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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第3章 水の大精霊

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(3)魔道具の現状

 フィロメナから見れば、意味不明などこの誰とも分からない使者から逃げ去ったシゲルたちは、しばらくの間王都を散策していた。
 流石に王都だけあってタロの町やこれまで通って来た町にも無いような店もあり、シゲルにとっては新鮮な気持ちで歩き回ることが出来た。
 中でも一番シゲルの興味を引いたのは、やはり魔道具屋だった。
 魔道具屋は、他の町にもあるのだが、王都のそれは品揃えがまったく違っている。
 まずそこに感心したシゲルは、触れても構わない道具を手に取って言った。
「やっぱり王都だけあって、数が全然違うね」
「ここにある半分以上は、遺跡からの出土品だがな」
「え? そうなの!?」
 てっきりフィロメナのような魔道具を作っている者がいて、そうした者たちの作品だと思っていたシゲルは、驚いてフィロメナを見た。

 シゲルからの視線を受けて、フィロメナは頷いて続けた。
「うむ。残念ながら、現状だとどんなに頑張っても簡単な物しか作れないからな」
 それは、フィロメナ自身の魔道具作成の腕というわけではなく、一般的な魔道具師のレベルの話だ。
 さらにいえば、レベルが高い物を作れるフィロメナであっても、この遺跡の出土品レベルの物を作れるかは、怪しい所だ。

 そのように、この世界の魔道具作成のレベルが低いのには、きちんとした訳がある。
 そもそも古代遺跡から出てくる魔道具は、高いレベルで隠蔽の術が掛けられている。
 それらを解除して、きちんと解析できるようになるためには、魔法の腕が高くないと駄目なのだ。
 それほどの魔法使いであれば、魔道具など作って生活するよりも稼げる場所はいくらでもある。
 そのため、フィロメナのように趣味レベルでの解析を行っている者はいても、専門にしている者はほとんど存在しない。

 さらに、遺跡から出土した魔道具は、魔法的なことが分かっていても、そもそもの素材が何を使われているのかわかっていない物も多い。
 この場合は、素材の加工そのものも含まれている。
 たとえある魔物の特定の部位だとわかっても、加工する方法が分からなければ使えない物などいくらでもある。
 そうした加工技術が失われてしまっており、一人が一から研究するには、とんでもなく時間とコストがかかってしまう。
 それを乗り越えるためには、やはり個人の趣味レベルか、国家単位で動く必要がある。
 国としては、やはり腕のいい魔法使いは、戦闘方面で確保をするという意見が強く、魔道具研究に人を割けないというのが、今のところの流れである。

 そもそもの問題として、魔法使いは冒険者であっても軍であっても、常に求められる存在であり、あまり儲けの出せない魔道具師を目指すような者はほとんどいないのだ。
 結果として、簡単に作れるような物でも、数が少ないため値段が高くなってしまっている。
「・・・・・・なるほど。確かにこれだと普通の人は、買うのは躊躇するだろうなあ」
 造りとしては比較的簡単とされている照明の魔道具に貼られている値段を見たシゲルは、そんなことを呟いた。
 魔力の補充さえできればずっと使い続けることが出来るものとはいえ、年収の半分近い値段のする物は、中々手が出ないだろう。
 ちなみに、照明の魔道具がそんな値段になっているのは、手に入りずらい素材が必要であるためだ。
 そうした素材の安価な代用品が見つかれば、いくらでも出回ることになるのだろうが、そう上手くいくはずもなくそんな値段になっている。

 
 シゲルは、棚にある魔道具を一通り見て回ったが、印象としてはやはりどれもこれも高いということだった。
「これだと、一般にまで回らないというのもよくわかるなあ」
「そうだな。せめて、安価な素材が出回れば、話は変わってくるのだろうが……」
 フィロメナもその類の研究をしてはいるのだが、上手くいっていないのが現状だった。
 遺跡に行くたびに新しい発見があって、そちらにまで手が回っていないという事もあるのだが。
 フィロメナを見ているだけでも、やはり人手不足の問題というのは、大きいのがわかる。

 フィロメナの言葉を聞きながら、何とはなしに魔道具を眺めていたシゲルは、ふと思いついたことを口にした。
「それにしても、スラムに入るような人とか犯罪者には、魔法を使える人はいないのかな?」
「いきなり何よ。そんなのいるに決まっているじゃない」
 どこをどうするればそんな流れになるのかわからずに、ミカエラが突っ込みを入れて来た。
 どんなに稼げる職であっても、いやそういう職だからこそ、道を踏み外した者もいれば、壁にぶち当たってしまった者もいる。
 そうした者たちが、スラムに落ちたり、犯罪に手を染めたりするのは、いて当たり前の世界なのだ。

 シゲルとしても、何も無関係な話をいきなりしたわけではない。
「いや、そういう人たちを使って、国がしっかり管理したうえで結果が出せればいいと思わない?」
「そんなに簡単に上手くいくはずが……って、フィー?」
 シゲルの言葉に反論しようとしたミカエラだったが、何故かフィロメナが魔道具屋の店員と顔を見合わせているのを見つけた。
 その顔を見て、何かあるとわかったのだ。

 店員との無言の意思確認を終えたフィロメナは、感心したような顔になってシゲルを見た。
「ナイスだ、シゲル。確かにそれだと上手くいく可能性もありそうだ」
「えっ!?」
 フィロメナの言葉に驚くミカエラだったが、シゲルは驚くことはなく、むしろ不思議そうな顔になって首を傾げた。
「自分としては、何故こんなことを国が思いつかなかったのかが不思議なんだけれど」
「確かにな。だが、犯罪者は自らの罪を負わせるのが義務だとされているからな。減免するなんて発想は、誰もしないのが普通だ」
 フィロメナがそう言うのを聞いて、ようやくミカエラもハッとした顔になった。

 スラムに落ちた者はともかく、犯罪者であれば刑を減刑するとか、あるいは生活の向上を餌に、魔道具の研究に人を出せないかというのがシゲルの提案だった。
 それをきちんと読んだフィロメナは、確かにその手は使える可能性があると考えていた。
 勿論、罪を犯した者を簡単に減刑するわけにはいかないので、上手い仕組みを考える必要はあるが、まったく道が無いわけではない。
 スラムの者にしても、ある程度の研究費を渡したうえで、結果が出せれば新しい組織のトップに就けるなど、誘い文句はいくらでもあるはずだ。
 それらの方法がたとえ上手くいかなかったとしても、国が失うのは少額のお金であり、上手くいったときの見返りの金額に比べれば、微々たるものである。

 シゲルに言わせれば、なぜこんなことを思いつかなかったのかといったところだが、この世界では犯罪者を頭脳労働に使うという発想がまずない。
 死刑になるような者はほとんどすぐに刑が執行されるし、重犯罪者は鉱山労働などの肉体労働を課せられることになる。
 頭脳労働の場合、いわゆるただ飯を食わせるということにもなりかねないので、中々そういうことを考えつかないのだ。
 それに、考えついたとしても、現状のシステムを大きく変えることになり、上まで話が通ることはほとんどないのである。

 
 それはともかく、確かにシゲルの考えは一考に値する。
 そう思ったフィロメナは、シゲルを見ながらニヤリと笑った。
「確かに現状を変えるには、そうした思い切った手段を取る必要もあるな」
「ちょっと、フィー、本気?」
「本気も本気だ。それに、どうせ私は提案するだけだからな。いや、ちょうどいい目的ができたな」
 フィロメナも、どうせこの後で国王の使者が来れば、顔を出さなければならないとは考えていた。
 何の目的もなしに会うのは面倒だと思っていたが、シゲルのお陰でその思いが大分軽減することが出来た。
 勿論、このまま使者が来なければ、王とは会わずにこのまま町を出ていくだけだ。
 面倒な対面であっても、一つでも目的があるとなれば、気の持ちようが変わって来る。

 そんなフィロメナの考えを見抜いたのか、ミカエラがジト目になっていた。
「あのねえ、フィー。あまり無責任な提案はしない方がいいんじゃない?」
「何故だ? 私は提案するだけで、まったく懐は痛まない。それに、仕組みを決めて実行するかどうかは、国次第だろう? 決断する責任まで負うつもりはないさ」
「それならいいけれど、ね」
 ミカエラとしては、提案したが最後、フィロメナがその責任者に立たされるようなことになるのではないかと懸念していた。
 勿論、その危険性(?)は十分にあるが、それが決まる前にさっさと王都から逃げ出せばいいと、フィロメナは考えている。

 どちらにせよホルスタット王国は、フィロメナに対して無茶な要求をすることができない。
 もしそれをすれば、他国から一斉に責められることになる。
 一つの国という枠を超えて活躍をしてきたフィロメナだからこそ出来ることである。
 フィロメナは、自分自身が国に縛られず、自由でいるためには、そうした力を使うことも厭うつもりはないのである。
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