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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第1章 準備編

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(1)移動と出会い

 それが起こったときのシゲルは、目の前の状況の変化について行けず、籠を背負ったままビクリと大きく体を震わせるだけしかできなかった。
 それはそうだろう。
 何しろ、知り合いのおばあちゃんの持ち山で山菜狩りに勤しんでいたと思ったら、次の瞬間に、輝くような銀色の鎧とフルフェイスの兜に身を包んだ者が目の前に現れたのだ。
 私有地の山の中の自分以外の人間が来るとは思えない場所で、そんなコスプレをするような者がいるとは思えない。
 頭が痛い人か、ひっそりと自分だけで楽しんでいるかのどちらかだろう。

 最初の驚きからどうにか立ち直ってそう考えたシゲルは、目の前の人物がいきなり現れたことをすっかり忘れて話しかけることにした。
「あ、あの。ここは私有地で……」
 シゲルがそう声をかけるのとほぼ同時に、目の前の人物がわずかに焦ったような声を出した。
「馬鹿者! こんなところで何をしている! とにかく、しゃがんでろ!」
 驚いたことに、フルフェイスの兜をつけたその人物の声は女性のものだった。
 さらにその女性は、シゲルに声をかけながら、腰に下げていた剣をすらりと抜いた。
「えっ!?」
 それをみたシゲルは、驚くと同時に慌てて身をかがめた。
 別に女性の指示に従ったのではなく、女性が剣を抜くのに合わせて反射的にしゃがみ込んでしまったのだ。

 銀色の鎧を着込んだその女性は、シゲルが身をかがめるのとほぼ同時に目に見えないほどの速さで動き出した。
 シゲルが動いたと思った瞬間には、目の前から消えている。
 そして、少し遅れてシゲルの後ろからドサリという重い音が聞こえて来た。
 その音でシゲルがしゃがんだまま思わず後ろを振り返ると、そこには鎧と同じ色の剣を血振りしている女性と、豚の顔を持った化け物が血を吹きながら倒れていた。
「…………オーク?」
 その化け物を見たシゲルは、呆然とした表情でそう呟くことしかできなかった。

 シゲルはゲームもするし、ラノベを読んだりもする。
 だからこそ、目の前で倒れている化け物がオークだとすぐに思い浮かび、同時に今の自分が置かれた状況がすぐに理解できた。
「は、はははは……」
 恐らく自分のことを警戒しつつも、オークの様子を調べている女性を見ながら、シゲルは乾いた笑いを上げることしかできなかった。
 頭のどこかでは、まだ未確認生物が見つかっただけだと無理やりに納得させようという考えが浮かんでいたりもしている。

 だが、目の前の現実感を伴った光景は、その甘い考えを完全に否定するものだ。
 世界のどこに、未確認生物に向かって剣一本で向かって行って、あっさりと倒す女性がいるというのか。
 数百年前のことならともかく、シゲルが知る常識では、そんな女性はいない。
 勿論、自分の常識だけで判断するのはまだ早いということはわかっている。

 どうにか否定できる材料が無いかと、シゲルは周囲を見回し始めた。
 その様子を見て、女性がシゲルに近付いてきて言った。
「――何をしている?」
 その声には、未だに警戒している色が窺えた。
「あ~、いえ。あまりの状況の変化について行けずに、周りを確認しています」
「……なるほど」
 シゲルの答えに納得しているのかいないのか、女性はシゲルの言葉に小さく頷いていた。

 視線をキョロキョロとしているシゲルに警戒しつつ、女性はさらに問いかけた。
「それで? もう一度聞くが、こんなところで何をしている? ……いきなり出て来たように見えたが?」
 女性にとってもシゲルはいきなり目の前に現れた不審人物だった。
 とはいえ、見た感じ武装らしい武装をほとんどしていないので、警戒レベルは下がっている。
 それでも、暗器などの小さい武器を隠し持っている可能性もあるので、油断することはない。

 女性の問いに、シゲルは相手が疑うのは当然だと思う一方で、別のことも気になっていた。
「こんなところと言われましても、私は先ほどまで山菜採りをしていたのです」
 シゲルはそう言いながら背負っている籠を女性に見せるように、上半身を少しだけ動かした。
 その籠の中には、春の山菜が半分ほど詰められていた。
「……そんな格好でか?」
 女性の常識では、何の武器も身に着けずに町の外に出るなんてことはあり得ない。
 だからこそ、Tシャツにジーンズというシゲルの格好を見て、呆れたような顔をしていた。
 もっとも、フルフェイスの兜をつけているので、シゲルにはそれは確認できなかったが。

 女性から問われたシゲルは、どう答えたものかと一瞬考えた。
 この場合、定番の対応としては記憶喪失のふりをするか、迷ったふりをするのが良いということはわかっている。
 だが、なぜかこの時のシゲルは、目の前の女性に嘘をついては駄目だという意識が働いていた。
 そしてその予感は見事に当たっていたのだが、それをシゲルが知るのはもう少し後の事だ。

 とりあえず、嘘を吐くことを諦めたシゲルは、ある程度の情報を話すことに決めた。
「えーと、私はここでの常識はわかりませんが、自分にとってはこの格好が普通なんです」
 山菜狩りに長袖シャツに長ズボンという格好が普通かどうかは意見が分かれるところだが、この日は山に深入りするつもりが無かったので、シゲルにとってはそれで十分だった。
 少なくとも、目の前にいる女性のように完全装備で挑む必要がある場所ではない。
 ましてや、血抜きの為にぶら下がっているオーク(?)のような化け物が出てくるようなところではないはずなのだ。

 シゲルのその答えに、女性は戸惑っていた。
 実は女性は、シゲルが嘘をついてもわかるように、真偽の魔法をかけていた。
 その魔法によれば、今までのシゲルの答えは全て嘘が無かった。
 勿論、巧妙に真実を隠して答えることはできるが、これまでのシゲルの言動を見ている限りでは、変に自分に近付くために現れたようには思えなかった。
 そもそも、いま自分たちがいる場所がわかっていれば、こんな軽装で現れること自体があり得ないことなのだ。

 そして、女性が次の問いをしようとしたその瞬間、ある方向を見たシゲルが、思わず膝から崩れ落ちてしまった。
「だ、大丈夫か?」
 突然のシゲルの変化に、女性は思わず駆け寄ってそう問いかけた。
「あ~、はい。ちょっとショックなことがありましたが、一応大丈夫です」
 そう答えたシゲルの視線の先には、月が浮かんでいた。
 ――――――――二つの月が。

 
 どう考えても地球ではないと理解したシゲルは、隠すことを諦めて、全てを女性に話すことにした。
 警戒心がないと言われればそれまでだが、これまでの女性の対応を見て、嘘をついても仕方ないと判断した。
 ついでに、この世界での異世界人の扱いがどういうものなのか、はっきりと知るためにはちょうどいい機会だとも考えている。
 どのみち、実力で目の前の女性から逃げきることは不可能だという事はわかっていた。
 それならば、さっさと自分の状況を確認したほうがいいと思ったのだ。

 そして、シゲルから話を聞いた女性は、唸るような声を出しながら頷いた。
「――つまりそなたは、別の世界から来たというわけだな?」
「まあ、間違いなくそうでしょうねえ。少なくとも月が二つある世界ではありませんでしたから」
「なるほどな」
 女性にとっては月が二つあることは当たり前のことなので、シゲルの話には納得できるものがある。
 真偽の魔法は未だに効力が続いているので、シゲルが嘘をついていないことはわかっていた。

 それに、女性にはシゲルの言葉を信じるだけの知識があった。
「恐らくだが、そなたは『渡り人』と呼ばれている存在なのだろうな」
「渡り人……あ~、つまりは、ほかにも自分と同じような存在がいたという事ですか」
「そういうことだな」
 兜をつけたまま頷く女性を見て、シゲルは一番大事なことを聞くことにした。
「一応確認しますが、その渡り人が元の世界に戻ったという話は?」
「……少なくとも私は聞いたことがないな」
「そうですか」
 女性の答えに、シゲルはやっぱりかと思うと同時に、どこかで納得していた。
 そんなに簡単に世界を渡ることができるはずもない。
 自分でも驚くほどだったが、シゲルは女性の答えを聞いて、なぜかスッキリとした気持ちになるのであった。
こそっと新規連載開始です。
今回と明日だけ夜20時更新を入れます。
本来は朝8時更新予定。

次の更新は明日の朝8時です。
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