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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第3章 水の大精霊

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(4)謁見の前

 魔道具屋を出たシゲルたちは、適当に屋台などを冷やかしながら宿に戻った。
 すると、宿の正面に王家の紋章が掲げられている馬車が停まっているのが見えた。
「あ~、あれって、どう見てもお迎えだよね」
 シゲルがそう聞くと、フィロメナとミカエラが同時にため息をついた。
「……そのようだな」
「面倒だわ」
 先ほどとは違って、しっかりと紋章を掲げての出迎えで、正体不明という事で追い払うこともできない。
 勝手に紋章を使ったとばれれば、重罪になってしまうので、そうそう簡単に犯罪などに利用されたりすることはないのだ。

 さらに、シゲルたちが宿に近付けば、それが偽物ではないことがすぐにわかった。
「あれってどう見てもミンよね?」
「そうみたいだな」
 馬車の傍に立っている女性を見て、ミカエラとフィロメナが面倒そうにそう言った。
 どうやらその人物は、二人にとって知り合いらしいということが、それでシゲルにもわかった。

 
 言葉が聞こえるところまでシゲルたちが近付くと、ミンという女性は丁寧に頭を下げた。
「お久しぶりでございます」
「ああ、久しぶり」
「貴方も元気そうね、ミン」
「お陰様で」
 ミンは、そう答えながらもう一度軽く頭を下げた。

 さらにミンは、フィロメナとミカエラを交互に見ながら続けた。
「もう用件は言わなくても分かると思いますが、一緒に来ていただけますか?」
「せっかくのお誘いだが……と言いたいところだが、断るとさらに面倒になるのだろう?」
「さて、主のお気持ちは、私などではわかりかねますので、お答えいたしかねます」
「『王の心を知る者』なんて呼ばれている貴方が、言うような台詞ではないわね」
 表情を変えないままツラッと答えたミンに、ミカエラが呆れたような視線を向けた。
 ミンは、王宮内では、アドルフ王の心を先読みして準備を怠らないやり手として知れ渡っているのだ。

 
 フィロメナ、ミカエラとミンの会話を横で聞くとはなしに聞いていたシゲルは、ただぼんやりとミンの顔を見ていた。
 その時のシゲルが何を考えていたかといえば、なんでこの世界の人って顔面偏差値が高いんだろうという、割とどうでもいいことだった。
 フィロメナたちは置いておくとして、今目の前にミンもどこかの週刊誌に載っていておかしくないくらいには美人である。
 話を聞く限りでは、王に付いている者なので、そういう人物が選ばれているということもあるのだろうが、シゲルがそう思うのは別にきちんとした理由があった。
 王都に限らず、どの町を歩いていても、住人たちは基本的に顔のどこかに美形的な要素を持っている。
 どう頑張って見ても平均より上程度のシゲルは、町を歩けば埋没してしまうのは間違いない。

 そんなことを考えていたシゲルを余所に、フィロメナたちの会話は続いていた。
「私のことはともかく、如何いたしますか?」
 ミンが表情を変えないままそう聞くと、フィロメナとミカエラが同時に頷いた。
「はあ、仕方ない。一度顔を見せないと、ずっと追ってきそうだからな」
「ここで面倒を済ませてしまったほうがいいわね」
 どうせ会うことになるだろうと言っておきながら、ここではそんなことを言って牽制している。
 それを見ながらシゲルは流石だなと感心ししていた。
 フィロメナにしてもミカエラにしても、揃って脳筋ではないのだ。
 ……脳筋的な要素も若干持っている、というだけで。

 フィロメナとミカエラの答えを聞いたミンは、ここでようやく視線をシゲルに向けて来た。
 王が呼んでいたのはフィロメナとミカエラだけなので、シゲルに関しては最初から対象として外れていたのだ。
 といっても、シゲルがフィロメナとミカエラに同行しているのは見て分かるので、一定の敬意は払っている。
「こちらのお方はどうされますか?」
「どうせ呼ばれていないのだろう? だったらわざわざ騒ぎの種を蒔くつもりはないさ」
「そうでございますか」
 フィロメナの言葉に、ミンはそう答えながら小さく頷いた。

 シゲルが行かないことは、最初からお互いに話をして決めていたことだ。
 指名されて呼ばれるのならともかく、そうでないなら敢えて面倒な場所に足を踏み入れるつもりはシゲルにはなかった。
 ミンとの会話を聞いているだけでも疲れて来そうなのに、それ以上に面倒な会話になるとわかっている王との対面などゴメンだというのがシゲルの正直な感想だ。
 もっと正確にいえば、王の傍にいるはずの貴族たちが、となるのだが。

 とにかく、シゲルは行かないとフィロメナが答えたことで、面倒な事態になることは無事に免れることができた。
 フィロメナとミカエラが、ミンと一緒に馬車に乗り込むのを見ながら、シゲルはホッと安堵のため息を吐くのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 この世界では、王宮と王城は似て非なるものである。
 王城はあくまでも王が執務を行う場所であり、そこでは国家の根幹をなしている各部署がそれぞれの執務も行っている。
 対して王宮は、その名の通り、王が生活を行うための場所で、あくまでも私的に利用される場所になる。
 中には私生活に仕事を持ち込むのを嫌がって、わざわざ別の建物を建てて王宮としている王もいる。
 それに対して、アドルフ国王は、いちいち長距離を移動するのが面倒という事で、普段の生活も王城で行っている。
 もっとも、ホルスタット王国では代々の王がそうしてきたので、敢えて新しく建物を建てるわけにもいかないという事情もあるのだが。

 それはともかく、王城の一室に案内されたフィロメナとミカエラは、予想していた通り面倒な事態に大きくため息をついていた。
「わかっていたことだが、なぜ正式な対面になるのか」
「貴族たちって、面倒ね」
 二人がいる部屋は、正式な使者が対面をするために使われる部屋だった。
 逆に言えば、二人はこれから謁見の間を使って、公的な対面をするということになる。
 要するに、王との気楽な対面ではなく、周囲に貴族たちがいる状態で面会をするというわけだ。

 それだけを見れば面倒この上ない事態だが、勿論フィロメナとミカエラは、王の意図にもきちんと気付いていた。
「面倒は一度に済ませてしまえということはわからないでもないが、な」
「そうよねえ。何が悲しくて、多くの視線にさらされなければならないのよ」
 謁見の間で会うという意味をきちんと理解していても、やはり文句は言いたくなるものだ。
 ミカエラの言葉に完全に同意していたフィロメナは、止めるどころか大きく頷いている。
 たとえ盗聴されていたとしても、それはそれで別に構わないのだ。

 それにしても、フィロメナたちが王都に入って半日も経っていないのだが、あっさりと謁見の間を使うことになった手際の良さに、フィロメナとミカエラは呆れるばかりだ。
 普通は、謁見の間を使うとなれば、煩雑な手続きが必要になるはずなのだが、それをあっさりと飛び越えていることになる。
 それだけホルスタット王国が『勇者一行』を重視しているということの証左でもあった。
 もっとも、王の鶴の一声があれば、そんな面倒な手続きは後付けで行われることもあるのだが。
 今回は、その鶴の一声があったと考えるのが自然だ。

 
 そんな裏事情をしっかりと理解したうえで、使者に呼ばれたフィロメナとミカエラは、謁見の間へと向かった。
 服装は正装というわけではなく、普段着のままだ。
 それを見て顔をしかめるような輩も出てくるだろうが、旅の最中にそんな衣装など持ち歩いているはずがない。
 アイテムボックスがあるので、ドレスの一着や二着は大した問題ではないということは、横に置いておく。
 とにかく、フィロメナとミカエラは、旅装のまま貴族たちが待っているであろうはずの謁見の間へと入った。

 謁見の間では、予想通り主だった貴族たちが勢ぞろいしていた。
 その主だった貴族というのは、王城で詰めて働いている者たちのことだ。
 普段領地に引っ込んでいる貴族は、この限りではない。
 貴族にも、国内の役職についている者もいれば、単に領地経営だけを行っている者もいるのである。

 その王城勤めの貴族たちは、基本的にフィロメナとミカエラに対して、表立っておかしなことをしようとする者はいなかった。
 おかしなことと言うのは、相手を蔑んだり陰湿な言葉を呟いたりすることだ。
 一応それぞれが立場のある者たちで、勇者やその仲間に対する扱いはきちんと心得ているのである。
 もっとも、自分たちの良いように使えないフィロメナやミカエラに対して、多大に含むことはあるようで、何やら言いたげに時折視線を向けてきたりはしていた。
 勿論、王が来ていないこの段階で、先走って話しかけるような無作法なことはしないのだが。

 そんな妙な緊張感は、フィロメナとミカエラが謁見の間に入ってから僅かな間だけのことだった。
 二人が定位置に着いてさほども経たずに、王が来たという声がかかり、皆の注目がそちらに集まったのである。
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