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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第三章

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第三十九話 星天陵


 禁書『迦具土』

 第七天子が記した魔導書には、人の身で使用可能なあらゆる第七魔術が網羅されているという。
 『魔法』を使うのためには青き血を引いている必要があるが、『魔術』とは貴族に対向するために作り上げられた技術であり、それを必要としない。青き血の代替物として一般的には魔物などから採った『魔石』が必要となる。魔術は魔石を消費することで発動されるのだ。
 魔石がなければ平民は奇跡を行使することができない。しかし、第七天子は自らの頭蓋骨の一部を切り取り、それを禁書に封入した。天子の一部が組み込まれたことにより、禁書の担い手となった者は、たとえ何の才覚もない平民であろうと無尽蔵の魔力を得るという。

 持つだけで無限に魔術をつかえる夢のマジックアイテム。
 ただし、魔術とは世界の理を歪める術だ。濫用は世界秩序に混乱をもたらす。

 ゆえに『禁書』。

 軽々しく触れてはならぬ秘宝として、大魔導師エデュワ・ブリュンガー自身がこの都市のどこかへ封印した。「この封印が解かれるのは、人々に不可避の災いが襲ったときのみ」と……。

 『禁書』を見つけることなんてそう簡単なことではないが、まずは上っ面な情報だけでも集めないと期間内に探せそうかどうかもわからない。
 なので、とりあえず身近にいる詳しそうな人間に話を聞いてみることにした。

 まず、門限が近づいたため、エリカを宿舎まで送っていく。

「じゃねー♪ また今度!」
「ええ、よろしく」

 さすが癒し姫のお住まいだけあって門衛付きの豪華な宿舎だった。ここにはエリカ以外にも、重要な技術を担うVIP魔術師が宿泊しているらしい。

 さて、エリカと別れた後。
 アレックが「知り合いに詳しい奴がいる」と自信満々にいうので会いにいくことにした。
 まぁ、こいつの紹介っていうとあまり期待できない。
 B級冒険者のマブダチとやらも、女将さんだったのだからな。
 案の定。その「詳しい知りあい」もそうだった。
 なんと、吟遊詩人レオナルド・ハーウェイだったのだ。

 なぜこいつは自信満々に『あまり仲良くなさそうな友人』を頼るんだろうな?
 レオナルドは、私とも、ひと悶着あった人物である。
 一応、謝罪したら気前よく許してくれたので、悪い人ではないんだろうが。

 星天陵の濠の上に張り出す形で設置された、水上の飲食店に聞きなれた歌声が響く。
 どうやらここは『船乗り』をモチーフにしたお店らしく、瓶に入った帆船の模型や碇や舵輪といった船の部品が飾られていた。ネリス王国から取り寄せた海の幸が自慢なのだそうだ。
 レオナルドは、アマルダの旅籠の他にも複数の飲食店と契約し、曜日ごとに違う店で歌っているらしい。
 彼の歌は知識階級に人気があるらしく、魔術街や軍人街でもお声がかかるのだとか。
 一仕事が終わった後、ご飯をおごるという条件で話を聞くことにした。

「禁書のありかねぇ……、知ってたら今頃大金持ちだよ」
「やっぱりか」

 まぁ、期待してはいなかったけどね。

「魔術師ギルドの地下、星天陵、エデュワの私邸、『禁書の在処』と目されている場所はどこも立ち入り禁止だ。確かめるすべもない。お偉方の許可がないとは入れないよ? 厳重に警備されてて侵入は困難だよ」

 線の細い金髪の吟遊詩人は、肩をすくめて微笑した。

「ただ、本当の所在を知ってる人間はどこかいるだろう。いざとなった時の封印を解くための『禁書』なのだからね。
 噂じゃあ、どこかの一族が秘密の守り人として、口伝を伝えてるって話だけど」
「剣聖ファルカなら知ってるのかしら?」
「………かもしれないね。けど、ファルカ先生が教えてくれると思うかい?」

 うーん。難しいわね。
 というかあのお爺ちゃん、ボケてるし。

「だいたいそんな厄介な代物の秘密を、野生の熊一匹救うために、漏らすとも思えんよなぁ…っ痛て!」

 不愉快な口の挟み方をされたので、テーブルの下から向こう脛を蹴っ飛ばしてアレックを黙らせる。

「私は、他の魔術には用はないの! プー太を救う方法見つけたら元通り封印して知らんふりをするわ!」
「アホか。そんな理屈じゃどこの問屋もそうは下ろさんだろうがっ! ………大人しく別の方法を考えた方がいいんじゃないのか?」
「他に何があるのよっ!!」
「そりゃあな、お前。……ちゃんと野生で生きていく術を教えて、北の地に放つとかだな……」

 相変わらず。没個性的な提案だな。
 まぁ、アレックならこんなもんか。

「そのくらい私でも考えたわ。でも、それは後ででもできる! なら今は今しかできることをやる! とりあえず、アイツを負かす!」
「ああ、そうかい……まぁ、好きにしろ」

 アレックは深くため息をついて覇気なく肩を落とす。

「他に知ってそうな人はいないの?」
「政庁の偉い人か、魔術師ギルドの重鎮。あと陵守(みささぎもり)の巫女だね」
「みささぎもり?」

 レオナルドは対岸にみえる陵墓に視線を移す。
 陵墓は作られた当初は底辺が六芒星となる角錐の形をしていたそうだが、もはや木々が生い茂り輪郭が定かではない。

「星天陵の南側には『聖殿』がある。ここからでは死角になっているが、屋根がちょっとだけ見えるだろう? そこに人が住んでいる」

 そういえば、確かエキゾチックな建物が水上に浮かんでたような気がする。

「そこに住んでるのが、聖骸の調整者たる巫女姫と、巫女さんたち、そしてそれを差配する第七天子の后妃の一族だ」
「后妃の一族? それってもしかして貴族なの?」
「いや、平民だよ?」
「え? でも、第七天子の子孫なんじゃないの?」
「第七天子には妃がいたんだが、彼女との間に子を残さなかった。だから、あそこに住んでいるのは、妃の外戚の子孫であって第七天子様の裔というわけではない。出自もたしか平民だしね」

 ということは、魔力はもってないということか。

「彼女たちは祭祀役として墓守の仕事に従事し、聖骸と巫女姫様をお守りするだけで、政治に口を挟むこともないんだ。というか俗世とほとんど関わらない一族だからね」

 なるほど、俗世とほとんどかかわらない一族ね。

「じゃあ、その人たちなら知ってるかもってこと?」
「知らないという可能性もあるよ? もし、知ってたらさっさと禁書を手に入れて、この都市の君主として君臨していたかもしれない」
「ふーん」

 とりあえず、そこに潜入捜査を仕掛けてみるというのはどうだろうか?

「後学のために一応、聞くけど……その『ミササギモリのミコ』とやらはどうやって採用されるの?」
「この都市の南西部『学問街』にある養成学校に入ることだね。半年ほどの研修の後、適性有とみなされたら、巫女として参内を許される」

 ……研修半年か。表口からは無理だな。

「それって、あれだろ? 生娘じゃないと許されな……ってがっ!!」

 あまりに下品に話のコシを折やがったので、さっきより強めに蹴ってやった。

「最低……」
「そんな決まりはないよ。アレック」

 まぁ、アレックのアホは放っておくとして。

「巫女の修行は厳しい。中級冒険者の試験よりも難しいといわれている。
 適性を伸ばすには若い方がいいそうで採用されるのは、だいたい十代の前半の少女だそうだ」

 なるほどな。つまり、ある程度の年齢制限がある分、さらに難しいってことか。

「その適性っていうのは?」
「詳しくは知らないが、聖骸と交信する力だと……感受性が豊かじゃないと共鳴できないから、若い方がいいという話だ。最も優れた適性を発揮した巫女が巫女姫として一番重要な祭事を執り行う。今の巫女姫も若いよ? たしか、君と同じくらいだったと思うなぁ」
「それはちょっと不憫じゃない? 俗世と関わらないってことは、街に出てこれないんでしょう?」
「そうだね。けど、巫女の任期は一般的に10年。引退したのちは生涯年金が出るらしい。『慎ましく暮らしていくのなら十分』というぐらいの額だそうだ。女性としての幸せはそこからつかむのさ……」

 なるほどね。聖域の中で暮らしててもいずれ、市井に降りてくる。
 それじゃあ、『陵守』とやらでも『下っ端じゃ知らない可能性大』ってことか。

 さて、ここで料理が来たので話は一時中断である。
 ここで出される料理はパスタというらしい。
 夕食はもうとったのだが、レオナルドが料理を小皿に取り分けてくれるというので、わずかばかりご相伴にあずかることにした。『メンタイパスタ』とかいう、赤い魚の卵をまぶした麺をフォークにからませ、口に運ぶ。
 アレックはアサリとニンニクがたっぷり入ったボンゴレパスタとやらをズルズルとすすっている。
 この都市の人間はよく音を立てて麺を食べるのだが、どうしてあんな音が出るのか私には理解不能だ。

「話は変わるが……知ってるかい? 天子様が巨大な墓を作るのは、いつの日か復活を果たすためだそうだ」
「ああ、あの話ね。一応知ってるわ」

 これでも一応、家庭教師をつけてもらって勉強している。

 超越者たる『天帝』アウグストゥスは、第二天子との戦いで呪いを受けた。
 死期を悟った天帝は、崩御する前、陵墓の建設を命じた。
 自身の復活のためだ。つまり、帝都にある巨大な陵墓は、いわば天子復活という大魔術のための儀典(プロトコル)というわけである。
 天帝は、青き血を引く子供たちに遺言を遺した。

「子らよ。我が聖骸を守りとおせ。復活を果たした暁には、未来永劫の栄誉を約束しよう」

 以後、アウグスティアの貴族たちは天帝の遺言を信じ、復活した彼とともに世界の支配者に返り咲くことを夢見て、陵墓を守り続けているという。

「まったく他力本願なことよね。何年先になるかわからないってのに。世界制服したけりゃ自分でやれってのよ!」
「そうかもしれないね。
 でも、辺境に生きる我々にとっては願ってもない話だ。天子の力を最も色濃く受け継いでいるのは、アウグスティアの貴族たちだといわれている。
 彼らがその力をほぼ自国防衛のために使ってくれるおかげで、東部は比較的平和なのさ」

 まぁ、中央の貴族たちが征服欲に駆られて暴れ始めたら、この都市だって災難だろうな。血の気の多い奴なら、こんな豊かな土地は真っ先に奪い取って領土にしたいだろう。

「さて、天帝が斃れ、天帝の直系子孫たちが一国平和主義を堅守したことで、統一されたシュトラール大陸は乱れ、群雄割拠の時代に突入する。
 現在のゼイレシア王国、ネリス王国、カルヴァラ帝国の中核となったのは、元をたどればその時分裂したり、『第一聖骸の守護者』という地位争奪戦に破れ、国を追われた貴族たちだ。
 彼らは血みどろの戦いを繰り広げながら、弱者を淘汰し、大陸東部にそれぞれの国を築き上げた。発足当初は辺境自治領だったわけだが」

 それもよく聞かされたな。
 建国物語というやつは、派手に勇ましく語られるものだ。しかし、東部三国がいかに豊かだろうと、この大陸の中心はアウグスティア帝国とその首都ヴェルセティなのである。中央(アウグスティア)から見れば、都会の負け犬が田舎の大将に治まったという話にすぎない。
 ……と考えるのは、私の出自が貴族だからなんだろうな。

「一方、中央で利権を勝ち取ったアウグスティアの貴族たちはというと……彼らも『それで安泰』というわけではなかった。
 天帝は斃れてなお、政道を監視している。為政者が政道を過てば、陵墓に眠る天帝が激怒し、天変地異を起こす。
 地震、干ばつ、冷害、火山の噴火などなど。
 もっとも帝都近郊では天帝のおひざ元なので、そういった天災は起こらず、国の根幹は揺るがないとされるのだが、各地で災害が起これば、そのつどインフラを作り直さねばならず、国力は衰退を余儀なくされる。
 地方の平民たちにとっては正に地獄さ。中央を離れれば離れるほど、飢饉が発生し、治安が悪化するのだからね」

 それらが起こるということは、天帝が当代の為政者を認めていないということだ。

「よって、天災が起これば為政者は責任を取る形で地位を追われ、政権は転覆し、よりふさわしい指導者が聖骸の守護者として頂点に君臨する。次第に彼らは国外から富を収奪するより、国内の足場固めに傾倒し、内向きになっていく」

 まぁ、政争に敗れて追い落とされた貴族たちが隣国へ亡命し、辺境の地族たちはその青き血を吸収して、力をつけたって経緯もありますけどね。うちの実家みたいに。

「天変地異が起こるのは、天帝がお怒りになるからである。これに抗うすべはない。しかし、東部では事情が少し違った」
「天子を奉戴したからね?」
「そうだ。シュトラール大陸の東部はもとは辺境諸侯領なのだが、天子を奉戴したことで『国家』を建国した。ゼイレシア王国、ネリス王国、カルヴァラ帝国の三国だ。
 同じ天子ならば、『天帝』の怒りに抗うことができる。ゆえに、天子を奉戴すれば、その土地には加護が約束され、人が集まり、豊かな国となる」
「第一聖教が掲げる『天帝憤怒論』ね」

 新たな天子が降臨する度に中央(アウグスティア)の連中は、聖典の解釈をコロコロと変えてきた。
 客観的にみれば、ご都合主義もいいところだ。
 しかし、天帝を主とする第一聖教を信じている連中はゼイレシア王国にも、ネリス王国にも多い。

「なかなか学があるね。君は……」

 感心するレオナルド。
 そりゃそうだろう。
 平民に負けてるようじゃ、何のための貴族かと…
 アレックの奴はつまらなそうに頬杖を突いている。
 どうやら話についていけないらしい。

「けど、ご政道が乱れると、天が怒るなんてのは迷信だよ」
「え?」
「ご政道がどうあろうと、自然災害は何年かに一度必ず起こる。それが普通なんだ。アウグスティアと東部三国は天子様の神通力でそれを回避していただけだよ」
「……そ、そうなの?」
「ああ、マグマの流れによって地表は常に動いている。一年間でこぶし一つ分ぐらい動く。その過程で岩盤が大地のどこかで歪むのさ。それが何十年も溜まると、ある日突然元に戻ろうとして地震が発生する。アウグスティアの帝都は、ちょうどその岩盤が歪みやすいところの近くにあるらしい」

 初耳だ。
 くそ、あの家庭教師。嘘教えやがって。

「さて、三国は天子の力で民を安寧させ、豊かな国を築き上げていった。『大陸の中心』がこの東部へ移動しそうなほどの勢いでね。
 しかし、100年ほど前、そんな三国を揺るがす大事件が発生する。三国がそれぞれ奉戴していた三人の天子が、第六天子によって殺されてしまうんだ。
 天子の加護を失った三国はたちまち天変地異に見舞われ、深刻な飢饉が直面した。当時、三国の王侯貴族は傾いた国の財政を、国民や少数部族から搾取することによって取り戻そうとした。
 異種族への圧政はとくに苛烈だった。ドワーフ族やエルフ族、虎人族や蜥蜴族などは、その搾取を受けた種族だ。彼らは非人道的な手口で捕えられ、鉱山や農場で苛酷な強制労働を余儀なくされた」

 その話なら知っている。
 労働環境は劣悪、亜人種として扱われる存在。要するに『奴隷』だ。
 彼らはその不当な扱いに耐え兼ね、異種族は何度も反乱を起こす。だがその都度、貴族率いる軍の前に蹴散らされた。ある者は殺され、ある者は故郷を追われ、ある者はより凄惨なる支配を余儀なくされた。
 誰でも知っている歴史的事実である。

「やがて、故郷を捨てた人々がこの地に逃げ込んできた。宛もなく彷徨い、飢えに苦しみ、そして放浪の果てに、ほとんど盗賊団と成り果てて……。
 しかし、この地を治めていたのは第七天子だった。結局、第七天子と六勇者にこてんぱんにやられ、捕縛されてしまったとさ」

 そりゃあそうだろうな。天領に手を出すとは怖いもの知らずもいいとこだ。

「彼らは第七天子の慈悲にすがった。『妻と子には罪はないので助けてくれ』と。天子は命乞いをする者たちの前に、大量の円匙や鶴嘴を放り投げて、言い放った」

 ― 生憎、お前たちを食わせてやれるほどの金が俺にはない ―
 ― 俺がお前たちに命じることは、貴族たちとなに一つ変わらない ―
 ―  働け。むろん、死ぬまでだ ― 

「そりゃそうでしょ? ムシが良すぎるわ」
「それがね、最後の「死ぬまで」というのは天子様ご自身の崩御のことなんだ」

 あ、そういうオチがつくのか。

「自らの意志で陵墓に入った天子が二人いる。第三天子と第七天子だ。
 彼らは厄災を民から遠ざけるために、自らの聖骸を人々に分け与えた」

 まさに聖人の行いである。
 最強の力をもってしてなお、権力の座に君臨しようとは思わなかったわけだ。

「もちろん崩御の後も、六勇者が彼らの面倒を見た。この土地は豊かだからそれだけの余力があったんだ」

 まぁ、そうじゃなきゃ、こんな慕われているわけもないな。でも…

「甘いわ。民衆ってやつは甘やかすと付けあがるものよ。貧民、棄民はなおさらよ」
「そうだね。けど、人々は第七天子の御陵(おんみささぎ)建設のために働いた。以後、生涯だ」
「生涯? 陵墓は数年で完成したんじゃないの?」

「いいや、完成じゃあねぇのよ! 嬢ちゃん!!」

 ここで、ひときわ大きな声が割って入る。
 ドワーフ族の職人だ。
 棟梁よりはいくばくか若い、ということはわかる。
 彼は私たちが囲むテーブルに一つだけ空いていた椅子にどんと腰かけた。
 どうやら、この会話に加わりたいらしい。

「地下街は良かっただろう?」
「ええ、カタコンベみたいな場所を想像してたけど、あそこまでいくと芸術だわ」
「そうだろうそうだろう!」

 酒も入っているのだろう。ドワーフは上機嫌である。

「嬢ちゃん! 第七天子様の御陵は星天陵じゃねぇ。この都市そのものさ!」
「そうなの?」

 ドワーフ族の職人はどうだといわんばかりに胸をはる。

「おうさ! 復活された天子様に喜んでもらえるよう、毎年どこかにああいう場所を作ってるのさ! たとえ、復活が数百年先だったとしてもだ。俺たちが今ここで懸命に働いていたってことを天子様にお伝えしてぇのさ! ガッハッハッハッハッ!」

 なるほど、いい話だな。

「でも、それじゃいつまでたっても第七天子は復活しないわよ?」

 だってそーだろ、陵墓が完成しないもんな。

「正直言うとな、俺たちは復活の魔術なんて与太話は信じてちゃいねぇんだ」
「え? 信じてないの?」
「おうよ、第一信徒なんかと一緒にすんなって!
 天帝様はかれこれ800年経っても復活してこねぇだろ? たまに冥界で癇癪起こすだけ。
 もしかして、失敗して冥界から出られず、壁ドン床ドンしてるだけなのかもしれねぇな
 ガッハッハッハッハッ!」

 そうかもしれないな。
 なんか、想像すると笑えてくる。伝説に残るような世界最強の存在が、出せー出してくれー!!って涙目になって暴れている様は。

「でも、そうだとすると第七天子が可哀想じゃない?」
「第七天子様はそんなちっぽけな人間じゃねぇのよ」

 お、おう・・・

「名君が巨大な墓を作る理由は、自分の権力を後世に誇示するためだけじゃねぇ! 都市のインフラを築く土木技術や、人心掌握術、工事のスケジュール管理などのノウハウを廃れさせないためだ!
 だから、名君であれば、たとえなんの天変地異が起こらなくても、金がなくても、何かを作り続ける。それができる」
「お金がなくても?」
「ああ、そうだ。そもそも金貨や銀貨なんて所詮天下の回りものだろ? 世の中のどっかで鉱山掘ってりゃ勝手に増える。世の中を巡る金貨や銀貨が減ることはねぇ。増えるだけだ」

「………へ、へぇ…金銀宝石なんて、ドワーフの感覚から言うとそうなんだ」

 ウチの実家なんて、いくら麦や葡萄が出来ても金がたまらないとか父様が嘆いてるってのにな。

「食い物がねぇほうがよっぽど深刻だ。もっと、深刻なのは人材不足だ。
 技術や人材は、一度失ったら取り戻すのは大変だ。
 だから、第七天子さまは食い物を与えると同時に、俺たち職人を育てたんだ。ドワーフだけじゃねぇ、エルフの木工職人も紙漉き職人も、小人族の時計職人やクロマ族の花火職人も、役人も、魔術師も、軍人も、そして冒険者も!
 みーんな、天子様がお育てになったんだ!!」

 ドワーフは話しながらも誇らしげで嬉しそうだ。

「天子様が俺たちドワーフにお与え下さったものは御聖骸と安住の地じゃねぇ。天子様の御陵建設を手がけたことで、俺たちはこの腕ひとつでどこに行っても生きて行けるようになったのさ!!」

 上腕の力瘤を魅せつけて言い放つ。
 すごい自信だ。
 たしかに、ドワーフたちは独自の治水、灌漑、土木、建築技術を培い、大陸中に覇を唱えるほどの技術集団を作り上げるに至った。いまや彼らを敵に回しては、水洗トイレのついたお家も建てられない。
 ちなみにうちの実家のトイレにも水洗ではない。歴史的な経緯もあってドワーフの職人たちはゼイレシア貴族をあまりよく思っていないのだ。

「そうそう。最初に地下街を手がけたドワーフ族の石碑がまた傑作なんだ」とレオナルド。

「『やい天子様よ! よくもこき使ってくれやがったな! おかげでこんな芸達者になっちまったじゃねぇか』ってな」
「「ガッハッハッハッハッハ!!」」

 二人は意気投合して哄笑する。
 結果、青き血の貴族が命令しなくても勝手に良いものができていく。無主の地でありながら強固な団結力を発揮する、というわけか。上手くやったものである。
+注意+
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