血色の大地
一晩中、焼け跡を探したが何一つ見つからなかった。千鶴は街道を西へ向かう。数里進めば、街道のあちこちに避難民と思われる人が多数いた。見知った顔がないか、捜してみるが知らない人ばかりである。その人々に聞いて回る。良太という十歳くらいの子を連れた香枝という人を知りませんか。返ってくる答えはどれも、知らない、ばかり。
千鶴は聞くことをあきらめ駆けた。襲撃はもう何日も前だ。香枝なら、こんなところでまだぐずぐずしていない筈。生きていれば、もっと先にいる。
畜生と思う。晴蔵の新しい小屋を香枝は知らない。もし知っていればそこへ身を寄せるに違いない。千鶴は教えていなかったことを悔やんだ。母の、弟の身を案じて、物狂おしい想いで駆けた。
「お千鶴ちゃん!? お千鶴ちゃんじゃあないか!!」声をかけられてふりかえれば隣家のおばさんだ。千鶴は良かったと言い、母と弟の行方を聞いた。が、相手は知らなかった。
「あの時は、なにしろ、いきなり大砲がずどん、ずどんだったからねぇ。あたり一面土ぼこりで。悪いけど見ていないンだよ」そんなことより、相手は知り合いの娘が兵隊姿でいることに驚いていた。千鶴は余計な詮索をされる前に、礼を言って先を急いだ。
はおった鎖帷子にわっかが縫い付けてあるのに気づいた。いや、わっかではない。簡易式のホルスターだ。彼女は両手の拳銃をそこへ差した。両手が自由になって、はじめて一晩中拳銃握り締めていたことに気づいた。
街道の脇、いたる所に粗末な即席の天幕が張ってある。屋根代わりのその天幕の下で身を寄せ合っている人々。その一つ一つを覗いてまわった。が、どこにも母と弟の姿はない。
行く手に人だかりがあった。近づいてみても、人垣が邪魔で何があるのかわからない。千鶴は人垣を掻き分け前に出てみた。
草原に、倒れている、沢山の遺体。見渡す限り、三十人以上の人間が、殺され、野ざらしにされていた。遺体はいずれも、これ以上ないほど残虐なやり方で辱められている。
いったい何が起こった!?
野盗だ。と話している人がいる。野盗? いったい彼らから何を奪うというのだ。着の身着のまま逃れてきた人々から!
娘たちはさらわれたようだが、どうせ殺されておる。そういう声が聞こえた。散々、惨い目にあわさたあとに・・・・・・。千鶴は唇をかんだ。顔を真っ赤に憤らせその場を離れた。記憶の奥底に疼くものがある。いつもなら、この感覚の後眠くなる。が、今日は違った。冴え渡っている。
盗賊の類では意味がない。これは計画的な何かの策略だ。
何者のなした業か。手を下した者は知らぬ。兵であろうが兵でなかろうが。が、このような非道な策略を命じる人間はひとりしか居らぬ。
急がなきゃ。母さんたちを早く捜しださないと。
十年前、長州を虐殺の地にしたあの男が、再び同じ下知をくだした。
十年前に逆戻りだ。十年前・・・・・・いったい何があった。彼女には、その時の記憶がない。今の出来事と、その失われた記憶が、密接につながっているような気がする。だが、何一つわからない。解けない。彼女は頭をふった。
年寄りの知恵を借りるか。事態は急を要する。何か良い策を与えてくれるやも知れぬ。
彼女は街道をそれ、山へ向かう小道を駆けた。
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