忍び込んだのかと思ってたら、禁書なんぞ探してやがったのかこいつは!!

「いいか、禁書なんてもんは……」

 だが、俺が口を開こうとした、その時である。
 ダンプカーでも突っ込んだかのような巨大な破壊音とともに旅籠が揺れた。


   *   *   *

 いったい何事? 乗合馬車でも突っ込んだのか?
 ただ事ではない破壊音を耳にした俺とリナは、巨大な吹き抜けとなってる旅籠の階段を飛ぶように駆け降りた。
 本来、浴衣で廊下を出歩くのはルール違反なのだが、非常時だ。とやかくはいわれまい。
 だが、事件現場となったアマルダの旅籠の食事処で見たものは、これまた常軌を逸していた。
 壁を突き破り、テーブル盛大に破壊して二頭の逞しいサイのような魔獣が雄たけびを上げる。そして、そいつら曳かれたやたら頑丈そうな黒塗りの荷車が壁にめり込んでいた。
 一階の食事処にいた冒険者のお客さんたちは、先手を打たれたのか、体勢を崩している。そこへ荷車の後部が観音開きになり、中から黒い人影がワラワラと湧きだす。

「なん……だと……?」

 ス、ストライカー装甲車?
 いや、一番驚くところはそこではない。黒い人影の恰好である。
 体を覆う漆黒のタイツに、胸部から胴体にかけて人の背骨と肋骨を模した白い模様の入ったコスチューム。覆面は目と口の部分だけ白く縁どられ穴が開いている。そしてなにより、額とベルトのバンクルには、大正〇薬……じゃなくて、『世界を鷲掴みにした猛禽』のマーク。

 そして荷車の上に一人の女が立ち上がる。
 『悪の女司令官』………というか、『痴女』だな。
 ボリュームのある七色の髪の上に、鷲のマークが入った軍帽。上着は黒ネクタイの燕尾服だが、下半身なぜか鼠蹊部の際どい所まで露出させるというマジ〇チデザイン。腰にドSを演出するかのごとき牛追い鞭(ブルウィップ)
 某大陸の女王決定戦にでも参戦するつもりなのか? こいつは…。
 痴女は、鞭を鳴らして号令した。

「さぁ、戦闘員! やっておしまい!」
「「「イーッ!!」」」
+注意+
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