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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第1章 準備編

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(4)チート(?)と一宿一飯の恩義

 シゲルの異世界生活二日目の朝は、何かに髪の毛を引っ張られる感覚での目覚めだった。
 基本的にシゲルは寝起きが良いほうで、一度目を覚ましてしまえば、二度寝することはほとんどない(まったくないわけではない)。
 特に、今朝のように意味の分からない目覚め方をした場合は、すぐに頭が覚醒してくる。
 髪の毛が何かに引っかかったのかと思って確認してみれば、特にそんな様子が無かった。
 だが、その原因と思われる犯人が、シゲルの目の前でニパッと笑っていた。
「……はっ!? エート。……うん。まだ目が覚めてなかった…………わかったわかった。悪かったから、髪の毛を引っ張るのは止めて!」
 もう一度布団に潜り込もうとしたシゲルだったが、目覚めの時と同じようにその原因から髪の毛を引っ張られて断念した。
 そう。シゲルの目の前には、手のひら大の小人がぷかぷかと浮かんでいたのだ。

 シゲルは、まだ寝ぼけているのかと何度か瞬きしたが、その小人(?)が消えることはなかった。
 むしろ、シゲルから見られているということが分かってか、嬉しそうにニコニコとしている。
 それを見ていたシゲルは、流石ファンタジー世界とわけのわからない現実逃避をしていた。
 シゲルがそんなことをしている間に、いつの間にかもう一人の小人と握りこぶしくらいの子犬(?)が増えている。
 いつ現れたのか、いつ近寄って来たのかは、シゲルにはまったくわからなかった。

 どう見ても懐かれている感じに、シゲルは首を傾げていた。
「うーん。寝ている間に懐かれるようなことでもしたのかな?」
 そう呟いたシゲルに答えるように、初めからシゲルの前に出てきていた小人が何かの仕草をした。
 ただし、シゲルにはなにやら一生懸命腕を動かしているようにしか見えず、何を伝えたいのかがさっぱりわからない。
「えーと? 腕を振る? ……違う? 何かを磨く? ……これも違う」
 シゲルが何かを言うたびに、青い髪を揺らしながら小人が首を左右に振っている。
 完全にシゲルの言葉が通じているのは分かるが、残念ながらその小人がなにを伝えたいのかが分からない。

 すると、それまで黙って二人のやり取りを見ていたもう一人の赤髪の小人が、いきなりシゲルの目の前に飛んできて淡く光り出した。
「うわっ!? な、なにっ?」
 突然のことに、シゲルが思わず驚きを口にしたが、赤髪の小人は気にした様子もなくなにやら動き始めた。
 それを、目を丸くしながら見ていたシゲルは、赤髪の小人が飛んだあとに光が残っていることに気が付いた。
 そして、その光がある形をしていることがわかった。
 シゲルはその形を思わず口にした。
「オープン? ……って、わっ!?」
 シゲルがその言葉を口にすると、いきなり目の前に、プロンプターの半透明なアクリル板のようなものが出て来た。
 それを見ていた二人の小人たちは、嬉しそうにシゲルの周囲を飛び回っていた。

 小人たちの様子に気付きながらもシゲルは、アクリル板もどきをジッと見ていた。
 何故ならそこにはシゲルが良く知る文字が書かれていたのだ。
 勿論、日本語である。
「……なんだろこれ?」
 シゲルはそう口にしながらも、板の上に書かれている文字を流し読みした。
 そして、それを読み終えたシゲルは、ようやくなぜ三体の精霊・・が現れたのかを理解できたのである。


「うーん、なるほど……」
 板の上に書かれたヘルプのような文章を読み終えたシゲルは、思わずといった様子で唸っていた。
 いきなりシゲルの目の前に現れた板――便宜上、入力端末と呼ぶことにした――は、箱庭世界を作っていくための外部入力用の端末だそうだ。
 そして、今もシゲルの周りでうろちょろとしている二人と一匹は、この箱庭世界の住人である精霊だそうだ。

 初期の箱庭世界は、ただの芝だけが生えている中学校のグラウンド(トラック一つ分)くらいの広さがある空間だ。
 その空間を様々な環境にしていくことによって、いろいろな精霊たちが訪ねて来ることになる。
 そして、それらの精霊から『お土産』をもらいつつ、さらに環境を変化させたり、箱庭の広さを変えたりと色々なことができるようになるそうだ。
 ちなみに、初期からいる三体の精霊は、手放すこともできるが、作為的にそうしない限りはずっと居続けてくれる。
 だが、ほかの精霊たちは、特殊な条件を満たさない限りは、あくまでも箱庭世界にとっての『お客様』でしかない。
 もし箱庭世界に精霊たちを定着させたいのであれば、それらの条件を満たすように環境を整えなければならないのである。

 文章を読み終えて、入力端末をいじっていたシゲルは、大きくため息をついた。
「……どう考えても、これが自分にとってのチートってことになるんだろうなあ」
 箱庭世界では、精霊たちを成長させることができる。
 いまいる三体の精霊を始めとして、多くの精霊を育てることができれば、それだけで十分なチートになりそうだった。
「まあ、まったく何もないよりはいいか」
 そう結論付けたシゲルは、ひとまず箱庭世界のことは置いておくことにして、昨夜から決めていた作業をすることにした。
 ちなみに、入力端末は「クローズ」と言葉にすることによって、閉じる(しまう?)ことができた。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 箱庭のヘルプ(?)を読み終えたシゲルは、音を立てないようにそっと部屋を出た。
 静かにしているのは、隣の部屋で寝ているはずのフィロメナを起こさないようにするためだ。
 もう日は出ているのだが、箱庭の確認をそこそこに、シゲルが早く起き出してきたのにはわけがある。
 折角なので、一宿一飯の恩を返そうと考えているのだ。

 昨日、フィロメナが自分の家に招待してくれなければ、間違いなくシゲルは命を落とすかそれに近い状態になっていただろう。
 それを考えれば、一宿一飯どころではない恩がフィロメナに対してある。
 流石に、ただのお人よしだけでフィロメナが助けてくれたとはシゲルも考えていないが、それでも恩は恩である。
 何もせずに、はいさようならという別れ方はしたくなかったのだ。
 まあ、折角知り合ったボンキュッボンな女性との縁を切りたくないという下心もなくはない。

 そんなわけで、シゲルが考えた恩返しというのは、朝食を用意するということだった。
 作るおかずには、昨日シゲルが異世界に移動してくる前に収穫していた山菜たちが活躍することになる。
 今日はこれから町に移動することになっているので、残していても仕方がないという理由もある。
 勿論、残った分はフィロメナに進呈するつもりなので、決して処分するためだけに使うわけではない。

 
 そんな理由で作ったシゲルの朝食を見て、フィロメナは目を丸くしつつ苦笑していた。
「別にこんなことをしてもらうつもりで助けたわけではないのだがな……」
「まあまあ、あまり気にしないで。折角作ったんだから、食べようよ」
「あり難くいただく……のはいいのだが、それよりも、私としてはシゲルの傍にいる彼女たちのほうが気になるのだがな?」
 フィロメナはそう言いながら、シゲルの傍で戯れている精霊たちを見た。
「あー、うん。それについては、食べながら話すよ」
 箱庭は、シゲルがこの世界で生きていくための重要な要素のなりそうなので、どこまでフィロメナに話すかは料理をしている最中に考えてある。
 流石のシゲルも、全てをフィロメナに話すつもりは、今のところはない。

 とりあえず席に着いて、さて何から話そうかと考えていたシゲルだったが、フィロメナの驚いたような言葉を上げたために途中で止めさせられた。
「な、何だ、これは!?」
「え? な、何?」
 フィロメナがスプーンを持ちながら両目を見開いているのを見ながら、シゲルは首を傾げた。
 シゲルにとっては、他人の家の台所でありあわせの物を使いながら作った物だったので、そこまで驚かれる要素はなかったのだ。

 そんなシゲルに対して、フィロメナは震える指でスープを指した。
「こ、このスープだ! 今まで食べたことがないほど、美味いぞ!? 何の味だ、これは?」
「はいっ!?」
 フィロメナの言葉に、今度は逆にシゲルが驚いた顔になった。
 そして、シゲルはすぐに昨夜食べたスープのことを思い出す。
「あー……一応確認するけれど、こっちの世界って、鳥とか豚の骨からスープを取る文化は……?」
「骨から? 何だ、それは?」
 眉をひそめながらそう聞いて来たフィロメナに、シゲルは大きくため息をついた。

 昨夜、フィロメナが用意してくれた食事からもしかしたらとは考えていたのだが、どうやらこの世界の食文化は、シゲルが知っているものとは大きく違っているらしい。
 いや、あるいはフィロメナがやり方を知らないだけという可能性もある。
 まだフィロメナが作ってくれた物を食べただけなので、こちらの世界のものが劣っているとは考えていない。
 だが、スープだけではなく、さっと炒めた山菜を食べて喜んでいるフィロメナを見ると、どうしてもそっちの方向で考えてしまう。
 ともかく、シゲルとしては、大きな街に行ってきちんと確認するまでは、結論を出すのはやめておこうと考えるのであった。
※次話の更新は、本日の20時になります。
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