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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第二章

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幕間 森のあくまさん


 飛びかかってきた森林狼(フォレスト・ウルフ)の顎の中に拳を突っ込んで、炎を炸裂させる。
 眼窩から目が飛び出し、沸騰した脳漿と体液をぶちまけて私の髪を汚した。

「くそったれが……」

 こういう言葉を口にするべきではないとさんざん教育されてきたのだが、思わず吐き捨ててしまった。たかが、レベル3の森林狼(フォレスト・ウルフ)。せいぜい民兵一人相当と聞いていたのでなんとかなるだろと高をくくっていたのだが、集団になるとこうも厄介とは。
 森の奥から次から次へと現れる獣の双眸が、魔力の炎に照らされて輝く。また増えてやがる。
 森林狼(フォレスト・ウルフ)は自分より強い敵には決して攻撃をしかけないという。私一人の時には、遠巻きに眺めているだけできっと襲ってこないだろう。
 だが、こちらに弱点があるときは別らしい。
 勝ち目があると見るやいなや、執拗な攻撃をしかけてくる。
 犠牲が出ることなどお構いなしだ。まぁ、畜生だからか。

「グルルルルルゥ……」

 こいつらは自分より強大な獣を襲うことはない。
 襲っても、返り討ちにされるからな。
 だが、幼子を守っているのであれば話は別だろう。
 集団で獲物を取り囲み、親が疲労することを待って子供を殺せばいい。
 ゲス野郎がっ!

 私は自分の足元ですくむ小さな命に視線を向ける。

「クゥン……」

 私の足元で立ちすくむ、まだ幼い魔獣の子。怯えきった子熊はすがるような目を私に向けてくる。おそらく、アレックたちが仕留めた黒鉄熊(フェール・ベア)の子供だろう。
 森林狼(フォレスト・ウルフ)たちの狙いはこの子だ。
 野生の掟は冷酷だ。肉食動物はまず抵抗力のない赤子を狙う。

「グガアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 ふん。話の通じない敵への処方はひとつだ。
 私は、背後上空から飛びかかってきた一匹に裏拳を叩きつけ、下段から子熊を狙おうとした一匹の頭蓋を足の裏で踏み潰し、側面から私の脇腹を食い破ろうとしてきた一匹を肘と膝でプレス粉砕した。
 人語を介さないケダモノを制するには、相手が如何に強者であるかを理解させるしかない。具体的には、より凄惨な方法で殺すか、一番強いヤツを殺すかである。

「……クゥ……クゥ…ン」

 可哀想に、お母さんをアレックのアホに殺された上に、こんな畜生どもに襲われるなんて。
 子熊は傷だらけになりながらもまっすぐに私に眼差しをむけてくる。目に涙を浮かべ、私の足元から離れようとしない。

 私を心配してくれてるのだろうか?
 ふっ… 大丈夫よ。私は強いから。こんな奴らに負けるような鍛え方はしていないわ!
 黒く柔らかい毛皮に付いた痛々しい傷跡を見ると、殺意が湧いてきた。

 ……ゆるさんぞ、貴様らぁ………。
 こんなかわいい生き物を引き裂いて、食べようなんて、なんと非道なド畜生なんだ。人道的に問題有りだ! 犬畜生にも劣るわ!

 も・う・皆・殺・し・だ。

 ふん。狼ってやつはもっと精悍な顔をしているのだが、こいつらは豚みたいだな。
 ぶっちゃけ不細工だ。

「お前らに森林狼(フォレスト・ウルフ)なんて大層な名前はもったいない。『ブタオオカミ』で充分だ!」

 私は足元で虫の息だったブタオオカミを眼前に吊るし上げる。
 そして、その汚らしいよだれを垂らした上顎と下顎の間に指を突っ込んで強引にこじ開けた。
 魔力で強化した私の握力は、御影石の石柱をも握りつぶせる。
 ブタオオカミは最後のあがきを見せるが、私はそのまま、

 ベリ…ベリベリベリ……ばちーん!

 安物の毛皮が引きちぎれ、どす黒い血とくそ袋がぼたぼたと地面に落ちる。

「てめえらに今日を生きる資格はねえ!! 」

 そして私は二つに裂いたそれを、奴らの群れの方へ放り投げた。

 これは無益な殺生ではない。聖戦である。
 かわいいは正義だ!! そして正義は勝つ!!

 私は子熊に精一杯の微笑みを返した。

「ね? 大丈夫でしょ? 安心して……あなたは必ず守るから」




      *    *     *


  ― ???視点 ―

 これは一体、何の悪夢だ?

 失職し、失意のどん底に沈んだ私は酒に溺れ、そのままもがき苦しんで、生涯を閉じた。おそらく急性の心臓麻痺だと思う。
 気が付くと、森のなかにいて、一匹の子熊に転生していた。
 すぐさま、『畜生道』という言葉が頭に浮かんだ。仏教については詳しくは知らないが、六道の一つで、禽獣蟲魚に転生を繰り返し前世の罪を償うという道だったと思う。まぁ、生前、人の恨みはかなり買ったので仕方がないのかもしれない。

 自我が芽生えたとき、母親を失っていた。
 人間に殺されたのだ。それも仕方がない。熊は凶暴な害獣だ。人里の近くで悪さをするようなら、殺さねばなるまい。その時点で、私自身の命運も尽きたと諦観した。
 そして、しばらく森を彷徨い。程なくして、私の最期の時は訪れた。
 ハイエナに似た、いかにも凶暴そうな肉食獣の集団に嗅ぎつけられたのだ。
 野生の本能ゆえだろうか、幼い私も、爪と牙でしばらく抵抗したが、数には勝てなかった。
 ハイエナたちの牙をうけ、ジワジワと消耗しながら、渓流沿いの袋小路に追い詰められた。
 私はこのまま、喰われてしまうのだろう。
 だが、一度は『死』を経験している私だ。
 それもすんなりと受け入れることができた。
 恐怖は無かった…………はずだった。

 『彼女』が現れるまでは……

 『彼女』は私に群がるハイエナを引き剥がし、仁王立ちになって私を守ってくれたのだ。
 一瞬、天使かと思った。
 だが、どうやら錯覚だったようだ。

 それは悪魔の所業だった。
 凶暴な肉食獣の群れを前にして、彼女は底知れぬ不吉なオーラを放ちながら、笑う。私は未だかつてあのような攻撃的な微笑みを見たことがない。
 そして、ハイエナたちの前に立ちはだかると、情け容赦のない殺戮マシーンと化した。
 彼女は襲いかかるハイエナを次々と返り討ちにした。その頭蓋を一撃で叩き割り、蹴り潰し、文字通り()()()()()()()()、引きちぎって投げた。
 体が震える。背筋が凍る。野生動物として転生した私の荒ぶる第六感が、サブプライムが吹っ飛んだときよりもはるかにけたたましく警鐘を乱打する。 

 逃げろ、逃げるんだ! 今すぐ逃げろバカヤロー!!
 目前にいるのは、この世界で最も危険な生命体なんだ!!

 ……だが、足がすくんで動かない。
 あまりにも強烈な光景に、涙目になりながらも視線を逸らすことができない。
 悪魔は、その白磁のような肌をハイエナたちの鮮血で汚しながら、狂気の笑みを浮かべる。

「ギャアキャン!キャン!!」

 ハイエナたちの断末魔の悲鳴が、絶えることなく森の中に響いていた。
どこの動物愛護団体だw
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