SF奇兵隊2 伝法赤い筏(23/27)PDFで表示縦書き表示RDF


SF奇兵隊2 伝法赤い筏
作:隆伊



蘇生


 晴蔵の昔の小屋は無人だった。どころか、もう何年も人の入った形跡がない。
 違った……。千鶴は肩を落としたが、すぐさま唇かみ締めきびすを返した。
 今来た山道をくだる。風が強い。木々がざわめいている。気づけば曇天重く夜空に立ち込めている。嵐になる。
 ふと、見覚えのある山々の風景に足を止めた。見覚えがあっても不思議ではない。晴蔵の昔の小屋には何度も来たことがある。が、しかし、今彼女の足を止めさせたのはその頃の記憶ではない。心の奥底のもっと古い記憶が、鮮明に蘇ったのだ。
 目の前に雑草に覆われた道がある。そうだ。雑草に覆われているけれど、これは道だ。小さな集落に通じている。何故、わたしは知っている?
 彼女はその道の奥へ進み、やがて廃村に出た。朽ち果てた家々が並んでいる。集落の中心に小さな広場……。導かれるように、広場の真ん中にある墓標へと歩んでいった。何年も野ざらしになり、もう薄れ消えかけている墓標の文字を読む。
 落雷。背後に落ちた。
 瞬間。すべての記憶が蘇った。
 単一だった彼女のなかに、色々な感情が入ってきた。盲た人の目が突然開いたように、鮮やかな色彩が流れ込んできた。鮮やかな心の色と、単一ではない複雑な感情。自分の内部で踊り狂うそれらの声を制御できなかった。
「あ……あ……」どんな感情も声にはならなかった。
 大粒の雨が、ポツリポツリと降りはじめ、やがて叩きつけるような土砂降りとなった。言葉にならない声を発しながら、雨に打たれるにまかせ、じっとうずくまり動けなかった。蘇った記憶を細部に渡るまでなぞっていった。
 たづ……。
 姉さん。
 やだ。やだよ。反対のほうへ逃げないで……一緒に……。
 ごめん……、ごめんよ。忘れてて……。
 多津、許して……。
 何も、できなかった……。助けてあげれなかった……。
 許して……。
 墓標が語りかけてきた。千鶴はじっと耳をそばだてて聞いた。
 立ち上がった。
 焦点がずれ、二重に見えていた世界が、いまやはっきりとひとつの心で見えた。
 土砂降りの雨のなか、凛々しく立つ少女。もう、昔の彼女ではない。迷いも逡巡もあるひとりの少女だ。だが、その決意は固い。民を救う。ひとりでも多くの命を救う。姉の墓標と約束した。
「多津。助けてもらったこの命、決して無駄にしないから」
 鎖帷子の頭巾をかぶった。踝を廻すと、ふりかえらず駆けた。

「凄い、土砂降りだな」外松が言った。
「ええ。ですがトンネルの中は快適ですよ」案内役の益田が言う。
 さあ、ここです。と、山中の土手の藪をかき分けた先に穴があった。
「ここからお入りください」
 一瞬、まじまじと益田の顔を見る外松。が、抗議すべきことはでないと思い直し、その、ウサギの穴のような入り口へ身を滑り込ませた。
 なるほど、狭いのは入り口だけで、中は立って歩けるくらいに掘りぬいてある。支柱もしっかり立ててあるから落盤の心配もなさそうだ。
 そのトンネルの中を、ぐるぐるぐるぐる連れまわされ、右も左もわからなくなった頃に山形に会えた。
 そこはドーム状の天井で、四方に通路が延びている部屋。松明をかざした横に、山県は座っていた。
「おう、お前は確か、隊を抜け海援隊に行った奴だな。牙の腕が良かったから憶えておる」山県のほうから声をかけられた。
 外松は礼を言い、今では赤い筏という浪士隊にいること語った。山県は知っていた。
「東行殿の子息が頭であろう。幼名は東一じゃったな。数度会うたことがある。で、今回は何用だ?」
「奇兵隊、今後の策をお聞かせ願いたい」
 その問いに、山県は意味ありげな笑みを浮かべた。
「奇兵隊の策か? それとも、連合諸藩のか?」
 面食らって言葉が出ない外松に山県は続けた。
「望むなら、お前らも雑ぜてやろうか」
「早速帰って、海援隊にも教えてやるが良い」












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう