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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第4章 風の都

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(3)お邪魔者たち

「――なあ、そろそろ止めにしないか?」
「何を言っているのよ。さっきまでノリノリだったくせに」
「そ、それは否定しないが……」
 マリーナが予想した通り、フィロメナとミカエラは、こそこそと二人の後をつけていた。
 ただし、シゲルとマリーナに居場所がばれないようにかなり離れたところにいるため、会話までは聞こえていない。

 当初はミカエラの言う通り、ノリノリで着いて来ていたフィロメナだったが、服飾店に入ってマリーナが一般的なスカートに着替えて来た時から落ち着きを失くしていた。
 折角マリーナが楽しんでいるところを、邪魔するのは悪いという気が湧いて来たのだ。
 この時点で、場所はばれていないにせよ、マリーナには尾行(?)が気付かれているとフィロメナとミカエラは理解していた。
 それでも尾行をしているのは、お約束というやつである。
 ちなみに、フィロメナの中では、今はシゲルの事よりもマリーナのほうが優先なので、嫉妬する心がまったく無いわけではないが、あまり気にはしていない。
 シゲルが楽しんでいるのであればそれでいいか、という感じである。

 どことなく後ろめたい気分を覚え始めたフィロメナだったが、それは長くは続かなかった。
「む。お客さんが来たぞ」
「あらあら。もう少し楽しませてくれればよかったのに」
 フィロメナの言葉に従って、視線を同じ方向に向けたミカエラは、予想していた通りのモノが来たのを確認できた。
 この場合の予想は、当たってほしくないものだったが、来てしまったものは仕方ない。
 楽しむシゲルとマリーナの邪魔にならないように、前もって処理をする必要があった。

 
 シゲルとマリーナは気付ていなかったが、先ほどから二人のあとを付けている者がいた。
 シゲルはともかくマリーナが気付けなかったのは、単純に店の中に入っていて尾行者(観察者?)が外から窺っていることまで、注意が向いていなかっただけだ。
 逆にフィロメナとミカエラが気付けたのは、店の中に入っているお客が、シゲルとマリーナしかいなかったからである。
 店員に懸想している者の仕業ということも考えられなくはなかったが、その者の身なりを見れば、それは考えにくい。
 シゲルとマリーナの様子を窺っている者は、誰がどう見ても高い身分の誰かの使いという感じの服を着ていたのだ。

 その者に気付かれないようにこっそりと近付いて行ったフィロメナは、不意打ちを喰らっても十分に避けられる位置から話しかけた。
「中にいる二人になんの用事があるのか、聞いてもいいか?」
「えっ……!? あっ!!」
 フィロメナに話しかけられた男は、最初は苛立たしそうに振り返ったが、フィロメナの顔を見て完全に顔色を変えた。
 誰がどう見ても、フィロメナのことを知っているとその表情は物語っている。

 その男の顔を見て、ミカエラが呆れたようにため息をついた。
「いくら不意打ちだったからといって、もう少し表情を取り繕ったらどう? 私たちは助かるからいいけれど」
 ミカエラの言葉に、すぐに状況を理解したのか、男は表情を取り繕った。
 もっとも、時すでに遅し、なのだが。
「今更遅い。それよりも、お前の雇い主の所に連れて行ってもらおうか」
「な、なんのことだか……」
「あら。別にこの場で逃げ切るのは構わないけれど、報告が女王に行くだけだからね? ……そう考えると、どちらがいいのかな?」
「微妙なところだろうな。私たちが女王の報告したところで、こ奴から足がつかなければバレなくてすむ可能性もあるからな」
「あら。でもその場合は、この男は当然首よね」
 当事者を無視して続けられるフィロメナとミカエラの会話に、男は背中に冷や汗を流し始めていた。

 ミカエラは、わざと首という表現を使っていたが、場合によっては物理的になくなってしまう可能性もある。
 それが分かったからこそ、男は必死に頭の中でどうすればいいかを考え始めていた。
 過去の実績から簡単に首を切られるようなことはないとはわかっているが、それでも可能性がまったくないわけではない。
 そこまで考えた男は、ふと自分が何のためにここに居るかを今更ながらに思い出した。

 不意打ちを喰らわせて冷静ではなかったはずの男の顔が冷静さを取り戻していくのを見て、ミカエラは肩を竦めた。
「あら、残念ね。そのままのまれていてくれればよかったのに」
 魔王を倒したパーティであることから、一部では脳筋パーティと思われているフィロメナたちだが、実際はそんなことはない。
 男は主からそのことをきっちりと教え込まれていたので、ミカエラの挑発には乗らずに、ただ自分の目的を果たすことにした。
「あちらのお方をお見かけしたのでお声を掛けようとしていたのですが、貴方たちがいらっしゃるとは思いませんでした。主のお招きに応じていただけますか?」
 そう言ってあっさりと目標を変えて来た男に、フィロメナはジッと考えるような視線を向けた。
 ミカエラと視線を合わせないのは、相談するような雰囲気を感じ取らせないようにするためだ。

 男を見ていたフィロメナは、やがて口を開いた。
「招きに応じたとして、私たちにとってのメリットは? 言っておくが、ここで貴族の権利とやらを主張しても、私たちには通じないぞ?」
「勿論そのようなことは申しませんとも。ただ、主は『知られざる遺跡で手に入れた物についての話がある』と」
 そう言ってきた男に、フィロメナは眉をひそめた。
 フィロメナたちが遺跡に行って研究をしていることは、大精霊がいる遺跡に入る前から一部では知られていることだ。
 男の言い方は思わせぶりな言い方だったが、どの遺跡についてのことかが良くわからなかったのである。

 そのフィロメナの雰囲気を感じ取ったのか、男は少し慌てたように付け加えた。
「かの精霊がお守りする遺跡で、とも主は申しておりました」
 それを聞いたフィロメナは、さてどうするかとまた考え始めた。
 超古代遺跡についての話であれば、一方的に無視するわけにはいかない。
 男の主がどの程度の情報を握っているのか、確認する必要があるためだ。
 ただし、これまで情報が表に出ていないことを考えれば、大したことではない可能性があることも十分に理解している。

 そんなフィロメナを余所に、ミカエラが男を見ながら言った。
「いいじゃない。その誘いとやらを受けましょう? 話の内容なんて、あまり関係ないわよ」
 そう言ったミカエラの意図に気付いたフィロメナは、なるほどと頷いた。
 男の主とやらがどの程度の情報を握っていることは、この場合あまり関係がないのだ。
 フィロメナたちがその主の持っている情報に注目している。
 それが周囲に明らかになるだけでも、フィロメナたちにとっては超古代文明に関しての噂を広めるための広告塔になってくれる可能性がある。
 フィロメナたちが直接訪ねた。それだけで、十分にその目的を果たすことが出来るのだ。

 
 虎穴に入らざれば虎子を得ず。そんな気持ちに切り替わったフィロメナとミカエラは、男の用意した馬車にそのまま乗り込んだ。
 その馬車を見るだけで、相手が貴族だということはすぐにわかった。
 一応そうだろうと当たりをつけて話をしていたのだが、これで間違いなく貴族だと確信することができた。
 あとの問題は、男の主がどんな話をフィロメナとミカエラにするかだけである。
 それから、男はたまたまマリーナが目についたと言っていたが、それが本当のことなのかも確かめる必要がある。

 フィロメナにとっては、本当にマリーナだけ(・・)に用があったのかも確認する目的がある。
 もし、シゲルにおかしなちょっかいを出すつもりであったならば、容赦をするつもりはない。
 そんなフィロメナの決意を秘めた馬車は、目的地に向かってゆっくりと進むのであった。
いつもより少しだけ短いですが、きりがいいのでこの辺で。
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