挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第一章

24/78

幕間 剣聖の後継者

「……派手な真似をしてくれたな」
「ホントですわよね。秘伝の第七魔術なんて魔術師ギルドの連中が知ったら大騒ぎですわ」

 ゼフィランサスの政庁。報告を聞いて市長ジェファーソンは眉間を指圧する。そして、すぐ目の前、マホガニーで誂えた重厚なデスクに腰かけた若々しい娘の肢体を直視してよいものかと顔をそむけた。こんなところを見られたら不倫だと誤解されかねない。

「そりゃあ若干8歳で剣聖ファルカが推薦してくるぐらいですから、気功術ぐらい使えるとは思っていましたが……」
「派手な真似とは、あなたのことですよ! フライア試験官!」
「私に依頼したということは派手にやれ、という指示ではなかったのですか? 市長閣下」

 黄金の長い髪のエルフは何食わぬ顔で爪など磨いている。これだからエルフの扱いというのは困る。こんな小娘に見えても、ジェファーソンより年上なのだから。

「剣聖の縁者だから剣術の試験を受けに来る、というのはそちらの計算違いではございませんの? そもそも、弓の腕前から剣の才覚を測れという方が無茶ではありませんか? わたくしも知恵を絞り、赤字で企画しましたのよ?」
「それは貴女の趣味でやったことだろうが! レベル6クラスの蟲魔はいくら何でもやりすぎだ!」

 ジュリア・フライアはジェファーソンに対し、艶めかしい背を向けながら、舌を出して答える。

「魔術まで使えるなら、もっと強い魔物を用意していましたのに…」

 そもそも、今回の実技テストの試験官にフライアを捩じ込んだのはジェファーソンである。彼はロゼッタ・エヴァンスが疲労困憊になりながらも提出してきた報告書に目を通し、「弓術テスト受験者18名全員合格」という結果がもたらす各所からの苦情問い合わせにどう対処するかを思案せざるをえなかった。
 まぁ、それは些事にすぎないのだが…。

「彼の剣の方はどうだった?」
「あの身のこなしで弱いわけがないでしょう? まだ体はできていませんが、『気』の制御技術はすでに達人(マスター)レベル。野山を駆け回っているうちにそれを身に着けたのであれば、剣聖が推薦するのも頷けますわ」

 それだ。それこそが一番、思案せざるを得ない報告である。

「どうします? 次は噂を流しますか? 彼はまさしく剣聖の後継者だと」
「論外だ!」

 論外どころか本末転倒である。あの剣聖自身が後継者にと推薦する養子タクミ・ファルカ。その実力を測ることが計画本来の目的であった。願わくば、剣聖の推薦が単なる親の欲目であるということを、剣聖自身にやんわりと知ってもらい、遺言を考え直してもらうことこそが望ましい決着だったのだ。
 ところが、彼は合格するどころか「剣聖の後継者を名乗っても恥ずかしくない能力」を示してしまう。実戦を模したテストで非の打ちどころのない結果を出してしまったのだ。

「このことは噂には…」
「なるでしょうね。他人の口に戸は立てられませんわ。そもそも、鎌土蜘蛛(サイズ・タランチュラ)を単騎で倒せる時点で、上級冒険者並の戦闘能力ですわよ?」

 こいつはそこまでわかってて、鎌土蜘蛛(サイズ・タランチュラ)などという大物を用意したのだ。ジェファーソンは目の前の女狐に仕事を依頼したことが最大の失策であったことをこのとき思い知った。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ