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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第三章

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第三十六話 類と友は互いにひかれあう

 なぜ俺の周りには可愛い女がいないのか?
 そんなことは簡単。
 類が友を呼ぶからだ。
 周りにいる知人、友人なんてものは所詮、自分自身の鏡のようなもの。もし周りに碌な人間がいないとしたら、往々にして『自分自身がその程度』なのである。

 部下がいうことを聞かないなら自分に人望がないからだし、上司がつまらない奴なら自分自身がその程度の奴に顎で使われるレベルの人材だからだ。
 もし、「自分のせいではなく環境が悪い」という奴がいたのなら言ってやりたい。「なぜもっと努力して価値ある場所に移り住まないのか。燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや。もっと広い世界に出て、レベルの高い連中と切磋琢磨して自分を磨いていけばいいではないか。素晴らしい仲間に恵まれているという奴は、よほど運がいいか、幼いころからそういう努力を続けてきた奴なのだろう。お前はそれができない奴だから、そこにくすぶっているのだ」と。
 異性とて同じだ。男として魅力がないから、周囲の女は努力して魅力的に振舞おうとはしないし、女として魅力がないから、周りの男も無理して甲斐性を発揮しようと思わないのだ。
 現実とはそんなもの。それが嫌ならスマフォ相手に恋でもしてりゃいい。碌な男がいないと嘆く毒女も、二次元にしか興味がないというオタク男も、妄想の世界に逃げ込んでるという意味では似た者同士なのだ。

 だからこそ、俺は「不幸だー!」なんて死んでも口にしたくない。
 まぁ、一度死んではいますが。

 というか、周りに『いい奴ばっかり』という方がむしろ不気味だ。
 ハメられてんじゃないのか? って不安になる。
 あるいは、「自分ももっと努力しなきゃ」とか焦燥感に駆られるだろう。
 考えてみれば、どっちもめんどくさい。
 そう思えばDQNって、気楽だな。
 レッツ、ポジティブシンキング! DQN万歳だ。
 そもそも、俺は今のところ女には興味がない。
 SEX! 不要なしッ! 頂点は常にひとりッ!

 まぁ、あえて弁明させてもらえば、だ。
 俺はまだ8歳だろ?
 伸びしろがあるとかないとか以前に、男として魅力がない。
 これはもうしょうがないさ。
 たとえば、花も盛りのミリィ姉さんが俺相手に『女の顔』をするなんてありえない。仮に俺がどんなに努力して、向こうがどれだけ憎からず思っていようと営業スマイルが関の山なのである。
 なにしろ一緒に風呂に入っても何とも思われないんだからな。是非に及ばんではないか。

 ロゼッタの引き摺るキャリーの上に座り込んでそんなことを考えていると。

「ファルカくん? そろそろキャリーから降りてくれませんか? 重いんですけど?」
「えー、ロゼッタさんが乗せたんじゃないですかぁ…僕は座ってるだけでよかったのでは?」
「赤ん坊じゃないんだから、ちゃんと足で歩く!!! というか、本の上に座らないの!」
「へい、へーい」

 自分で連行しといて勝手な奴である。

 第七天子の陵墓『星天陵』はぐるりと水濠で囲まれている。都市の中央の鎮座する陵墓は建造当初は石積の陵墓だったが、今や木々が生い茂る離れ小島だ。そんな小島を対岸に臨む、景観のよい濠の外側はゼフィランサス市民の憩いの場だった。
 公園の近辺には露店がならぶ。こういう露天商を管理しているのは商工ギルドとはまた別のギルドである。

「荷物持ちましょうか、ぐらい言えないんですか? 男なら」
「荷物持ちましょうか? お姉さん」
「まぁ、ありがとう」

 棒読みで感謝の言葉を述べられ、キャリーを手渡された。露店の前でそんなやり取りをしていると、見ていた的屋(テキヤ)のおっちゃんにたちまちイジられる。
 おっちゃんは目が小さくてえらが張ってて若いころの渥○清にそっくりだ。啖呵売がお上手なようで、道行く人で人だかりができていた。

「おいおい、坊や。ママのいうことは聞かなきゃだめだよ? おやおや、これまたずいぶん若いママだねぇ」
「ち、違います! この子は私の子では」
「はっはっはっはっ!! そんな若いお母さんに朗報だ! 見てちょうだいよこの魔法の石鹸!! こうやって網でぶくぶくーっと泡立てりゃ! 怒ったママの小じわもあら不思議!! あっという間にきれいすべすべ!!」
「だから違うんですって!」

 ロゼッタは必死に否定する。だが、そんなことは的屋のおっちゃんにはどうでもいいだろう。
 道行く人をイジるのが啖呵売である。案の定、群衆から笑い声の喝采が起こる。どこからか横流しされた『魔法の石鹸』はおばちゃまたちに飛ぶように売れていた。

「はっはっはっ。坊や、親に甘えられるのは今のうちだけど、親孝行ができるのもいまのうちだよ?」
「違いますよ。奥さん。 実はこの人が認知してくれないので、僕らは戸籍上赤のた…にぅっ!」

 中指の第二関節おっ立てて脳天殴られたよ。
 俺は一言も嘘言ってないのに、ロゼッタはなぜか激おこプンプン丸である。
 その剣幕に、拍手打って大爆笑のマダム達。

「こういうときは恋人より親子だってことにした方が自然でしょ? 僕だって爺さんの養子って自己紹介するとややこしいから、いつも孫だって、あ痛たたたたっ!」

 俺の頬をつねり上げ、足早に通りを抜けるロゼッタ。せっかく買い物のオバちゃま方にバカ受けだったのに……。

「私はあなたの母親になるような齢じゃ、あ・り・ま・せ・ん・か・ら!」

 まったく。この人は俺に恨みでもあるのだろうか?
 冒険者試験じゃ、助けた記憶こそあるが、恨まれるようなことをした記憶はない。俺には。年齢差からしても好意の裏返し(ツンデレ)現象とも思えん。年頃の女子というやつは気難しい。
 まぁいい。最近こういうわけのわからん女と俺は縁が多いからな。そう考えれば彼女は比較的まともな方だ。
 なぁに、かえって免疫力がついた。

「まったく、可愛げがない」

 つーか、俺に可愛気なんて期待しないでほしい。年上のお姉さまに色目を使って、背伸びをしようとするようなオマセなガキにみえるか?
 嵐を呼ぶ幼稚園児じゃあるまいし。
 まぁ、俺はマセるどころか精神的には人生一周しちまってロゼッタはおろか救国の剣聖様だって上から目線で見てるんだからな。もうどうしようもない。

「ところで、ジェイスさんは今日は一緒じゃないんですか?」

 ロゼッタの歩みがぴたりと停止した。
 そして、今日一番の暗黒闘気がほとばしる。

「…………ぬぁんで、私があんな男と一緒にぃいなければならないんですかぁ!?」

 振り返った彼女は悪鬼の形相だ。
 ………彼と喧嘩でもしたのだろうか?
 それでご機嫌ななめなのかよ。俺はとばっちりかよ。

 さて、ロゼッタに連れられてやってきたのは隣町だ。近くに泊めてもらうとか言いながら、もう隣町だ。塀に囲まれた城塞内部なので、まぁせいぜい徒歩15分ぐらいなのだがな。

 通称『軍人街』。
 演習場では飛竜を操る竜騎兵が離陸して、上空で華麗な曲技飛行を繰り広げている。彼らの視点からみれば、ここはゼフィランサス南東側の花弁にあたる。この街は大半が自由同盟軍の敷地になっている区画だ。
 雑多な建物の多い冒険街や魔術街とは違い、真っ白な集合住宅と緑の街路樹が並ぶ規則正しい街並みである。建造物はほとんど鉄筋コンクリート。鉄骨となるH鋼はドワーフ族が地下工房でつくっている。
 槍を模した柵の向こう側に、画一化された一戸建て住宅がならんでいる。なんとか住建のマイホーム展示場のように真新しくはないのだが、整備が行き届いていてきれいに使われている。
 さらにその奥には所々に傾斜のついただだっ広い演習場。
 軍の施設には妻帯者用の宿舎や託児所や学校もあるので、子供たちもいるのだが、その子たちの顔つきにも街の特色が現れている。
 みんなまじめで几帳面そうなのだ。
 街を歩いていると、隊列を組んで行進する槍兵隊や騎兵隊とすれ違う。ここはまさしく軍の街である。乳母車の赤ん坊まで突撃ラッパで起床してそうな精悍な面構えにみえてしまう。
 守護神は六勇者の一人。竜騎士ウォルフラム・バウアー。シュナンやイーヴァイに比べれば、武術の才覚には乏しかったが大器晩成型の男だったと思う。いつも悪戯ばかりしていたガキ大将が軍神様たぁ偉くなったもんだ。

「ここですか? ここ、同盟軍士官の居住区ですよね?」
「ええ、そうですよ」

 ロゼッタは柵の入り口を守る門衛さんに挨拶して中に入った。ここから先は帯剣は許可されない。この街の住人は、城塞都市であるゼフィランサスの中に、さらに柵を作ってそこに住む。理由は一つ。冒険者の敵は魔物だが、軍人の敵は人間だからである。
 封建主義国家ならば国防の中枢を担う人材は世襲で選出されるため、守るべき要人の優先順位はある程度決まっている。王、諸侯、騎士、従士。役割はたいていが世襲だ。
 だが、そうではない自由同盟では、士官になる人間も平民であり、序列の変動が激しい。要人の家族は容易にテロの標的にされることもある。さらにこの同盟の場合、指揮系統そのものが()()の浸透作戦によって内側から容易に腐食される可能性もある。だから軍の機密を守るため、指揮官のその家族たちも厳重に護衛されるのだ。自由同盟領と国境を接する隣国との関係はおおむね良好ではあるが、外交なんてものはテーブルの上で握手をしながら下では足を踏み合うようなものだ。油断は許されない。
 道中、学校から集団下校をする俺と同い年ぐらいの子供たちとすれ違う。運動会の入場行進のように足並みがばっちりだ。飲食店や雑貨店はあるが、食べ歩きをしている子なんていない。このゼフィランサスでは軍の指揮官は世襲ではなく、努力すれば誰だってチャンスが与えられる。ただし、そういう環境で育っていくと、子供たちの国防意識の芽生えも早く、外部の子とは明確な差がつく。結果、同盟の職業軍人も騎士と同様ほぼ世襲になるというわけだ。彼らは物心ついたころから士官候補生なのである。

「あなたも見習ってはどうですか? この街に移り住めば、もうすこし真面目な大人になれますよ?」
「御冗談を、僕は今でも十分真面目ですよ」

 街の基本コンセプトを自分で作っといて何だが、ここの住人になろうとは思わんな。規則・鉄則・禁則事項の有刺鉄線で雁字搦めである。俺はちゃんと働いているし、親孝行もしている。これ以上真面目になってどうするというのだ? 冗談の一つもいえなくなるぞ。

「さて、着きましたわ」
「ここ?」

 目の前にあるのはフラットレイのお屋敷より小さい住宅だ。隣の家と同じ形であり、二階建て庭付き……とはいえ、植木鉢でも並べる程度スペースの柵に囲まれた坪庭である。家は一段高いところにあり、表通りから部屋の中を覗き込めなくなっていた。二階には小さなベランダ付だ。
 二人で玄関の前に立つと、扉が開き、中から若い女の人が出てきた。

「あら、もしかしてお待たせしたかしら? カーミラ?」
「いや、ちょうど1300(ヒトサンマルマル)。定刻通りだ。二階からお前たちの姿が見えたのでな、出迎えた方が良かろうと思い。降りてきたのさ……」

 凛とした女性だった。淡い緑色のショートカット、上下ともに男物を着こなし、細身だがその体幹は長距離選手のように固い筋肉で引き締まっている感じだ。物腰からして軍人だろう。そもそも軍人の街だしな。推測の余地はない。

「ほう? そいつか?」
「ええ。噂の剣聖ファルカ様のご子息よ」
「噂の?」

 うちの爺さんはいまさら噂になってるのか? まぁ、公文書の職業欄に『剣聖ファルカ』と記入しても間違いじゃないぐらいのミスター・ゼフィランサスっぷりだ。それが内緒のお仕事で都市に長期滞在してれば噂にもなるかもしれない。
 緑髪の女軍人は、俺を頭のてっぺんからつま先まで品定めし、ぼそりとつぶやいた。

「……小さいな」

 悪ぅござんしたね。二次成長期前で。
 まぁいい。今のは聞かなかったことにして、ちゃんと挨拶はしておくか。

「タクミ・ファルカです。初めまして…」
「ああ、失礼した。自由同盟軍中尉、カーミラ・グローベルだ」

 彼女は、きっちりとした軍人の姿勢で敬礼する。
 彼女の見かけと、ロゼッタがため口なのを見ると、齢は同じくらい。二十代の前半だ。この齢で中尉ということは、間違いなくこの軍人街の生え抜きだろう。

「カーミラ。今夜はお世話になります」
「ああ、食事も三人分準備はしてある。少々手狭なところだがゆっくりして行ってくれ。さ、立ち話もなんだ」

 三人分? 俺の分もあるのか?

「………あの、今晩、僕はフラットレイさんのところでお世話になる予定なのですが?」
「フラットレイというと魔術師のか?」
「はい。夕食までには戻るということで出てきたのですが……」

 どうやら、彼女は俺がここに泊まると思っていたらしい。

「そうなのか?」
「そうらしいですわよ」
「まぁいいだろう。夕食はここで食っていけ」
「え? でも……」
「帰ってから、フラットレイの所で夜食を食えばいい。育ち盛りだから一日5食ぐらいはイケるだろう?」

 イ・ケ・る・か・っ・!
 育ちざかりを何だと思っているだろうな。この人は?
 そんな俺の心中を全くお構いなしに、カーミラ・グローベルは俺たちを家の中に俺たちを招き入れた。
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