SF奇兵隊2 伝法赤い筏(15/27)PDFで表示縦書き表示RDF


SF奇兵隊2 伝法赤い筏
作:隆伊



ベアトの写真


 彼女が寝ている船室の扉を、ギィときしませながら少し開き、入ってきた者がある。猫だ。太っていなければただの三毛猫だが、米俵に足が生えたような巨漢だった。
 見ていると猫はのっそりと近づき、巨体を伸ばしベッドの上に上ってきた。そこで立ち止まり、彼女の顔を見てニャーと鳴いた。これほど太った猫を見たのは初めてだった。思わず笑みが出て、
「お前も『赤い筏』なのか?」猫に聞いた。さしのばした千鶴の手をぺろりと舐めて、その足元で丸くなった。
 ここはどういう所だ? 天井を見ながら考えた。猫まで変わっている。笑みがこぼれた。東夷も、桜井も、陸も、一風変わった人間ばかりだ。あの、尖った棒使いや、牙使いも、まだ見ぬが変わっているに違いない。
 何故とは言えぬが居心地がいい。
 生きてきてはじめて、自分の居場所を見つけた気分になった。

「あんなかわいい娘が、どうして拳銃なんかもって戦ってたんだろ?」
 興奮気味に陸が言う。オテント丸の甲板だ。そのセリフを聞いた天谷と新居浜は、目を丸くした。
「かわいい!? 本気で言うとるか!? あの、散切り頭で銃ふりまわす色気も何もない娘子が」天谷に頭から否定され、顔を真っ赤にして言い返そうとする陸。
「良し、良し。お前は女子を知らんけん。しょうがなか。今度、好いところへ連れて行ってやろう。さすれば」なだめる新居浜に、
「ヘンだっ。いらねぇやい!!」口を尖らせた。
 そこへ、のっそりと悪党面を出したのは外松だ。猫を捜している。
「誰か、俺のミシマを見かけんかったか?」ミシマというのがその名だ。
 陸が知っていた。だが、黙っているべきだった。余計仲間に冷やかされる結果となった。
「ミシマなら、狗の娘子の部屋だ。さっきのぞいたら一緒にぐっすり寝てた」
 おどけて驚いてみせる一同。
「いくら惚れたとはいえ、娘子の寝ているところを覗くとは、何たる助平な」と天谷。
「うむ。男子としては許せぬふるまいじゃな」したり顔で言う新居浜。に、真っ赤な顔で抗議する陸。
「だって、病人じゃないか! 心配して様子を見に行ったンだ。何が悪い?」
「医者に任せておけ」ニヤニヤしながら一同冷たく言い放った。
 

 程なくベアトは行李いっぱいの写真を持って戻ってきた。几帳面な性格らしく年代別、地域別にストックされてある。これなら手間なく目的の写真も見つかるのではないか。浜井と小一郎はそう思った。60年代長州 と題された分厚い包みを開いた。連合艦隊の勝利を収めた記録写真、米兵達が長州の砲台の前で取った記念写真、破壊される前の萩の町並み、町民たちの暮らし、武家の衣装といでたち。外国人には興味深いのであろう、日本の風習の数々。それから、一転して、見るも無残な虐殺の現場写真が大量に出てきた。腐乱して膨れ上がった真っ黒な遺体、田から掘り起こされた人骨の山、等々……。
 小一郎は思わず目をそむける。浜井が一枚の写真を見つけた。幼い少女が写っている。
「小一郎とやら、これは?」ベアトが、それだ。新聞に載ったものだ。と言った。
「千鶴だ。私の連れだ」小一郎が呟く。一同は、その写真の入っていたファイルを丹念に見ていく。
 見つけた。長い年月の向こうのわずかばかりの平穏な日の記憶が、その一枚の写真の中にあった。千鶴を真ん中に、伊予乃介が良太を抱いて、そして香枝が微笑んでいる。写真の中の伊予乃介は緊張を隠せぬ面持ちで、小一郎は思わず笑みがこぼれる。そして香枝、若く美しいままの姿で写真の中から微笑みかけている。魂を取られるなんて田舎者の言うことだわ、と、あの時生意気を言っていた。写真のその顔を幾度も指で撫でながら、小一郎は不覚にも涙を止めることが出来なかった。
「貰ってもよいか?」鼻をすすりながら言う彼に、ベアトは無言で頷いた。












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