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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第3章 水の大精霊

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(2)マリーナの交渉と使者

本日は二話更新です。
ご注意ください。(2/2)
 シゲルたちと別れて王都のフツ教教会に入ったマリーナは、すぐにリゼムトグルト大司教との面会予約を取った。
 リゼムトグルト大司教は、ホルスタット王国内におけるフツ教の最高権威で、国内のすべての司祭・助祭たちの取りまとめ役だ。
 ついでに、子供のころから才能があると認められてフツ教に入ったマリーナの育ての親でもある。

 フツ教内に置いて、聖女と呼ばれる特別な地位にあるマリーナは、すぐに大司教との面会をすることが出来た。
 リゼムトグルトは、その地位にあるが故に、教会内にいないことも多いのだが、この日はたまたま外出していなかったらしい。
 下手をすれば数日会えないこともあるので、すぐに会うと聞いたマリーナは、安堵のため息をついていた。
 そして、リゼムトグルトの執務室に入ったマリーナは、軽い挨拶を交わしてから、すぐに用件を切り出した。

「――そういうわけで、私はしばらく旅に出ることになりました」
 いきなりそう言い切ったマリーナを見て、リゼムトグルトはわずかに顔をひきつらせた。
 大司教でもあり、さらには枢機卿という地位にあるリゼムトグルトが、そういった表情を表に出すことは珍しい。
 小さいときからマリーナを育てて来た身内としての対応だ。
「マリーナ。いきなりそう言われても、他の大司教たちを納得させるのは、難しいよ?」
 内心の感情はどうあれ、穏やかに話してくるその姿は、流石に教会内で高い地位にいるだけはある。
 勿論、それだけでは枢機卿なんていう地位には就けないことをマリーナはよく知っている。

 そんなリゼムトグルトを真正面から見ながら、マリーナはニコリと微笑んだ。
「彼らの声など無視すればいいのです」
「マリーナ……」
 きっぱりと言い切ったマリーナに、リゼムトグルトは眉間にしわを寄せた。
 リゼムトグルトのその顔を見れただけでも、ちょっとした悪戯をした甲斐があったというものだ。

 少しだけ睨んできたリゼムトグルトに、マリーナは特に気にした様子を見せないままに続けた。
「……と、言うのは冗談でして…………これを餌にすれば、抑え込めるかと」
 マリーナはそう言いながら持ってきていたアイテムボックスから例の本を取り出して、リゼムトグルトに渡した。

 その本を無言で手に取り、飾り立てられた表紙をめくったリゼムトグルトは、はっきりとギョッとした表情を浮かべた。
「マ、マリーナ、これは……!?」
「どうでしょうか? 中々いい餌になると思うのですが?」
「餌どころか、出所を聞かれて旅どころではなくなると思うのだけれどね?」
「そこはほら。養父様の御力にかかっております……というのは冗談で、そうした混乱から逃げるために旅に出たというのはどうでしょう?」
 マリーナがそう言うと、リゼムトグルトは考え込むような顔になった。
 確かにそれであれば、多くの意見を躱せることになる。
 旅の行き先で捕まる可能性はあるが、少なくとも一か所にとどまっているよりは、ましになるはずだ。

 マリーナの旅を許可する方向で気持ちが傾きかけていたリゼムトグルトは、本から視線を上げて問いかけた。
「ところで、これはどこの遺跡で手に入れたのだい? 今まで見つかっている遺跡ではないだろう?」
 一月ほど前に、勇者であるフィロメナを王都に来るように説得してくると言って、マリーナが旅立ってから手に入れた物だということはわかっている。
 その言葉がマリーナにとってはただの言い訳であるときちんと理解したうえで、リゼムトグルトは旅の許可を出していた。
 そのフィロメナがきちんと王都に来たと報告を受けたときは驚いたが、それが別の目的のためであることは、その本を見せられればすぐに理解できる。
「勿論です。新しく見つかった遺跡から持ってきた物です。ですが、詳しい場所は申し上げることが出来ません」
「いや、それは……」
 マリーナの答えに、リゼムトグルトは渋ったような顔になった。

 マリーナが遺跡から持ち帰った本は、フツ教にとっては最古の経典と呼ばれるような物だったのだ。
 それほどの貴重な本が出て来た遺跡に対して、黙秘を貫くというのはかなりどころではなく、無理がある。
 間違いなく、教会のトップである教皇自らが動いて、その遺跡を調査すべきだと主張してくるはずだ。
 そうなると、いくらリゼムトグルトといえども、他の司教たちを押さえることは難しくなる。
 むしろ、リゼムトグルトもそちら側に立つだろう。

 そのことはマリーナも十分よくわかってるので、その動きを諦めさせるために先手を打った。
「言いたいことはわかりますが、不用意に遺跡に近付くのはお勧めしませんよ?」
「どういうことかな?」
「簡単な話です。あの遺跡は、大精霊の一柱によって守られています。私たちが入れたのも、偶然が積み重なったのと、大精霊の気紛れの結果です」
 大精霊という名を出されたリゼムトグルトは、短く唸り声を上げた。
 フツ教にとって大精霊は、敬うべき対象であり、不用意に触れていい存在ではない。
 さらに他の教会や有象無象の冒険者たちを近づけさせないためにも、教会内だけで秘匿するように動くはずだ。

 マリーナから投げ渡された特大のバトンに、リゼムトグルトは大きくため息をついた。
 これから行うべき他の枢機卿や教皇を相手にどうやって話をするべきか、既にリゼムトグルトの頭の中はそれでいっぱいになっている。
 そんなリゼムトグルトに対して、マリーナがわざとらしく申し訳なさそうな顔になって付け加えた。
「私が旅に出るのは、もしかしたら別の遺跡に入れる可能性があるからです。まさか、それをお止めになる枢機卿ではありませんよね?」
「まったく、君は……」
 リゼムトグルトは、そう言いながら今度はこめかみに右手の人差し指を当てた。
 これほどの結果を出されては、駄目と言うことは出来ない。
 リゼムトグルトにとっては、しっかりと養父様、大司教、枢機卿を使い分けてくるところも、マリーナが成長したと喜ぶべきところかと悩むところだ。

 大精霊が出る場所で、遺跡がありそうなところとなれば、既にリゼムトグルトも見当がついている。
 マリーナがフィロメナの所に向かったということも、その推測の裏付けとなっていた。
 そう考えたリゼムトグルトは、ふと思い出したようにマリーナを見た。
「ということは、今回勇者が来たのは、やはり国王に挨拶をするためかい?」
 リゼムトグルトがそう問いかけると、マリーナは苦笑しながら首を左右に振った。
「本人はただの通過点のつもりのようですが……まず、そういうわけにはいかないでしょうね」
「それはそうだろねえ」
 マリーナに同調するように苦笑をしたリゼムトグルトは、国王であるアドルフ王の顔を思い浮かべながら頷くのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 食堂での昼食を終えたシゲルたちは、数人の騎士と豪華な馬車に出迎えられていた。
 フィロメナが勇者であることを考えれば、シゲルであっても何のための用であるかは、何となく想像することが出来ていた。
 シゲルが意味ありげにフィロメナに視線を向けると、当の本人は、何ともいえない微妙な表情になっている。
 その隣に立っているミカエラは、盛大にため息をついていた。

 そのフィロメナとミカエラの様子を意に介さないように、騎士のひとりが尊大な様子で言ってきた。
「勇者であるフィロメナ様。我が国の国王がお呼びになっております。是非、こちらにお乗りになってください」
 騎士はそう言いながら背後にある馬車を示した。
 その枕詞は必須なのかなあと、割とどうでもいいことを考えているシゲルを余所に、フィロメナは不機嫌な顔のまま言い放った。
「断る」
「はい……?」
「私たちは、この町に旅の資材の補充と休息に来たのであって、貴族たち(・・・・)のご機嫌伺いに来たわけではない」
 フィロメナはきっぱりとそう言い切ると、騎士に対して踵を返してその場から歩き始めた。
 話をしていた騎士が、何やら後ろで言っていたが、それは完全無視だ。

 
 慌てて後を追いかけたシゲルは、フィロメナの横顔を見ながら聞いた。
「あれでいいの?」
 仮にも国王の使いを名乗っている騎士を相手に、あんな態度を取っていいのかという質問に、フィロメナはどうということはないという顔で頷いた。
「構わないさ。そもそもあれが、本当に国王の正式な使者であるかも怪しいところだからな」
「えっ!? そうなの?」
 まったく考えてもいなかったことを言われたシゲルは、驚きの表情を見せた。

 シゲルの疑問に、フィロメナに代わってミカエラが答えてきた。
「そうよ。あれは、どちらかといえば、国の重鎮に近い所の命令で動いているんじゃないかな?」
「だな。正式な使者であれば、まず私と面識のある者を送って来るはずだ」
「ふえー。そんなものなんだ」
 全然想像がつかない世界に、シゲルは感心した顔で頷くのであった。
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