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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第4章 風の都

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(11)違和感と事件

 シゲルたちは、ヒューデリー遺跡を出てからさらに一月ほどをかけて、次の目的地である風の都を目指して移動していた。
 移動の間は、相変わらず日記の写本作業を進めていたのだが、ある日シゲルがふと違和感を覚える場所が出て来た。
 その場所は、既に何度か読んではいたのだが、写本作業をしているフィロメナのために声に出して読んだところで、シゲルは途中で読み上げを止めてしまっていた。
「今日もタケルがわざわざミヤコから来てくれた……って、あれ? 改めて読むとおかしくないかな、これ」
 シゲルがそう声に出して言うと、フィロメナは不思議そうに首を傾げた。
「そうか? 特に違和感はないように思えるが?」
「いやだって、前回会いに来たのは、六日くらい前じゃなかった?」
 シゲルがそう言いながら日記のページをめくると、ちょうど六日前の所に同じような記述があった。

 フィロメナも写本で確認すると、当然ながら同じ記述を見つけた。
「確かにあるが……これがどうかしたのか?」
 シゲルがどこに疑問を感じているのか分からずに、フィロメナは首を傾げている。
「いやだって、水の町に滞在していて会いに来たなら、わざわざこんな書き方しないよね? てことは、タケルはこの六日の間にミヤコと水の町を往復したという事になるよね?」
「別の用事で別の場所に行くついでに寄ったようだが……確かにおかしいな」
 シゲルがそう説明すると、フィロメナもようやく何を言いたいのかわかったような顔になってそう言った。

 タケルたちは、二カ月以上を掛けて風の都と呼ばれる遺跡を目指して移動している。
 風の都と「ミヤコ」が同じ場所であると考えれば、一体どうやってその短時間で移動したのかという疑問が出てくるのは当然だろう。
 シゲルにしてもフィロメナにしても、あれほどの都市を作る技術力があった文明であればそれくらいのことは出来るはずと流していたが、改めて考えるとおかしいことがわかる。
 一般的に認識されている前史文明での移動手段は、今と変わらずに馬車だったとされている。
 それであれば、六日で往復することなどどう考えても不可能である。
 勿論、何か特殊な魔道具を使って移動していたということは考えられるが、今のところそのような道具は見つかっていないのだ。

 さらにいえば、シゲルが違和感を覚えたのは、タケルがどうやって移動したのかということだけではない。
「そもそも考えてみれば、前史文明の移動手段が馬車や船だけだったと考えるほうがおかしいんだよな」
「どういうことだ?」
「いやだって、水の回廊のことを思い出してみてよ。あれだけの道を作るだけの技術力があるのに、移動手段が馬車だけっておかしくない? ……あれ? おかしくないのかな?」
 フィロメナが、意味が分からないという顔をしているのを見て、シゲルは途端に自信を無くしてしまった。

 そもそもシゲルは、元の世界のことが念頭にあって話をしている。
 そのため、あれほどの技術がある文明の移動手段が、馬車だけということに違和感を覚えたのだ。
 だが、それが当たり前だと考えているフィロメナにとっては、その違和感こそが不思議に思えることだった。

 シゲルの言葉に首を傾げていたフィロメナは、確認するように聞いて来た。
「シゲルにとっては、移動手段が馬車や船だけというのは、おかしく感じることなのだな?」
「いや、そうなんだけれど……フィロメナだって、森の遺跡で他の移動手段を見つけているじゃないか」
 今もアイテムボックスの中に入っている乗り物のことを指摘してきたシゲルに、フィロメナはそういえばという顔になった。
「確かに、言われてみれば、そうだな。だが森の遺跡でも水の町でも、それ以外の移動手段は見つかっていないようだが?」
「それはそうなんだけれど……いや、それにしたって、同じものを前史文明が開発していなかったって考えるほうが、おかしくない?」
 シゲルが改めてそう問いかけると、フィロメナは考え込むように腕を組んだ。

 超古代文明はともかくとして、古代文明の遺跡からは多くの魔道具が見つかっている。
 その中に、移動手段として使われていたと思われる道具は、発見されていないのだ。
 もしそんなものがあれば、真っ先にフィロメナが研究しているはずである。
 シゲルの感覚でいえば、アイテムボックスなんていう魔道具があるのに、移動手段が通常の馬車しかないというのは、違和感がありまくりなのだ。

 少しの間考えていたフィロメナは、その場で思い付いた一つの答えをシゲルに提示した。
「実際には古代遺跡の魔道具にもそうしたものがあるが、実際の使い方がわかっていないとかか?」
「それは確かにあり得るね」
 フィロメナの推測に、シゲルは同意するように頷いた。
 古代文明の遺跡から発掘された魔道具は、既に使えなくなっている(と思われている)物も多くあり、実際の使用用途が分からない物がほとんどだったりする。
 むしろ、現在でも使えている遺物のほうが少ないくらいだった。

 さらにいえば、シゲルには別の考えもあった。
「もしかすると、今見つかっている遺跡は、古代文明のごく一部(・・・・)しか見つかっていないのかも知れないね」
「むう。それも確かに考えられるな」
 現在見つかっている古代遺跡は、実際はほとんど調査がされていなくて、分かり易い所しか見られていないという可能性があるということだ。
 それは確かに、フィロメナも否定するだけの材料を持っていなかった。

 現在、新しい遺跡を発見して報告する役目を持っているのは、ほぼ冒険者だけである。
 見つかった遺跡を詳しく調査するのは、国が調査団を派遣することもあるが、基本的には冒険者の最初に持ったイメージが反映されていることが多い。
 その固定されたイメージで調査がされるので、新しい発見が少ないのではないかというのが、シゲルの思い付いた考えだった。

 フィロメナは、シゲルを見て改めて聞いた。
「では、シゲルはどうやってタケルが水の町に移動していたと思うのだ?」
「うーん。いくつか思い当たるものがあるけれど……いまは言うのは止めておくよ。それこそ、固定観念になりかねないし」
「それもそうだな」
 これから向かう遺跡に、そうした移動手段があるかはわからないが、シゲルが聞いた物だけを捜すようになってしまっては意味がない。
 自分の言葉に納得して頷くフィロメナを見ながら、シゲルは新しい発見があればいいなと思うのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 シゲルたちは、大陸の中央にあるオネイル山脈の麓にある町に着いていた。
 その町は、風の都を目指すためには一番近い町で、ここから先に進むには馬車では不便であるため、預けるために立ち寄ったのだ。
 ちなみに、今回この国の王都には立ち寄っていない。
 王都に寄れば、間違いなく面倒なことがあるとフィロメナたちが主張したため、シゲルがそれに従った形だ。
 なんでも、この国の王が多少面倒な性格をしているようで、なるべく関わりにならないようにしたほうが良いというのが、三人の意見だった。

 そんなわけで、麓の町にある宿で一泊をしたシゲルだったが、目覚めで意識が覚醒するとともに、ふとあるはずのない感触を感じた。
 それと同時に、耳元で今まで聞いたことのない声が聞こえた。
「シゲル、朝だよ」
「ん~? えっ!?」
 宿に泊まるときは、フィロメナたちは別室で寝ているので、女の人の声が聞こえてくるはずがない。
 その聞こえてくるはずがない声が聞こえて来たために、シゲルが慌ててベッドから身を起こすのと、ガチャリとドアが開く音がしたのはほぼ同時だった。
「シゲル、そろそろ起きたほうが……って、何をやっているかー!」
 そう、叫び声のようなフィロメナの声が聞いてしまったシゲルは、まさか自分がこんな経験をすることになるとはと、やや現実逃避的なことを考えることになるのであった。

 
 シゲルが完全に意識が覚醒したときには、既にフィロメナが腕を組みながら怖い顔をして立っていた。
「――――それで? 言い訳は聞かせてくれるのだろうな?」
「私も、是非聞きたいわね」
 そう追随して来たのは、滅多に怒ることが無いはずのマリーナだった。
 その視線は、なぜかシゲルの首に腕を回している見知らぬ女性に固定されている。

 蛇に睨まれた蛙のような気持になっていたシゲルは、慌てた女性を引きはがしてた。
「いや、ちょっと待って。訳が分からないのは、自分も同じで、なんで女の人がここに……って、女の人?」
 そう言いながらふと見覚えのない(?)女性をまじまじと見た。
 それが嬉しかったのか、その女性は、ニコリと笑みを浮かべて再びシゲルに抱き着いて来た。
「シゲル…………」
 それを見てこめかみをぴくぴくさせるフィロメナを見たシゲルは、やばいと思いつつも内心はそれどころではなかった。
「も、もしかして、君はリグ?」
「「「…………へ?」」」
 シゲルの言葉にフィロメナたちが唖然とする様子が伝わってきたが、その空気に気付く様子もなく、その女性は嬉しそうに頷きながら答えて来た。

「そうだよー!」
一同唖然。
次回へ続く。
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