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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第一章

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第五話 モンスターチルドレン

「冒険者ライセンスですって!?」
「え?」

 声変わりもしていない甲高い声だ。振り返ると地味な深緑色のフードをかぶった小柄な人物が立ち上がっていた。
 俺の後ろ側のテーブルで、黒パンを齧りながら、俺達の話に耳を欹てていたらしい。あ、そうだ……誰かと思えば、昨夜の宴会で、参加客のテーブルから料理をつまみ食いをしていたあのチビである。何故か知らないが、ご立腹の様子だった。

「あの……どうしたんです?」

 俺は怪訝に思って訊いた。いまの会話に不特定多数の隣人にケンカを売るような発言があっただろうか? いきなり他人の会話に乱入されれば、そう思うだろう。普通。敵をつくる発言はしないよう、なるべく気をつけているのだが。

 彼、いや…彼女はフードをとった。
 輝くようなショートカットが顕になる。
 12、3歳ぐらいの少女である。顔形は至って可愛らしいく、翡翠色の瞳は凛として不思議な目力がある。かなりの美少女だ。
 ただ、その金髪は仕立屋に切りそろえられたものではなく、ナイフかなにかで、乱暴に切り落とされたかのような髪型であり、それが玉璧にわざわざ傷をつけている感は否めない。というより、服装からして、あえて美人だと思われたくないという決意すら伺える出で立ちではなかろうか。
 そんな少女が秀麗な眉目を吊り上げ、俺を睨んでいる。ちょっとない経験だ。

「……ぼ……僕、何か酷いこと言いました?」

 少女のあまりの剣幕に俺はちょっと噛んでしまった。
 正直、こういう可愛い子に嫌われると、俺は傷つく(タチ)なのだ。あいかわらず豆腐のようなメンタルである。

「アンタ…何歳?」
「今、8つですけど……」
「その8歳が冒険者のライセンスをとるですって?」
「え、ええ……」
「なんでよっ!!」

 怒気の篭った声が食堂に鳴り響く。
 辺りが静まり返り、食堂の全員が箸を止めた。

「…………一応、祖父の推薦です」
「卑怯じゃない!!」
「いや、卑怯とか言われましてもね……」
「お祖父さんのコネで冒険者になるっていうの!?」
「そうです」

 冒険者ライセンスの取得には試験があり、それは原則15歳からとされている。8歳の俺では受けられない。ただし、B級以上の冒険者が推薦すれば、その限りではない。
 要するに、コネで試験を受けさせてもらおうというのだが、彼女はそれが腹立たしいらしい。

 ……いやね。卑怯に思われるかもしれませんが、俺はならざるを得ないんですよ。
 そのための打ち合わせで、祖父はギルドに根回しに行ってるんです。

 冒険者ライセンスというものは、いまや自由都市同盟では運転免許証と同じ扱いである。山や森での狩猟権、河や湖での漁業権の許可証でもあるのだ。
 ファルカ家は農家であるが、貧乏ではない。なぜなら爺さんが冒険者であり、農閑期には山へ狩りに行き、毛皮などを獲って糧にしているのだ。最近は専ら俺が狩りをしている。爺さんが元凄腕の冒険者だからこそ、ライセンスをもってない俺が裏山で狩りをやっても、なぁなぁで通る。俺はあくまで助手。ルール上は問題ない。
 だが、その爺さんはもう97で、いつポックリ逝ってしまうかわからない。爺さんが天に召されてしまえば、さすがに村長にも看過してもらえないかもしれない。そうなれば俺は15歳になるまで生計が立てられなくなる可能性だってある。
 ……ま、俺自身が作ったシステムなんで自業自得なんだけどな。

 ここでレオナルドの助け舟が入った。

「まぁ、待ち給え。そう卑怯なことでもないだろう?推薦されたところで試験が受けられるだけであって、実力が伴わなければ落とされる。第一、冒険者なんてものは、なってから何をするかが大事なわけで、ライセンスなんてものは…」
「黙れ、金髪。お前には聞いてない!」

 一回り以上の年上の年長者を冷たい視線で睨みつける金髪美少女。
 これにはレオナルドも唖然とした。
 うわぁ、強ぇ。怯えが一切感じられねぇ。
 なんの道理も無い我儘を押し通して、敵を作るのすらためらわないってか。
 恥じぬ、媚びぬ、顧みぬ。
 これが若さか。
 てか、お前も金髪だろうが……。

「冒険者の試験って、難しくないんでしょ?」

 そうだな。Fランなら空手や柔道の初段ぐらいじゃないか?それならそこらへんの中学生でも持ってるだろう。多少、体が小さい奴や体力の無いやつでも2、3年鍛えたら受かるはずだ。別にうらやましがるほどのものじゃない。

「……そう聞いてます。あなたも冒険者になりたいわけですか?」
「アンタみたいなチビになれるぐらいなら、よ!
 だいたいアンタに冒険者に見合う実力なんてあんの? あんなヨボヨボの爺さんの目が確かだなんて思えないわ!」
「だから、それを試験で見てもらうだけですって……」

 ああ、なるほど。この子は冒険者を志して、この都市にやってきたが年齢制限に引っかかったんだな。
 これは秘密なのだが、冒険者登録システムというのは、この魔法文明の世界でも、かなりハイテク…いや、オーバーテクだ。
 このシステムは第七天使の聖骸を核としたサーバーシステムを使っている。
 人間の体は誕生の瞬間から固有の魔力波を放っているのだが。このシステムは、誰かが誕生すれば、それを検知してレコードする仕組みなのだ。つまり世界中の人間に対し、生まれた瞬間に偽証不能の戸籍(データベース)を作ってしまうという優れものである。
 窓口で名前の詐称することは可能だが、偽りの年齢や種族名を登録しようとすると、嘘がバレる。 

 俺はため息をついて告げた。

「なら、あなたもB級以上の冒険者に推薦して貰えばいいんじゃないですか?」
「いたら苦労はしないわ!」
「あなたの苦労なんて僕の知ったことじゃありません。僕の苦労だってあなたの知ったことじゃないでしょう?」

 俺の言葉に彼女はますます目を吊り上げて激怒した。
 だんだんと注目を集めだす。

「一体どうしたんだ。ケンカか?」
「子供同士だぜ?」
「いいぞー。やれやれ―!!! そうやって仲良くなれー!!」

 朝から酒を飲んでる暇人が煽りだした。
 勘弁して欲しい、俺は子どもとケンカする気はないんだ。

「いいわ!決闘よ!!」
「「は?」」

 俺と傍観していたレオナルドの声がハモった。
 わけがわからない。何この超展開。

「私と決闘なさい。私が勝ったら、あなたの推薦枠、私に寄越しなさい!!」
「な、なんだってー!!!」

 すごいな。そうくるか。
 だが、断る。
 だいたい俺がなんでお前と決闘しなくちゃならんのだ?
 俺の推薦状を持って行っても、お前が試験を受けられるわけじゃないのだが?

「冒険者なら争いは避けて通れないわ!!」
「ミッションに関係のないことなら、争いも危険も避けて通るに決まってるでしょ?」
「御託が多いわよ!!」

 まるで、自分の要求が通るまでゴネるというモンスタープロ市民のような娘だ。この娘に対応したお役所の人も大変だったろう。
 迷惑な話だ。男ならぶん殴ってやりたい。
 だが、俺は女の子を痛めつけるようなことはしたくない。
 フェミニストだからな。
 こんな世間知らずな生意気なガキを躾けるような出歯亀もする気はない。

 そんな、俺がどうやって回避しようかと思案していると…

「よーし!いいぞ―!!俺が仕切ってやる!!」

 一人の客(冒険者)が酒瓶を片手にアホなことを言い出した。
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