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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第二章

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第二十五話 冒険者アレック

 フラグルの森はほぼ街道沿いにあるため、近くまで駅馬車が行き来している。朝方まで降っていた雨のせいで到着はやや遅れたが、馬車のおかげで雨にぬれずに目的地にたどり着くことができた。
 停車場で降り、道標に従い、石畳の桟道を抜けると………。

「うわぁ♪」

 エグゼリカが楽しそうに歓声を上げた。なかなか風光明媚な場所である。
 今は夏だが、秋に来れば紅葉がさぞ美しかろう。
 山合いの渓谷。渓流に生い茂る緑。森の中の吊り橋。その景観を台無しにしない程度の急勾配の瓦葺屋根の集落が見晴らしの良いところに建てられていた。建物は数えられる程度しかない。こちら側に6軒。吊り橋の向こう側に2軒だ。
 この程度なら『集落』というべきなのかもしれないが、

「一応、ギルドの簡易事務所兼、公証役場もあるので歴とした『村』なのですよ。森の管理者たるエルフ族との玄関口としても重要であり、彼らとの協議の上、必要以上に人を常駐させないように取り決めがなされたそうです」

 と、フラットレイが解説してくれた。
 村に農地は猫の額ほどしかないが、飲食店と、宿泊施設はちゃんとある。ここから渓流沿いの隘路を上るとフラグルの森。つまり、ここはキャンプ地なのだ。
 ダンジョンに入る冒険者のキャンプ地、商人たちがダンジョンで得た品物をいち早く買い付けられる場所として、ダンジョン最寄りの人里はそれなりに需要がある。
 俺たち6人が冒険者アレック・ボーンと出会ったのは、そんな村の入り口であった。

「あれ? アレックじゃない」
「お…おまえら……」

 魔獣の甲殻を削り出して作った鎧を着こんだ長身の戦士。腕は丸太のように太く、背中には鉄塊のような大剣を背負っている。
 それは剣というにはあまりにも大きく、分厚く、そして大雑把過な某狂戦士のコスプレかといわんばかりの大剣だった。いやいや、さすがに鉄塊ではなく、竜魔の骨で出来ているというので、かの『竜殺し』ほどの重量はないのだろうがな。

 アレックはちょっと情けない顔で驚愕していた。その理由は、ミリィと並んで歩いているリナ・スタンレーを見たからである。

「ああ、久しぶり……でもないかしらね」
「なんでここに?」
「冒険に来たからだけど?」

 アレックはミリィの方を向き直り、抗議した。

「冒険には行かせないんじゃなかったのかよっ!」

 彼がこういうのにも理由がある。
 数日前のことだ。
 アレック・ボーンは、リナの才能に目をつけて冒険者仲間に勧誘しようとしていた。たしかに、リナはそこらの冒険者よりははるかに強い。反射神経も運動神経もいいし、なにより無詠唱で攻撃魔法が使える。間違いなく逸材だ。冒険者資格こそもってないが、中級冒険者のパーティに入れたって立派に戦力になるだろう。
 だが、いかに強いとはいえ、リナはまだ12歳の少女である。さすがに倫理上の問題と大きな声では言えないが政治的な問題があって、アレックにはアマルダがきつく釘を刺していた。
 自分が釘を刺しておきながら、実の娘のミリィが連れ出して冒険に来ているのだから、そりゃあ不満があるだろう。
 そんなアレックに、ミリィが反論する。

「アレック……これはギルド公認のFランクの仕事よ。護衛を雇って、野草採りにくるぐらい一般人でもやるでしょう。そんな問題かしら?」
「護衛? こいつらがか?」

 アレックはまず女性陣をみて、複雑そうな顔をした。
 彼の連れが全員男だったからだろう。次に俺を一瞥。
 そして、剣士バルッカと、魔術師フラットレイを値踏みする。
 彼らを鼻で笑い、アレックは敢えて挑発的なセリフを口にした。

「頼りになるのか? こんな奴らが……」

 そりゃあ、バルッカは新人だし、フラットレイにしてもEランク………初級冒険者だ。中級冒険者のアレックの方が、実力、経験ともに上だろう。
 年若いバルッカがムッと不愉快そうな顔をした一方、フラットレイは笑顔を崩さない。
 売られたケンカを買おうとしたバルッカを制し、フラットレイが口を開く。

「まぁ、魔獣を相手にするわけではありませんしね。旅籠の料理につかう山菜採りですから、初級冒険者の我々には分相応です」

 糸目の魔術師は飄々と言い返した。

「ふん、初心者のくせに、女連れで冒険なんていい身分だな?」

 まぁな。男三人、女三人。確かに合コンみたいだ。
 約一人おっさんと、隠しているが精神年齢的に爺さんが混じっているが。

「………だが、舐めてると死ぬぜ?」
「「は?」」

 なんか、先輩風ふかしやがった。
 冒険を舐める気はないが、お前に言われても、堀口元気に「上をなめんじゃねぇぜ」とか、言ってたモブボクサーを彷彿をさせるわ。
 魔術師二人、剣士二人、猟師、人間凶器。Fランクの野草採集ごときには万全すぎる布陣だろう。
 リナがいれば火力の方は十分すぎるし、治癒魔術使いのエグゼリカもいる。各自、単独行動なら万が一こともあるかもしれないが、俺や、そこそこ経験もあるだろうフラットレイのサポートまであって、そこまで危険だとは思えん。
 これで危険なら、中級冒険者のお前らだって危険だと思うが? 

「初心者で、女連れだから、野草狩りに6人です。何か問題でも? 
 これでダンジョン入るなと言われたら、僕らは何もできないんですが?」

 と反論すると……

「ふん、そういう世の中を舐めた青二才が一番痛い目をみるんだよ」

 そりゃあ、油断は死亡フラグかもしれないが、そんなこと言い出したら何もできんぞ。まさか、覚悟とか決意とか、そういう厨二的精神論を持ち出すつもりか?
 だが、ちょっとは空気を読んだらどうだ? 
 百歩譲って、精神論も大事かもしれないが、これは女性陣からしてみれば、楽しみにしていた冒険にケチをつけられたような気分になるだろう。

「つーか、アンタこの前、冒険こそが『男のロマン』みたいなこと言ってなかった?」
「勝手に決闘煽って、女の子に怪我させたの忘れたんですか?」
「世の中舐めてるのはどっちよ?」

 リナとエグゼリカ、ミリィからそれぞれ援護射撃が入る。
 女性陣から突き刺さる冷ややかな視線に、しばらく、ぐうの音も出なくなるアレック。

 正直、俺はアレックが何を言いたいのかよくわからない。意思疎通が下手なのだろう。
 まぁいい。
 言いたいことがあるならちゃんと聞いてやろう。話すことが下手な奴には、聞き手側が話しやすいように誘導してやらねば建設的な会話ができないからな。

「……で、C級冒険者のアレックさんが、なんでこんな初級ダンジョンに来てるんですか?」

 俺が質問すると、アレックは「ふふん」と不敵な笑みを浮かべて、仲間が背負っている荷物をガサゴソと解き、それを広げた。

「こいつを見ろ!!」

 アレックが取り出しましたるは毛皮であった。
 彼の図体がすっぽりと収まりそうな、烏色の毛皮である。頭部付きだったの熊だとすぐにわかった。

「こいつがダンジョンに出没したってんでな。依頼を受けて仲間と狩りに来てたんだよ!」

 フラットレイが感嘆の声を上げる。

「ほぉ…黒鉄熊(フェール・ベア)ですか」

 眼球の抉り取られている頭部は、なかなか不気味だ。その虚ろな眼窩に水晶玉でもはめ込まれて、そのうち貴族様の屋敷に飾られたりするのだろう。

「どうだ? え? この森にはこんなのがでるんだぜ?」

 がおー、とその頭の方を俺に向けて、わかりやすいドヤ顔。
 なるほど。
 俺はこんなのを倒したんだぜ! すごいんだぜ! …までは顔に書いてあるのでわかりました。

「………で?」

 俺は特に感情も込めずにアレックに質問した。

「なに?」
「それは、黒鉄熊(フェール・ベア)という種類の熊です。本来の生息地はもっと北の方で、広大な森林地帯を棲家にしています」

 アレックはポカーンとした顔をした。
 どうやらこいつは自分が狩った獲物の名前も知らんかったらしい。
 もしかして前知識なく行き当たりばったりで狩りに行ったのか?
 アレックは後ろにいた仲間と、顔を見合わせる。
 仲間が苦笑しながら頷くと。

「お、おう! いかにもフェール・ベアだ」

 と知ったかぶった。
 お仲間はちゃんと事前調査してたみたいである。
 まぁ、呂布を操る陳宮みたいなもんだろう。苦労がうかがえる。

「このあたりには滅多にいない魔獣ですね」
「はん。だから絶対じゃないんだろ? 現にこの森にいたじゃねぇか。ダンジョンを渡り歩く魔物もいるんだ? Fランクとはいえ何が起こるかわからんぜ?」

 魔獣というのは、繁殖をする魔物である。雄と雌がいて、つがいになって子を産むのだ。
 では動物との違いは何か、というと、『魔素の濃い土地を好む』というところである。魔獣はダンジョンに生息する魔物や植物を餌にしている。ダンジョンの中に十分な食料があれば外にでてくることはないが、個体数が増えすぎれば新天地を求めて、移動することはありうる。レベルの低いダンジョンにだって、強敵が紛れ込んでいる可能性も皆無ではない。

「わかったか? 常識にとらわれてるだけじゃいけねぇんだ」

 わかるか、どあほ。
 常識的行動以上の安全策などないわ。常識的に考えろ。
 危険を冒すなら、下調べして準備して決行。
 孫子の兵法にも書いてある常識中の常識だろうが。
 相変わらず、こいつと俺は会話が通じない。

「そうですね。万が一のことはたしかにあります。ですが、これで万全になりました」
「は?」
「前にも言いましたが、間違った助言は後輩を混乱させるだけですよ」

 いきり立つアレックに「わかりませんか?」とため息交じりに尋ねると、フラットレイが割り込んで解説してくれた。

「このあたりで発見されるのは珍しいですが、たしかに、黒鉄熊(フェール・ベア)が全くいないわけではありません。過去30年に5回ほど目撃報告があり、いずれも冒険者によって討伐されています」
「ほら見ろ」

 まだ、わからんらしい。
 まずフラットレイ先生のお話を最後まで聞けよ。

「ただ、熊は群れで行動したりしません。つまり、一匹始末したら、もう一匹いる可能性はまずないということですよ。群れで行動しない肉食獣は互いに縄張りを持ってますからね」

 そう。熊はどれだけ強くても群れをつくらない。四天王を組織して抜○牙使いの犬っコロと戦争したりとかは、このファンタジー世界ですらしないのである。さらに、フラットレイが補足した。

「アレックさん……でしたっけ? だからこそ、中級冒険者のあなた方に討伐依頼がきたのではありませんか? いち早く駆除するために……。ここには冒険者の資格を持ってない観光客も来ますからね」

 冒険者の町ゼフィランサスでは『景色を愛でる傍ら、ダンジョンの浅いところでちょっとしたアドベンチャー!』…という観光客をターゲットにしたアトラクションも冒険者のシノギだったり、エルフたちの外貨獲得の手段だったりするのだ。
 黒鉄熊なんて凶暴な害獣が出たら即効で駆除したいわな。

「加えて、本来の生息地から外れ、このあたりまで来るということは、それが生存競争に敗れたことも推測されるわけです」
「………えっと……要するに負け犬ってこと?」
「リナさんらしい表現でいえば、そうなるかもません。……とはいえ、熊ですから、縄張りを追い出されても生態系の頂点に君臨する個体にはなれるでしょうね」

 だから、森の生態系を乱されたくないエルフたちもバックアップしてくれるのだ。糞や足跡の情報とか、捜索にかんしては現地スタッフによる至れり尽くせりの藤○弘ミッション並の難易度だったはずだ。
 黒鉄熊(フェール・ベア)の頭部に触れ、その顎をおもむろに開閉させて、フラットレイはさらに洞察した。

「ふぅむ。確かにアカデミーにある剥製よりも一回り小さいですねぇ」
「アカデミーにはこいつの剥製があるんですか?」
「ええ……数年前にカルヴァラ帝国から寄贈されたんですよ。雄の黒鉄熊(フェール・ベア)で立ち上がると身の丈2メイルはあります。これはせいぜい1.6メイルとったところでしょう。おそらく若い雌ではないかと……」

 年の功だけあって、フラットレイは物知りだな。
 3.2メートルということは、地上最大の肉食獣シロクマ並にでかい。
 いや、問題は危険度か、この世界の魔物は必ずしも大きさと強さがイコールではないからな。

「そういえば、黒鉄熊(フェール・ベア)の危険度レベルっていくつなんですか?」
「ギルドではレベル5に認定しています。北方にいる大型の雄で6だったと思いますね」

 滅多に出ない魔獣のことまでフラットレイはよく知ってるな。
 なるほど、レベル5~6ね。俺は同じレベルの鎌土蜘蛛(サイズ・タランチュラ)ってのを狩ったばかりだ。
 あのレベルなら、たとえ出現したとしても、戦い方次第で仕留められると思う。まぁ、二匹目の泥鰌はいないだろうが。
 ミリィが嘆息をつく。

「相変わらず、格下相手にしかケンカ売れないのね。大の男が情けない」

 そのゴミを見るような視線に、アレックは硬直する。
 どうやら、アレックはこの母娘が苦手らしい。「それはさておき」とフラットレイは話を続けた。

「この森にいる魔物の危険度は最高で3だそうですね。鎧蟹(アーマー・クラブ)森林狼(フォレスト・ウルフ)。ですが、どちらも注意していれば遭遇は回避できるかと……」

 なるほど初心者コースである。鎧蟹(アーマー・クラブ)は水辺に近づかなければいいし、森林狼(フォレスト・ウルフ)は、狼というよりハイエナだ。弱った獲物を襲う。森に迷い込んだ幼子が襲われることもあるので、忌み嫌われているが、奴らも人間の戦士や冒険者は非常に警戒しているので、よほど深くテリトリーに踏み込まない限りに遭遇することはないだろう。
 たとえ、どちらにエンカウントしたとしても、慌てることはない。バルッカは冒険者試験でレベル3の骸骨兵を3体同時に相手しろ、という課題をクリアしてきているし、ミリィも剣術はアマルダ仕込み。ちなみに、出発前の手合わせでは、二人の腕前はほぼ互角だった。
 加えて無詠唱で魔法を放てる人間凶器までいる。

「一番、警戒すべきは毒矢蛇(アロー・スネーク)あたりでしょう。レベルは2ですが、致死性の毒がある上に、草叢からいきなり襲い掛かってきます。わたしも、一度かまれたことがあるんですが、あれは結構痛かったですね。同僚の適切な応急処置と解毒魔術によって事なきをえましたよ」
「はーい、あたし使えまーす!!」

 エグゼリカがいるから噛まれても問題はない。もちろん、痛いのなら注意するに越したことはない。
 フラットレイも初級冒険者ながら、年齢相応に経験があり、頼りになるようで安心した。つーか、自慢話より自分の失敗談を語ってくれる先輩の方がよっぽど信用できる。
 つまり、このパーティは戦力、経験ともに十分なわけだ。
 足りないのは、戦闘における連携戦術なのだろうが、弓術試験の受験者で組んだ即席パーティだけでも、鎌土蜘蛛(サイズ・タランチュラ)と戦えたわけだしな。なんとでもなるだろう。

「………えーと、まぁ、とりあえず露払いご苦労様っす」

 唯一、ペースに乗りそうだったバルッカにまでこんなことを言われて、アレックはすっかり落ち込んでしまった。
 そんな彼の肩を叩いて、仲間の一人が励ます。杖を持っていたので魔術師だろう。この毛皮を背負っていた二十代中盤の優男だった。

「まぁまぁ…隊長、ここは本来、初心者用のダンジョンなわけですから」
「……ふん、そうだよな! 所詮初心者だ!! はっはっは!!」

 立ち直りが早いな。
 子供か、こいつは。

「しかし、君もずいぶん豪華なメンバーを集められたもんだなぁ。
 初級冒険者で、魔術師2人。その上、『癒し姫』までとは」
「今回はほとんどアマルダさんのご厚意です。今後このメンバーでパーティを組んでいこう、というわけではありません。
 今回はルーキー四人の合格記念クエストみたいなものですよ」
「なるほど、合格記念か……それじゃあ、ケチをつけるのは野暮ってもんだな。悪かったよ。うちの隊長が失礼をした」

 神対応。まさに紳士だな。
 一応、アレックがリーダーらしいが、依頼人との交渉などはたぶんこの人がやってるんだろう。この人は社会人のようだから、俺もなるべく丁寧な物腰で挨拶しよう。

「あ、申し遅れました。先日、試験に合格しました初級冒険者のタクミ・ファルカです。まだまだ若輩者ですので、ご教示、ご鞭撻をよろしくお願いいたします」
「ああ、これはご丁寧にどうも。ウィル・ストライフだ。魔術師をしている」

 アレックは馬鹿だからどうでもいいとして、こういう人に図に乗っていると思われるのはよくない。社会人は横のつながりが大事だからな。

「………ふん…ウィルに対しては随分と猫を被るんだな?」

 腐って茶々を入れてきたアレック。まだいうか、よかろう。

「年相応の受け答えさえしていただければ、あなたにも同様の丁寧な挨拶をして差し上げますよ? アレック隊長?」
「なにおぅ?」
「(まぁまぁ、隊長……相手は子供ですから)」

 この人も大変だな。
 子供より子供っぽい大人って、身内としてすごく恥ずかしいからな。

「よろしくな、期待のルーキーくん」
「正直、あまり期待されても困りますが、よろしくお願いします」

 ウィル・ストライフと握手を交わす。
 彼は女性陣とは全員顔見知りだったようで、俺以外では初対面のバルッカとフラットレイとだけと握手を交わした。挨拶がおわると、てきぱきと毛皮を丸めて再びそれを背負う。

「じゃあ、コイツの換金もあるから俺たちは街に帰る。
 強い魔物はいなくなったとは思うが、万一のこともあるからね。
 簡単な仕事でも、ダンジョンに入るときはくれぐれも気を付けるんだ」

 アレックの言いたいことを見事に三行にまとめてくれました。 
 こういう言い方をすれば後輩から馬鹿にされることもないのにな。
 アホな奴である。

「じゃあ行くぞ」

 仲間はみな普通科連隊行軍訓練並の大荷物を背負ったのを確認し、アレックは号令した。
 歩き出した彼らに、素朴な疑問からリナが小声で質問した。

「ねぇ、図体のデカいアレックが一番、背負うべきじゃないの?」

 ウィルが苦笑して答える。

「隊長はうちの主要戦力だ。万一のときに即応できなきゃいけないんだよ。荷物持ちは僕らの仕事さ」
「ふぅん」
「隊長は、ああみえて修羅場での勘働きは大したものだから……」

 人間の身体能力がカンストする地球と違って、この世界では主力プレイヤーが自由に動けることが最重要とされている。それがメンバーの生死をわけることもあるのだから、アレックのやってることは不公平というわけではない。
 彼らの背中が見えなくなったところで、リナがミリィに質問した。

「ねぇ、アレックってそんなに強いの?」
「強いわよ? 私は一度も勝てたことがないわ。馬鹿力の上に剣もうまいし、反応も早い。
本気で戦ったら、あの母さんが勝てないかもって…」

 それはすごいな。
 あのアマルダが一目置いているとは。
 アレックもあれでレベル5の魔獣ならナメプできる程度の力量はあるらしい。

「ただ……」
「ただ?」
「馬鹿だから、周りの評価を下げてるの」

 ……………だろうな。
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