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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第4章 風の都

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(4)公爵の話

 馬車に乗って、予想通り貴族の屋敷に案内されたフィロメナとミカエラの前に現れたのは、好々爺然とした感じで白髭を蓄えた老人だった。
 相手は貴族であり、しかも公爵家の一角を占める相手ともなれば、ただの人好きされるおじいさんではないことは、フィロメナとミカエラは理解している。
 ちなみに、誰の所に向かうかは、馬車の中で男から教えてもらっていた。
 いくら公爵といえども、各地を旅してそれぞれの国の王族にさえ挨拶されているフィロメナたちは、残念ながらよほどの印象が無い限りは、公爵家であっても覚えていないことが多い。
 男もそれが理解できているからこそ、馬車の中で説明をしてきたのだ。

 フィロメナとミカエラの前に立った老人は、ニコニコとした笑顔を浮かべながら一度だけ頭を下げた。
「いや、わざわざ来てもらってすみませんな。本来であれば私が行くべきなのだろうが、無用な騒ぎを起こすのもいけないと思ったからな」
 そう言ってきた老人――フリータク公爵に、フィロメナは首を振りながら答えた。
「いいえ。お気遣いありがとうございます」
 まだ信用しているわけではないが、最初から喧嘩腰になる必要もないので、挨拶は普通に行った。
 それに、多くの貴族を相手にしてきたフィロメナの第一印象としては、フリータク公爵が何かを企んでいるようには見えなかった。
 勿論、貴族という立場にある以上、しかも見た目の年齢からして、長い間その世界を渡り歩いて来た相手だ。
 そのくらいのことはやって見せてもおかしくはないので、油断することはしない。

 フリータク公爵はそのことがわかっているのか、二人に椅子を勧めつつ、自ら向かいの椅子に腰かけた。
「早速本題に入らせてもらうが、勇者殿たちは古代遺跡について調べているということで、間違っていないだろうか?」
「ああ、それは間違いなくその通りだな」
 フィロメナたちは、移動の際に出会った者たちには、遺跡の調査と言っている。
 それが、二つ前の古代文明であることを公言していないだけだ。
 遺跡調査であれば、特に隠す必要もないためフィロメナはすぐに頷きながらそう答えた。

 フィロメナのその答えを予想していたのか、フリータク公爵は同じように頷き返しながら言った。
「ふむ。では、向かった場所から予想するに、無事にあの遺跡にたどり着けたのかな?」
 いきなりそう聞いて来たフリータク公爵に、フィロメナは特に表情を変えることなく首を傾げた。
「どういことでしょう?」
 大精霊が管理している遺跡のことは、迂闊に外に広めるつもりはない。
 それ故の対応だった。

 だが、そんなフィロメナに対して、フリータク公爵は、ますます目を細めながら少しだけ笑った。
「ホホホ。用心深いことだ。まあ、それも重要なことだ。だが、儂には隠す必要はないぞ?」
 その言葉を見極めるように、フィロメナとミカエラはジッとフリータク公爵を見詰めた。
 二人からの視線に晒されたフリータク公爵だったが、特に影響は受けていない様子で、そのまま続けて言った。
「まあ、そう言っても信用できるはずもないか。実は、我が家の先祖は、一度あの湖の遺跡に入ったことがあるのだ。きちんと証拠の品も持ち帰っておる」
 そう前置きをしたフリータク公爵は、その先祖についての話を始めた。

 そもそもフリータク公爵家の始まりは、王家に生まれた王子が興した家で、代々直系の子孫(女性当主含む)が継いできた。
 そのフリータク公爵家が興って数代を経たある時、ふらりとある冒険者が家を訪ねて来たそうだ。
 そして、その冒険者が言うには、オモニ湖には水の大精霊の加護があり、更にはその湖底には選ばれた者だけが入れる古代の都市があるという。
 俄かに信じがたいその情報に、当主はさすがにその話だけでは信じることが出来なかった。
 当時、その冒険者が腕利きとして有名な人物だったとしても、だ。
 その話を聞いた当代当主は、真偽を確認するために、自らの子供たちを調査のために湖に送った。
 ところが、その中で古代遺跡まで行けたのは一人であり、結果としてその者が次代の当主となり、さらに公爵家は繁栄を極めたという。

 貴族家であれば一つや二つ有りそうな話ではあるが、フリータク公爵家ではその話が代々当主の間でずっと受け継がれてきた。
 その理由は、その話が真実であるという証拠があったためである。
「――普通であれば鼻で笑い飛ばすような話なのだがな。その当時の当主は女性で、話を持ってきた冒険者と婚姻を結ぶまでに至ったそうだ」
 今でこそその垣根はだいぶ低くはなっているが、当時の常識であればいくら有名な冒険者とはいえ、平民出の者と公爵家の者が結ばれることなどまずなかった。
 さらに、それ以外にも、当主だけが知る物証があり、その話が真実であるという証拠になっているのだ。

 多少の熱意を持って語られる公爵からの話に、フィロメナとミカエラは多少白けたような表情を向けていた。
 湖底にある遺跡が真実であることはふたりともわかっているが、だからといってその話が本当の事であるかどうかまではわからない。
 だからこそ、フィロメナとミカエラは迂闊なことはせずに、ごく普通の対応をしていた。
 そして、そんなふたりの様子に気付いたフリータク公爵は、ハッと気づいたかのような顔になって恥ずかしそうに頭を掻いた。
「いや、すまんな。この話は当主経験のある者しか知らないことでな。ほかの者に話せる機会もなかったため、つい熱くなってしまった」
 この場にはフィロメナたち三人以外には誰もいない。
 公爵家の当主が不用心だと思われない行為だが、そもそも勇者であるフィロメナを前にして、多少の護衛など無意味である。
 何よりも、代々守り抜いて来た話を、他の者に話すつもりは、フリータク公爵には無かった。

 では何故、フリータク公爵がこの話をふたりにしたかといえば、理由は単純である。
 なにやらごそごそと懐を探り始めたフリータク公爵は、そこから長方形の板のような物を出してきた。
 それは二つ折りになっているようだったが、フィロメナとミカエラには、それが魔道具らしいという事はわかっても何のために使う物かまではわからなかった。
 もしこの場にシゲルがいれば、ガラケーみたいだという感想を持っただろう。

 その魔道具を大事そうにフィロメナとミカエラに見せたフリータク公爵は、すぐにそれをしまい込んだ。
「正直に言えば、儂はこの話を其方達と同じように、あまり信用していなかった。どちらかといえば、当主としての心得を伝えるような教えのようなものだとな」
 ごく当たり前のその言葉に、フィロメナとミカエラはどう返していいのか分からずに、戸惑った表情になった。
 その反応を予想していたのか、フリータク公爵は特に咎めるわけでもなく、そのまま話を続けた。
「ところが、数日前にこの魔道具が反応してな。国の外からの客人を案内することになると連絡が入ったのだ。……まさか、儂が直接大精霊と話をすることになるとは、思ってもみなかったぞ」
 少し呆れたような顔になって言ったフリータク公爵に、フィロメナとミカエラは思わず同時に顔を見合わせた。
 まさか、大精霊から直接話を聞いていたとは思っていなかったのと、公爵本人がそのことを信じて疑っていない様子に驚いたのだ。

 普通であれば正気を疑うような公爵の話に、しかしフィロメナとミカエラは、それを言葉にすることは出来なかった。
 客人の案内が真実であると、誰よりも良くわかっていたからだ。
 その二人の反応を見たフリータク公爵は、やはりと言いたげに頷いていた。
「どうやら本当に遺跡を見ることが出来たようだな。話を聞く限りでは、この世の場所とは思えないようなところだというが……残念ながら儂には今のところ資格はないとはっきりと言われてしまったからな」
 いかにも残念そうな顔でそう言ってきたフリータク公爵に、今度は別の意味でどう返すべきかと悩むことになった。
 ここで残念ですねと返せば嫌味になるだろうし、変に気を使ってもあまり意味がない。

 そんなふたりに、フリータク公爵は首を左右に振った。
「いや、済まない。別に文句を言うつもりはなかったのだ。それよりも、其方達から遺跡の話を直接聞いてみたかっただけだ」
 そう言ったフリータク公爵の顔を見れば、本当にそれ以外の目的は無いように見えた。
 そのため、場合によっては遺跡からの持ち出し品の徴収などもあり得るかと覚悟・・を決めていたフィロメナは、内心で少し拍子抜けをしていた。
 フィロメナは、この屋敷に来るまでの馬車での決意が、氷解していくのを自覚していた。
 勿論、それが目的だという可能性もあるので、最後の最後まで油断することはしないのだが。

 とにかく、当初の予想とは違った方向で、自分たちを呼んだ理由が判明した。
 既に、フィロメナとミカエラは、公爵の話が嘘だとは考えていない。
 話の内容的に、自分の正気を疑われるようなことを話すはずが無く、さらに見せてもらえた魔道具もその話の裏付けとなっている。
 問題なのは、公爵から話を聞いたフィロメナとミカエラがどこまで、自分たちの話をすればいいかということである。
 既に遺跡についての話を隠す意味は薄れている。
 大精霊を前面に出して隠すことは出来なくはないが、それをする意味がほとんどなくなっていることも事実なのであった。
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