野分の後
台風一過、野分の後のさわやかな秋風を頬にうけながら、馬上の千鶴は手綱引く亮太に言った。
「気持ちいい……。勝ってこの風を感じたい」
亮太はふりかえり笑顔で言った。
「勝つさ」
すでに一揆の軍勢は三万を超え、さらに続々集まっている。
新居浜と天谷がじゃんけんをしている。東夷と合流する約束の期日が迫り、どちらかが竜ヶ崎へ向わねばならず、勝った方がここへ残るとした。
「悪いな」新居浜が言い、天谷が無念そうに睨みつける。別れ際新居浜が天谷に聞いた。
「勝てると思うか?」
「残ったのが、俺ならな」「けっ、何を言う」気色ばむ新居浜に、天谷はこう続けた。
「民衆が、民衆の手で、萩を開放する。これほど胸踊る愉快なことはないじゃろう。このじゃんけん一生根に持つゆえそう思え」
「おっさん、攘夷の騒動という騒動にみな顔を出しとるくせに、まだ出し足らんか」
街道は萩本陣の裏山を横に臨みまっすぐ続く。萩は目前である。
約束の岬、竜ヶ崎ではすでに外松が朗報を持ち帰り、オテント丸は騒然となり、あとは天谷と新居浜を拾うだけであった。が、姿を現したのは天谷一人である。
「新居浜はどうした?」理由を問われて、
「奴はじゃんけんに勝った故、萩に残った」と、天谷は事の顛末を説明した。その話に、東夷を始め皆が驚き、驚嘆の声をあげた。
「すぐに艦を萩へ向け、加勢に行こう」話しの最後に天谷は言ったが、東夷は意味ありげな笑みを浮かべた。
「その必要はない、千鶴らは勝つだろう」と言った。東夷ばかりではない。桜井も外松も、陸まで、意味ありげな笑みを浮かべている。
「おんしら気色悪いぞ」天谷は抗議したが、既に東夷たちは奇兵隊はじめ連合諸藩の作戦の詳細を聞き及んでいる。故に余裕の笑みだった。
東夷が立ち上がった。
「よし、新居浜はいないが、赤い筏全員合流した。出航じゃ、全速をもって関門へむかう」
ついに高らかに宣言された。水戸藩武力討幕の挙兵である。華々しく軍艦五隻が出航し長州へ向かった。この度、水戸藩が購入した軍艦は十二隻、内五隻を出陣させた。日本中が騒然となり、当然のこと幕府はおおいに揺れた。しかし、動揺しながらも、会津を中心に水戸征討軍を組織し、遠征の準備を始めた。
しかし、既に水戸軍艦五隻は瀬戸内を抜け、豊後沖に至った。
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