SF奇兵隊2 伝法赤い筏(27/27)PDFで表示縦書き表示RDF


SF奇兵隊2 伝法赤い筏
作:隆伊



反逆者たちの狼煙


 豊後沖で合流した水戸藩軍艦五隻と土佐藩軍艦四隻は、小倉藩田野浦に接岸、水・土連合軍三千の軍勢が上陸した。そのまま小倉城へ向け門司を進攻。一報を受け駆けつけた小笠原藩士と海沿いの大里・赤坂・手向山付近で交戦となった。連合軍は敵を充分ひきつけて迎えうち、一進一退を繰り返し、敵をその場に釘付けにした。赤坂海岸に東夷のオテント丸そして海援隊の三隻の軍艦が現れ、艦砲射撃を持って援護した。
 丁度その頃、四百の小船に便乗した奇兵隊が、関門海峡を越え、紫川を遡り、音もなく小倉城付近に上陸した。その数、四千。
 全員が上陸したところで、総督山県狂介が無言で軍配を振り下ろした。刹那、誰一人声をあげることなく駆け出し小倉城城門へと向った。一気に打ち破られる大手門、続く槻門かえでもんそして脇の鉄門くろがねもん。後には惨殺された守衛の遺体が転がり、兵はその上を飛び越え駆け抜け、続々と侵入する。やがて気付いた留守居組みと激しい戦闘となった。しかし、精鋭の奇兵隊に対し物の数ではなかった。
 策謀に気付いた小笠原藩士達が、きびすを返し小倉城に取って返した時には時既に遅し。炎々と燃え盛る小倉城を前に為す術がなかった。紫川の支流二ヶ所に水門があり、敵に攻め込まれた時その水門を閉ざせば辺り一面泥土となる仕掛けがあった。その仕掛けを逆に使われた。城に火を放ち逃れてきた藩主忠忱を中心に、企救、田川と京都郡まで退いた。
 九州探題として小倉城に小笠原忠真が入城し、もって幕藩体制の完成として二百年、今、その炎上が政権崩壊の、そして反逆者達の狼煙となった。
 翌早朝、焼け跡の小倉城に東夷らはやって来た。意気上がり大いに気勢を上げる奇兵の中、山県狂介が彼らに気づき近寄ってきた。
「馬鹿なことばかりやってないで隊に来い。幹部として迎えてやる」と言った。東夷は、
「山県兄には逆らえん。だが俺は、トンネルは嫌いだ。海がいい」と答えた。
「お前には敵わんの」笑いながら言い残し、山県は去って行った。
 懐かしい顔にも会った。陸奥宗光、池内蔵太、高松太郎始めとする、海援隊諸士である。
「おう、どうしちょる? 相変わらず無茶ばかりか?」
「諸兄こそ、海運業は儲かりようか?」
「おまんも、皮肉がうもうなった」から始まり話に花が咲く。
 そこへ情報収集に遁走してきた陸が戻ってきた。
「会津が水戸に侵攻、水戸藩主の指揮のもと国境にて打ち破られた様子。小栗忠順は要塞彦島に逃げ込んだまま。大軍は下関に布陣しております。加えて、萩ですが・・・・・・」
 東夷が身を乗り出す。それが聞きたかった。
「薩大軍と一揆の軍勢が合流し、大勝利とのこと」
 東夷はスクッと背をのばし、北東の空を見上げる。
「して、志功を討ったは?」
「狗の子……、とのこと」
 よし、小さく呟くように頷くとしばし沈黙の後こう言った。
「残るは下関の小栗のみ。出航だ。要塞彦島に殴りこむ」
「はいっ」と勢い良く答える陸。
「小倉を落とし、下関を奪えば討幕は成ったも同然。我らも一緒に行く」海援隊諸士が言う。もはや朝意など関係ない。歴史は彼らの意志で決まるのだ。
 刀のつかを握りしめる東夷を筆頭にした赤い筏の面々。桜井が言った。
「死んでさえいなければ必ず縫い合わせてやる。大暴れして来い」


  悲しみの果てに 
     
 秋の川の水は素手に冷たい。香枝はその流れの中に片手をつけて、その冷たさを楽しんだ。萩まであとわずかの道中である。浅瀬で遊ぶ良太に目をやり笑みを浮かべた。平和の訪れ。街道は行き交う人々で賑わっている。皆、故郷へ帰る人か。山々の紅葉が美しい。
 その彼女の後ろに立つ人影。足を怪我しているのか、杖をついている。
 香枝は黙ったままだ。背後の人影もまた、黙して語らない。その手にはあの写真がある。
 心臓の音が高鳴る。けれど心は沈黙したままだった。何も考えられない……。
「香枝どの」男が口を開いた。声が心なし震えている。
 遠い記憶の向こうの忘れることのできない人の声……。香枝はふりかえることができない。川辺にしゃがんだまま。答えることもまた。
「俺はあの日、ひとつしか約束をしていなかった。きっと、また会えると。その約束は今果たせた……」
 涙が頬を伝い川面に零れた。ずっと、思い描いていた。再び会えたら、こう言おう、ああ言おう……。気丈に振舞って、昔と変わらぬ自分を見せたいと。だが、何一つ声にならなかった。口を開けば、しゃくりあげる子供のようだった。
「いまひとつ、約束したい。終生、離れぬと……」男の声を聞きながら、子供のようにしゃくりあげるだけだった。

                             平成17年7月 校了


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