SF奇兵隊2 伝法赤い筏(12/27)PDFで表示縦書き表示RDF


SF奇兵隊2 伝法赤い筏
作:隆伊



赤い筏


 しかし、それまでだった。ライフルを持った敵が闇の中からぞろぞろと現れ、その銃口は全て自分に向けられている。畜生。腰のホルスターに手をのばした時。
 凄まじいばかりの銃声が響き渡り、兵の頭を次々撃ち抜いた。何者かが襲い掛かってきた。
襲撃者は一瞬で駆け寄り距離を詰め、肉弾戦となった。目の前で激しい殺し合いが始まった。
 長い鉄の棒をふりまわす者がいる。棒の先は尖っていて幕兵を串刺しにする。奇兵の使う牙を飛ばす者がいる。しかし彼らは奇兵隊ではない。それだけじゃあない。鬼のような男がいる。狐に似た目をつりあげ、口にゆがんだ笑みを浮かべ、敵に体当たりするや、その手の刃で腹掻っ捌く。髪をわしづかみ喉を掻き切り放り出すと、また体当たりをかまし腹を突き刺し心臓まで肋骨をへし折りながら掻きあげる、内臓を掴み出しとなりの敵の顔めがけて投げつけ、怯んだその顔面を肉片ごと薙ぐ。
 男達はたった五人だ。その人数で、続々集まる幕兵と、互角に渡り合っている。
 鬼のような男が、その殺戮の手を休め、彼女のそばに来た。
「今のは、狗の銃『人消し』だな。お前は狗の子か? ちょっと待て。娘子ではないか。陸!! こっちへ来い」呼ばれてきたのはまだ少年だ。彼女と違わない歳と思われた。きれいな顔に驚いた。
「この娘子を護れ。いいかっ!!」
「任せろ。東夷」そう言うと少年は銃を抜き、千鶴の前に仁王立ちした。
 東夷と呼ばれた男は、殺戮の輪の中へ駆け戻っていった。抜き身の白刃片手に。
 自然、目で追う千鶴。男は、敵のふりおろす刃を刀ではじき飛ばし、左足で中断蹴り、その勢いのまま高く跳び、右膝を敵顔面にぶち込んだ。すたん、と着地すると、よろけた敵を撫で斬った。そのまま体を回転させ、刃をふりまわした。その刃の先が敵の顔面をスパッと斬った。刀を取り落とし顔を押さえたその敵の顔面を、殴り飛ばした。情け容赦ない修羅のごとき戦いぶりだが、なぜか自分と同じ匂いを感じた。自分と同じ怨念にとらわれている……。なにやら安堵して眠くなった。理由はわからないが、耐え難い睡魔に襲われた。陸という少年の背中を見ながら、自分の意識が遠のいていく様を、不思議に思いながら、眠りのなかへ沈んでいった。

 馬の背に揺られて目覚めた。まだ意識は朦朧としている。足に止血の布が巻かれている。誰か、逞しい男の背に紐で体を結わえられている。どこかの山中だが、風に乗り潮の香りがする。海が近いのか。「どこへ……?」小さく呟いた。ふりかえり、先刻とは別人のような顔でその男は言った。
「気づいたか? 俺の船へ行く。この岬の先に俺の船がある」船?……船ってなんだ? そう思いながら再び眠った。
「お帰りなさいましっ、御頭っ!」
 浅い眠りの中、威勢のいい水夫の声で、船に着いたと知った。
「機関に火を入れろ、すぐに出航する」
「御頭、それは?」
「怪我をしておる。軍医を呼べ、すぐに手当てをしてやれ」聞きながら、再び眠った。
 狭い入り江の暗がりの中、身を潜めるように隠されていた、東夷の軍艦の機関に火が入り、甲板に一斉に灯がともされ、その姿が闇に浮かび上がった。造十余年になるが、乗員の愛情が込められた船内は何処も彼処も磨き上げられ、錆ひとつなく黒光りしている。大きな外輪が力強く水を掻き、船は出航した。

 豊永志功の策略は、絵に描いたように思い通りの結果となった。芸州口を焼き払い奇兵を集結させる。手薄となった下関に小栗を進軍させる。その絵の通り、芸州口は焼け野原だ。下関と彦島は幕軍の手に落ちた。奇兵は山口の政治堂近辺に集結している。萩にも、下関にも近寄れない。長州全土に、逃げのびた避難民があふれている。
 長州滅亡への序章だ。ほくそ笑む。即刻、山口総攻撃の許可を幕府に求めた。












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