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異世界に穴があったら入りたい 作者:大野水城

第一章

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第八話 アマルダ会議

 正座とは、小笠原流という室町時代に広まった武家社会の礼法に端を発する作法らしい。

 この世界に広めたのは『第七天子』である。
 さすがに石を抱かせたりとか、そういう残虐な風習は伝えてはいないのだが、武道はもちろん、茶道、華道、書道、落語、講談などにおける礼節の基本姿勢としては充分に認知されている。作法が美しくなるということで、今や隣国でも『平民の作法』として取り入れられているのだ。
 そして、子供を折檻するときのテンプレとしても十二分に浸透していた。

 俺は間借りしている旅籠のお座敷で正座していた。
 お座敷と言っても板張りで、机の下に穴があってそこに足を入れて腰掛けるという、居酒屋スタイル。穴を板で塞いで、大広間として使うことも可能である。
 営業中は座布団を使うわけだが、いま、そんなものはない。
 お店はいま準備中であり、奉公のみなさんがこちらを何度かチラ見しながらも甲斐甲斐しく働いている。顛末を知ってる連中は、同情してくれるだろうさ。
 俺の正面で、仁王立ちになっているミリィを上目遣いでちらっと見ると、睨まれた。
 怖いっす。

「あなた自分が何をしたのかわかってるの?」
「………はい。女の子に怪我をさせました」
「させました、じゃないでしょう!?」

 うん。そうだね。
 女の子に暴力をふるうのはいけないね。
 でも、あいつ顔に似合わずマジ強かったし、なによりキチ◯イだったわ。
 怪我させてでも止めなきゃ、俺が死んでたんスけど?
 さすがに12歳のガキに殺されてやる気はないでごわす。

 まぁ、ミリィは夜勤明けで寝てたから、今朝の騒ぎの一部始終なんて知らない。とうぜんあの決闘も見ていない。彼女が承知しているのは『結果』だけ…つまり、「俺が女の子を治療院送りにした」という事実だけである。
 一休さんをとがめる和尚様のようにミリィはピシャリという。

「いいこと?あなたは剣聖ファルカに剣を習ってるのよ!?殴り合いすりゃあ、そこらの子よりはるかに強いでしょう?」

 習ってるといっても3歳の時、一度だけ立ち会ってもらったっきりである。以降は爺ちゃんもヨボヨボになって、ろくに稽古つけてもらったことないです。
 そりゃ毎日訓練はしてるので、そこら辺の子よりは強いでしょう。だから、普段はケンカなんてしません。でも、さすがに殺す気で仕掛けてくる無詠唱魔法&フルコンタクト空手の複合戦闘術の使い手を、無傷で倒すほどの実力はございやせん。

「……けどね、だからこそ武術を使うときは、時と場所をかんがえなきゃいけないのよ!第七天子様だって、子弟たちに武術を授けた時、『役に立たない暴力は絶対に振るうな』とおっしゃってるじゃない!女の子相手に振るうなんて最低よ!」

 はい。おっしゃった覚えも確かにございやす。面目次第もございやせん。
 けど、さすがに年頃の女の子にサイテーとか言われるのは凹みます。
 俺がシュンと小さくなってると、またも金髪の吟遊詩人が助け舟をだしてくれた。

「まぁ、まぁ、それくらいで……今回はタクミくんのせいでは…」
「レオナルド!!アンタもアンタよ!てか、煽ったおまえが言うなっ!!」

 相変わらず、すぐに転覆してしまう助け舟だ。
 20歳年上の吟遊詩人は俺と一緒に小さくなる。

「ミリィ…そこまでにしときな」
「母さん!!」

 ここで女将さんの登場である。
 さっきまで着ていた他所行き用の服は普段着になっていた。

「あまり先輩風ふかせて、他所の子を説教すんじゃないよ」
「けど!」
「いつからそんな偉くなった?」
「……はい。すみません」

 娘を窘める言葉にさすがの貫禄がこもっている。
 ドスが効いててミリィよりはるかに怖い。
 アマルダは俺の方を向き直って言った。

「セバスチャンに顛末は聞いたよ」 

 セバスチャンとは品のいいあの髭のバーテンのことだ。
 このアマルダの旅籠の番頭でもあるらしい。
 バーテンよりも、執事の方が絶対向いていると俺は思う。

「決闘した娘にも会ってきたよ。今回は9割がたアレックの奴が悪い」

 だよねー。
 立会人を買って出たくせに、怪我させたんだからな。
 しかも子供に。

「挙句、このアタシに推薦状を書けなんて言ってきやがった。ぶん殴っといたけどね」

 ……って、Bランクのお友達ってアマルダのことかよっ!!
 ちなみに、この世界ではSランクを最上級、AランクとBランクを上級冒険者と言う。『上級』まで上り詰めるものは100人に一人もいないらしい。一応、冒険者ランクはペナルティがなければ下がることはないが、冒険なんて体の丈夫な若い内しかできないから、ランクを伸ばせる期間は非常に短いのだ。
 女はさっさと所帯をもつから、Bランクなんて奴はさらにいないそうだ。
 冒険者やってたとは聞いたが、すごいな。しかも女だてらに。

「……あの、女将さん?」
「なんだい?」

 俺は恐る恐る話しかけたら思いの外、声色が怒ってないようなので、質問してみる。

「アレック…さんが彼女を推薦するとかいう話は僕を負かすことが条件だったはずです。なんで女将さんの推薦が必要なんですか?」
「ああ、決闘には負けたが、あの娘は見込みがあるから自分のクランに是非とも引き入れたいんだと……だから殴った」

 うわぁ。
 そりゃあ、あんな見目麗しい女の子と一緒に冒険ができれば楽しいかもしれないさ。けど、必死に背伸びしている12歳の弱みに漬け込んで、男臭いグループに引き入れるなんざ、犯罪だろ? 常識的に考えて。 
 あのアレックとかいう男は外聞とか考えないのか?
 そもそも、あの少女はたぶん……。

「彼女もかなりの手練みたいだね。よく勝てたもんだ」
「それより女将さん。あの娘、たぶん『貴族』ですよ?」

 俺が言おうとしたら、レオナルドが指摘した。
 なんだ、レオナルドも気付いてたのか。
 まぁ、そこそこ場数踏んでる冒険者ならあの戦闘能力が尋常じゃないことぐらいわかるよな。

「へ? 貴族って…」

 ミリィが間の抜けた声をだす。まぁ、彼女は見てないからしかたない。

「無詠唱で魔法を使うなんて、青き血を引いていなければできませんよ。下手をすれば高位貴族です。粗末な格好をしていましたが、あの格闘術はおそらく武芸指南役にでも習ったんじゃないでしょうか?」
「……………ああ、そんな感じだね。どことなく振る舞いも上品だったし。家を飛び出したのか、それとも御家の方が倒れて平民に身をやつしたのか…」

 前者の場合、かなり問題になるだろうな。
 この世界で魔法が使えるのは貴族だけだと考えていい。平民でも使える者はいるが、蝋燭に火を灯すぐらいのことしかできない。そして、貴族は天子の血をひくアウグスティア王家に近いほど高い魔力を受け継いでいる。
 魔法に詠唱を必要としないのは結構なレベルである。すくなくとも郷士ではない。家臣を何百人と抱えているような大家の人間だ。
 もし、彼女の実家が領主だったり爵位持ちの大家だったりしたら、アレックはお姫様を誑かしたとして、家臣団から粛清されかねん。いくらCランク冒険者でも隣国の貴族に目の敵にされてただで済むわけがない。ゼフィランサスとしても外交問題だ。怪我をさせた俺も闇討ちされるかもしれない。
 後者の場合は、『おたずねもの』という線が濃厚だな。
 青き血の姫君なんてものは、御家が政争に破れた時点で、浅井三姉妹みたいに政略結婚の道具になって血を回収されるか、一族粛清がデフォだ。この世界の貴族は下手に魔力があるだけ国外追放処分などありえん。

 つーか、アレック、ホント馬鹿だな。
 気付いてないのか?

「まぁ、アレック馬鹿だし……」
「馬鹿よね」
「馬鹿ですよね。昔から」

 アマルダ、ミリィ、レオナルドの三人は揃って嘆息した。
 アレック・ボーンに対する3人の評価は、かなり以前から俺の感想と一致していたらしい。 

「とにかく、あのリナとかいう娘の身元については、『しかるべき連中』に調べてもらうわ。アンタたちには箝口令。ミリィはあの子に付いてなさい」
「あの子に?」
「しばらくあの子は治療院に引き止めてもらう。どうも、お金とか持ってないみたいなのよね。アンタはそこを上手く説得して、ウチに滞在するように仕向けて欲しいの。『治療費は私が立て替えるから』とかいってさ…」

 なるほど、恩を売ってこの旅籠に連行し、監視しようというのか!
 策士だな。アマルダさん。
 ミリィは面倒見がいいから、適任だと思うぜ。

「まかせといて!」
「それから、レオ…あんたはアレックの阿呆が余計な真似しないように監視しときなさい。情報屋に探りを入れさせようとしたら力ずくで止めなさい」

 たしかに、リナの身元がネリスの大貴族だったりしたら、情報屋を使うのは悪手である。下手に探りをいれたら、向こうが気付いて連れ戻しに来るだろう。まぁ、穏便に連れ帰ってくれるならいいんだが、万一政敵とかに見つかればトラブルが大きくなる。

「人が必要ならこっちでお金は用意する。いい?これは冒険者としての依頼よ?」
「わかりました」

 すごいな。大作戦の様相を呈してきた。ワクワクするぜ。
 俺もなにかお手伝いしたい。

「女将さん!僕は?」
「アンタはちょっと来なさい」
「え?」

 俺だけ、説教だった。
 怒ってなかったわけじゃないらしい。
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