狂える喜び
狂える喜び
ああ!なんて素晴らしい事だろう!
たった一度奴を刺す、これだけで人生が変わるなんて!見ろ、あの憎たらしいあんちくしょうが悲鳴も上げずに倒れていくぞ!なんて素晴らしいんだ!
今日、僕の人生が始まったのだ!
笑みが止まらない。まるで正気を失ってしまったかのようだ!
赤いシャワーが僕を祝福するように降り注いでいる。拍手も聞こえる、まるで雨のように!
幻想の音なんかじゃないぞ!なんて素晴らしい音だ!
僕はそれに応えるために右手にナイフを持ったまま、両方の腕で何度も何度もバンザイし続けた。まるで壊れた人形のように!
今でもナイフで奴を刺した時の感触がのこっているぞ!皆に教えてやりたい!
心の底から歓喜が溢れ出して止まらない!
心の底から希望が沸き上がってくる!
こんな感情を持ったのは一体いつだっただろうか?こんな気持ちになったのは果たして何年ぶりだろうか?
分からない、忘れてしまったよ!
今の喜びがあまりにも大きすぎて!人生が始まる時、こんな感情に支配される事を僕は今まで知らなかったよ!
そして今、僕の幸せに判を押すようにずしん、と音を立てて奴が倒れた!
今、僕の今までの人生が終わったのだ!
あの泥まみれの汚らわしい醜い人生が今、終わったのだ!
やった!
やった!
ついにやったのだ!
仰向けに倒れた奴はニヤニヤ笑った顔を僕に向ける。
君も幸せなのかい?僕の幸せを祝福してくれるのかい?
そんな訳ないだろう?この僕に刺されるなんて、君は全く予想をしていなかった筈だ!そう 全く持って!
だが感謝したまえ、君が倒れた理由を僕は知っている。そしてそれを忘れる事はない!
何故なら、君を刺したのは、この僕だからだ!笑みが止まらない。狂ったように止まらない!
これが正気でいられるか?
これが笑わずにいられるか?
否!有り得ないとも!何故なら…僕の人生が今、始まったからだ!
彼らも拍手で迎えてくれる!君よ、聞いてくれ!この高らかな宣言を!
『おーっとー!なんという事でしょう!
この番組『人生バラ色』初めて、『黒ヒゲ危機一髪ゲーム』に成功しましたー!
三千以上ある穴の中から、正解の穴を見つけ、見事黒ヒゲを刺す事に成功したー!
これは、この番組始まって十年間、初めての快挙だーー!
おめでとう、1億は君のモノだーー!』
パン、パン、と音を立てて赤いリボンシャワーが僕に降り注ぎ、観客全員が力強く拍手をしてくれる。
僕はステージの光の中で、バンザイを何度も何度もしながら、新しい人生最初の笑みを浮かべた。
end