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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第二章

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第三十一話 勝負

 俺たちはリナと子熊を連れ帰り、森を出た。
 森の入り口で、松明の灯りと出会う。
 待ち構えていたのはローブ姿のエグゼリカとフラットレイ。そして、今朝このダンジョンを離れたはずのアレック・ボーンのパーティだった。

「はっ、大口叩いて出かけて行った割には、大したザマだなぁ? 小僧」

 ………うぜぇ。
 こんなDQNなコメントしかできないとは俺もヤキが回ってる証拠なのだが、「ウゼェ」。
 デカい手で俺の頭を押さえようとしてくるので、無言で突っぱねた。
 あいにく俺は今、二人以上の脳筋の顔を見たくないんだよ。

「……んだよ。ご機嫌ななめじゃねぇか? ああ?」

 もともとお前とは仲良くねぇだろうが、ばーか。
 アレックは意地の悪そうな気色の悪い笑みをうかべ、俺の抵抗を馬鹿にするように、力ずくで俺を押さえつけ、その勝ち誇った馬鹿面を近づけてくる。
 はいはい。わかったよ。
 もうその自慢の上腕三頭筋に「俺バカTUEEE」と刺青でも入れちまえ!

「アレック……何の用?」
「何の用…は無ぇだろう? ミリィ。こうやってわざわざ助けに来てやったっていうのによぉ」
「あっそ、無駄骨だったわね」

 ご機嫌ななめのミリィの質問に、フラットレイと、アレックの同僚の魔術師ウィル・ストライフがそれぞれ答える。

「余計なお世話かと思いましたが、一応、依頼主の『アマルダの旅籠』に連絡を入れましてね。非常事態でしたので」
「それで、ちょうどアマルダの旅籠で飲んでた僕たちが、派遣されてきたというわけさ……まぁ、この分じゃたしかに必要なかったみたいだけどね」
「ご無事で何よりですよ」

 どうやら、心配した女将さんが増援として派遣してくれたらしい。熟練パーティの護衛を得たことで、フラットレイは導師エグゼリカがダンジョンへ向かうことを承認したというわけだ。つまり、フラットレイにとって俺たちでは『癒し姫』の護衛として不十分で、アレックたちよりも評価は下だったということである。
 まぁ、それについては正しい判断だったと言わざるを得ないな。
 そんなフラットレイの無言のメッセージに、ミリィは少々不愉快そうな顔をしたが、やがて前に進み出て頭を下げた。リナの監督役は彼女である。母親の要請で先輩冒険者に迷惑をかけたとあっては責任も感じるのだろう。

「フラットレイさん。ご心配をおかけしました。ストライフさんにもこの度は大変なご足労を…」
「ミリィは人間ができてるなぁ」

 お辞儀するミリィの後ろから、バカが赤い髪をなでる。
 彼女はあれほど抜刀を躊躇していた『水鏡』を抜き、アレックの無精ひげを極めて精密に切断した。そして切っ先をのど元に突き付け……

「……やめろ」

 と、往年の人斬りのごとく静かに恫喝する。
 今回の事でミリィもかなり()()()らしい。いまの彼女には二階堂平法も通用しないだろう。これには無神経なアレックも委縮して「アマルダに似てきたな」などとブツブツと独り言を言いながら後退せざるを得なかった。
 さすが、飼い犬の躾には定評があるロックウェル家だ。そのロックウェルでさえ手を焼くほど、リナ・スタンレーがじゃじゃ馬すぎるということなのだろう。

 ミリィにあしらわれたアレックは、今度はリナに声をかける。

「まったくなんて、ザマだよ、おい!」

 彼女は死臭まみれだ。
 まぁ、その優雅さのかけらもない姿は「ザマ」にも見えるか。
 もちろん、これはさっきまで森林狼相手に無双していたときに付いた返り血であって、彼女自身は全くの無傷である。

「…………」
「ッ!!」

 あっーと! ここでスタンレーくん、華麗にスルー!!
 アレックくんはバランスを崩している!!

 心ここにあらず、だろう。
 リナは帰路を歩く間。子熊の処遇について、ずっと頭を抱えて必死に悩んでいた。
 つーか、コイツもちゃんと悩むんだな。
 そういう機能搭載されてないと思ってたわ。

「何かあったのですか?」
「その前に、バルッカさんが怪我をしまして……エグゼリカさん、見てもらえます?」
「はーい、いいですよ♪」

 エグゼリカが治癒魔術でバルッカを治している間、俺は、フラットレイに近づき耳打ちした。今回の顛末と、バルッカ、ミリィと一緒に考えた腹案について話したのだ。
 この策を実行するためにはフラットレイに少々芝居をしてもらわねばならない。事情を把握すると、フラットレイは快く承諾してくれた。

「か、かわいい!!」
「でしょ! でしょ!」

 バルッカの治療をちゃっちゃと終わらせたエグゼリカは子熊をみつけ、リナと乙女トークを開始していた。
 子熊はというと、彼女たち猫なで声があまり心地よくないらしいが、治療のためにしぶしぶ大人しくしている、といった感じだ。
 エグゼリカに転がされたりひっくり返されたりして体中を治療されている。

「ブタオオカミにいじめられてたのよ!」
「えええっ!! 可哀想!」
「どっかの馬鹿が母熊を殺したから…」
「酷い……サイテーです」

 絶対零度の視線がアレックに突き刺さる。
 いやいや、そりゃないだろ?
 アレックは依頼があって害獣駆除しただけだ。
 スイーツとは恐ろしいな。初めてコイツに同情したわ。

「……なるほど、その子熊をリナさんは助けたい、と」
「そうなんですよ。困ったもんです」
「助けるべきです! 可愛いは正義ですから!!」
「……やれやれ、導師までですか」

 フラットレイは俺と示し合わせ、一つため息をついて、宣告した。

「始末するしかないでしょう!」
「「どうして!?」」

 声をそろえて反論するスイーツども。
 いや、わかるだろ? 常識的に考えて……。
 熊と人とは、同じ世界には住めないのだよ? ナウシカ。

「まだ、赤ん坊なんですよ!」
「そうよ! せめて、一人で生きていけるようになるまで……」
「とはいっても凶暴な獣ですからね。たとえ成長するまでとしても、飼育すべきではありません。人間の食べ物の味を覚えてしまった黒鉄熊(フェール・ベア)はダンジョンから出てきて人里を襲うこともあります。中途半端に保護を与えるのは、なお不幸なことなのですよ」

 いつもにこにこしているフラットレイが、真剣な表情をする。
 現実を突きつけられて、スイーツたちも消沈した。
 俺が同じことをいっても反発するだけだろうが、年季の入った大人の男の意見は一味違う。さすが、フラットレイ。年長者は頼りになる。
 …………計画通りだ。

「結局みんな悲しい思いをして、アレックさんの懐が再び温かくなるだけなのですよ?」

 フラットレイは、こんなときでもおちゃめな人である。
 殺気だった目で再度、乙女たちに睨まれるアレック。魔力持ちの二人がそんなに殺気立つと、宮○駿エフェクトでもなんでもなく、リアルで髪が逆毛立つから面白い。
 二人を大いに焚き付けたところで…… 

「………ただし、どうしても助けたいというのであれば、方法が一つだけあります」

 フラットレイが『本題』を話し始めた。

「方法!?」
「あるんですか!?」

 グッドだ。スイーツどもの食いつきがいい。

「まず、都市の条例で、危険レベル3以上の魔獣を飼うことは禁止されています。
 この子が幼獣のうちは、飼うことはできますが、いずれ成長するでしょう。そうなれば始末するほかありません」
「そんな!」
「ただし、『使い魔』なら話は別です」
「使い……魔?」
「『契約魔術』によって使役される魔獣の事です。高位の魔獣を操ることを専門とする魔術師を『魔獣使い』といいます」

 代表的なのが空軍に所属する竜騎兵だ。契約によって、飛竜という凶暴な魔獣を使役する。
 人間より強力な魔物を使役するわけで、高度な訓練を受けた者しかなることはできない。
 契約魔術があれば、害獣も益獣として人に飼われて暮らすことができる。
 フラットレイが提示した裏道に、リナは百万ドルの無邪気な笑顔を浮かべた。

「なによ! そいつを探せばいいんじゃない!」

 単純な奴である。

「そいつを探し出して預ける。ううん!! 私が覚えて、この子は私の使い魔にするわ!!
 平民にも出来る契約魔術ぐらい私にできないはずはないわ!!」

 ここまで俺の掌の上で全力で踊ってくれるとすがすがしい。
 言っちゃいけないことまでぽろっと口に出しているが、まぁ、周知だし問題ない。
 アレック組にもアマルダが釘を刺しており口外されることはないとのことだ。

「ただですね。
 レベルの低い魔獣であれば、公開されている術式を使えば契約できますが
 黒鉄熊との契約魔術など、使える術者が果たしているかどうか……」
「そうなの?」

 フラットレイが作った困惑顔に、リナは首をかしげる。

「魔獣使いだからといって、どんな魔物でも使役できるというわけではないのですよ。
 契約魔術は、使役する魔物の種類によって術式が異なります。
 ギルドに所属している魔術師で、魔獣使いの資格を持つ者でも、一つか多くて二つですね」

 ここで俺が口をはさむ。

「僕はいないと思いますけどね」
「うるさいわね! なんでわかるのよ!?」
「普通に考えりゃわかるでしょう?平民にとって魔術は高等技能なんです。契約魔術は覚えるだけで生涯、仕事にありつけます。そういう職能なんですよ」
「それがなによ?」
「猛獣を使役するのは命がけですよ?」

 たとえば、飛竜との契約に失敗すればその場で食われかねない。同盟空軍では飛竜乗りの育成しているが、毎年何人かが契約に失敗し、怪我したり、最悪死んだりしているらしい。
 しかし、それでも飛竜の契約魔術が奨励されているのは、飛竜という魔獣に需要があるからだ。
 需要があれば高い報酬が約束される。危険はあるが、その危険にふさわしい名誉と報酬をえることができるのだ。花形職業なのだ。
 だからこそ命がけの魔術でも身に着けようとする者がいるし、より効率的な契約魔術の開発を目指して飛竜との契約術式は日々研究されている。

「だからそれがなんなのよ! 前置きがくどいわ!!」
「熊を使役しても、特に何か利益があるわけではないでしょう? そもそも需要がないのに簡単に見つかると思いますか?」
「見つかるんじゃない! 見つけるのよ!」

 毎度思うが、この意志の固さは何なんだろうな。

「……リナさん。夢を壊して悪いですが、いないんですよ。殺すしかありません」
「いいや、いるわ! 魔術師なんて大勢いるんでしょう!! クマとの契約を研究してるやつだってきっといるわ!」
「魔術は飯の種なんです。一つの魔術を作るのには莫大なお金がかかるんです! 道楽でそんなものを作っている人間がいるわけないでしょう!」
「だから、いるかもしれないでしょう!!?」
「い・ま・せ・ん。無駄な努力ですね」
「このっ!!」
「まぁまぁ……」

 ゴング前のK-1ファイターのごとくにらみ合いをしていた俺たちの間に、フラットレイが割って入る。ここまでは計画通り、ここからが本番である。

「そこまで言うなら、勝負しませんか?」
「勝負?」
「もちろん、殴り合いじゃありませんよ? そんなことをしてもこの子熊の命を救うことはできませんからね」

 そう。暴力ではない。不毛ではない『勝負』だ。

「何の勝負よ?」
「簡単な話です。いると思うのなら、探してみればいいでしょう? ご自身の力で…」
「ぬ?」
「この子は祖父の知り合いの所に預けておきます。子供のうちは大丈夫でしょう。飼育の許可は下りると思います。
 リナさんはこの子が成長するまでの間に、黒鉄熊の契約魔術の術式を手に入れる。あるいは術者を連れてくる」

 もし見つけられたら、リナの勝ち、見つけられなかったら俺の勝ちだ。

「もし見つけられたら、この子を殺す必要はなくなります。僕も敗北を認めましょう」
「へぇ…面白いじゃない」

 リナは不敵に笑う。

「ただし…」
「ただし?」
「………私が勝ったら、謝るだけじゃすまないわよ?」

 ふっ。
 ……こいつの性格からして、そう来ると思ったわい。「勝負とは相手をぎったんぎったんして完膚無きまでに叩き潰すもの」とか思ってそうだしな。

「いいでしょう。では、この子が死ぬまで、飼育にかかる費用を全額僕が支払う、というのは?」
「OK! やったろうじゃないの!!」
「で、リナさんが負けたら何をしてくれるんです?」
「へ?」

 そして、負けたことの事は考えない、と。
 羨ましいわぁ…この足りないものを全部勇気で補っちゃいそうな短絡思考回路。

「な、なんでもやってやるわよ」

 腕組みしてまっすぐに俺をにらみつけてくるリナ。
 おいおい、いいのかよ。
 鬼畜なこと要求されたらどうするよ?
 ま、しないけどな。

「そうですね……こういうのはどうでしょう?」

 俺は自分の表現能力を総動員して、精一杯邪悪な微笑を浮かべた。

「僕が勝ったら、この子は鍋にします。そしたら、あなたはちゃんとその肉を食べるんですよ? 命の恵みに感謝してね!!!」
「………なっ!!!」

 我ながら、なかなかナイスな罰ゲームだ。
 予想通り、それを聞いて、リナはしばらく絶句した。
 そして、やがてこの上ない憎悪の表情で俺をにらみつけてくる。

「………こ……この…鬼!! 悪魔!!」

 おまえがいうか。

「僕は村では、自ら可愛がって育てた豚や鶏を殺して食べています。それが熊だからってどうということはありません。この子熊は良い『出汁』になってくれるでしょうねぇ。言っときますけど、僕は捜索には手を貸しませんよ? 敵ですからね」
「誰が借りるか! 絶対見つけてやるわ!!」
「せいぜい、ご自身の人脈を最大限に利用して探すといいでしょう。
 まぁ、ことあるごとに暴力を振るいまくるリナさんに、どれほどの人望があるかは知りませんが?」

 リナの顔が真っ赤に染まる。悪鬼のような形相だ。

「リナちゃん! 私も手伝う!!」
「どうぞ、どうぞ。いい友人がいるというのも人の実力のうちですから」

 リナがエグゼリカを頼るのも計画通りだ。
 エグゼリカには、魔術師ギルドにこの上のない伝手があるだろう。

 立居人(フラットレイ)を交えた協議のうえ、期間は凩月の終わりまでとした。
 冬の始まりと同時に、美味しい鍋が食べられることだろう。
時系列ちょっとわかりにくいかも、と思ったので改修しました。
サブタイも変更
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