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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第一章

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第十二話 本番開始

「さて、最終試験を開始します」
「「は?」」

 18人の弓術適正試験を受けた全員を睥睨し、ジュリア・フライア試験官は言った。
 実技試験に進んだ18人全員を目の前にして、である。
 さっきのプレッシャーテストはなんだったんだよ!?

「私は一発勝負で当てたら合格、なんてことは一言もいってません。基本ができているかどうか審査するといっただけですよ? さっきのはただのレクリエーションです。そうでなければ、受験者の試技中にわざとくしゃみなんてしません」

 このアマ……

「そもそも冒険者は魔物を狩らねばいけないわけですから、動かない的なんて当てても意味ありません。最終試験は、この冒険者ギルドの地下に作られた人工ダンジョン『訓練場』で行います。最終試験の準備がまだできていなかったので時間つぶしのために行ってみました」

 俺はちょっと頭にきたが、ホッとした受験者が大半だったようだ。
 さっきまで、悄然としていた連中の顔に安堵の笑顔が戻り、今度は合格だと思ってた(先ほどの審査で的の真ん中近くに当てた連中)の顔が引きつリ始める。
 露骨にムスッとした表情を浮かべるやつ、苦笑いする奴。
 こいつらはまぁ、俺と同じ心情なのだろう。

「まぁまぁ…先ほど外した人は厄を落としたと思えばいいじゃないですか。当てた人も外した人も一喜一憂しないように。
 射的を外してしまった人は、自分がプレッシャーに弱い人であるということを自覚して、取組み方を考えてみてください。そして上手く的に当てた方もです。実際の冒険は競技とは違います。何が起こるかわかりません。思わぬ邪魔がはいることもあるでしょう」

 なるほどな、ものは言いようだ。15メートルの的なんて簡単に射抜けるはずが、平常心を維持するのは難しいと言いたいわけだな。
 こやつめ、ははは。

「さて、突然ですが問題です。『人工ダンジョン』とはなにか分かりますか? タクミ・ファルカ君?」

 ちっ……やはり相当目立つのか、おれは。
 こういう生徒を特別扱いする学校の先生タイプに気に入られても碌なことはないのだが…
 まぁ、仕方あるまい。
 下手に反発するのもガキだからな。

「はい。『負の魔素』を貯めこんで、人為的に魔物が発生するように調整した施設のことです。ただし、そこで生成される魔物からは、あまり質の高い魔石を取ることはできないので、主に兵士や冒険者の訓練に利用されます」
「はい正解です。ほぼ模範解答ですね。冒険者ギルドでは冒険者の育成のため、様々な種類の魔物を捕獲、あるいは繁殖させ、訓練に使用しています。
 このギルド本部の地下にある訓練施設は、みなさんも冒険者になれば、申請の上、利用することができます。では、移動しましょうか…」

 試験官に率いられて、18人が移動を開始する。
 従業員通路を通り、大型エレベーターに乗り込んだ。物資搬入用のエレベーターは18人が乗り降りしても充分なキャパシティがあった。きっと百人乗っても大丈夫だろう。
 エレベーターの中でフライア試験官は解説を続けた。

「ダンジョンの広さは200メイル四方…それぞれに障害物をおいたフロアが3層重なっており、魔物が放たれています。一番上のAフロア。真ん中のBフロア、下層のCフロア。下のフロアにいくにつれ、手強い魔物が配置されています」

 1メイルは約1.6メートル。兵隊が2歩で進む距離である。俺はメートルの方がわかりやすいのでメートルに換算しているが、この世界で地球の直径を元にした換算した『メートル』を使う者は居ない。
 それはさておき、320メートル四方ということは面積で東京ドームの4倍以上。ギルドの地下というより、都市の地下だ。
 やがてエレベーターが停止し扉が開くと、だだっ広い空間が広がっていた。

「フロアはそれぞれパーティションに区切られています。ここはエントランス・パーティション。実際に魔物が放たれているのは扉の向こう側です。扉はそれぞれ違うパーティションにつながっており、違う種類の魔物が待ち構えているでしょう」

 このエントランス・パーティションは広く、天井も高い。バレーボールぐらいはできそうだ。
 壁にはI~Ⅻの扉が時計回りに並んでいる。俺達が乗った搬入用のエレベーターにはⅫが描かれていた。そして、この空間の中央には、木箱が並んでいる。部屋の隅に6つのクローゼットが置かれていたが、掃除用具入れだろうか?

 小さな魔石を一つ目の前にかざし、フライアが告げる。

「さて、課題です。制限時間は6時間。この訓練施設内で魔物を倒し、このような魔石を10個採取してきてください」
「教官殿! 質問があります!」

 先ほども質問した女受験者が訊いた。
 歳は20代中盤か、メガネをかけた頭の良さそうな人である。

「なんでしょう?」
「矢が尽きた場合はどうすればよいのですか?」
「矢や水、食糧などはあの木箱のなかにはいっています。ギルド従業員が常に補充しておきまので、不足したらここまで取りに戻ってください。
 矢は何本持って行ってもかまいませんが、持ち込める武器は弓と矢、魔物から魔石を取り出すときに使用する短刀のみとします。
 弓と矢は自前で構いませんが、短刀はこちらで指定させていただきます。
 あとは私の性格を考えて判断してくだされば、よいでしょう」

 つまり、「弓矢を使え」とは言ってないので、魔法や体術で仕留めてもいいわけだ。
 回りくどい人だな。
 でもそれって、持ち込みはできないが、錬成魔術で作ることができるなら剣や槍もありだということになる。俺にとっては、すでに弓術の試験じゃねぇと思うんだが。

「10個の魔石は質は問わず、10個集めれば合格ということでよろしいですか?」
「はい。ただし、二つに砕いた魔石はカウントしません」
「受験者間で譲渡してもいいのですか?」
「いいですよ。どんな経緯で集めても10個集めれば合格とします。他の受験者と交渉して譲ってもらうのは実力のうちと判断します」

 『交渉』っておい…それって、後ろに(武力)がついてもいいのかよっ!

「もちろん強奪や窃盗も可です。というか、自分の獲物をみすみす横取りされているようじゃ、冒険者失格ではないでしょうか?」

 そ、それはたしかに一理あるとは思う。
 だが、それだとデスゲームの様相を呈しそうな気がするのだが…

「えー、ただし…」
「ただし?」

 人差し指を顎に当てて、フライア試験官は続けた。

「この中の受験生が一人でも、試験中にリタイアすれば、全員を失格とします」
「「「は?」」」

 受験生全員の声がハモった。
 なん……だと……?

「つまり、受験者が一人でも大けがをして、リタイアしたら全員失格ですか?」
「そうです。魔物を弓矢で仕留める場合も、うっかり他の受験生に当ててしまわないように注意してください。
 6時間経過した時点で10個持っていた受験者を合格、持っていなかった受験者を不合格といたします。ただし、一人でも無事に帰って来れない人がいれば、全員不合格と考えてください」

 となると、受験者同士で争うことも厳禁、ある程度は助け合わなきゃならんということである。
 酷い条件である。
 それもう、試験として破綻しているんじゃないか?

「おいおいマジかよ」
「先月とぜんぜん違うじゃねぇかよ」
「何考えてんだよ」

 受験者たちの不平不満が噴出し、会場がざわついてきた。
 だが、フライア試験官は、しれっとした態度を改める気はないらしい。

「不平がある方は出て行って構いませんよ? 来月の試験官は私ではありませんので、もっとましな試験になるでしょう。このテストを受けることが時間と労力の無駄だと思う方は退出してください。残りのメンバーのみで試験を開始します」

 急に真顔になるジュリア・フライア。その眼差しには18人のざわつきを静まらせるだけの迫力がこもっていた。冒険者は理不尽に立ち向かうのが当たり前だといわんばかりである。
 もちろん、俺は出ていく気などない。冒険者試験は一発勝負で決めるつもりである。理不尽だと思うが、正直、俺には来月もここに来れる余裕はないのである。

「試験官。もう一つ質問です。この試験におけるリタイアの定義とはなんですか?」
「以下の方をリタイアと定義します。1つ、6時間経過のアナウンスが始まる前に、このエレベーターの中に入った者。2つ、脱出のためのアイテムや魔道を使用した者。3つ、試験中、何らかの手段を使って、試験官である私に連絡をとった者。最後に…実技試験後、行方不明者がいれば捜索を行いますが、そのとき死亡が確認されるか、捜索不可能と判断された者…です」

 つまり、18人のうち誰かが自棄を起こしてエレベータに入ったら全員不合格か。
 うーん、合否の要素が自分以外にあるのかぁ…
 こりゃあ、運次第だな。

「試験開始は正午です。あと15分ですね。それまでに準備を整えてください。貴重品はあの鍵付きの金庫へ。トイレはあちらです」

 あのクローゼットは掃除用具入れじゃなくて、仮設トイレだったのか。「試験中、催したらその場で用をたしてもいいのか」と質問しようかと思ったが、まぁトイレはここに帰ってきてあれを利用しろってことだな。

 先ほど俺以外では唯一、正鵠を射たザリッツとかいう男が、数人の男たちを指揮して手荒に木箱をひっくり返す。
 大量の矢が床にちらばった。
 18人は物資にワラワラと集まって、中身を確認する。
 やれやれ俺も一応、物色しとかないとな。
 俺の矢筒には15本の竹製の矢が入っているが、獲物は10匹。魔物のレベルによっては15本では心もとないかもしれない。
 ただし、支給されているのは、軍でも使用されるスチール製の矢である。サイズが違うし、俺が持ち歩くにはいささか重い。
 大柄な受験者の一人が、支給されたクイーバーにこれでもかと矢を突っ込んで2つを背負ったが、あんな真似は8歳の俺にはできない。
 背負えるには背負えるが、狩りは動きまわらなきゃ行かんからな。
 しかたがない、自分の矢を使い尽くしたら、これを使ってみることにしよう。
 あとは、水筒、干し肉。傷薬や止血剤、ガーゼやハサミ、縫合用の針と糸などが入った応急セットか。リュックサックが18袋あったので一つ持っていく。なるべく装備は軽くしておこう。

「さてと…」

 懐中時計を覗きながら、フライア試験官がエレベーターの中に入った。
 こちらを向き直り、小さく手を振る。

「それでは、私は試験終了まで上で待機します。このエレベーターの扉がしまったら試験開始です」

 その扉が閉まると同時に、試験開始のベルが鳴った。
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