挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第4章 風の都

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

78/146

(18)悪戯心

 ワゴンから引き出しを取り出すことが出来たシゲルは、そのままくるりとひっくり返した。
「――ああ、やっぱり」
 予想通りのものがあるのを確認してそう言ったシゲルに、フィロメナが興味深げに近付いて来た。
「なんだ? なにか見つけたのか?」
「いや、開けられる部分を見つけた」
 そう言ってシゲルが示したところには、底が開けられるように、取ってのようなものが着いていた。
「なるほど。底から開けられるようになっていたのか。単純な仕組みだが騙されやすいな」
 フィロメナがそう言うと、同じように様子を見に来ていたミカエラとマリーナが頷いていた。

 引き出しがワゴンから外れるということが分からなければ、上げ底になっていることはわかっても、この仕掛けを見つけるのは中々難しいだろう。
 そういう意味では、単純だがよく考えられている仕掛けといえる。
 シゲルの場合は、引き出しが取り出せるというのが当たり前の感覚を持っていたので、簡単に見つけることが出来たのだ。

 取っ手の部分をつまんだシゲルは、そのまま持ちあげてみた。
 だが、当たり前だが、何かに引っかかっているようで、蓋のように上がって来ることはなかった。
「まあ、そりゃそうか。これですんなり開いたら、隠している意味がないし」
 単純に持ちあげるだけでそこの部分が開くのであれば、ワゴンに入っている時点で開いてしまっていてもおかしくはない。
 それだと、わざわざ上げ底にしてまで隠し場所を作った意味がなくなってしまう。

 さて次は何を試すかと考えたシゲルは、とりあえず取っ手の部分を持ったまま、そっと手前に引いてみた。
「あ、ずれた。こっちが正解だったのか」
 数ミリずれた蓋(?)をそのまま持ちあげてみると、予想通りにすんなりと上がって来た。
 これもまた、シゲルが良く知る単純な仕掛けだ。
 むしろ、鍵もなにもかかっていなかったので、簡単すぎてこれでいいのかと思えるほどだった。

 あっさりと開いたことに、何となく納得がいかない様子で首を傾げているシゲルに、ミカエラが何故か呆れたような視線を向けて来た。
「シゲル、そろそろ自分で気付いてもいいと思うのだけれど?」
「へ? なにが?」
「それ、大精霊の魔法がかかっていたんだけれど?」
「…………えっ! あ、うん。そうそう、魔法ね。気付いていたよ、勿論」
 後ろに(棒)が付きそうなほどにひどいシゲルの誤魔化しに、フィロメナ、ミカエラ、マリーナが揃って白けたような視線を向けて来た。
 美人三人から責められるように見られることになったシゲルは、背中に冷や汗を流しながらそっと視線をずらすことしかできなかった。

 
 三人からの視線に耐え切れなくなったシゲルは、わざとらしく声を上げた。
「さ、さあ、こっちには何が入っているかな……って、大学ノート?」
 シゲルは、上げ底部分に入っていた物を見て、思わず目を丸くした。
 そこには、懐かしくも見覚えのある大学ノートがあったのだ。
「ダイガクノートというのか、それは。随分と上質な紙で出来ているんだな。おっ、手紙も入っているぞ?」
 シゲルが目を丸くしている隙に、フィロメナがそっとノートを持ち上げてみると、さらにその下には封書が一通入っていた。

 風の都に人が住まなくなってから千年単位が経過しているはずなのに、ノートも封書も全く劣化しているようには見えなかった。
 勿論、触った感じもボロボロになっているようには感じなかった。
「魔法を使っていたにしても、随分と保存状態がいいなあ」
 シゲルがそう呟くと、ミカエラも感心した様子で頷いていた。
「そうね。さすが風の大精霊といったところね」
 風の精霊は、空間に関する部分も担っていると言われている。
 それを考えれば、紙を長い間、朽ちないように保存するのは、お手の物といったところなのだろう。

 普通ではありえない現象に、魔法だからと納得したシゲルは、早速封書から確認してみることにした。
 ちなみに、どちらも日本語で書かれているので、フィロメナたちはなにが書かれているかは読むことが出来ない。
「…………うーん。なるほど」
 封書の中には一枚だけ手紙が入っており、その文章を読んだシゲルはそう声に出しながら苦笑をした。
「何? 何が書いてあったのかしら?」
 シゲルの顔を見て、マリーナが訝し気な表情になりながらそう聞いて来た。

 シゲルはすぐにその問いには答えず、もう一度手紙の文面を見直してからマリーナを見て言った。
「どうもタケルって人物は、悪戯する気質があるみたいだね。この部屋には、さらに地下に向かう入り口があるから探してみろだって。結構挑発的に書いているよ。わざとらしく」
 侵入者に見つけてほしくないのであれば、そんな手紙など残すはずがない。
 そもそもその手紙には、この部屋にある物は自由に使っていいとまで書かれている。
 アビーが残した日記でも何となくタケルの性格がわかるような描写があったが、手紙のお陰でそれがさらに確信できたと言える。
 シゲルの説明を聞いたフィロメナたちは、一様に同じような顔になっていた。
 それは、半分呆れ、半分苦笑するといったところだろうか。

 とにかく、手紙のお陰で、ここはさらに先があることが分かった。
 ノートに関してはシゲルに任せて、フィロメナたちはその入り口捜しをすることになった。
 ただし、何のヒントもなく部屋を動き回るわけではなく、手紙にはしっかりとヒントらしきものが書かれていた。
「灯台下暗し、ね」
 手紙には日本語で書かれていたが、同じような言葉はこの世界にもある。
 そのヒントと手紙で確信できたタケルの性格から考えて、それが意味していることは何となく分かる。

 フィロメナたちは、これまでシゲルが調べていた机を重点的に調べ始めていた。
 机の中に入っている書類や道具に気を取られて、足元の確認をおろそかにしては駄目だということだろうと解釈したのだ。
 そして、その解釈は見事に当たっており、五分も経たずにミカエラが声を上げた。
「あったわ。多分これがそうね」
 ミカエラがそう言って指した先には、庵で見つけたのと同じようなプレートがあった。

 そのプレートを見つけたミカエラは、自分では触れようとせずに、シゲルを見ながらさらに続けて言った。
「それじゃあ、シゲル、お願いね」
「えっ? 自分が触るの? ミカエラじゃなく?」
「当たり前じゃない。私が触っても、風の大精霊が許すとは思えないわ」
 驚くシゲルに、ミカエラは肩を竦めながらそう答えた。
 シゲルがフィロメナとマリーナを見ると、その二人も当然だと言わんばかりに頷いている。

 そんなものかと納得したシゲルは、読んでいたノートを一度置き直してから床にあるプレートにそっと触れてみた。
 すると、これまで動くことのなかった机が、ズルズルと音を立てて横にずれて行く。
 数秒後には、それまで机があった場所の壁に、ぽっかりと出入り口が現れた。
「どういう仕組みかは分からないが、見事な隠し扉だな」
 机があったときには、そこに出入り口があるなんてことはまったく見分けがつかなかった。
 この仕組みにエアリアルが関わっているということは、流石のシゲルにもすぐに見当がついた。
 空間を司っている精霊の面目躍如(?)といったところだろう。

 
 これでさらに先に進む入り口を見つけたわけだが、フィロメナはすぐに行こうとは言わずに、シゲルを見て聞いた。
「それで? そっちのノートには何が書かれていたんだ?」
「途中までは日記が書かれていて、あとの残りは、ここに来た渡り人に対する伝言みたいなものだね」
 日記が途中で終わっているのは、別にそこでタケルが亡くなったというわけではなく、一冊しかない大学ノートに書き続けるのが勿体ないと判断してのことだった。
 それはきっちりと、日記の終わりの部分に書かれている。
 ついでに、あとの日記はこの世界で作られた紙で、別にまとめられているそうだ。
 その日記はまだ見つけていないが、どこかで必ず保管されているはずだ。

 そして、後半に書かれている伝言は、タケルがこの世界に来てから調べた渡り人に関することが書かれていた。
 その内容は、シゲルにとっても興味深いものだったが、残念ながらすべてにきちんと目を通すには時間が無かった。
「なるほどな。それで、どうする? このまま先に進むか、ここでそれを読みこむか」
「いや、先に進もうよ。どうせ、また戻って来るんだよね?」
 部屋の中には、先ほど机から出した道具類が並べっぱなしになっている。
 フィロメナたちがそれを放置したまま先に進むとは、シゲルも考えていない。

 シゲルの言葉にフィロメナが頷いたが、マリーナは床の上に広がったままの道具類を指して言った。
「せめて、これだけでも片付けて行きましょう。いくら戻ってくるといっても、今まで大事にしてくれた大精霊様に申し訳ないわ」
 それもまたもっともな言い分だったので、結局道具はフィロメナたちが元に戻すことにした。
 その間、シゲルはノートの確認をしていた。
 日本語がシゲルしか読めないということもあるが、シゲルが加わってもあまり片付けのスピードが変わらないという事もある。

 道具類の片づけは十分程度で終わったので、シゲルは結局ノートを全て見ることは出来なかった。
 それはまだまだこれから確認する時間があるので、とりあえずは先に進もうと、一同は先ほど見つけた出入り口へ向かうのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ