SF奇兵隊2 伝法赤い筏(11/27)PDFで表示縦書き表示RDF


SF奇兵隊2 伝法赤い筏
作:隆伊



下関市街戦


 街道行く手を次々人が逃れてくる。ある者は着の身着のまま。ある者は大八車に家財道具詰めこんで、一様に慌てふためいて駈けてくる。
 千鶴は陣笠深くかぶったまま、それら人々の流れに逆らい下関へと向かう。既に、かの地で何事か起こったことは明白だ。それがなにか。彼女は嫌な予感に唇噛みながら先を急いだ。芸州口で起こったことを彼女はまだ知らない。しかし、彼女の向かう先下関でも何事か起こったようだ。
 人々の中に奇兵隊隊員の姿もある。馬上の奇兵隊員が逆方向へ向かう彼女へ言った。
「撤退だ。山口の政治堂ヘ集結せよ。急ぎ戻れ。一時撤退だ」
 千鶴はその言葉を無視して駆け出した。
「おい!! 戻れ」馬上の奇兵は言ったが、従わぬのを見て取ると、呆れ立ち去った。
 千鶴が下関にたどり着いたとき、既に日は落ちていた。暗くなりかけた市街地のあちらこちらから、銃声が聞こえていた。彼女は銃を抜いた。暗い路地を選び、身を潜めて入った。心臓が早鐘のように鳴っている。その引き金を引くことがあれば、それは彼女のはじめての人殺しとなる。引き返せない修羅の道へ踏み込んだこととなる。
 路地から路地へ渡り駈ける。物陰から充分注意を払って大通りへ出る。目指す白石正一郎の小倉屋はもうすぐそこだ。激しい撃ち合いの音がしている。角を曲がる。
 奇兵数名と撃ち合っている幕兵の背後に出た。幕兵は五人。とっさに手があがる。銃口を敵に向け引き金に指をかけた。いやだ。一瞬、躊躇した。敵がふりかえった。目が合った。音が遠く聞こえる。耳の横を走る血管がドクドク脈打っている。はじめての動く的。幕兵はライフルの銃口を彼女に向けた・・時には、既に額を撃ち抜かれていた。一人だけではない。彼女は三発の銃弾を放ち、三人を殺傷していた。
 身を翻し小倉屋のなかに逃げ込んだ。汗がどっと噴出した。喉が渇いている。が、そこで立ち止まってはいられない。あそこには五人いた。三人撃った。残りは二人だが、追ってきている。邸内に足音が響いている。彼女は秘密の扉を開きなかに身を躍りこませた。一瞬の差で、壁の向こうの廊下を足音が通り過ぎて行った。
 彼女は大きく肩で呼吸して、今改めて自分が人を殺した瞬間のことを思い返した。混乱した。冷静ではいられない。当然だ。自分は許されるのか。避けようのない行為だったのか。冷静に考える余裕はない。
 暗闇のなかに人の気配がある。かすかにうめく声が聞こえた。
 闇の中に目を凝らせば、小倉屋主、白石正一郎だった。床に倒れている。周囲の床をぬらしているものは彼の血だ。
「おじさん!!」千鶴の声に、白石は正気を取り戻した。
「なんと、千鶴か?」声に力ない。
「おじさん、大丈夫か? 怪我をしているのか」
「善い。千鶴。善い」覚悟を決めた人間の声。
「好きなだけ、武器を持って行くが良い。人消しの弾もできてある。・・沢山ある。千鶴、生き・・延びよ」そう言ってこときれた。
 畜生ぉ。彼女の心に浮かんだのはその言葉だけ。畜生ぉ、畜生ぉ、繰り返しながら手当たりしだいに武器を身につける。サスペンダー式のホルスターで腹に二丁拳銃を差した。腰に二丁。背嚢に人消しの弾を押し込み、空いたスペースに入るだけ拳銃の弾を詰めこんだ。壁に、頭巾までついた黒い鎖帷子があった。これだ。陣笠を放り、自分用にあつらえた鎖帷子をはおった。人消しを肩にぶら下げ、両手にも拳銃を持った。
 その眸子炯炯と闇にひかった。迷いは消えた。
 壁に肩を当てる。耳を澄ます。先刻の足音が聞こえる。再び前を通りすぎる。壁を蹴破るようにして廊下へ躍り出た。ふりかえる幕兵二人。タンッ、タンッ、短い銃声。二発で倒した。硝煙がゆらいでいる。銃口はもう、震えていない。暗闇のなかに、彼女の目だけがらんらんと光っていた。
 彼女は耳を澄ませる。市街地の彼方此方から銃声が聞こえてくる。月が出ている、夜目が利く。ただ、その条件は敵も同じだ。
 ダンッと身を翻すと屋敷を飛び出した。出くわした幕兵ひとりを撃ち殺した。方向も定めず駈けた。
 銃弾が頬を掠めた。闇の向こうからライフルで狙う者がある。彼女は民家の塀を乗り越え庭先へ飛び降りた。駆ける。再び塀に登る。すると、隣家の庭先に幕兵が五人ほどいた。
 気付いていない。銃口を向けた。一瞬だった。五人撃ち殺した。が、路側に兵がいた。敵の銃弾が足を掠めた。どさり、塀の上から路上へ落ちた。拳銃を取り落とした。敵の銃口がこちらを向いている。人消しを撃った。その銃弾は、敵の上半身を蜂の巣にしてぶっ飛ばした。はじめて撃った銃の破壊力に驚いた。それは敵も同様だった。兵が怯んだ隙にすぐさま銃身側面下部のこうかん(ボルトハンドル)を引いた。空の薬莢が飛び出す。弾を込め再び撃つ。今度は、二人まとめて吹き飛ばした。
 しかし、それまでだった。ライフルを持った敵が闇の中からぞろぞろと現れ、その銃口は全て自分に向けられている。畜生。腰のホルスターに手をのばした時。












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