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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第3章 水の大精霊

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(9)初めての……

 シゲルたちが目指しているのは、ホルスタット王国よりも南にあるノーランド王国という古くからある国だ。
 ノーランド王国は、湿地帯や沼地が多い土地柄で、昔から水の大精霊の目撃例が多くある場所でもある。
 国の広さはさほど大きくはなく、国力もそこそこといったところなのだが、他国に蹂躙されることなく残っているのは、その特徴ある地形を生かした戦い方で防衛に有利であるからとされている。
 その地形自体が大精霊のおかげと言われていて、ノーランド王国には水の大精霊の加護があるとさえ囁かれていた。
 王国はそのことを否定しているのだが、国内に多く出現している水の大精霊に国を挙げて敬意を表していることは間違いない事実である。

 シゲルは、旅の途中でそれらの話をフィロメナたちから聞きながら過ごしていた。
 いま現在は、ホルスタット王国を抜けて間にある別の国を通過中である。
 このまま順調に行けば、翌日には二つ目の国境線を抜けるだろうというのがフィロメナの目算だった。
 シゲルたちが乗っている馬車をひいている馬は、足はそこそこだが、とにかく丈夫であることを優先しているため、長時間の移動にもよくいう事を聞いて動き続けている。
 今は夏で日が出ている時間も長いため、その分移動時間があるはずなのだが、途中途中の休みを挟めばきちんと最後まで移動してくれる。
 長距離を移動するには、最適の馬たちなのだ。

 その馬車だが、シゲルも途中で御者の仕方を教えてもらっていた。
 荷台の中にいるのが暇だったからということもあるのだが、それ以上に全部の行程をフィロメナたちに任せるつもりはなかったのだ。
 それに、移動の最中もしっかりと探索をしてくれている精霊たちに、きちんと姿を見せるという目的もある。
 今回の移動で分かったのだが、探索している契約精霊たちは、シゲルが移動をしていてもそれに着いて来ている。
 一体どうやって移動しながら探索もしているのかと疑問に思うこともあるが、便利なので忘れずに探索だけはさせている。
 ただし、珍しい物を見つけてくる確率はやはり下がるようで、拾ってくるものはすぐに目につくような物ばかりのようだった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 それに最初に気付いたのは、この時護衛についていたシロだった。
 突然、シゲルの周りで何かを知らせるようにクルクルと回りだしたのだが、それに続くようにしてフィロメナが反応していた。
「むっ。馬鹿者どもが来たか」
 それだけで、何が来たのかシゲルにもわかった。
 そして同時に、ついに来たかとも思った。

 シゲルはフィロメナから、この旅で課題をひとつ出されていた。
 それが何かといえば、実際に人を殺めることである。
 もっと具体的にいえば、旅人を襲う盗賊たちをきちんと処分するということだった。
 この場合は、捕らえて次の町に連れて行くという選択肢はない。
 この世界では、旅人を襲う盗賊は重罪のひとつとされていて、どの国でも発見次第、実力差で勝っている場合は倒してしまう。
 勿論、余裕がない場合は、逃げるだけでも仕方ないとされている。

 なぜそうなのかといえば、理由は単純で、それが抑止力に繋がるからだ。
 盗賊は発見次第、即処刑。それが、盗賊の発生を抑えているという事実になっているのだ。
 事実、各国でその方針が実施されるや否や、盗賊の出現率は下がっていた。
 さらに、有力者と裏で繋がっている場合、たとえ捕らえても逃げられるということが防げる。
 その場で処分するということが、国にとっても治安に繋がっているので、各国は盗賊の「捕縛」を認めていないのである。

 そんな国の裏事情はともかくとして、旅をする以上は、どこかで必ず盗賊とは会うことになる。
 確かに即処刑という事実が盗賊の発生を抑えていることは事実だが、まったく出ないというわけではない。
 世の中には、必ず食い詰めた者というのは出るし、そうした者たちが徒党を組んで、安易に盗賊という手段を取ることも残念ながらあり得る。
 そんな状態なので、いざ盗賊と出会ったときに、相手の命を奪うことを躊躇していては、いくら命があっても足りない。
 圧倒的な実力差があればどうとでもできるだろうが、その後のことを考えれば、命を奪わないという選択肢は取れないのである。

 というわけで、フィロメナからの課題に繋がる。
「…………ついに、来たか」
 気が重い様子で言葉を発したシゲルに、フィロメナはわずかに心配そうな視線を向けた。
「気持ちはわからなくもないが、こればかりは避けて通れないからな。もし、出来ないというのであれば、やはり旅は諦めてもらうしかない」
 すべてをフィロメナたちに任せて、シゲルは知らぬ存ぜぬを通すという手もなくはないが、それは最終手段だ。
 いくら気が進まないとはいっても、シゲルとしてはそこまでフィロメナたちにおんぶに抱っこという状態になるつもりはなかった。

 
 盗賊が来たことは、フィロメナからミカエラとマリーナにも伝えられて、馬車の中は既に臨戦態勢状態になっている。
 ただし、勿論それを表には出さないように、馬車は今まで通りの速度で進んでいる。
 そんな中で、フィロメナ曰くお馬鹿さんたちは、しっかりとある意味で予定通り行動に出て来た。
「うひゃひゃひゃ! 荷物は全部置いて行きな! 女は俺たちのものだ!」
 なんとも分かり易いその言葉に、シゲルの短剣ショートソードを持つ手が僅かに振るえた。
「別に無理に剣で倒す必要はないからな?」
 シゲルを気遣うように、フィロメナが優し気にそう言ってきた。
 フィロメナは、甘やかす気になればいくらでも甘やかすこともできるのだが、シゲルの為を思って課題を出しているのだ。

 こんな状況で一瞬だけ甘ったるい空気が流れた気がしたが、流石にミカエラやマリーナもそれに構っている余裕はなかった。
 相手が宣戦して来たことで、ミカエラは準備をしておいた魔法をぶつけている。
 だが、その相手に届くか届かないかというところまできたところで、魔法が消えてしまった。
「魔道具か魔法使いあり!」
 短く指示を出したミカエラは、より強い魔法を使うためにさらに集中し始めた。
 敵が攻撃してくるまでは、相手に気付かれないようにするためにも、あまり強い魔法は用意していないのだ。

 そのミカエラの魔法がきっかけになって、事態は一気に動き始めた。
 十数人にもなる盗賊たちは、一気にシゲルたちの乗る馬車に向かってきた。
 それを見たフィロメナは、さっさと御者台から降りて、一人目に向かっている。
 シゲルも精霊に指示を出してから、覚悟を決めて魔法を使い始めた。
 シゲルの魔法は牽制位にしかならないが、それでも十分に役に立てるくらいの連携は、既に身に付いている。

 ミカエラやマリーナも、基本は魔法が専門とはいえ、それ以外ができないというわけではない。
 それぞれに武器を構えて盗賊の相手をしていく中、ついにシゲルの直接の出番が回って来た。
 とはいっても、シゲルに向かってきた相手は、ミカエラの魔法の流れ弾にでも当たったのか、既によれよれの状態だった。
 そういう相手を選んで自分の前に来るようにしたのかとシゲルは思ったが、事実その通りだった。

 逃げてくれればいいのにと、一瞬シゲルの頭の中をよぎったが、それを口に出すことはしなかった。
 そして、ついにそのときが来たシゲルは、まっすぐに相手の心臓に向かってショートソードを突き刺した。
 相手は目を見開いて、ゆっくりと崩れ落ちて言った。
 シゲルはそれをしっかりと目に焼き付けながら、相手からショートソードを抜いた。

 
 盗賊の討伐自体は、あっさりと終わった。
 相手には魔法使いがおらず、魔法の効果を減らす魔道具があるとわかったミカエラが、それ以上の魔法を使って片付けて行ったのだ。
 盗賊たちには数の余裕があったが、そんなもので勇者一行を崩せるはずもなく、あっさりと全員が倒されて終わった。
 逃げる隙も与えなかったフィロメナたちは、流石といえるだろう。

 全員が起き上がってこないことを確認したフィロメナは、ゆっくりとシゲルの所へと近づいて行った。
「大丈夫か、シゲル?」
「ああ、うん」
 いささか呆然とした様子で頷くシゲルに、フィロメナは心配そうな視線を向けた。
「いや、本当に大丈夫だよ。むしろ、逆にあっさりとしていて、驚いたくらいだった」
 相手に剣を刺したときに、きちんと手に伝わってくる感触はあった。
 ただその感触は、魔物の命を奪う時とほとんど変わらなかったので、そのことではさほど嫌悪感は湧いてこなかったのだ。
 それよりも、やはり人を殺めたという気持ちの部分のほうが、シゲルに精神的負担を与えている。

 シゲルの様子を見て、これは後から来るパターンだと判断したフィロメナは、出来るだけ優しい声を掛けた。
「後の処理は私たちでしておくから、シゲルは馬車の中で休んでおくといい」
「いや、でも……」
 そう言って渋るシゲルに、ミカエラが近付いてきた。
「いいから言う通りにしておきなさい! 今回のシゲルの仕事はここまで。いいわね?」
「こちらは大丈夫だから、貴方は馬車の中でゆっくりしておきなさい」
「…………わかったよ」
 ミカエラに続いてマリーナにまでそう言われたシゲルは、ゆっくりと頷いてから馬車へと入った。
いつまでも避けては通れない盗賊問題でした。
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