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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第三章

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第四十二話 冤罪

 
 ― 主人公視点 ―

 夜が明けた。
 フラットレイ宅の二階には部屋3つがある。一つは夫婦の寝室。もう一つはメルティの子供部屋。もう一つは空き部屋である。空き部屋は二人目が生まれた時のために作ってあるそうだが、まだ夫婦の間には子供は一人しかいないので今は物置代わりだ。長女メルティも幼く、一人で寝るのはまだ抵抗があるらしい。「ママと寝るから私の部屋を使っていい」と寛大なお言葉である。
 俺は早朝、メルティの部屋で目を覚ました。
 昨日は、長時間座学なんてなれない真似をしたせいでぐっすり眠れたぜ。決して幼女の匂いがするベッドで寝たからじゃないんだぜ。あとなんとなく獣の匂いもするが羨ましくなんかないんだぜ。

 フラットレイの奥方は良妻賢母という四字熟語が相応しい家庭的な美人だ。
 ガラスの加工を専門とする魔術師らしい。
 ちなみにガラス細工のような美術品ではなく建材として使われる一枚板のガラスだ。赤字になっても箱モノを作りたがる見栄っ張り貴族様がいるので、この都市のゼネコン関係は不況知らずである。
 おかげでママの方の稼ぎが良いらしく、パパはちょっと立場ないらしい。

「キャラバンの出発は何時だったかしら?」

 リビングに掛けられている機械時計を覗きながら奥方が尋ねた。
 俺は朝食にソーセージが付く、『比較的豊かな中流家庭』の食卓を囲みながら、「8時です」と答える。
 クルリス村はここから北へ50キロの山間の農村である。正直、俺だけなら一日で着くのだが、今回はプー太郎がいる。子熊にはあまりハードな旅は無理だろう。よって、女将さんに相談してみると、プー太郎を荷馬車に乗せて輸送してもらえそうな行商人を見つけてくれた。キャラバンに同伴してクルリスに向かってくれるそうだ。
 ゼフィランサスより北は急峻な山岳地帯だ。万丈の山、千尋の谷が折り重なる人が住んじゃいけないってレベルの大自然なのだが、そんな秘境の中にあっても難易度の高い『ダンジョン』が点在し、そこへアタックする冒険者たちのキャンプ地として人里が普請され、その物流を支えるためのキャラバンが必要とされるわけだ。
 こうしたキャラバンの中核となるのは大手商会だが、旅は道連れということもあって、個人事業主の行商人や俺のように田舎に用のある一般市民も糾合し、毎度毎度、かなりの大所帯になるのである。北へ仕事に向かう冒険者が路銀稼ぎに護衛につくから、大船に乗ったつもりで旅ができる。

「ですので、もうそろそろ集合場所に向かいませんと」
「あら、まだ時間はあるんじゃないの?」

 たしかに、今日の移動は隣町までだから距離も大したことはないし、整備された街道を通るのだから、強行軍というほどでもない。炎天となる時刻を避けても余裕があるだろう。遅れていっても十分追いつける。

「いえ……何事もトラブルは起こるものですから。時間には余裕を持って向かいたいんです」
「しっかりしてるわねぇ……。うちの旦那とは大違いよ」
「フラットレイさんはしっかりしてると思いますが?」
「あら、そう見えるの? なら仕事中は猫を被っているのね。ふふふ」

 フラットレイはご家庭じゃ結構情けないパパだったりするのだろうか?
 曲がりなりにも冒険者で、魔術師ギルドから要人の護衛を任されるぐらいなんだから、「頼りない」ってことはないだろうけどなぁ。
 まぁ、夫婦円満なら俺が口を挟むことはなかろう。

「それでは、そろそろおいとまします。本当にお世話になりました」
「ええ、またいらしてね?」
「はい」

 俺は、立ち上がりぺこりとお辞儀する。

「またね。ぷーた」
「クゥン」

 涙目になって子熊に頬ずりするメルティ。
 すっかり仲良くなった50代と5歳児。
 共働きとはいえ、お客を余裕でお迎えできるご家庭っていうのはすごいね。
 フラットレイはやっぱり立派な大黒柱をしてるよ。

 さて、名残惜しいが、この街ともお別れか。
 俺とプー太郎はフラットレイ親子三人に見送られ、フラットレイ邸の門を出た。
 が………。

「タクミ・ファルカ!」

 門を出たところで、凛とした女性の声に突如フルネームを呼ばれた。
 そして、気が付くと包囲されていた。
 殺気の迸る抜身の白刃と、緋袴姿の巫女さんたちに。

陵守(みささぎもり)である! 吟味のため、汝を召し捕る!」
「………………はい?」

 その瞬間。俺の思考は硬直した。



    *   *   *


 手帳を見せて「ちょっと署までご同行願えますか?」なんて紳士的な警察組織があるのは平和な国だけだ。
 かつて、とある世界の厨二患者が全力投球して挑戦した近代都市国家ゼフィランサスの警察組織もさすがにそこまで進んではいないかった。
 せいぜい、銃を突き付けて床に組み伏せ、「あなたには黙秘権がある!弁護士を呼ぶ権利がある…」などと被告人の権利を読み上げながら被疑者を拘束するどこぞの先進国と同レベルなのだろう。この世界には気の短い奴が多いし、見かけによらず強い奴も結構いる。悪魔の実でも食ったかと言わんばかりの戦闘力を発揮し、兵卒相手に無双しちゃうような連中だっているだ。紳士的対応にも限界がある。
 組織力でそいつらを取り押さえるのなら、こうでもするほかないだろう。銃も発達してないしな。
 ただし、今俺を取り囲んでいる連中は警察でも軍隊でもない。うら若き緋袴姿の巫女さんたちなのだ。

「何事です? これは……」
「陵守である! タクミ・ファルカ。詮議のため汝を捕縛する!!」

 呆気にとられる俺の質問に、薙刀を突き付ける前衛の一歩うしろから、大太刀を抜き放って上司らしき巫女さんがそう宣言した。

「だから何の詮議ですかっ!?」
「汝に答える必要はないっ!!」

 抗議したものの数の暴力の前には圧倒的無力なようだ。
 巫女さんたちは有無を言わさぬ見幕で光り物を俺に突き付ける。向かいの民家の屋根の上から弓兵部隊が狙撃体勢に入ってるし、まるでゴ○ゴとかル○ンとか超大物犯罪者の捕り物かよってぐらい徹底っぷりだ。
 つーか、陵守の役目は聖殿での祭祀一切のはず。なんでこんなところで火盗改の真似事なんぞやってんだ?
 まぁ、ここまで出張ってくるということは聖殿で何かあったというのは察しはつくのだが…。

 巫女さんたち全員が手練れってわけではないし、逃げることはおそらく可能だろうが、ややこしくなりそうだ。とりあえず大人しく連行されてやることにした。
 それにしても一体、俺が何の罪を犯したというのだ?
 両腕を揃えて前に出すと、やりなれてないんだろうなぁ、ややぎこちない手つきで縛ろうとする。そんな縄のかけ方だと簡単に抜け出せるんだけどね。

「弁護士を呼んでください!」
「そのベンゴシとは共犯者か!?」

 ん? ……………あ、しまった。
 そうそう。この都市には裁判制度はあるんだけど弁護士資格なんてものはないんだったね。一般的な犯罪の場合、司法官によるお裁きを仰ぐ。権力者や頭のいい知り合いがいれば擁護を頼んだりするんだった。被疑者の言い分も本人がよほどの破落戸でなければ、司法官の裁量で聞いてもらえるらしい。つまり、大岡裁きを頼むしかないわけだ。
 つか、『共犯』ってなんだよ? 何やったんだよ下手人は?

「じゃあ、政庁上級職員のロゼッタ・エヴァンスに連絡を取ってください。今日、会う予定がありましたので……」
「で、ではエヴァンス女史には私から……」
「お願いします。フラットレイさん」

 呆気にとられながらも申し出てくれたフラットレイ。
 一応、連絡入れといた方がいいだろう。陵守に逮捕されて、政庁職員の横槍がどこまで力を発揮できるかは知らないが。

 さて、昨日はキャリーに乗せられて連れていかれたわけだが、本日は手錠(わっぱ)を掛けられての強制連行だ。日に日に連行のレベルが上がっているような気がする。明日はズタ袋かぶされて拉致でもされるんだろうか。
 俺はそんな呑気なことを考えながら、巫女さんたちにドナドナされて行った。
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