SF奇兵隊2 伝法赤い筏(3/27)PDFで表示縦書き表示RDF


SF奇兵隊2 伝法赤い筏
作:隆伊



東夷


 夢の中で東一は船上にいた。祖父が彼の体にロープを結び付けている。ロープの先は船尾に目立たぬよう結わえられている。奴らが去るまで決して上がって来るでないぞ。祖父はそう言い含めると東一を海に投げ下ろした。波間から見上げると近づいてきた一艘の船から、バラバラと武装した男達が乗り込むのが見えた。聞こえてくる罵声と悲鳴。夢の中で東一は思う。またあの夢だ。この後どうなるか、彼は細部に至るまでよく知っている。塩辛い海の味まで口の中に蘇る。
 船が去った後、彼はロープを手繰り甲板に戻った。累々たる屍の山。血で洗い流された甲板。そこに母がいた。幽鬼の如き表情で、その目はこの世を見据えていない。胸に刀傷があり血がドクドクと流れ出ている。母上っ、東一は小さく叫び駆け寄ろうとしたが臆して足が動かない。声に気付き、母は、居ずまいをただし座しこう言った。それは彼のよく知る優しい母の声ではなく、まるで冥界の声のように聞こえた。
「東一よ、・・・母は穢れました。もはや・・・・・・。憎むべき敵は幕軍・・・・・・東一・・・・・・生き延びよ。・・・・・・そして討て。憎むべきは幕軍・・・・・・そして忘れるでない。そなたの父は高杉晋作。長州藩士。忘れるな。そなたの父の名は高杉晋作。母の名はマサ。・・・・・・生き延びよ。そして必ずやこの恨みを・・・・・・・」短刀を手に取った。
「既にこの船には一滴の水も食料も無い。・・・東一よ。・・・・・・この母を糧に生き延びよ」
 母上、止めて。そう叫ぼうとするが声がでない。母は短刀を深々と己が腹に突き立てると、苦悶の悲鳴を押し殺し、こぶしを腹の中にいれ己が肝臓を取り出した。握り締めた肉片を東一の方へ差し出すや、絶命した。
 長い時間が過ぎた。東一はじっと蹲ったままだった。暑い夏の日差しが船上を焼いていた。一日が過ぎた。例えようもない飢えと渇きが彼を襲ったが、母の遺言に従うことは出来なかった。何もかもが恐ろしかった。母も。
 むせかえるような血の匂いの中で二日目。彼の心に憎しみの炎が芽吹いた。それはどす黒く彼を覆い、彼そのものとなった。憎むべきは幕軍。念仏のようにその言葉を繰り返した。
 そして三日目、「生き延びる」そう心に決めた。必ず生き延びて幕府を倒す。彼は立ち上がった・・・・・・。
 目が覚めた。ひどい寝汗だ。またあの夢を見た。東夷は起き上がり宿屋の窓を開けた。まだ夜半だ。寝静まる瓦屋根が闇の中沈んでいる。
糞畜生。忘れることなどできない。忘れることができない以上、俺は怨念に突き動かされる。俺を襲うこの衝動は怨念だ。瞋恚の火だ。怨敵討つまで妄念はない。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう