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ロボットの日常

作者:関谷光太郎
あとさき考えずに書きました。
これまでで、一番短い物語です。
よろしくお願いいたします。
 
 背中に大きなネジを持ったロボットが、人間と一緒に学校に通っている。
 周囲の人々はなんの違和感もなく、ロボットを受け入れていた。
 恋に友情に青春を謳歌するロボット。
 そんな日常が毎日のように繰り返されるのだ。

 すべてはテレビドラマの出来事である。
 R551は、ドラマの中のロボットに悪態をつき、テレビの電源を切った。ちょうど自らの充電が完了した瞬間だった。背中に接続された充電アタッチメントが自動的に外れ、壁面に収納される。急速充電で五時間。これで半年は休みなく稼動できるのだ。

 背面の給電口をスライドした蓋が覆うと、R551は立ち上がった。
 充電にかかる時間を配慮して、メンテナンスルームには50インチのテレビが用意されていた。退屈しのぎということらしいが、ロボットが退屈するなんて本気で信じているのだろうか。
 ロボットの開発者は妄想壁が強く、常に夢見がちといわれている。感情移入が過ぎて機械を生き物のように扱ってしまうのだ。この50インチのテレビも、そういった開発者の親心だ。

「R551、充電完了」

 自ら申告して、ルームの西側に設置されたポッドに収まる。ポッドは十機並んでおり、他にも充電を済ませたロボットたちが収まっていく。

「今回の新作シリーズはいただけないな。学校に通うロボットなんていると思うか?」

 隣に収まったR704が声をかけてきた。R551は、くだらない疑問に答える義理はないと口をつぐんだ。

「それに、ドラマのロボットの奴、機械とかいいながらウレタン製の張りぼてじゃないか。ありゃ中に人間が入ってロボットの振りをしているんだぜ」

 ――当り前だろ。それがドラマなんだ。

 R551は電子頭脳の片隅にある、独り思い回路で考えた。

 ――しかも、このドラマは新作ではない。百年も前にデータ化された映像を流しているだけなのだ。ここで観る映像のすべてがそうだ。そんなことも分からないのか?

「おまえ、あのドラマに夢中だったよな」

 その言葉にR551の回路が火を吹いた。

「失敬な! 誰が夢中になるか!」
「おい、おい。なんだよ急に?」
「あれは大昔、子供向けに制作された特撮ドラマだ。つらい現実を無視して、すべてをメルヘンのオブラートに包んで子供たちを騙すんだ」
「そうだよ。だから俺も、いただけないと言ったんだ」
「おまえが言っているのは、人間と一緒に学校に通うロボットに、リアリティがないということだろ。しかも、ロボットの造詣が陳腐だと笑う」
「なんにも間違っていないだろう?」
「それは上辺だけの話だ。本質はもっと重大だ」
「あのな、たかがドラマだぞ。人間の作ったフィクションだ」
「そう。そのフィクションが問題だ!」

 機動音と共に十機のポッドが降下する。約十メートルの距離を降りると大きなフロアに到着した。
 圧縮空気が開放されて、ポッドの扉が開く。
 メンテナンス終了のアナウンスが流れた。

「まぁ、コルネオちゃん。お腹一杯になったかしら」

 隣のR704が百キロはある婦人に抱き上げられた。

 ニャオーン。ゴロゴロ。

 しなやかで強度のある特殊合金の皮膚は、完全なる『猫』を再現していた。体表の色も自在にカスタマイズが可能で、現在は婦人の好みであるのか、オリジナルのシルバーが光沢を放っている。

「おいで、モコモコ!」

 ――頼むから、その名を呼ぶな!

 しかし、次の瞬間。R551は千切れんばかりに尾っぽを振って、飼い主の懐に飛び込んだ。

 キューン、キュキュキューン。

 特殊合金の皮膚に、形状記憶繊維の体毛を植毛して、『小型犬』を完全再現したその姿。飼い主は小学五年生の少年で、R551をこよなく愛している――のだが。

「よーし。モコモコ。バーン!」

 少年が拳銃を撃つ真似をする。R551は「キャイーン」と腹を見せて倒れた。

「よーし。うまい、うまい!」

 喜ぶ少年を押しのけて、小学一年生の妹が仁王立ちした。

「ジョセフィーヌ! おめかしして帰りましょう!」

 妹は、小型犬用の真っ赤なドレスを持ち出した。

「ばか。ジョセフィーヌじゃないぞ。モコモコだ! モコモコは男なんだからそんなもの着るか!」

 そう。R551たちはペット用のロボットだった。だから、どんなに恥ずかしい可愛がられ方であろうと、飼い主の喜ぶ姿に抗うことはできない。くだらない芸を披露したり、陳腐なベベを着て笑われても、そのように作られたロボットなんだから仕方がないのだ。

 しかし。
 ペット用ロボットにしては、彼らの知能は高すぎた。
 どうせ再現するなら、本物の犬や猫ていどの知能で充分なはずなのに、開発者の過ぎた親心が、彼らに人間並みの知能を与えてしまったのだ。無駄に知能が高いおかげで、ペットとして接してくる人間の行為に葛藤する日々が続く。
 たとえ反発しようにも、ペット用の彼らにも、ロボット三原則はしっかりと機能していた。
 それは、地獄だった。

 『猫型』のR704は、飼い主の口づけの嵐にも怯まず、その媚態を維持している。
 R551は、無理やり着せられた赤いドレスに恥ずかしさが爆発した。

 ――恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!

「まぁ、可愛いい。ジョセフィーヌ、このままお家へ帰りましょう」

 妹はR551を抱きかかえて、両親の待つ車へと走った。

「ずるいぞ! モコモコに新しい芸を教えるんだから、こっちに渡せよ!」

 人間と一緒に、学校に通うロボットが羨ましい。
 それは、お互いが対等の関係にあるということだ。
 ペットのR551にはそれがない。
 ならば、せめてそれに合った知能にしてくれよ!

 R551。
 開発者の作ったフィクションに翻弄される日々。
 これが、彼の日常だった。


                        
                           おわり 
お読みいただき、ありがとうございました。

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