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帰宅部、異世界からの帰還

「いいか。家に帰るまでが部活だ。わかってるな?」
「はい!」
「よし、いい返事だ。みんな…今日も生きて帰るぞっ!」
「はいっ!」

 穴沢高校・帰宅部のいつもの帰宅が始まる。

 我が高には、奇妙な事に『帰宅部』という正式な部活が存在する。
 設立者が何者なのか、何故許可されているのかは記録にないが、初代校長と初代部長の名字が同じで、ともに日本人ではなさそうな名前であることと、部活の真の活動内容から、それを推測することは可能だ。

 かれらは異世界人だった。私はそうかんがえている。
 もちろん誰も信じてはくれないだろうし、部員達もそれをわかっている為、誰にも話したりはしない。
 最初がなんだったのかとか、なぜこうなったのかとか、いろいろと知りたい事はあるが、私が一番知りたい、いや知りたかったのは。

 この部活の存在を、私が学生時代の頃に知りたかった。

 知っていれば、何を犠牲にしてでもこの部に入っていたのに。自分の母校でありながら釣り同好会に捧げた自分の青春時代を強く後悔している。


 帰宅部の普段の活動は、最寄りの駅までの道路の掃除や、赤点を取った1・2年生へのマンツーマンでの指導などボランティア活動が多い。
 だから、それなりに運動部も強く生徒たちの活気もあるこの高校で、帰宅部はなんらかの罰か、もしくはやる気のない生徒の受け皿のようなものだと認識されている。
 私もそう思っていた。

 だから、帰宅部がかなり本気の筋トレを行うことや、夏休みを前にして強化合宿の申請を出しに来るのを見ると、新任の教師たちはかなり不審に思うらしい。私もそうだったから。

しかし、帰宅部からは素行不良な生徒もでないし、卒業時には在校生と抱き合って涙するなど、固い絆もあるようだ。
 実際に彼らの素行は良いのだ。それに様々な活動への熱意も高く、卒業後の進路も安定している。

 その理由に疑問を抱いたからこそ、私は『帰宅部』の顧問を引き受けたのだ。帰宅部顧問を定年退職する老教師から引き継いだ時のニヤニヤ笑いは、彼が全てを知っていたからだと確信している。

 帰宅部の真の活動内容。それは「異世界転移」にある。
 代々部長に引き継がれる魔法的な儀式により、帰宅部員は夏休みに異世界へと旅立つのだ。

掟はただひとつ。必ず帰ること。現地に居着くことは許されていない。


 顧問と言っても、ほとんど書類上の物だ。部員たちは悔しいほどに手が掛からない。
 下級生たちは、運動部もかくやという強力な上下関係を持っており、3年の部長は完全に部員を掌握している。
 いや、この関係をただの上下関係と呼ぶのは正しくない。1年生は強い憧れを、2年生は信頼を、3年生に抱いている。そして3年生同士は連帯感でつながっており、しごきとは無縁の愛情と慈しみを持って下級生を指導しているのだ。
 運動部だけではない、全ての上下関係にとっての理想形のような姿がそこにはあった。


 そして徹底的な体力作りによる丈夫な体と、どんな場所でも通じる最低限の礼儀作法を一年生が身につけた頃、夏休みが始まる。

 この頃、私はまだ疑っていたのだ。
 だから、強化合宿の最初の夜に、あの奇跡的な善意の連鎖でつくられた儀式の場に踏み込むという愚かな真似をしてしまったのだ。


 前任の顧問からも。校長からも聞いていた「異世界転移」は、全ての机を片付けた3年A組の教室で行われた。
 丸一日かけて、経験者である二年生と三年生が協力して描いた魔訪陣。唱えられる初代校長の名前。優しい光に包まれた教室に私が立ち入った瞬間、部長の制止の声も間に合わず、我々は異世界に移動していた。


 初代校長の名前と同じ名を戴く王国の「絆の間」に現れた生徒たちは、一年ぶりの再会を喜ぶ大勢の若者たちに囲まれ祝福を受ける。
 そして私には、刃が向けられ拘束された。

 略式の王冠を身に付けた巌のような大柄な男性の指示で、文官と思われる男性が私に事情を説明してくれた。

 かつてこの王国の王族であった初代校長は、自らを次元の狭間に封じる事を代償に、多くの民を守る大魔術を行った事。
 この国では、血縁と同じく『知識の伝達による師弟関係』の絆は、血縁と同じとみなされ大切にされる事。
 つまり、初代校長の教えを受け継ぐ我が穴沢高校の生徒全てが、その子供としてみなされる。
 そして、『20歳を越えた王家の者には王位継承権が与えられる』という事。

 次元の狭間から地球に流れ着いた初代校長は、地球で一人の子をもうけた。
 校長の実子であった初代帰宅部部長は、父の悲願を果たすために血の絆を辿り異世界に渡る魔術を編み出したのだという。しかし、魔術が完成する直前に彼は多くの「子」に見守られてその生涯を閉じたのだそうだ。
 その意思を継ぎ、この国に無用な混乱をもたらさぬ為にも、必ず「日本に帰る」事をただ一つの掟とした「夏の帰省」が毎年行われているのだ。

 私が拘束された理由は、20歳以上だったから。
 これは、歴代の部長と結ばれてきた約束だったのだ。
 もしも、こちらの世界が恋しくて帰ろうとしない部員が出たら。もしもOBなどの20歳以上の地球人がこちら側にやって来たのなら。

 その時は、この国に迷惑を掛けたくないので、「居なかった」事にする。

 そう、あらかじめ決まっていた。全ての帰宅部員はそれを了解している。あくまでも「一時的な旅行」であって、永住は絶対にしないという約束でこちら側に来ているのだ。

 しかし、私の場合はそれすら知らなかったという事で、部長と国王との間で緊急の話し合いがもたれた。
 結果、城内に私は幽閉される事になった。
 といっても、外出や外部の目に触れる事が禁じられているだけで、お客様扱いをして貰えるとの事だ。
 どうやら、部長は前任の顧問から事情を全て聞いていると思っていたらしい。

 私は「帰宅部は異世界に行く部なのだよ。夏休みが明けたら彼らから詳しい話を聞いてごらん」としか聞いていないと告げると、部長は頭を下げて謝った。引き継ぎミスはこちらの責任だと言うのに。部員達を引率する立場にある3年生は、どうやら私にすら責任感を感じているらしい。申し訳無い気持ちでいっぱいだった。


 それから、私は豪華な客間で毎日昼間は本を読んで過ごした。こちらの文字は読めないので、唯一読める「穴沢帰宅部史」だけを何度も読み返した。

 初代部長が故郷に帰り、父からのメッセージを残してきた親族に伝える事に成功した時、王族であり、身を犠牲にして国を救った英雄の子供である彼を王位につけるべきという声が挙がったのだと言う。
 このまま自分がこの国に居座れば、禍根を残す事になりかねないと悟った初代部長は、王位継承権を正式に与えられる20歳になる前に「日本に帰る」事を選択したのだ。
 しかし、故郷への想いから、様々な技術や文化を伝えたいと思った彼は、『帰宅部』を作り、年に一度「子」を連れてくる事にした。

 部史をよみ、事情を理解してみると、帰宅部員とこの国の住民が友好的な関係を続ける事ができるのは、奇跡の様なバランスだった。

 地球からの旅行者である部員たちは、毎年一年間吟味を重ねた知識をこの国に伝える。歌や物語などの多くの娯楽の他に、この国の生活を大きく変えた知識がいくつもある。
 トイレや水路の知識による衛生面の向上。
 部品を共通規格にする事の利点を伝えた事による一部の大量生産品の量産化。
 流通・輸送を専門に扱う業者の誕生。
 これらは地球の常識を持つ部員達が伝えた為に起こった変化だった。

 武器やその知識、植物の種などを始めとする地球産の物品は直接持ち込まない事を話し合いの上で決めており、過剰な変化をもたらせ過ぎない様に慎重に歩み寄っている。

 また、この世界の人間の平均身長は140cm前後。栄養面の違いだけでなく、もともとかなり小柄な人種であるらしく、部員たちは肉体的にも頑健な存在だった。
 城壁の外に徘徊する魔獣との戦いは、この世界の住人が扱う魔法の援護を受ける事で有利に行う事が出来る。
 希望者のみが参加する魔獣や竜との戦いは、部員たちにとっても夢のような出来事であったし、夏に一カ月だけ現れる優しい巨人はこの世界の側からも頼りになる味方だったのだ。

 部員たちは、大怪我を負わない様に細心の注意を払いつつも、様々な冒険を行い、知識を持ちこみ、自分や先輩達の持ちこんだ知識が活かされる現場を見る。
 ただの高校生として、知識を詰め込むだけの生活とは違い、どんな知識が何に役立つのかを考えて過ごし、その成果を確かめる部活動。
 そのさなかに育まれる友情と信頼は、彼らの胸にかけがえのない宝物として積って行く。


 そしてまたたく間に一カ月と言う時間が過ぎて行く。
 夏休みの全てを合宿に使いたい気持ちで一杯だろうが、彼らには学生としての生活もある。

 地球への「帰宅」前日の夜は、帰宅部に関わった全ての人を招いての大規模なパーティが開かれた。
 公式のものではあるが、異世界から来た未成年達にややこしい事をさせようと言うつもりは無いらしく、ただの食事会である。私も特例として参加させて貰う事が出来た。

 2年生の有志によって掘られているトンネルは今年も大いにその距離を伸ばし、もしかしたら来年には開通するかもしれないと言う事を嬉しそうに語る掘削組。

 巨大魚を運んでいた商人の馬車が壊れて難儀している所に遭遇した3年の道路補修チームは、荷物を担いで運ぶことで「巨人」という呼び名を奉られたそうだが、阪神ファンである為納得がいかないという事をしきりに語る元野球部の2年。

 卒業した先輩が関わっていた開拓村では、新設した水路のおかげで収穫が増したと言う事。戻ったら真っ先に先輩に伝えてあげたいそうだ。

 倒した竜が残した卵の研究を最後まで手伝えない悔しさに涙する3年生。

 大怪我をして後半を寝て過ごした1年生と、傷一つない状態にまで治してくれた治癒術師の娘はパーティの間中ずっと手を繋いでいた。

 地球に手紙を持って行って欲しいとしきりに頼んで来た可憐な女性がいたが、規則の為にそれを断らざるを得ない部長が、もしそれを読んでも良ければ記憶して伝える事を約束していた。
 この世界の紙は、数年前に伝える事に成功した和紙の技術が使われているが、その元になる木は地球に無いものなのだ。羊皮紙も、厳密には羊ではない。
 お互いに良い隣人関係で居続ける為には、適度な距離感が必要なのだ。その世界にない物を持ち込まないという規則はその最大の禁忌なのだから。

 やがて、互いの無事と、来年の再開を誓いあった一同は、皆で一つの歌を歌い始めた。
 穴沢高校の校歌だった。

 ♪血よりも強い 我らの絆
  心をひとつに 合わせた力は無限大
  おー穴沢 我が故郷


 歌が終わると、国王が帰還術式を発動させる。絆の間に刻まれた魔訪陣が優しい光を放つ。眩しさに一瞬だけ目を閉じて、再び目を開いた時。

 そこは穴沢高校3年A組の教室だった。

 全員が肩を組み。万感の思いを込めて叫んだ。

「ただいま!」

 今年で卒業する3年達に、もう「次」は無い。しかし、一年生達は今回の経験を得て、来年の合宿までに様々な知識を蓄えて行く。こうして続いてきたのだ。

 そして部長が毎年恒例の言葉で締める。

「みんな。家に帰るまでが部活だぞ。わかってるな?」
「はい!」
「よし、いい返事だ。みんな…今日も生きて帰るぞっ!」
「はいっ!」

 帰宅部の夏は終わった。

 笑顔を浮かべ、涙を拭いて。そして彼らは帰るのだ。

 家に。
このネタで長編書こうと思っていたのだけど、小ネタを色々まとめていたら細かく書かない方が面白いかなって思いまして。

どんな異世界交流があったのかとか、様々なピンチや世界間恋愛の行く末とかは読んだ方の想像にお任せします。

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