SF奇兵隊2 伝法赤い筏(14/27)PDFで表示縦書き表示RDF


SF奇兵隊2 伝法赤い筏
作:隆伊



小一郎


 広島藩領内。街道を幕軍が引き揚げてゆく。その街道脇には広島藩士がずらりと並び、これ以上の、自国領土内での暴挙を許すまいと目を光らせている。そんな広島藩士たちの表情を嘲笑いながら不遜な態度で街道をゆく幕軍。
 その軍列の最後尾めがけ、男が馬をとばしてきた。早駆けの蹄の音に彼らがふりかえった時、飛んできた三日月形の牙に額を割られた。人々があっけにとられた次の瞬間には、男は隊列只中に深々と斬りこみ、十数名の幕兵の額を撃ちぬいた。信じがたい突然の襲撃に兵らは慌てふためきライフルに弾を込めた。馬上の男を狙う。その間にも、次々兵を殺めてゆく二丁拳銃の男。まさに鬼神のごとく、阿修羅のごとく、兵只中の馬上にあり、飛んでくる弾ものともせず、引き金を引き続ける男。
 しかし、そこまでであった。一発の銃弾が男の肩を撃ちぬき、一瞬男の動きが止まった。次の瞬間には無数の弾を喰らい、男は馬から滑り落ちた。
「かぁっーつ!!」奇声を発したのは広島藩士だ。あの男を救え。口々に言うと兵を掻き分け押しのけ、男に駆け寄り刃から護った。現場は騒然となった。男を助け連れ去ろうとする広島藩士達と、とどめを刺さんとする幕兵との間で小競り合いがおき。しかし、それ以上のこととはならず、だが、一触即発の空気を色濃くしながら、幕府軍は広島藩内を抜けていった。

 男は広島藩士の屋敷に匿われた。
 彼は夢を見ていた。不思議な夢だった。
 小さな川のほとりで、香枝と暮らしている。不思議なことに二人は、十年経っているにもかかわらず、出会った時の、昔のままの顔だった。それは夢と思えぬほど鮮烈に。彼は何も言えない。彼女を見つめる。その彼に香枝が微笑み何か言った。小一郎様、……。
「まったく、無茶をなさるものだ」夢から覚めた。
「何故、あんなことをされた?」
意識を取り戻した男に、広島藩士浜井佑介は言った。浜井の屋敷である。
彼はそれには答えず、無言のままだった。長い沈黙の後、芸州口を見た、とそれだけ言った。
「それで怒りにまかせてあのような真似をなされたか? 御主は運が良かった故、致命傷は受けておらぬが、当り所がほんのわずか違えば、命はなかったぞ。よいか、悔しき思いは我らも同じじゃ。堪えるのも男ぞ。御主に家族は居らぬのか?」人の良い広島藩士は、男を思いやりあれこれ聞いてくる。
「居らぬ……」そう言ってしばらく黙り込んだ後、ずっと、女を捜していた。と呟くように言った。……生き別れ、この十年間、
「再び会うと誓った。あの芸州口に居たのやも知れぬ」
 男が語ったのはそれだけだった。
 浜井も黙り込んだ。
「そうだ、面白い男に会わせてやろう。うちに泊まっている。外国人だ。芸州口の写真を撮るためこの広島に来ている。もうすぐ帰ってくるはずだ」人のいい浜井は努めて明るく語った。
 そこへ、待つほどもなく噂の主が帰ってきた。
 一目みるなり、小一郎にあの日の記憶が蘇った。たった一度すれ違っただけの男に過ぎない。だが、あの日下関で、アーネスト等と同行していた写真家に違いない。見憶えていたわけではない、が、確かだ。
「写真があるはずじゃ、」小一郎は我を忘れ叫ぶ。写真を撮ったであろう。下関で、幼い少女の、御主の本国の新聞に載せたはずじゃ。憶えておられぬか? 頼む、思い出してくれ。その時、一緒に居た者達の写真も撮ったはずじゃ。若い娘が居たはず。憶えておられぬか?
 その剣幕に、ベアトという写真家は少々吃驚したようである。
 憶えては居らぬが、……勿論、その少女の写真は覚えている。何しろ本国の新聞に載せたのだから。だが、その時一緒に撮った写真となるとそこまでは憶えていない。
 その返答にあきらかに落胆した小一郎に、ベアトはこう言った。
「なにも写真がないと言ったわけではない。撮った写真は全て保管してある。少々時間はかかるが、あなたの探し物は見つかるだろう」












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