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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第4章 風の都

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(9)三つの神殿

 フィロメナたちが、シゲルに見せるための遺跡として選んだのは、ノーランド王国の王都から一カ月ほど進んだ場所にあるところだった。
 これまで通って来た道でも多少の寄り道をすれば他にも遺跡はあったのだが、その遺跡が一番分かり易い特徴を残しているということで、その場所が選ばれていた。
 その特徴というのは、現在ある三大宗教の元となっている宗教の神殿らしきものが残っているということである。
 その三大宗教はそれぞれに特徴があるのだが、それを示すような神像や石版のような書き物が多く見つかっているのである。
 その中でも一番分かり易いのが、やはりそれぞれの宗教の神(あるいは神々)が祀られている神殿だろう。
 それらの神殿は、現在でも使われているそれぞれの宗教の神殿の特徴と似通っている部分が多くあるのだ。

 ヒューデリー遺跡と呼ばれている遺跡に入ったシゲルたちは、まずは入り口から一番近い神殿に向かった。
 既にフィロメナたちから遺跡の特徴についての話は聞いているので、一番分かり易いところから見ていこうということになっていた。
 ちなみに、ヒューデリー遺跡は観光地にもなっているので、遺跡にいるのはシゲルたちだけではない。
 遺跡がある国にとっては重要な観光資源になっているので、周辺の街道は軍によってしっかりと魔物から守りつつ、安全が確保されているのだ。
 そのため、その国の王都からは、比較的安全に遺跡まで来れるようになっている。

「これが、ソルスター教の元と言われている神殿?」
 目の前にある神殿を見ながら、シゲルがマリーナに聞いた。
「ええ。そうよ。まあ、分かり易いといえば分かり易いかしら?」
「まあね」
 ソルスター教は、唯一神を崇めている宗教で、対象である神像を外に飾るようなことはしない。
 神殿の外壁は、複雑な文様や装飾がされているのだが、そうした像の類は一切ないので、シゲルでなくても分かるようになっている。

 真正面から神殿を見ていたシゲルは、現在のソルスター教の神殿を思い出しながら言った。
「今の神殿よりも作り込まれて……いや、こっちがもとになっているのか」
「そういうことね」
 シゲルの言葉に、マリーナが頷きながらそう答えた。

 古代文明は一度滅びているので、建築様式などの技術も途切れている。
 そのため、どの宗教もそうだが、こうした遺跡にある神殿などを参考にして、新しい神殿を作っているのである。
 そもそもそれぞれの宗教の中心、聖都と呼ばれている場所にある神殿は、過去から引き継がれているものを使っていたりするので、そうなるのも当然だ。

 神殿の外側を一通り見たシゲルたちは、神殿の中へと入った。
 神殿の造りはいまのものと変わっていないようで、正面の入り口から入ってすぐの場所は礼拝堂になっている。
 その礼拝堂には、当然のように唯一神である神像が一体だけ祀られていた。
 姿形は、現在の者でも時代によって変わっているので、まったく同じという事はない。
 ただし、やはりその雰囲気のようなものは、どこか似通っているようにシゲルには見えた。

「なるほどね。確かに、これでまったく別の宗教だと主張するほうが、違和感があるね」
「そうだろうな」
 シゲルの感想に、フィロメナも真顔で頷いていた。
 そのことについて異論がある者のほうが少ないのは、研究者でも宗教家でも同じことだ。
 誰が見ても、現在あるソルスター教は、過去の文明からの名残だということが、ここの神殿からも証明できるだろう。
 もっとも、遺跡自体が本当に前史文明のものであるかという問題は、どこまでも引きずることになる。
 一応、ほとんどの研究者は、このヒューデリー遺跡が本物であるという研究成果に沿った主張をしている。
 中には前史文明の遺跡ではなく、ただの捨てられた過去の都市だという主張をする者もいるが、それはごく少数である。

 
 そんなこんなで、ひとつめの神殿を見終わったシゲルたちは、二番目の神殿へと向かった。
 次の神殿は、フツ教の元となっていると言われている神殿である。
 多神教であるフツ教は、もう一つの宗教と同じく、外壁にも多くの神像が飾られていた。
 これも、現在のフツ教の神殿と変わらない特徴を有している。
 中には、姿形が他と変わらない神像もあり、その辺りはソルスター教との大きな違いといっていいだろう。

 フツ教はマリーナが信仰している宗教だけあって、やはりシゲルに説明するときにも熱が入っていた。
 分かり易いといえば分かり易いが、普段のマリーナは、自身の信仰を押し付けてくるようなことはしてこないので、シゲルにとっては新鮮に感じていた。
 それはシゲルだけではなく、フィロメナとミカエラにとっても同じだったようで、時々珍しいものを見るような顔をしていた。
 それらの視線に気付いたマリーナが、少しばつの悪そうな顔になってシゲルに言った。
「ご、ごめんなさい。つい夢中になって……」
「いいや。別に謝る必要はないよ。分かり易かったし」
 そう言ったマリーナの顔に、わずかに怯えのようなものが見てとれたシゲルは、首を左右に振った。

 シゲルの言葉に続けるように、ミカエラがニンマリとした笑みを浮かべながらマリーナに言った。
「そうそう。シゲルには、きちんと理解してもらいたいという熱意は、とてもよく感じたわね」
「ミカエラ……!」
 マリーナは、そう言いながらミカエラがそれ以上言葉を出さないように、素早い動きで口を閉じてしまった。
 口を手で塞がれた格好になったミカエラは、わざとらしくフガフガという声を出していた。

 耳を赤くしながら少しだけ慌てた様子になっているマリーナを見て、フィロメナは苦笑しながらシゲルを見た。
「まあ、ここはマリーナが十分に説明してくれたから、これくらいにしておこうか」
 ヒューデリー遺跡にある神殿は、まだもう一つ残っている。
 この遺跡は、この日だけ立ち寄るつもりで来ているので、あまり時間があるわけではない。
 フィロメナの提案に全員が同意して、次の神殿へと向かうことになった。

 
 最後になる三番目の神殿は、オーラ教の元となっていると言われている神殿である。
 オーラ教は、精霊信仰によっているエルフが多く信仰している宗教になる。
 そのため、外側に祀られている神殿の数々は、姿形が取れる精霊をもとに作れている。
 精霊は現在でも人前に姿を現すので、その時々で神像の形が変わるのが特徴だ。
 勿論、古くから存在している大精霊などは、神像の形が変わっていない場合もある。

 ちなみに、エルフであるミカエラは、オーラ教の信徒ということにはなるが、さほど深い信者というわけではない。
 そもそも自然信仰がもとになっているオーラ教の場合は、自然そのものが信仰の対象なので、特別なことが無い限りは、わざわざ神殿に行って祈りを捧げるなんてことはしないのだ。
 そういう意味では、シゲルの知っている神道と同じような信仰の仕方になっているのだ。
 勿論、神道の神職にあたるような者も、オーラ教には存在している。
 ミカエラは、その神職にはなっていないとも言えるだろう。

 神殿の外側には多くの神像が置かれているその神殿は、建物の中には神像は祀られていなかった。
 これもまた、オーラ教の特徴のひとつといっていいだろう。
 それが、ヒューデリー遺跡の神殿でもしっかりと現れていた。
 その神殿がもとになっているとも言われているのだから、それも当たり前なのかもしれないが。

 それがすぐにわかったシゲルは、感心したように頷いていた。
「確かに、こうして見比べてみると、三つの神殿が現在の元となっていると言われている理由が良くわかるね」
「そうね。まあ、他の遺跡でも同じような場所があるから、ここの遺跡が発祥の地だというわけではないけれどね」
 ミカエラがそう言うと、シゲルはなるほどと頷いた。
 ヒューデリー遺跡の三つの神殿は、比較的保存状態が良く残っているので、代表的な場所として有名になっているだけだ。
 発祥の地としては、それぞれの宗教がバラバラな場所を聖都として置いているのが現状なのだ。

 
 三つの神殿を見ている間は軽い宗教談議になってしまったが、その後も遺跡の全体を見るように軽く見て回った。
 シゲルの感想としては、やはり今現在の文明よりも、大精霊が管理している遺跡に似通った作りになっているというのが正直なところだった。
 現在の文明は、アビーやタケルがいた時代の孫文明と考えれば、そうなるのも当たり前なのかもしれない。
 ただし、そう断定するには、まだまだ調査が足りないこともわかっている。
 世間にどう公表するのかは、フィロメナたちに任せているシゲルだが、一緒に考えることまで放棄するつもりはないのである。
遺跡の探索にかこつけた三大宗教の紹介でした。
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