風向き
約束の岬に、期日より一日早く、陸は戻ってきた。オテント丸に元気よく手をふっていたが、ひろって見れば全身刀傷だらけだった。
「これはひどい」
「誰にやられた」
仲間の問いには答えず、陸は必死で、こんなのは大した怪我じゃない。へっちゃらだ。と、言い張った。
下手に巻かれた包帯を外し、傷の一つ一つを無言で確かめている桜井に、大したことないだろ? こんなの放っておいたら直るよ、ね。同意を求めたが、
「馬鹿タレ。全部浅い傷だが、ここが八針、こことここが十二針、こっちは二十四針縫わんといかん」宣告され、顔色蒼然、しゅんとなった。
「陸、往生際が悪いぞ」
「さっさと覚悟して、縫ってもらえ」水夫たちに笑われた。
「それより、ことの次第を聞こう。何があった?」東夷に問われ、水戸へは入れなかったと答えた。
「どの関所も兵隊が沢山いてほとんど人を通さないみたいだ。だから俺、山を抜けて先へ進んだンだけど、大きな道には騎馬止めの柵がこしらえてあって、手前に深い溝が掘られていた。大きな街道全部そうだった。けど、そこで見つかって逃げてきたンだ。あんまり人数が多かったンで、少し斬られちゃった」そう言って屈託なく笑った。
「騎馬止めの柵・・・・・・? 深い溝?」
東夷は桜井と顔を見合わせた。
「どう使う?」お前なら・・・・・・。
「溝の中に体を潜ませ、敵が来たらライフルで撃つ」そうとしか考えられない、といった顔の桜井。西洋の巻き煙草をふかしている。だが、にわかには信じられない様子。確かに、
「戦の準備をしとるのか。水戸が」東夷の言うとおり、水戸が戦時体制に入った意味がわからない。いや、考えられる回答はひとつだけあるが、それは信じがたい事柄。
「ともかく陸の手当てを頼む。褒美に丁寧に縫ってやってくれ」そう桜井に言うと船首へ向かった。背後では、じたばたする陸を桜井と水夫たちが押さえつけて船室へ連れ込んでいる。
水戸が、戦を? 誰と?
船首に立った。風向きが変わった気がした。何も見えないが。
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