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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第三章

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第四十五話 巫女頭

 他とくらべてやや豪奢な巫女服。眉頭だけを残した引眉。化粧は最低限。一重瞼の方が返って美人だろと言わせんばかりの凛とした目元。そして、濡烏のような艶めいた濃緑の長い御髪。
 オリエンタルな神秘性を感じさせる二十代半ばの女性だった。
 名前はセリア・ウィーゼルというらしい。
 代々、陵守の巫女頭を務める、ヴィーゼル家の現惣領。
 前世の『俺』の妻の実家の裔であり、縁浅からぬ間柄なわけだ。
 だが、無実の人間を拘束しといて、この頭の高さとは恐れ入る。

 セリア・ヴィーゼルは左右に巫女二人を引き連れ、無言のまま、三ツ葉葵の紋所でも見せびらかしてるかのごとく、やや威圧的な眼差しで俺とフライアを睥睨していた。
 そんな彼女に対し、フライアはさしてうろたえるそぶりもなく食事を続ける。まぁ、A級冒険者は修羅場はくぐってるだろうからな。この程度でオロオロするような神経はしていないし、面の皮も分厚い。
 咀嚼を終え、フライアはようやく口を開く。

「陵守にしてはお粗末な捜査ですわね? セリア」
「致し方ございません。対テロ工作でございますので……」

 いやいや、あれを対テロ工作とか言っちゃったらプロに失礼だろ。
 捕り物としちゃ中坊向けの戦争アニメ並、素人感ありまくりの作戦行動だったが。

「で、いつ帰してもらえるんです? 無実が証明されたのならさっさと釈放してもらいたいのですが……」
「お二人には今後もご協力をお願い致します」
「協力とは?」
「これは極秘捜査です。軍警備隊に情報が漏洩することは好手ではございません」
「……私たちにやって欲しいことを具体的言ってくださいまし」

 フライアの問いにセリアは目を伏せて嘆息する。
 不本意だが、背に腹は代えられぬという表情だ。

「まぁ、察しはつきますわ。賊に攫われたのですね? 『巫女姫』が」
「「………」」

 居間が静まり返った。
 おい。今、なんか飛んでもないことを口にしやがったが。

「…………え?」

 俺は、『不本意にも』フライアと顔を見合わせた。

「だってそうでしょう? 陵守に捜査権が与えられているのは、巫女姫が岩戸よりご啓示を賜れるからです。天子様のご慧眼は何もかも御見通し。聖殿に侵入した賊の行方などすぐに看破できるはずなのです。それができないということは、ご啓示を授かるべき第一人者が行方不明であるということですわ。
 まぁ、誘拐されたと推測するのが妥当ですわね。違いまして?」

 いやいや、別に何もかもお見通しってほどじゃないが……。
 まぁ、セレ◯ロみたいなもんだからな。確かに犯人の追跡くらいはできるだろう。
 俺はセリアの顔を覗き込む。次いでその横に侍る巫女たちも。

「……それ、マジ……なんですか?」
「…………」

 巫女たちは一瞬眉間がピクリと動いた後、平静を装った。
 それはフライアの推測があながち外れてないことを証明していた。

「ええええええええええええええええええ!!!? 巫女姫が拉致されたぁ?」
「こ、声が大きい!」

 この大声はわざである。
 この離れ小島でいくら騒ごうと余人に聞こえるはずがない。なのに慌てて叱責する巫女さん。
 どうやら、フライアの読みは外れてないどころか図星のようだ。

「そりゃ、驚きます! 何、その異常事態。実務的にも宗教的にも第一人者を拉致られるとか、史上空前の大失態ー!!わーわー! この人たちVIP拉致られよったー!!! うわースゲー!!!
 それで対テロ工作ですってッ!!! 最早、ウィード不可避だよッ!!!」

 と、調子に乗って人差し指で指さしながら騒いだら、巫女さんたち全員に殺気だった目で睨まれた。
 考えてみれば、俺にとってはギャグでも彼女たちにとっては出処進退がかかっているのだ。
 悪ふざけは余計な恨みまで買いかねない。無用な挑発はやめておこう。

「ジュリア・フライア殿?」
「はい」

 俺が黙ったところで、巫女頭セリアがフライアに話しかけた。

「上級冒険者には冒険者ギルドを介さずに極秘ミッションを依頼できるはずですね?」
「ええ。ただ厳密には、依頼を受ける冒険者側の判断に基づいて、依頼の一切をオフレコにできる、というだけですわよ?」

 掲示板を見て仕事を選ぶのは大抵、下級冒険者だけだ。
 中級以上の冒険者は、基本的に依頼人から指名されて仕事を引き受ける。高度なミッションになればなるほど、専門性が高くなる。報酬についての交渉や、依頼人側からのサポート条件の確認など、綿密な打ち合わせが必要になる場合もあるだろう。
 そして、上級冒険者になると、ギルドすら完全にハブってミッションをこなすこともあるらしい。本来ギルドは冒険者が非合法な依頼を監視する組織でもあるのだが、上級冒険者になれば『高度に政治的な冒険』という理由で、依頼内容を秘匿する裁量権が与えられている。

「では、ジュリア・フライア殿。我ら陵守はA級冒険者たるあなたに依頼いたします。無論、秘密裏に……」
「依頼内容と、報酬は?」
「目的は『巫女姫ステラ・ブランシェの捜索し、見つけ次第保護すること』。ただ、陵守は市民の皆様からの税金で運営されております。予算はガラス張りため、金銭的な報酬は用意できません」

 たしかに上級冒険者の依頼は高い。
 だが、出せないってことはないだろう。政庁に申告すれば出してくれるんじゃないだろうか?
 何しろ巫女姫の安全がかかっているんだからな。

「……そこで、こういうのはいかがでしょう? 『今後、貴女の活動において『啓示』が必要になった場合、陵守は他より優先して貴女の要請を聞く』と」

 おい。なんじゃそらっ!!

「ちょっと待ってください! それ職権乱用っていいませんか!?」
「………子供はお黙りなさい」
「大人子供の問題ですかっ! 本来、聖骸を権力者に利用されないためにアンタら陵守がいるんでしょうが! なのに自分らの失態隠しのためなら利用するんですか?」

 彼女も少し自身の良心に障る所があったのだろう。俺が指摘すると巫女頭セリアは苦いモノをかみつぶしたように口元を引きつらせながら、弁明した。

「……し、失態隠しではありません! 今は巫女姫様の安全確保が第一。そのための苦肉の策です」
「だったら極秘に依頼するより政庁や軍警備隊に報告するのが先でしょう?」

 まぁ、そんなことすれば今後、陵守の人事には政庁から横やりが入ってくるかもしれないし、陵墓の警備についても軍に頭が上がらなくなったりするかもしれないがな。
 知ったことか。

「……たしかに傍から見れば保身のための隠ぺい工作としか思えませんわねぇ。外聞はよくありませんわ」

 ほら見ろ……。
 これには、かのフライア先生ですらそう思うんだ。
 彼女は静かに立ち上がり、セリアの眼前に向かい合う。

「………でも、お引き受けしますわ♪ その方が面白そうですし……」

 おいこら。
 セリアの手を取り、満面の笑みで依頼を快諾するフライア。

「このジュリア・フライアの最も好きな事のひとつは 、確信犯的悪巧みの勧誘にYESと乗ってやる事ですわ」
「ならば、契約成立ですね?」

 迷惑な天邪鬼である。岸辺○伴とは逆方向の斜め上をいきやがった。
 悪代官と越後屋のごとく陰湿な笑みを交わすBBA二人。
 忘れてたわ。そういえばこのアマ。良識そのものが腐ってるんだった。
 なんかもう頭が痛くなってきたぜ。

「あっそう。じゃあもう僕を巻き込まないでくださいね」

 俺は立ち上がり、部屋を立ち去ろうとする。が…

「お待ちなさい」
「なんです?」

 巫女さんたちが立ちはだかった。

「今の話を聞いていなかったのですか?」

 セリアが問いかける。

「聞いていましたよ。なんかもう眩暈がしてきましたが…
 今回の事件、陵守はあくまで隠し通すためにフライアさんに巫女姫の捜索を頼むんでしょう?
 僕は引き受けません。だから帰ります」
「『僕は引き受けません』……ですって? ククク……」

 何が『ククク』だ。そこは『ムムム』だろうが。
 まぁ、それでも断るが。

「ええ、引き受けません。引き受けるか受けないかは僕の自由でしょう? 僕は悪事に手は貸したくはありませんので」
「ククク……」

 含み笑い。そして一瞬の静寂の後、彼女の顔が歪んだ。
 ……まるで某顔芸デュエリストのように。

「一体、何勘違いしやがるんですか! この下級冒険者がっ!!!」
「………はい?」
「私がミッションを依頼したのはジュリア・フライアです。下級冒険者ごときに頼んだ覚えはありません!」

 下級? いえ、初級です。
 そんな『下等生物』のごとく侮蔑をこめて言われる筋合いはない。たしかに上級・中級者には及ばないが、誰だって最初は初級(ルーキー)だ。

「でも、あんたさっき言いましたよね!? 『お二人には今後もご協力を』…って、だから僕は」
「ええ、フライア殿には巫女姫様の捜索をしていただきますとも! ですが、あなたはそんなことをする必要はございません。巫女姫様がお戻りになるまで、大人しくしていただきます!! 者ども! ひっ捕らえなさい!!」
「「ははっ!!」」

 巫女頭の大号令により、襖戸を乱暴に開けて登場したのは、大太刀や薙刀で武装した巫女たちである。瞬く間に、切っ先を俺に突き付けて半包囲した。

「この聖殿の『託児室(キッズルーム)』でね!」

 勝ち誇る巫女頭セリア・ウィーゼル。
 へ、へぇ……。託児施設まであるんだ。
 さすが天子様の墓所を守る陵守。福利厚生ちゃんと行き届いてるね……って感心しとる場合ではない。
 要は機密保持のため、俺を拘束するといっているのである。

「誤認逮捕の挙句、不当拘留するつもりですか?」
「すべては御陵を守るため! 聖上の御ためです! 神妙になさい!!」

 ふぅん。『聖上のため』ですか、そうですか。
 つーか、さすがにこの一言にはキレたわ。
 俺の中の決定的な何かが……。

「………ふ・ざ・け・ん・な・あああああ!!!! そもそも全部お前らのせいだろうが!!」

 突然逆ギレした俺に、臨戦体勢となる陵守の武装巫女。
 俺はバックステップで包囲を突破すると、畳を引っぺがし、セリアに向けて蹴り飛ばした。
 しかし……

「せいやあっ!!」

 紫電一閃。
 セリア・ウィーゼルは俺が渾身の後ろ回し蹴りで叩きつけた一畳を、手にした大太刀で一刀両断した。

「ハッ! 子細工を……」

 こいつ、意外と武闘派だ。
 セリアの太刀を掻い潜り、他の巫女たちも視界に捉えつつ、二枚目の畳返し。
 同様に両断された畳は、武装巫女の一団を巻き込んでわずかばかり陣形を崩すのに成功したが、それも束の間、セリアは一足で間合いを詰め、袈裟懸けに斬り込んできた。

 ようやく分かった。コイツもキ◯ガイである。
 拘留が無理なら口封じするつもりか。

 即座に後退し、初太刀は躱す。だが、太刀の間合いは遠い。フィールドは狭い。後ろに逃げ続けたら死ぬ。
 俺はセリアの懐に入るしかなかった。
 俺は体勢を崩した巫女の一人から、小太刀を奪うと、セリアが太刀をバックスイングさせると同時に踏み込んだ。だが、セリアは瞬時に足を引き、腕を折りたたんで対応した。まるで内角打ちを得意とする功打者のように。
 刃と刃が交差し、火花が散った。

「チッ……」 

 鍔迫り合いになりながら、舌打ちの音が耳にとどいた。

「おい。……今のは……殺す気……だったろ?」
「さぁ、何の……ことで……でしょうねぇ……」

 白々しくとぼけるセリア。
 体格が違う分、鍔迫り合いは不利だ。向こうに余裕がある。
 いや、不利というか悪手だった。セリアはまるで虎眼流のごとくじりじりと俺を押し込んでいく。
 そもそも、この馬鹿力は女のものじゃない。『強化』まで使えんのかよ。
 この女、少なくとも剣士としてはバルッカやミリィ姉さんより上だ。
 セリアは嗜虐的な笑みを浮かべながら、語りかける。

「ククク……少しでも気を抜けば折れますよ?」 

 セリアの刃は、すでに小太刀の刀身に食い込んでいた。
 彼女の握る太刀は剣気を帯びている。俺の小太刀にも気は込めているのだが、こちらの刀は雑兵用の鈍らなんだろう。このままだと確実に折られる。

「クク……。その齢でこの剣気……大したものですが」

 奥歯に力こめながら、よくしゃべる女だ。
 もしかして三刀流も習ったのか?

「所詮は井の中の蛙! 世界の広さを知りませんわねぇぇぇぇ!?」

 狂気を帯びた瞳がらんと輝く。
 セリアは上背を利用し、俺を押し潰すべく渾身の力を込める。
 次の瞬間、剣閃がはじけた。
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