挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第4章 風の都

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

74/148

(14)豚汁と風の都

 一度宿に戻ったシゲルは、またすぐに町の外に出た。
 宿に泊まっている間は、基本的に食事を作ることもない上に、わざわざ調理場を借りて作るのも気が引けたのだ。
 一度宿に戻ったのは、いざ味噌汁を作ってみようとしたら調理道具が入っているアイテムボックスを忘れたことに気付いたためである。
 調理道具類は、パーティ共通の財産(?)としているので、シゲル個人のアイテムボックスにはいれていないのだ。
 その結果、町の外と宿を往復する羽目になったというわけだ。

 いつもスープを作っている鍋で作業を始めたシゲルと見て、フィロメナが興味深げに聞いて来た。
「なんだ。さっきは直接食べていたみたいだが、スープにでもするのか?」
「そう。直接食べられなくはないんだけれどね。ちょっと癖のある食材だから、最初は一番いい食べ方をしようかと」
 日本人でもみそ汁は好きだが直接食べるのは苦手という人は、それなりの数がいる。
 味噌の風味や味に慣れていればいいのだが、いきなり味噌そのものを出すのはどうかと考えたのだ。

 とはいっても、残念ながらこれまでの旅で、昆布やかつお節といったものとは出会っていない。
 さてどうするかと考えたシゲルは、とあるテレビ番組で紹介されていた豚汁を作ることにした。
 これであれば、肉や野菜からの出汁だけで美味しいものが作れると考えたのだ。
 ついでに、テレビを見たあと、自分で何度か作ったこともあるので、作り方も記憶に残っている。
 最初に作るものとしては、丁度いいと考えて、シゲルは早速豚汁を作ることにした。

 
 ぐつぐつと煮立っている豚汁を見たフィロメナが、早くも我慢ができなくなったようで、喉を鳴らしてシゲルに催促をしてきた。
「なあ、まだか?」
 そう声に出して言ってきたのはフィロメナだけだったが、ミカエラやマリーナも待ちきれないという表情をしている。
「もう少しだから」
 シゲルは、三人を見て、笑いながらそう答えた。

 そして、ふと思い出したように、今は姿を消していたラグを呼び出した。
「そういえば、ラグたちは、食事は出来るの?」
「出来る出来ないでいえば、勿論できます。ただ、人のように絶対に必要なものというわけではありません」
 それは今までのことを考えれば分かることなので、シゲルも納得の表情になった。
 聞きたかった答えは、前半で答えてくれている。

 そもそもシゲルは、契約精霊たちに食事を与えたことはない。
 元の大きさが大きさだったので、食事が必要だと考えたこともなかったということもあるのだが。
 それはともかく、自分と同じような大きさになっているラグを見て、シゲルは今更ながらに一つの疑問が湧いて来た。
「そもそも精霊って、栄養はどうやって取っているんだ?」
「私たちは、人のように他の生を取り込んで、栄養を取る必要はありません。言うならば、自然に漂っているエネルギーを直接取り込んでいると言えばいいでしょうか」
「あ~、なるほど。それはまた、随分と効率がよさそうだね」
 人のように、ほかの生物を取り込んで栄養を得るという方法は、実はかなりのエネルギーをロスしているともいえる。
 勿論、元の世界で行われていた発電などよりは、はるかに効率がいいのだが、直接エネルギーを得られるのと比べれば、間違いなく非効率といえる。
 精霊は、自然の周りにあるエネルギーを直接取り込んで、存在の維持を続けることが出来るのだ。
 そう考えれば、シゲルが言った通り、人が食事という形でエネルギーを得るよりも、効率がいいというのは間違いではない。

 
 シゲルとラグがそんな話をしている間に、作っている豚汁がちょうどいい感じになって来た。
「よし。そろそろいいかな。……って、早いから」
 シゲルがそう言うと、待っていましたと言わんばかりに、しっかりと食器を用意して待っていたフィロメナたちが、それぞれに差し出してきた。
 シゲルは苦笑しながらそれぞれから食器を受け取って、おたまもどきを使って作ったばかりの豚汁をよそって渡した。

 シゲルから豚汁を受け取った三人は、それぞれ思い思いに、その豚汁を口にして――、
「美味い!」
「美味しいわね!」
「……幸せ」
 三者三様に豚汁を食べた感想を口にしてきた。

 そして、それを聞いたシゲルは、内心で胸を撫で下ろしつつ笑顔になった。
「それはよかった。苦労して作った甲斐があるよ」
 三人のうち一人でも嫌がれば今後の味噌料理は封印となるところだったが、どうにか最初の山は越えることが出来た。
 あとは、ゆっくりと味噌の味に慣れさせてから、いろいろと作ってみようとシゲルは考えていた。
 さらにいえば、こうなってくると、やはり出汁の元になるような食材が欲しくなってくる。
 海岸沿いの町やどこかの島で、昆布などが作られていないかと、シゲルは真剣に考える始めることになる。

 
 シゲルが作った豚汁は、あっという間に完売となった。
 試しに作ったということもあって、少量しか用意しなかったということもあるのだが、夕食が間近だとシゲルが止めても止まらなかったのだ。
 約一名「この程度の量で、夕食が入らなくなることなどない!」などと豪語していたが、実際にその通りだったので、シゲルとしては苦笑するしかなかった。
 一体その細めの体のどこに、それだけの量の食事が入るのかシゲルは不思議だったが、当人はけろりとしていた。
 もっとも、この翌日には運動がてらとたった一人で冒険者ギルドの依頼を受けに行く姿を見て、シゲルは納得した顔で頷くことになるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 念願の味噌ができた数日後には、シゲルたちは目的地である風の都に向かって移動し始めた。
 風の都へは、途中までは馬車で向かうこともできるのだが、後半は険しい山道が続くことになる。
 そのため、馬車は世話をしてもらえる馬房に預けて、シゲルたち自身の足で歩くことになっていた。
 ここで大活躍することになったのは、以前魔の森の遺跡で手に入れた乗り物(仮)だ。
 人目が少ない所では、それを使うことによって、単純に自らの足だけで移動するよりは、かなり時間が短縮することが出来た。

 乗り物(仮)が使えないところは足で距離を稼いで、途中で出てきた魔物を倒しつつ、シゲルたちは半日ほどで風の都に入ることができた。
 普通は一日かけて行くこと考えれば、かなりのハイスピードと言っていいだろう。
 そして、その風の都を見たシゲルは一言、
「なるほど。確かに遺跡だね、これは」
 目の前にある遺跡は、どう見ても大精霊(もしくは精霊?)の手が入っているようには見えない。
 ついでにいえば、これまで見て来た大精霊が管理している町のように、高層ビルと言っていいような建物も見当たらなかった。

 少しだけがっかりしたような顔になっているシゲルに、過去にここの遺跡を訪れたことがあるフィロメナが苦笑をした。
「発見されて以来、多くの研究者が入っている遺跡だからな。そうそう簡単に新しい発見が出来るとは思わない方がいいのだがな…………本来であれば」
「そうよね。普通は見つけられないわよね」
「いや、ここでそんなプレッシャーを掛けられても意味がないと思うんだけれど?」
 なにやら意味ありげに見てくるフィロメナとミカエラに、シゲルは何とも言えない顔になった。

 そのやり取りをクスクスと笑いながら見ていたマリーナが、微妙に牽制し合っている三人に向かって言った。
「ここでそんな話をしていても仕方ないわよ。それよりも、早く拠点にできそうなところを見つけましょう?」
 この遺跡では、しばらくの間滞在することになっている。
 日記の翻訳作業を進めた結果、シゲル以外の三人も、タケルがいた場所は今のところここ位しか思い当たらないという結論に至ったのだ。
 それならば、幾日もかけて遺跡をしらみつぶしに調べる意味もあるだろうということで、長期滞在をすることになっていた。
 ちなみに、一度の滞在で何も見つけられなくても、さらに何度か来る心づもりでいる。

 マリーナの提案に、不毛な会話をしていたという自覚があった三人は、すぐに動き始めた。
 その結果、さほどの時間もかけずに、テントを張るのに相応しい場所を見つけることが出来たのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ