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本編最終話の続き、宗と雪音が加わった未来です。
番外編
番外編「未来―2―」

「あ、和ちゃんだ」
「藤ちゃんもいるよ!」

 結人ゆうと大樹ひろきの兄弟は、車道を挟んだ遊歩道を見つめて声を上げた。
 エンジ色のスモックを着た二人の少女が、息を切らせながら並木の間を駆け抜けて来る。遠目には見分けの付かない二人だ。手を繋ぎ、お揃いの黄色い帽子をかぶり、靴下とシューズは女の子向けの人気アニメキャラクターが付いていた。
 
「ユウくん、ヒロくん、待ったぁ~」
「えっとぉ……こんにちは! あの……パパとママもすぐに来ます」
 きゃあきゃあ騒いですぐに結人らと追いかけっこを始めたのは、姉の和音かずねである。一方、卓巳と万里子の前に立ち、ピョコンと頭を下げて挨拶をしたのが、妹の藤音ふじねだった。一卵性双生児であるのに、性格はまるで違う。

「あら、幼稚園の帰りにそのまま来たの? お着替えする時間がなかったかしら?」
 万里子は跪き、藤音の幼稚園バッグを下ろしてやりながら問い掛けた。
「あのね。お迎えが遅かったの。それでね。ママが怒ってて……お着替えに帰らなかったの」
 藤音が懸命に説明してくれるが、やはり幼稚園の年中さん。今ひとつ要領を得ない。そうこうしているうちに、遊歩道の方から二人の人影が見えた。正確には三人であるのだが……。


 双子の姉妹の父親は宗行臣、以前と変わらず卓巳の個人秘書を務めている。
 今から六年前、結人が生まれる直前に、彼はトラブルに巻き込まれた。正しくは、宗に片想いする女性二人が事件を起こし、彼は被害者に過ぎなかったのだが……。
 余程、日頃の行いが悪かったのだろう。誰も彼に同情を寄せることはなく。事件と共に宗の名前が取り沙汰されるのを避けるため、卓巳は二年間、彼を個人秘書から外さざるを得なかったのである。

「お待たせ致しました、社長。奥様も、本日はお招き頂きありがとうございます」
 宗は抱えていた末娘・絢音あやねを芝生の上に下ろしつつ、卓巳に頭を下げる。卓巳の三男・光希こうきと同じ歳で、二人は兄や姉たちのようには自在には動けないが、仲良く遊び始めた。
 かつてのプレイボーイは、今は可愛い娘たちに囲まれてご機嫌である。そのせいだろうか? 卓巳より四歳も年上であるのに、宗は今でも三十代半ばにしか見えない。

「どうしたの? 藤音ちゃんがママが怒ってるって言っていたわ。また喧嘩?」
 万里子の問い掛けに、
「いや、喧嘩という訳じゃ……」
「聞いてください、万里子様!」
 夫の言葉を遮って万里子の前に飛び出してきたのが、宗の妻、雪音だ。
 藤原邸のメイドをしていたのは五年前まで。お互いの親に挨拶を済ませ、宗が東京に戻り次第、結婚することが決まった。その直後――宗の詰めの甘さゆえか、二人の天使が乱入したのである。
 
「宗さんが浮気……とか?」
「してませんっ! 奥様、勘弁して下さい」

 瞬時に卓巳の視線が険しくなるので宗も必死だ。

「あれほど言ったんです! それなのに……」
「な、なにがあったの?」
「外出しは避妊にならないって! これで三回目ですよ! 今度こそ計画的にって言ってたのに」

 一瞬の沈黙の後、頭を抱える宗とは対照的に、卓巳は大笑いしている。
 万里子は少し赤面しつつ、「お、おめでたいことじゃない、ね?」そう言って雪音にお祝いを言うが……。

「絢音を保育所に預けて仕事に復帰しようと思ってたんですよ。二年前もそうだったのに」
「でも、子供は可愛いでしょう? それとも、本当に欲しくなかった?」
「いえ、そういうわけじゃ。ただ、万里子様のお役に立ちたいのに。同じように子供を作ってばかりで。申し訳なくて」
「いやだ、雪音さん。わたしはとっても助かってるのよ……ほら」
 万里子の視線の先には、幼稚園さながらに駆け回る子供たちがいた。


 明日は、卓巳の祖母・皐月の三回忌である。
 皐月は生前、内外に産まれる曾孫をとても喜んでいた。宗と雪音の子供たちが訪れるのも、皐月にとっては楽しみの一つだったのだ。
 皐月の夫・高徳が作り上げたこの邸は、いつも淫靡な匂いが漂い、誰もが腐臭に侵されていた。真実の愛などまともに育める環境ではなく……。それを、卓巳と万里子の強い愛情で一掃したのである。その証とも言えるのが、曇りも穢れもない子供たちの笑い声だった。
 亡くなる直前、いよいよ皐月は一日床に就くことが多くなる。万里子は気遣いから、皐月の部屋近くに子供を行かせないようにした。だが、皐月はそれを寂しがり……万里子も子供たちの自由にさせたのである。
 そして、二人の曾孫に贈られた桜の絵を抱き締めながら、皐月は眠るように天に召されたのだった。

 万里子は皐月の命日には、出来る限りたくさんの子供を招くことにしている。皐月が寂しくないように、邸中に甲高い笑い声が響くように……時に泣き声が加わるのはご愛嬌であろう。

 絢音にズボンの裾を踏まれ、転んで泣き始めた光希を抱き起こしながら、万里子は優しく微笑んだ。


「宗、私に合わせる必要はないんだぞ」
「いえ……予定外です」
「まあ、いいじゃないか。四人姉妹も可愛いもんだ」
「そんな恐ろしいことを言わないで下さい。いい加減、私も味方が欲しいですよ」
 宗の場合、家中がピンクやハートに埋め尽くされているのだという。彼は真剣に男の子を希望していた。
「無理だな。四人続くのが運命だ」
「ひょっとして、また男の子だったんですか?」
「……」
 
 懸命を笑いを堪える宗を横目で見つつ、卓巳は話を逸らした。

「東部日本グループの台頭が著しいな。アメリカの市場を食われんようにしろ」
「美馬は常務もそうですが……副社長も中々厄介ですよ」
「知ってる。常務のほうは同じブロックに引っ越してきた。上二人が同級で……嫁さんたちは子供会で仲良くやってるらしい」

 かつては藤原に匹敵する勢力を誇った美馬グループだが、四年前にインサイダー取引で会長が逮捕され、グループは崩壊した。今は一族経営とは言い難いが、主力の貿易部門を東部日本グループとして立て直しつつある。

「早めに叩きますか?」
「攻める必要はない。ただ、足許は掬われるな」

 今更、十五年も昔の因縁を持ち出すほど子供ガキではない。PTAで顔を合わした時には余裕を見せてニッコリ笑ってやろう。第一、会社の規模も子供の数も卓巳の“勝ち”だ。
 万里子が聞いたら怒りそうなことを考えつつ……。

「美馬常務にお会いになられたんですか?」
「いや」
「秘書の瀬崎さんには?」
「会ってはいないが……どうしたんだ」
「いえ、驚きますよ。瀬崎氏の奥様に会われたら……」

 思わせぶりな宗の言葉に首を捻る卓巳であった。


~*~*~*~*~


 七月、卓巳と万里子の四男・立志たつしが生まれ――
 十二月、宗は待望の味方を手に入れることに成功した。この時はさすがの卓巳もグッと我慢したが、問題は翌春である。結人の入学式で、十六年ぶりに会った旧友の腕に抱かれていたのは……。

 卓巳が不屈の闘志を燃やし、“愛し合うあまりつい夢中になって”万里子を困らせた。
 愛は月日を経るごとにより深く強くなり、五人目の王子様へと結びつくのだが……卓巳が更なる幸福に包まれたのは、言うまでもない。


御堂です。ご覧いただき、ありがとうございます。
久しぶりの番外編更新です(笑)

宗&雪音でお送りしました「背徳の秘書」が終了しましたので、この二人も未来に加わって貰いました。
R18なのでリンクは控えさせて頂きますがサイトでご覧頂けますので、未読の方はお待ちしております。
(でも…宗に罵倒の嵐でしたので、覚悟してご覧下さいorz)

次はいよいよ太一郎くんの出番です。
7月に開始……予定ということで(^^;)(ちょっと弱気)
皆様のお越しをお待ちしておりますm(__)m
拍手&メッセージお待ちしております。


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